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第1回パーティ会議 議事録1


 人間界に出てから約2ヶ月。すでに3ヶ国目だ。魔族領を国と捉えるかは微妙だが。世界的に有名な観光名所も聖都、マルフィアナ、そしてこの魔法都市と3つ目。

 初めての街での振る舞いも慣れたものだ。俺たちも立派な旅人だ。ヒキコモリが随分と開放的になったものだ。


 街は塔だらけだった。あちこちの塔の先から怪しげな煙が立ち上っている。道行く人もローブ姿が多い。


「では、行くか。我輩のオススメの宿があるからそこへ案内しよう」


「そうか、助かる」


 俺が答えると、ジーラさんが注意事項を教えてくれた。


「塔から出てる煙を不用意に吸うと体がどうかなるから気をつけるんだよ」


 真剣な顔でそんなことを言われた。嘘だろ。テロリストシティか、ここは。


「変わらないわね」


 ブレアは懐かしそうにしている。マジかよ。200年以上の伝統的テロなのか。懐かしんでる場合じゃないぞ。この街の行政はどうなってるんだ。


「そんな顔すんなって。一応、簡単に吸えないように風向きとか気をつけるようなルールはあるらしいからよ。それぐらいの自由さが研究者が集まる理由なんだとよ」


 ジーラさんはそう説明するが、なんせ研究したところでその成果は神によって握りつぶされるのだ。なんとも哀しい話だ。話題を変えよう。


「ブレアはどの辺で暮らしてたんだ?」


「私はあそこの1番大きい中央塔の横にある、2番目に大きな塔、エルドランド魔法学園に留学してたのよ。全寮制だったからほとんどをあの塔で過ごしたわ。懐かしい……まだ寮の部屋はあるのかしら?」


 ブレアは目を細めてそう言い、それを見たジーラさんが訝しげに答えた。


「そりゃ、あるだろうよ。塔の構造はそうそう変えられないだろ」


「そうね。あるわよね、きっと」


 ブレアは流したが、ジーラさんも200年以上前の話だとは思ってはいまい。


 そして、話しながら宿に向かう。エルドランド魔法学園は由緒正しい魔法学園で人族では一握りの優秀な魔法使いしかいけないとかなんとか。魔法学園はいくつかあり、定期的に対抗戦があるとかないとか。ブレアは『たかが人族』と侮る魔族ども、もとい塵芥どもを蹴散らしまくったとかなんとか。教授の論文の誤りを指摘して睨まれたりしつつも徐々に出来た仲間とともに教授の論文の裏に潜む都市爆発の陰謀を暴いたとかなんとか。本が一冊は書けそうなブレアの青春の思い出をダイジェストで無表情かつ無感動に聞かされたのだった。



「む。そう言えばそこに素材屋があったな」


 不意に勇者が立ち止まり、ジーラさんもそれに答えた。


「あー、そうだったね。悪くない素材屋だ。ここで売っちまったが良いかもね」


「素材屋か。確かに結構狩ったし……売っとくか」


 素材は俺とメスブタで持っている。素材には、いつものようにアルマに保存魔法をかけてもらっていた。

 素材は全部俺たちのものという事になった。勇者たちと山分けしようとしたのだが、狩ったのはこっちなのだからと譲ってくれた。しかし、剝ぎとりを習ったとのでジーラさんにも取り分があるのではと言うと、代わりに戦ってくれて安全に旅ができたから、と結局押し切られた。旅の先輩は手強い。


 素材屋は古びていたが、看板と扉はよく手入れされていた。ちゃんと営業しているしっかりとした店なのだと感じる。


「いらっしゃい…………おっ、勇者様じゃねーか。久々だな。こりゃあ素材の山が期待できるかな」


 ニヤッと笑ったのは側頭部にツノを生やし、鋭い牙と爪を有した巨漢の魔族だった。


「久々であるな。今日は我輩ではない。こっちのピンクガールの獲物だ」


「ああっ? そのガキか? 兎でも狩ってきたってんなら店が違うぜ──」


「これだっ!」


 ドォン…………。メスブタは、煽りを気にせず素材の山を置く。店は軽く揺れた。ボロいな。大丈夫か。


「あ、コレもお願いします」


 どしん…………。俺が素材を置くと店主は目を瞑った。




「──白金貨3枚だ」


 その素材量と保存の完璧さに恐れおののく素材屋が提示した金額は大層な額だった。


「道中の小銭稼ぎにしてはまあまあだったのです」


「アルマ、金銭感覚壊れてない? まあまあなんてレベルじゃない額だからな」


 都市部の平均的勤労者の3年分ぐらいの収入だ。アルマが壊れ始めていることは間違いないな。だが壊れても問題ないかもしれない。なんせ、金が無くなる気配がない。増える一方だ。どうしたらいいんだ。いっそ美少女ばかりの孤児院でも設立するか。


「やっぱグリフォンがいないと少ないなっ!」


「お前もそろそろ常識を知れ」


 勇者は笑みを浮かべ、ジーラさんは終始真顔だった。剥ぎ取りを一緒にやっていたので額の予想はついていただろうが、実際に提示されると気持ちが追いつかなかったのだろう。かわいそうに。慰めてあげたい。人肌が恋しそうな感じだし、そっち方面でなんとか……こういう時なんて言えばいいんだ?


 くっ、レベルが足りない。言葉が出てこないまま素材屋を出て、宿に向かって歩き始めた。



「ここが宿──魔法少女の秘密基地亭である」


 着いてしまった。ジーラさんにかける言葉もないままに。俺は無力だ。おっと、ブレアが俺を腐ったゴブリンの死体を見るような目で見てる。そろそろ気持ちを切り替えよう。


 よし、気持ちを切り替えた。


「店の名前ヤバイな」


 気持ちを切り替えたら店の名前のヤバさに気付いた。本当にここがオススメなのか。魔法少女の秘密基地だぞ。こんなにオープンにしてるのに何が秘密だよ。せめて隠せよ。知る人ぞ知る宿にでもしろや。なに大通りに面しちゃってんだよ。ロビー見るだけでも大繁盛じゃねーか。


「ジャンの琴線に触れたんだよ。草原族の女たちがフリフリの格好で接客するんだけどね。全員、魔法使いなんだよ」


 ジーラさんは悲しそうだ。だんだん勇者に対して怒りが湧いてきた。なんでお前は変態なんだ。人のこと言えないけど、お前は変態であることを反省しろ、と。


「しかし、また草原族か……」


 もはや呪われてるな。


 大繁盛なので部屋に空きがあるか心配だったが、勇者が先触れを出していたらしく問題なかった。勇者には悪いが、細やかな気遣いが逆に気持ち悪い。


「ナイスガイ。この店は繁盛店だ。部屋はあるが、差し支えなければ我輩と同じ部屋で──「断る」


 危ないな。何を言い出すんだ。こっちを見てる気配がするが俺はそんなの気付かない。気付かないのだ。部屋は勇者、ジーラさん、俺、ブレアたち3人の4部屋となった。



 そして、そのまま勇者は魔法王に謁見を申し入れると言って宿を出て、中央塔へと向かって行った。『魔法王を跪かせたい連れがいる』と伝えておくとのこと。やめておけよ、と思ったもののアルマの希望ではあるので強くは止めなかった。最早、聖王国に着いた当初考えていたような、あまり目立たないようにするとか、そういう考えは頭になかった。だって無理だから。


 ジーラさんは知り合いに会いに行くらしい。



「というわけでパーティ会議だ」


 俺がブレアたちの部屋を訪ねて会議は始まった。意味もなくブレアが空間魔法で部屋を囲っているためスパイ対策も完璧だ。唯一残念なのは、俺たちを狙うスパイがいない点だ。


「では不肖アルマが進行を担うのです。拍手」


 あ、アルマがやるんだ。

 パチパチパバーンッ! バーンッ! ダーンッ! メスブタが全力で拍手してる。うるさい。


「はい、はい。良いのです。皆さんのお気持ちは届いたのです。任せるのです。さて、議題は5つなのです」


「5つ?」


 あれ、増えたか?


「ニト、蝕まれた心の果てに。

 ブレアちゃん、苦悩の日々の終わりに。

 アルマ、栄光への架け橋。

 魔法王、屈辱とその悦び。

 唱えよ、ステータスオープン。

 の5本立てでお送りするのです」


「何なのそのタイトル」


 俺のところ悪意ない?


「まずはニトの蝕まれた心が抱える闇を吐露するのです。聞くだけ聞いてやるのです」


「ええ……まあいいや。えーと、ブレーン収束を引き起こすというアカーシャ収束体って覚えてるか? グルガンで変質神が言っていた奴だ」


「覚えてるわ」

「知ってるのです」

「っ!?」


 はい、予想通りの回答の御三方です。メスブタはそろそろ意識を失うかな。


「それに接触されている気がする」


 具体的に、マナちゃんの妄想のところから話し始め、先日のダンジョンコアを突っついた時に一時的にホットラインとやらを構築されたところまでを話してみた。


「気持ち悪いわね……ニトが」

「オチはともかく出だしがキモいのです」

「えっと、つまり、世界を終末に導くパンチがアカシアの木に打ち付けられたものの、未だ迷いを知らぬ仔羊は盲目の預言者の元、吐き気を催しつつ眠りについたのかっ!?」


 えっと、メスブタは何の話をしてるんだろう。


「メスブタ違う。ともかく、妄想かと思ってたらどうも本当にマナちゃんと繋がってるっぽいんだ。で、そいつは、マナが収束したその先にある存在だと言っていた。これまでの話からするとアカーシャ収束体ではないかと」


 アルマが頭を抱えていた。


「どうしたアルマ?」


「わからなくなったのです」


 顔を上げたアルマは困った表情を浮かべていた。


「何が?」


「世界の敵であるニトが人間界でバケーションを満喫できた理由がわからないのです」


 ビシッと指差された。そうか、世界の敵は確定か。女の敵じゃなくて良かった。いや、待てよ? 世界の敵には女の敵も含まれるのか? 難しいな。


「マジか。参ったなぁ」


「もうちょっと参ったらどうなのです? 全然参ってないのです。変質神様はともかく、無限牢獄からこれまで、他の神々に捕まってないのはおかしいのです」


「やっぱ捕まるのか?」


「当たり前なのです。これまでの話を統合するに、たぶんニトを放っておくと世界が危ないのです。なので、神々はニトを捕まえて魂を完全に分散させる…………どころではなく、本当の意味でニトのマナを消滅させようとするはずなのです。ニトをLDM粒子化して反LDM粒子と対消滅させるのです」


 出た! アルマ先生だ。


「よくわからないけど怖いね」


 努めて優しい笑顔でお答えしておこう。いっぱい知ってて偉いね、という気持ちも込めて。


「もうちょっと怖がったらどうなのです? 全然怖がってないのです」


「まあ、でもやる事は変わらないんだよな。たぶん」


「まあ……確かにそうなのです。神々に捕まったら死ぬから見つからないようにダンジョンを踏破するのです」


 じゃあいいか。後はこの事実を知った3人が世界の敵たる俺をどう評価するかだな。


「なるほど。ちなみに3人は俺がそういう不思議な生き物ってところにミステリアスな魅力は感じる? それともザ・世界の敵って感じ?」


 俺の問いは難題だったらしく、アルマは顔芸を披露してくれた。朝起きたらお父さんがボンテージ姿で朝日を浴びてたのを見てしまったような顔だな……しまった、アルマには日常か。例えとして不適切だった。


「どっちも感じないのです。アルマは観光して権力者を跪かせて、上から目線でモノを言えれば世界が滅んでも構わないのです」


「それ世界が滅んだらできないからな」


 俺の台詞にアルマはまた顔芸を披露した。

 続いてブレアさん。


「私も別にニトに対してはどうもこうもないわね。ただ……神々は好きじゃないから、鼻を明かしたいわ。その災害とやらをどうにかして、世界を前に進めて大地母神の悔しがる顔が見たいわ。むしろ預言者が身近だと便利そうね」


「なるほど、ブレアは俺を乗りこなしたいのか。メスブタは?」


「ミ、ミステリアスだなっ!」


 何故かちょっとだけ赤い顔で身を乗り出して答えるメスブタ。可愛い。ただでさえ顔が可愛いのに仕草も可愛いとかずるい。しかも自分が何を問われて何を答えたのかわかってないというおまけ付き。うん。これはわかってないな。


 でもミステリアスな男だから良しとしよう。ミステリアスな雰囲気でメスブタにお返ししてあげよう。中々意識を失わないメスブタへと捧ぐ神秘的で煙に巻くような言葉を。


「トラディショナルなテロリストのアウトプットはゴッドオアゴッデスがデリートするんだぜ?」


「えっ!? す、すごいなっ! 小難しいっ!」


 ミステリアスな戯れに勤しむのだった。


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