表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/158

天下分けめのミーティング


「転移トラップだ。踏まないように気をつけて」


 3人が『またか』という顔でトラップを避ける。


 91階層以降ではトラップが異常に増えていた。今回のようにマナで感知しやすいタイプのモノと単純な仕掛けの毒矢や落とし穴。


 セバスチャン氏曰く、転移トラップで最もヤバいのが、転移先が時空間トラップ部屋の場合だ。マナの絶対時間と比較して時間の進みが早い部屋があるのだ。

 程度によるが、最悪の場合は数十分でアルマ大爆発だ。時空間トラップに引っかかっているかどうかはブレアがいないと気付けない。


 なるべくメンバー間の距離を開けず慎重に進む。魔物を倒す頻度やスピードは変わらないが、慎重に進んだせいか、これまでの5階層分とは比較にならない時間を要して95階層についた。



「ボス部屋だな」


 おそらくマナ総量150万程度のボスが出てくるのではなかろうか。さすがにメスブタ単独だと厳しい可能性が高い。再生するにしても致命傷を受ければ死神が出てくるしな。


「メテオ、どうするの? 一人で挑む?」


 ブレアが問いかけるとメスブタは鼻息荒く答えた。


「とりあえず一人でやってみたいっ!」


「うーん。その気持ちは尊重したいが……」


「入ってから判断するのではダメなのです?」


「今までは待ってくれるタイプのボスだったけど、待った無して攻めてくる狂戦士タイプかもしれないだろ?」


 というか待ってくれるボスがおかしい気がする。ゴーレムとかは待ってくれたわけではないが。


「確かになのです」


「じゃあ、パーティで戦う前提で構えて、状況を見て可能ならメテオに任せるのはどうかしら?」


 ブレアの意見が良さそうだ。


「そうだな、それで。よし、入った瞬間にアルマとブレアで多重結界を張る。メスブタは結界を突破される可能性に備えて構える。俺はマナフィールドを部屋全体に展開して状況把握。もし罠や伏兵があれば共有。敵のスキルに合わせて何かしら対応する」


「いいんじゃないかしら?」


「硬めの結界を用意するのです」


「しゃーないなっ!」


 メスブタの聞き分けがいいな。意外だ。


 そして、俺が先頭となり扉を開けた。そしてメスブタとともに踏み込み室内を把握する。

 同時にブレアとアルマは詠唱しながら中に踏み込む。ある程度の視野を確保できる位置で結界を起動した。

 二人の詠唱スピードは尋常じゃない。ものの数秒だ。神聖術において人類最高峰と名高いレイシャでもこの規模の結界を張るなら1分は必要とする。


 メスブタは構えを取り怪訝な顔をしていた。

 だろうな。この可能性は、俺もちょっと頭から抜けていた。


 眼前には6匹の天使たちが立ちはだかっていた。複数、しかも天使か……。全員男だ。助かる。武装天使ちゃんの時はちょっとやりにくかったし、今回は無限牢獄とは違って本当に殺すことになる。本当に殺すといっても、アバドンちゃんのように生き返ってくる場合もあるが。


 部屋は百メートル四方の立方体に岩をちりばめたみたいな空間だ。地面だけでなく空中にも岩は浮いている。


 空を飛び回る天使にはやりやすい環境だろうな。もっとも、足場を作ってくれている分だけさっきの卑怯龍よりは攻略が容易だ。俺たちの戦闘スタイルからすれば、あまり関係ないが。


 さて、それはともかく俺のマナフィールドは岩の陰に潜む12匹の天使を既に捉えている。どうやら6匹チームを3つ作った計18人が此処のボスということのようだ。


 そして、次の階層への扉の位置は…………上だな。目の前の6匹の天使の背後にも扉はあるがあれはダミーだろう。本物は上にある。そっちのマナ濃度が濃い。本当に歪んだ造りだな。上に下の階層への扉があるとは。



──という状況把握を3秒ほどで終えると、眼前の天使の中で最もマナ総量が高い者が喋り出した。



「このダンジョン『グルガン』に挑みし戦士たちよ! 我らは天使! 神界への道を守護するものである! 道を求むれば闘え! そうでなくは引け!」


「仲間内で相談させてくれ!」


「うむ! 五分やろう!」


 間髪を入れずに相談の申し入れをしたが速攻で承認された。天使とか神界とかスルーしたけど向こう的には気にならないのだろうか。


 直立不動でこちらを睨んでいる。五分間あのままで過ごすのだろうか。やばいな。俺にはあの仕事は出来そうにない。



「天使だっ!」


 メスブタは初めて天使を見たかのように興奮している。お前、自分が何匹の天使を仕留めたか分かってんのか。


「そうだな。天使だ。全部で18匹いる。上の岩陰に12匹。正面の6匹の背後の扉はダミー。本物は上部の何処かにある。岩を砕きすぎると扉がダメになる可能性があるので注意だ」


「思ったより厄介ね。1番の問題は私達が脱獄者だと気付くかどうかね。マナ視スキルホルダーがいればすぐわかるでしょうけど」


 確かにな。脱獄者とバレる、なんらかの手段でヘレンちゃんに連絡がいく、刃物を振り回すヘレンちゃんが登場、てのが一番怖い。


「マナ視スキルホルダーがいなくても、バレておかしくはないのです。ここでボスの仕事をしているということは彼らは穴の女神に仕える天使なのです。使うスキルや容姿など、私たちに関する情報量は多そうなのです」


「ということは相手が気付く間も無く全員を一瞬で殺れば問題ないのかっ!?」


「それはたしかに問題ないが、撃ち漏らした時にどうかるかだな。ブレア、天使のマナ総量は?」


「正面の6匹なら4匹が30万でSランク中位。1匹が70万。喋っていたのが100万ね。隠れている12匹は見えないからわからないわ」


 他の2組が正面6匹と同じレベルなら、グルガンは難易度低めだな。バトゥールの方がボスが強かった。数を揃えてもこれなら大したことはない。といってもこの状況が難しいことに変わりはない。


「同じレベルが2組でも一瞬でカタをつけるのはキツめかな。一応、目線を合わせておこう。目標は脱獄者がここにいると外部に漏らさずに18匹の天使を殲滅すること、これで良いかな?」


「問題ないのです」


「いいんじゃないかっ?」


「そうね。そして、問題は見えない12匹の力量と、相手の外部との連絡手段ね。そして私と同程度のマナ視スキルホルダーがいれば私達を視界に入れた瞬間に脱獄者だということがバレるはずよ」


「マナ視スキルの方はどうしようもないな。俺がマナフィールドを広げておいて、逃げそう天使がいたならダッシュで抹殺するぐらいか? 出口は明らかになっているもので三つある。本物の出口、ダミーの出口、俺たちが入った入り口」


「あ、そっか。なのです。ダミーの出口でも連絡通路としては機能している可能性があるのです」


「マナ濃度が薄いから可能性は低いがな。後はあいつら転移する可能性もある。それも一瞬で消えるわけじゃないから予兆があればダッシュで……あ、これはメスブタの方がいいか。俺が指定した場所にメテオブーストで飛んでいって始末、できるか?」


「ぐしゃっとやればいいんだなっ!?」


「うーん、まあ、よし! あとはどうやって崩していくのが低リスクかつ効率的かというところだな。上の連中の力量によっては撤退も視野に入れる必要があるかもしれないが」


「うむむむむむ、なのです」


「ニトが真正面っ! あたしが上っ! ブレアも上っ! アルマはここで結界っ! 完璧だっ!」


「完璧ではないがダメとも言えない。戦力を分散して各個撃破しかないのかな。うーん」


「マナ視を見つけるまで、素性がバレないように戦うというのもアリよ。禁忌に触れそうな技を見せずに倒すとかね」


「変質者スキル、収束魔法、破壊と再生はダメだな」


 自分の身体力と精神力の操作ぐらいはするが。


「あと、万が一、戦闘中に穴の女神がこの場に現れた時、私たちが固まっていないと脱出が難しいわ」


「……おっし。決めた。さっきのスキルは確実にトドメを刺せるまで禁止。まずは上の12人は無視して6匹に取り掛かる。少し手を抜いてかかろう」


「手を抜くのです?」


「抜く。上の12匹の狙いがただの伏兵なら、ある程度こちらが押したぐらいで油断を見せれば急襲してくるだろう」


「そしたら私がステータスチェックね。声をかけるわ。前の6匹と同じ程度なら『同じ』、低ければ『低い』、高ければ『高い』に加えて大事そうな敵とスキルを補足するわ」


「助かる。それで行こう。で、逃げる天使がいたらメスブタが始末するわけだが……相手が同格以上なら即座に戻って来い。そこから先は脱出も視野に入れた消極的戦闘だ」



 直立不動で微動だにせずに固まっていた天使が動いた。


「五分だ! さて貴殿らは如何なる者ぞ?」


 如何なる者だと?


「俺は女の子が大好きな男の子だ! ちょっとエッチだけどそこが憎めない、そんな風に言われたい! 貴方こそなんだ? さっきから人に尋ねてばかりで! 貴方は一体なんなんだ?」


「え? じ、自分か? 自分は、天使の上級管理職で、ダンジョンの防衛の任に就いていて……」


「そうか! 素晴らしい仕事だ! 他にはないのか?」


「え? そうだな。カブトムシの飼育がマイブームで……」


「隊長、隊長」


 背後にいたマナ総量70万の天使が『隊長』の肩を叩いた。


「はっ。と、ともかく、貴殿らは闘うのだな! では尋常に勝負!」


 というわけで無限牢獄ぶりの天使とのバトルだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ