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壊す人


「さて、51階層だな」


「全100階層だったから折り返しね」


「割と難なく来れたのです」


 したり顔のアルマさんだ。今日も良い顔芸だな。


「ああ、だがこれから先、難易度がまた上がっていくだろう。バトゥール以下ならいいんだがな」


 神界から人間界に来る時に逆走したバトゥールの難易度と同じ程度ならば問題ない。4人で力を合わせることで攻略可能だろう。しかし、バトゥール以上の難易度になると少しキツい。最も警戒すべきはアバドンちゃん以上のボスの登場だ。


「今のところバトゥール以下じゃないかしら? 前半部分の魔物のマナ総量の傾向を見るに、グルガンの方が少し低めよ。比較対象がバトゥールのみだから微妙だけど、上昇率と分布を考慮して、最下層までバトゥールよりも弱いボスと魔物で推移するんじゃないかしら」


「ちゃんと覚えてたのか」


 バトゥールの時に、遭遇する敵のマナ総量を大体でも把握して傾向を見てくれていたのだ。さすがブレア様。


「もちろん。もっとも、今回は正面から攻略だから事情は違うでしょうけどね」


「確かにな。後は最下層のボスだが多分アバドンちゃんだろう。弱ってる今が狙いどきかな。修行中とか言ってたし」


「攻略の練習にちょうど良いのです。せいぜい踏み台になるのです」


 ゲスめ…………って感じだな。本当は女の子を手にかけたくはないが致し方あるまい。願わくばイナゴリラに変態していることを望むが、この短期間でそこまで変わられてしまうと逆に辛い。


「ま、適度な力配分で行こう。今回はお試しだ。ダメなら帰ろうぜ」


「そうだなっ! 全力で行こうっ!」


 ほらな。メスブタはこうなんだよ。適度な力配分=全力なんだよ。


「ああ、そうだな。でも戻れって言ったら戻るんだぞ?」


「うんっ! あらゆる命を叩き潰してやるっ! 跡形もなくっ!」


 怖い。それ以外の感想がないわ。まあ、でも実際に戻れって言ったら戻るしな。8割安心2割不信でメスブタとは接して行こう。


「その意気だ。ファイトー」



 というわけで攻略が始まった。俺が先頭で罠を察知。次がメスブタ。敵が現れたらメスブタを走らせて、倒したら『戻れ』をする。

 次がブレアだ。危なくなったらブレアの判断で帰還。ブレアは帰還を最優先する。余裕があるなら戦闘の支援をしても良いが、まだ必要なさそうだ。

 しんがりがアルマ。回復担当なので真ん中に置いてメスブタを最後尾にしたいところだが、メスブタが脱獄した目的がいろんな敵とのバトルなので、その点を尊重し、完全に安全性重視の隊列とはいかなかった。しかし、アルマも万能型ではあるので、最後尾での警戒に大きな問題はない。


 聖女と聖騎士、2人が抜けたが、守る対象が減って楽になったぐらいだ。人間界基準で実力者とは言え、戦闘力でみれば俺たちとは隔絶したものがある。



 51階層から先も問題はなかった。途中現れる魔物をメスブタが正面からのパンチで仕留めて行く。


 60階層のボスはゴーレムみたいなやつだった。鋼鉄製で、スタイリッシュなゴーレムだ。


 というのを、ボス部屋の扉を開けて外から確認している。部屋の外だと襲ってこない仕様のようだ。ボスに共通する仕様というわけではなく、今回はたまたまゴーレムだったからかもしれないが。


「まっすぐ行って殴ればなんとかなる気がするっ!」


 メスブタ殿は思考を放棄しがちだな。


「との事ですが、ブレアさん? いかがでしょう?」


「そうね…………私の答えの前に、ニトはどう思っているのかしら?」


 ほほう。テストかな。マナ視とマナフィールドの検知による判断の違いを見たいのか。マナフィールドを広げゴーレムに接触させる。


「Sランクの中の下ってとこかな。ウボウボ天使よりは弱めという印象だな。体術主体の脳筋タイプで真正面から殴っても良いのでは?」


「なるほどね、私も同じ意見よ。マナ総量29万弱ね。スキルも危険性はないわ」


 正解いただきました。ご褒美あるのかな。


「ブレア……」


「もっと頑張ったらね」


 え、あるの!? よしきた、頑張るぞ!


「そろそろいいかっ?」


 ああ、メスブタを待機させたままだった。


「よし、メスブタ行け」


 行った瞬間、視界からメスブタが消える。メテオブーストだ。名前さえかっこよければな……。

 消えるとほぼ同時にゴーレムの真正面に現れるメスブタ。真正面に陣取るとはなかなか挑発的だな。やっとメスブタに気付いたゴーレムはその両腕を一直線にピンクの髪がなびく頭部へと向かわせる。突然の敵に対して、判断のスピードが速い。高性能なゴーレムだな。

 だが、ここで遅れを取るメスブタじゃない。すかさずそのゴーレムの腕を掴み、自らのスキルで消滅させる。ゴーレムは消えた腕を意に介さずに腹部に向けて蹴りを放つ。しかし、メスブタは左手で軽くそれを受け流すと、右手でゴーレムの核があるであろう心臓部に向けて掌底を放った。破壊のスキルを帯びた拳だ。胸にはぽっかりと穴が開き、その向こうにある壁が見えていた。


 ゴーレムが崩れ落ちる。数秒、間を置きメスブタは振り返った。


「殺ったっ!」


 なんかさ、もっと違う言い方ないかな? 『倒したっ!』とか『勝ったっ!』とかさ。可愛い笑顔で振り向き、拳をこっちに突き出しているけど、言葉がストレートでちょっと反応に困っちゃう。

 まあ、でもここで『ふええ、殺しちゃったよぉ。南無南無』なんて言われてもアレだし、まあいいか。


「確かに停止したみたいね。核が破壊されてマナが分散しているわ」


「そっか。ゴーレムだし殺したとは言わないか」


「言わないわね」


「そうなのです。仕組みは魔道具に近いのです。壊したの方が適切なのです」


 アルマ先生のショート講義だ。長くなくて助かった。


「壊したっ!」


 さっきと同じ表情、同じポーズで言い直された。わざわざやることじゃないよ……。


「えーと、ご苦労様。さすがだな。次も頼む」


「任せろっ!」


 そして、70階層へと進んだ。今度はガーゴイルだった。なんか無生物系が多いな。ヘレンちゃんが頑張って作ったのだとしたら壊すのもちょっと忍びない。

 もしかしてコイツら穴ガチャで出てきたりしないだろうな。流石にコレを引いたら困るぞ。


 ガーゴイルも鋼鉄ゴーレムと大差ない強さだった。メスブタがパンチで滅した。


「壊したっ?」


 首を傾げながら拳を突き出している。


「あってるあってる。不安そうにしなくても大丈夫だから」


「壊したっ!」


 笑顔で拳を突き出し言い直された。だから言い直さなくてもいいのに。



 そして80階層。


 雑魚の数が増えた。まれにAランクが出るようになったが、ベースはBランクだ。


 ボスはマナ総量的にはSランク上位、つまり魔王や勇者に迫る実力に見える。

 武装したゴーレムだ。核が保有するマナ総量と魔法語で刻まれた挙動。60階層のゴーレムよりも強靭な金属に、小回りが利くラウンドシールド、そしてこれまた魔法語が刻まれたロングソード。かなりの斬れ味だろう。


 その実力は勇者でさえ苦戦させるほどだと思われる。



「壊したっ!」



 はい、『壊した』いただきましたー。あまりにも呆気ない終わりに乾杯。


 メスブタには物足りないようだった。まあ、亜神と一年もの間戦い続けたのだ。今さらウボウボ天使程度の敵と戦っても物足りないだろう。

 アバドンちゃん程とは言わないが、それに準ずるレベルじゃないとな。



 たぶん、90階層になると、メスブタの訓練になるボスになりそうだ。ブレアの感覚的にも、俺がバトゥールで背後からの断首をしまくった感覚でも、大体そんな予想をしている。


 そこでSランクを超えたレベルになるはずだ。そこからは数階毎に飛躍的に強くなっていき、最下層でアバドンちゃん戦となる。


 80階層のボスから最下層のボスで5〜6倍程度のマナ総量になるわけだ。


 ラスト一割で激しく難易度が上がるのだと見ている。なお、メスブタの訓練になるというのも、俺たち3人が手を出さずに1人で戦ってもらう前提だが。



 そして、90階層のボス部屋を開いた。


 そこには予想の斜め上の遥か彼方の星々の果てで笑うおっさんのような光景が広がっていた。


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