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竜豚相搏つ


 ドラゴンがいた。初めて見た。かっこいいな。ドキドキする。


 スピードタイプっぽい感じだ。身体は細めで翼は大きく、色も緑でなんか風って感じがする。鋭く大きな爪と牙が目立つ。


 ボス部屋はかなり広い空間だった。魔界村があった50階層の空間よりは狭いが、高さもありドラゴンが飛び回って戦うには十分だろう。


 ドラゴンか。どれぐらい強いんだろう。マナフィールドを広げ、探りつつ近付いていくと、ドラゴンは鎌首をもたげながらこちらを見据え口を開いた。


「人間か……このダンジョンの踏破を望むか?」


 喋った! と内心ドキドキしながらお返事する。


「そうだ。勝手に奥へ行くからあまり気にしなくていい」


「待てっ! そうはいかんっ!」


 声をあげたのはメスブタ殿だ。


「それはそちらのドラゴンさんのセリフでは?」


「殴りたいっ!」


 メスブタは純粋にドラゴンを殴ってみたいようだ。無慈悲にもこのドラゴンを見逃す気はないということだろう。

 まあ、向こうもボスとして通すつもりは無いだろうから構わんけども。


「えーと、じゃあ、どうぞ」


 先頭を譲るとにんまりと笑い、前に出て仁王立ちで名乗りをあげた。


「あたしは不死王メテオストライクブースター…………この世の生を砕くものだっ!」


「我は龍帝ヴェーン…………あまねく生を空へと還すものだ」



 おお、名乗りが噛み合ってるぞ。2人はニヤリと笑い合う。そのままなんか会話が始まったので、この隙にブレアにあのドラゴン──龍帝ヴェーンのステータスを確認しよう。


「ブレア、どうかな?」


「マナ総量82万よ。身体力27万、精神力23万、スキルはブレス、龍鱗強化、風魔法ね。全て高レベルよ」


「メテオちゃんとほぼ同格なのです?」


「無限牢獄から出たばかりの頃ならね。今ならまあ、格下じゃないかしら」


「メスブタって、あれからそんなに強くなってるのか?」


 確かに俺も非常階段を降るあたりで飛躍的に伸びたが。


「あの時は88万ぐらいだったかしら。いまは95万まで伸びてるわよ。増分は全部身体力で33万から40万に伸びてるわ」


 伸びすぎ。戦闘民族か。


「なんでそんなに伸びてるのです!?」


「そうだな。確かにとんでもなく強い敵と何度も戦ってたが、そんなに伸びるような感じでもなかった」


「戦うたびに増えてはいたけどね。でもそれよりもアストラルリンク以降で3万増えたわ。ユリーネとメテオの2人でマナフィールドをあわせて拡大した状態で分散収束を繰り返した事が大きかったんじゃないかしら?」


「ユリーネの経験が──メスブタに反映された?」


「おそらく」


 マジか。ユリーネがいればマナ増やし放題じゃん。いや、条件もいろいろありそうだな。ユリーネがアストラルリンクの対象として依存できないとダメだし。この時点で男はダメか。



「なんとなくユリーネに恐ろしさを感じるのです……」


「私もよ」


「俺も。理屈がよくわかんないし、今更ながら魂がリンクするってなんか怖い」


 満場一致でユリーネに恐怖している俺たちの会話の裏ではドラゴンとメスブタの会話がなされていた。



「てことは、龍帝は龍王より格上なのかっ?」


「その通りだ。地上のあらゆる龍は我よりも格下よ」


「なんだとっ? と言うことは龍王も龍帝よりも格下なのかっ?」


「然り。龍王とは龍帝よりも格下よ。つまり、人間界のいかなる龍も我には敵わん」


「そういうことかっ! つまり人間界最強の龍である龍王よりも強い龍帝は最強を超える最強の龍なのかっ?」


「如何にも。我こそは最強を超えし者。龍帝ヴェーンだ!」


「なるほどっ! 龍帝は龍王より格上なのかっ!」


「まさにその通り。地上のあらゆる龍は我よりも格下よ」


 得意げに喉を震わせる龍帝。


 その様子を見てブレアが俺につぶやく。


「ドラゴンの頭は悪そうね。まさにしゃべるトカゲって感じだわ」


「ああ、このままじゃ会話が終わらないぞ」


 放っておくと永遠に龍王よりも龍帝が上だって話をしてそう。

 そこへアルマが乱入した。


「龍帝さん、龍帝って世界に何体ぐらいいるのです?」


「む? さてな。わからん」


「たくさんいるのです?」


「そうだな。たくさんいる」


「帝、と言うことは配下がいるのです?」


「うむ。神界の龍の部屋には多くの古龍がおってな。それらの中から強い奴が龍帝を名乗るのだ」


「龍帝よりも上の位はあるのです?」


「ある。真龍、真龍将、真龍王、真龍帝だな。そこから先は結構色々ある。各々が好きに名乗りをあげたりする。例えば我が主人の主人の主人の主人の主人であれば『いかづちを喰ふ龍』と名乗っておられる。そしてその上になると亜龍神、龍神だな」


「なるほど、龍帝はなかなか雑魚なのです?」


 俺も思ったけど言っちゃダメだよ、アルマ。


「うむ……そのようだな。我も今話していて気付いたが結構ザコだった。龍王がどうとか下ばかり見て恥ずかしい」


 龍帝は威風堂々と掲げていた首を弱々しく下げ、こちらを見つめている。叱られた犬みたいだ。


「気にするなっ! 龍王っ! あたしと勝負だっ!」


「龍帝だから。この流れでそこを間違えるのは人として無い」


「そうだった! 龍っ! 一対一だぞっ!」


 ついに王も帝も消えた。まあ合ってるからいいか。馬鹿馬鹿しくなったのか、龍帝もちょっと元気が出たようだ。


「ふふっ。人間風情が神界の龍帝と一対一か。ただ、強きを望む、か。よかろう! 汝、龍の魂に叶うものなり」


 そして、神界の龍の中の雑魚が『龍の魂』だとか大げさなことを言い放ち、壮大なバトルが始まった。

 マナ総量に差があるとはいえ、大きな差ではない。メスブタがやられてもおかしくはない程度なのだ。いつでも飛び出して援護出来るように構えておく。ブレアも同じだ。アルマも回復魔法をいつでも唱えられるように準備している。



 先制攻撃は龍帝ヴェーンだった。


 大きく翼をはためかせ、風魔法を唱える。メスブタに向かって無数の風の刃が飛んでいく。

 牽制だろう。放つと同時に飛び上がり、斜め上空から火炎のブレスを吐き、旋回を始めた。

 メスブタは拳で消滅させたり地面をめくり上げて防いだりしている。


 なるほど、上空からブレスと風魔法で撹乱するわけだな。そうなると一方的になるな。なんせメスブタには上空への攻撃手段がない。というか空を飛ぶ龍をどうにか出来る人間はほぼいない。


「こいつ……」


「卑怯ね」


 上空で得意げな卑怯帝ヴェーンが憎たらしい。


「あ、なのです」


 卑怯帝ヴェーンは火炎のブレスをさらに風魔法で掻き回している。火災旋風になりそうだな。このままじゃメスブタが致命傷を負うかもしれん。そしたら死神が来ちゃう。


「まずいな、止めるか」


 そう言って足を出した瞬間だった。


「逆・メテオブーステッドパーーーンチっ!」


 地面がボコボコとめくれ上がって、無数の岩石が天井に向かって飛んでいった。尋常ではないスピードで。え、逆メテオブーステッドパンチ? 逆メテオはまあ良い。下からメテオって事だろう。パンチって何? この空飛ぶ無数の岩はパンチで飛ばしたの? 脳筋にもほどがある。


「うごおおおおおおお!」


 卑怯帝は両翼に逆メテオを食らったらしい。撃墜されてしまった。地面に強く体を打ち付け数度、跳ねる。これだけで死んでそうだが……。


「メテオブーストっ!」


「ぐ、ぐぐ」


「まだ戦うかっ?」


 メスブタは間合いを詰めて首元に向かって構えながら問いかける。珍しくメスブタが理性的だ。


「ふっ、我が龍鱗強化ならばこの程度ダメージにもならん。まだまだだ!」


 そう言って雑魚帝ヴェーンが臨戦態勢に入ろうとしたその瞬間──


「そうかっ!」


 メスブタが『えいっ』と掛け声を発しながら無造作に放った手刀は卑怯龍の首を両断した。やはりいつも通りだった。容赦ないわ。


「さらば、龍……っ!」


 メスブタは龍帝ヴェーンについて、それが龍であった事以外はもはや記憶にないようだった。


「えーと、じゃ、次行くか」


「呆気なかったのです」


「儚いわね」


「次はちゃんとしたやつだといいなっ!」


 もはやメスブタのバトルツアーのようになりつつあった。


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