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アルマは金にものを言わせたい


 生きててよかった。


 人が心の底からそう思えることは一生のうち、どれだけあるだろう。


 俺は多分幸せ者だ。今までに何度もそう思えたからだ。ヘレンちゃんのおっぱいとの出会い、ブレアのおっぱいとの出会い、メスブタのケツとの出会い、アルマのパンツとの出会い、ブレアとのエキセントリックナイト…………結構あるな。まだまだあるぞ。

 ヘレンちゃんに出会って以降のイベントばかりだな。彼女は俺の幸運の女神だ。



 今もその生きててよかった時間の最中だ。



 俺はリゾートにいた。聖王国から南。理想の地、人生の終着点と言っても過言ではない。白い砂浜、そしてエメラルドグリーンの海。波は太陽をきらきらと反射し、波打ち際でボールと戯れる美女たちを照らしていた。


 黒いアダルトな水着のブレア。スレンダーな肢体はきらめく日差しの中で惜しげも無く晒されている。俺はあの滴る海水になりたい。あるいは水着にしみこむ海水になりたい。彼女の体を伝いたい。


 白く清楚な水着のアルマ。落ち着いた魅力あふれる肉体は、それを見るすべての男の情欲をかきたてる。抱き心地の良さそうな身体だ。男たちの心を掴んで離さないだろう。俺は砂浜となって倒れこむ彼女を受け止めたい。あるいは藻となって、包んで乱れて絡まりたい。


 エメラルドグリーンのワンピース型の可愛い水着のメスブタ。虚無を体現した胸。しかし引き締まったお尻。そこから伸びる柔らかくも鍛え上げられた脚。マイノリティだ。だがそれが良い。波となり飛沫となり、あのお尻に何度も何度もぶつかりたい。


 そして、赤黒く日焼けした筋肉質な男。その金髪の男は口ひげを蓄えていた。いわゆるカイゼル髭だ。なんというか……そう、ガチムチ紳士だ。俺はあの厚い胸板に…………


「いやいやいやいや」


 イヤなものを見てしまった。ちょこちょこ目に入るアイツがマジで邪魔だ。たまに笑いかけてくる。海の上をひたすら走り回る20〜50ぐらいの男性。相も変わらず男の年齢はわからん。女ならピタリと当てるのだが。


 ヤツは勇者だ。勇者があんなガチムチ変態紳士だとはな。本当によくよく考えても、世の中は奇想天外な事実で構成されているものだと深く実感させられる。


 おかしなヤツに絡まれているが、総合的に見てこのリゾートに来たのは正解だった。ダンジョン攻略後、俺たちは宿で行き先を決めた────



◇ ◇ ◇


「天使の装備を売却したのです! いくつか売れなかった物もあるのですが、かなりの金額になったのです!」


 アルマは得意げに腕を組み、踏ん反り返っていた。


「売れなかった?」


「値段の折り合いがつかなかったのです。この街程度じゃ扱いに困るような伝説級の装備なのです。仕方ないのです」


「なるほど。で、いくらになった?」


「白金貨172枚なのです」


「ぶほっ! え、マジで?」


「ふふん、マジなのです」


 普段なら腹の立つドヤ顔も今は納得のドヤ顔である。都市部の一般的な人間の生涯賃金を三周しても余るぐらいの金額だ。まあ、天使の装備品だから、と考えると安くも思えるが。


「えーと、アルマ。お疲れ様、さすがです」


「ふっなのです」


「すごいなっ!」


「その通り、すごいのです」


「すごいわね。アルマ頑張ったわね」


「えへへ、なのです」


 さて、アルマさんに気持ちよくなってもらったところでどうしようかな。金もある。時間もある。


「次のダンジョン攻略はどうする? ヘレンちゃんに真正面から見つかったし、転移で逃げるところも見られた。向こうが得た情報は多い。あそこまで到達した力量だけじゃなく、悪魔から何か聞いているかもしれないし……」


「時間を置いた方がいいかもしれないわね」


「修行かっ!」


 メスブタの目は獲物を見つけた猫科の獣のように爛々と輝いている。まー……そうなるのかな。気は乗らないが、アバドンちゃんに真正面から安全に勝てるぐらいには鍛えておきたい。


「待つのです! 修行は確かに大事なのです。でも休息も大事なのです」


 お、いい事言うな。


「同意する。続けてくれ」


 アルマは真剣な顔で頷く。


「なのです。まず聖王国は離れるべきなのです」


 理由は言わずもがな。聖女誘拐のためだ。街中ではすでに噂が流れている。ただ、犯人は犯罪ギルドの仕業という事になっている。聖王国の中枢では同時に俺たちも追っているかもしれないが、教皇の手回しが良ければ下手なことはすまい。

 誘拐犯かどうかわからない俺たちの機嫌を損ねてでも聖女を取り返せる可能性と、聖女を取り返せなくても俺たちに触れない安全性を天秤にかければ後者を取るだろう。教皇は多分そういう人間だ。


 しかし、だからと言って火種を抱えたままこの国にいる理由はない。


「うん、同意だ。続けてくれ」


 アルマは再び真剣な顔で頷く。


「金は唸るほどあるのです。そして金とは使うものなのです。つまり…………豪遊バケーションっ、なのですっ!」


「…………っ!」


「……………」


「おおっ!」


 瞳を潤ませて感動する俺、無表情でお茶を飲むブレア、拳を握りしめ気合を入れるメスブタ。


 そうだね、いいじゃん豪遊バケーション。


「アルマ、最高だよ。俺は賛成だ。2人は?」


 ブレアとメスブタを見る。


「別にいいと思うわ」


 意外といえば意外。うーむ、気持ちが読めない。遊びたいのか、あるいは遊ばせてやりたいのか、はたまた勝手にやっとけ、なのか。


「行こうぜっ!」


 漢らしいなメスブタ。オーケー。行こうぜ。


「決まりだな。豪遊バケーションだ。アルマ先生、どこで豪遊を? 希望は……もしかしてすでに調べて?」


「ふふっ、当然なのです。すでに聞き込みは完了しているのです! 行き先は此処より南、ロムヌ王国の勇者の街、マルフィアナなのです」


「マルフィアナか。いいじゃん!」


 海がある。すなわち水着がある。水着があれば何もいらない。


「勇者がいるのかっ?」


「ああ、たしか10年くらい前に魔王を倒したとかっていう勇者がいるはずだ。マルフィアナは、ちょうど魔族領との境目でな」



 ちなみに、魔族とは一つの種族だ。総称して人類であることに間違いはない。人類または人間といえば、俺のような特徴なしの人族が最も多く、他にはエルフ、ドワーフ、草原族に獣人族、そして魔族など色々いる。


 魔法の起源は魔族にあると言われており、魔法の扱いに長けている。だからこそ魔族と呼ばれているのだ。そのかわり、マナの影響を色濃く受けており、その見た目も雑多だ。人族から大きく離れた見た目の者もいる。

 マナは意思ある者の思いを反映する。それは願望だけではない。恐れや怒り、悲しみも。


 もしかしたらレイシャの爆乳もマナの影響の賜物だったのかもな……ユリーネが爆乳を望み……怖っ。それはそれとして、写生の時の官能的な下着姿を思い出したら漲ってきた。いかんいかん。


 さて、勇者の街から先は魔族領だ。魔族の各種族ごとに町村があるらしい。各種族が交流するような大規模な街は複数あり、そのなかでも最大のものが魔法都市だ。

 規模は聖都と変わらないぐらいだろうが、魔族領は都市間の繋がりが希薄で、政治的には圧倒的に弱い。


「魔王って何なのです?」


 アルマは人間が知らないような変なことは知ってるのに、人間界のことは知らないんだよな。


「魔物の王だよ。魔族領はマナの巡りが良いらしくてな。定期的に魔物の中でもめっちゃ強い魔王が生まれるんだと。特に支配系のスキルで魔物の集団に指向性を持たせ、敵を萎縮させる奴が多いらしい」


「魔族領に魔王が出るなら、勇者は魔族なのです?」


「いや、よく分からんが、勇者は人族だ。仲間を鼓舞する系のスキルで恐怖に打ち勝つパーティを形成できるんだと。魔王に相性がいいとかで」


「そんなレアっぽいスキルを持った人が都合よくポンポンと生まれるものなのです? 怪しいのです」


 先入観なく魔王と勇者の話を聞くアルマは鋭い。子供の頃から魔王と勇者に毒されてきた俺は少しも怪しいと思ってなかった。


「生まれるわけじゃなくて作るんだが……言われてみるとなんか変だな。魔法王が勇者のスキルを授けて勇者になるんだよ。あー、魔法王ってのは魔族の中でも魔法に秀でた者のことだよ。正確には魔法都市の王だな」


「人族な理由も授けるというところも謎だらけなのです。たぶんマナ分割しているのです。ところで、魔法に優れてると為政者になるのです?」


「そうなんだよ。わけわかんねーよな」


 なんかもう全体的におかしいわ。どうでも良くなってきた。


「ブレアちゃんとか魔法王になれそうなのです」


「そうね。収束魔法を公開すればなれるわね」


「そういう条件なの?」


「200年前と変わってなければ……変わってないでしょうけど、新たな魔法の開発も条件の1つよ。他にもいくつかあるけど私は満たしているわね」


「へー」


 魔法王ブレア。全然違和感ない。


「色々とキナ臭いのです。魔法王は勇者にスキルを与えるにあたって何かからマナ分割をしているのです。たぶん魔王の方も誰かが意図的に作ってるはずなのです」


「何それ……ああ、いいや。何でもない。聞かない。色んな人がいて色んなことがあるんだな。よしっ、豪遊バケーションに行こうぜ!」


 そこから俺たちは小走りでいくつかの町村を経由して理想の地へとたどり着いた。


 なお、アバドンちゃんのインターホンはメスブタがその存在を忘れているようだったので、ブレアおよびアルマと協議のうえ途中で埋めたのだった。


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