表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/158

ホテル〜Hotel〜


「サプラーイズ!」


 破裂音とともに色とりどりの紙テープが飛んでくる。クラッカーかな?


 頭に絡みついた紙テープを取り、前を見るとそこにはよく見知ったおっさんがいた。


「ははは、驚かれましたかな?」


「ええ、ははは。驚きましたよ。これはとんだサプライズですね! セバスチャン様はなぜこちらに?」


 そう、そこにはセバスチャンがいた。今日はいつもの汚めのボディを惜しげもなく晒している。衣服はブーメランパンツだけだ。そんな格好していいボディじゃないことを自覚してくれないか。


 なんだか無性に腹がたってきた。なんなんだ。いきなり現れてクラッカーだと? 俺たちがダンジョン攻略に必死になってる間にパーティでもしてたのか? ていうかどこだここ?


 暗めのライトに大きなベッド。脇には三角木馬。壁には様々なムチが飾られている。天井からはいくつかの手錠やロープが吊るされていた。何をする部屋のかはわかったけど、ダンジョンのボス部屋かと思ったらSM部屋でしたって中々無いよ。


「どうやらニト様は此処がどこなのか疑問に思われているご様子。ご説明しましょう」


「助かります。よろしくお願いします」


「こちらは神界ホテルの一室──変質神様のお部屋でございます」


「え」


 ダンジョンじゃないの? 神界に逆戻り? えーと、考えてみよう。神界と人間界はマナが断絶している。それを繋ぐのがダンジョン。繋がるのは最下層──最下層で繋がるんだっけ? 境目は明確になっているのだろうか。もしかしたら──


「いま私たちがいる90階層もほぼ神界だということなのでしょうか?」


 ブレアも俺と同じ推測をしたようだ。例えば10階層は人間界だっただろう。では90階層はどうかと言えば、それはきっと神界なのだ。例えば魔界村があった50階層が人間界と神界の境目だったのかもしれない。


「ご明察恐れ入ります。さすがブレア様ですな。ちなみに、ブレア様がダンジョンで定期的に脱出用の転移魔法陣を設置する必要があるのは、断絶したマナによる時空間の歪みに影響されずに転移するためでございます」


「それはともかく、ダンジョンの下層部が神界だからと言って、ダンジョンと神界ホテルを自由に繋げられるわけじゃないですよね?」


 穴の女神が刃物振り回しながら飛んできそう。


「上手くやりました」


 ニコリと笑う変態。聞くだけ無駄なのか。


「なぜ突然、繋げたのです? アルマ達はちゃんとまじめに仕事していたのです。忙しいのです。その穢れた物質を視界に収めることを強制されるような拷問を受ける謂れはないのです」


 自らの父を視界に収めることを拷問と言い切ったぞ。これはキツい。聞いてる方がキツい。


「ははは。アルマは相変わらずだね。安心したよ。さて、皆様を今回お呼びしたのはちょっとしたヒアリングの為です」


 こっちから聞きたいことならたくさんあるが。向こうも聞きたいことがあるのか。


「ということで始める」

「まずは聖女について」


「うおっ!?」


 いると思ってなかったのでマジびびった。急に現れるなよ変質神。


「サプライーズ」

「アターーック」

「奇襲は基本」

「我々は基本に則り虚をついた」

「死にたくなければ」

「よく観察しろ」


 間違ってない。だがそういうことでは無い。


「まずは第1問」

「聖者聖女問題について」


 あ、始まってしまった。突っ込む間が無い。


「神の庇護と禁忌の意味は」

「人間の自主性とそれを成り立たせる拠り所は」

「難しいから簡単に言うと」

「神ってムカつく?」


 えーと。正直に答えるなら目の前のお前らがムカつく。が、まあ一応、世話になっているのでまじめに答えよう。


「神の行為の意図がわからないですからね。何も答えられませんよ」


 ベルゼブブはもっと人間に任せろと言っていたが、何も知らない俺が安易に発言できるものでもない。


「だろうね」

「だと思った」

「つまらない男」

「ほんとそれ」


 くそっ、なんだこいつら。


「ムカつくかどうかよりも神の行為が人の進化を妨げるものだと感じられる点が気になります」


「なるほど」

「目の付け所は悪くない」

「じゃあ第2問」

「人間界に戻り、世界についてどう考えた?」


 それについてはむしろこちらから聞きたい。


「……3つあります」


 頭の中で整理しながら一つ一つ問を紡ぐ。


「1つ目。創世から存在する神界ホテルの非常階段の設備、数万年前の遺跡、変わらない技術」


 これは流石に異常だ。意図的に誰かが狙わなければこうはならないだろう。文明が滅んだり復興したりしているのではなく、創世から停滞している可能性があるのだ。


「2つ目。数百年前の人間であるメスブタ、ブレア、現在の人間である俺。変質神様も、悪魔王ベルゼブブも。コミュニケーションが容易に成り立ちます。変わらない常識と価値観」


 容易に成り立たないコミュニケーションもあるが、個人の変態的な部分ということで許容範囲内だ。


「3つ目。ブレアが無限牢獄に投獄されたのは大地母神の禁忌を犯したから? それとも世界を変えうるスキルを作り上げたから? 第1問にも通じるのかもしれませんが、神の禁忌の意図が読めない。少なくとも人間が前に進むためのモノではないはずです」


 えーっとこんなとこかな。てことで、


「つまり、人間界、いや神界も含めて、世界は、変わっていない──誰かの意思で停滞させられているのでしょうか?」



 空気が止まった。変質神アルファもオメガも真顔だ。セバスチャンも。俺を見つめている。


 え、なんか喋ってよ。怖いし。SMでも始めるつもりか。知りすぎたお前はメスブタ以下の卑しきブタになり永遠に言葉を忘れるのだ! 的なプレイが始まるのか。


「私も気になるわ」


 ブレアだ。この空気で発言してくれるとは助かる。最悪ここでプレイが始まってもブレアが一緒なら楽しめる気がする。なんならメスブタもここで卑しさを学べばいいじゃん。そしたら自然とアルマも。


「プレイはないから」

「残念だけど」

「ダンジョン攻略を求める」

「そっちが大事」


「そうですか……」


 まあ、残念ってほどでもない。


「神は人間界のマナを管理している」

「災害を繰り返さないために」

「人間界を変えうる魂は無限牢獄へ」

「神へと至れば一石二鳥」


「災害?」


「変質しないため」

「つまり、他の神々は私の禁忌に触れている」

「すなわち変質しないこと」

「停滞した世界は望むこところではない」


「なぜ他の神々と敵対しないのです?」


「変質する事で災害が起きるのは間違いない」

「ブレーン収束という災害」

「それを求めるアカーシャ収束体」

「そして、その使いである預言者」

「世界を誘導する変態」

「変質的な行動で常識を震わせるもの」


 そう言って変質神アルファとオメガは俺を見て、笑った。


 心臓が跳ねる。


 預言者…………俺?



「さて、上出来だと思う」

「よく考えている」

「改めて、何がしたい?」

「何を成したい?」

「ただ生きたい?」

「現地妻を作りたい?」


 現地妻は作りたい。世界各地に。だけどブレア達がいる前で本音を言うのは憚られるな。ま、いっか。


「まずはブレア達と良い関係でいたい、仲を深めていきたいです。それが何より大事です。みんなとのハッピーエンドに至るまでの過程に人生の意味を見出そうと考えています。それ以外はおまけですね。現地妻も出来れば、という程度で。でも困っている女の人がいたら積極的に助けたいです。男には興味ないです」


 そこまで言って気付いたけど、ここってある意味、ベッドの部屋では? レイシャとユリーネがいるときにこの部屋で一泊したかった。もちろん変質神とセバスチャンは退場だ。



「うんうん」

「まあいいんじゃない?」

「好きにしなよ」

「自由にすると良い」

「さて、そろそろお時間」

「あまり繋がってると穴の女神が気づく」

「またね」

「お元気で」


 そう言って俺たちは変質神に素早く蹴飛ばされ、扉から追い出された。さすが神。避けれるイメージがまったく湧かなかった。


 そして、扉が閉じたと思ったら既に目の前に扉はなく、そこはさっきまでと同じダンジョンだった。


「なにこれ?」


 何だったんだ? 何かのテスト?


「わからないけど……アルマはお父様に会えてよかったわね」


「な、そんな、あわわわ、ブレアちゃんは変なこと言わないのです!」


 へぇ、何だかんだセバスチャンに会えると嬉しいのか。


 ふと横を見ると空虚な瞳のメスブタが人形のように佇んでいた。こいつ一言も喋らなかったな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ