ケツをガチャガチャに?
「さて、50階層についたわけですが……遺跡の場所はわかりますか? ヒントとか」
最奥を目指す分にはマナを追えばいいが、遺跡の場所となるとそうはいかない。
「すぐわかると言っていましたが」
「ふーむ。じゃ、とりあえず歩いてみますか」
よく分からんが多少ウロウロするぐらいなら問題ない。適当に歩いてみるか。
そして歩き始めて数分、たしかにすぐに分かった。
「でかっ…………」
「大きいのです! 凄いのです!」
「埋めるの大変そうだなっ!」
というメスブタのお言葉の通り、眼前には埋めるのが大変そうな空間が広がっていた。突如現れた広大なドーム状の空間。俺たちは高台から見下ろす形で全体を俯瞰している。中心部には街が見えた。そう、それは一つの街を収めることが出来るほどの空間だった。
なるほど、この広さなら50階層はほとんどがこの空間なのだろう。すぐにわかるわけだ。
ヘレンちゃんは頑張って掘ったのだろうな。
中心部の街が遺跡だろう。聞いた話では数万年以上も昔の遺跡だ。遠目に見ても、まだまだ現役で街として機能しそうだ。
天井の一部はぼんやりと光っており、街を照らしている。遺跡ってこんな場所だったのか。幻想的だ。
高台から降り遺跡を目指して歩き始める。ブレアがぼそりと呟いた。
「考えてみると、この遺跡も全部セバスチャン様より年下なのよね……」
「恐ろしいな。そう言えばアイツ、最低でも3億歳だったな……」
「ビチグソ変態野郎の話かっ?」
ひょこっと顔を出してメスブタが言った。
「こらこら、そんな言い方はやめなさい」
とは微塵も思っていないがアルマの前だし一応ね。
「腐れボンテージ狂いの事なら言い方は気にしなくていいのです。今頃悶え喜んでいるはずなのです」
「え、こわい」
聞いてんの? それともマナとのホットライン的な何かで察知してんの? 何にせよ怖い。
「さて、レイシャさん。とりあえず俺たちの仕事は悪魔に引き渡すまででよろしいですよね?」
「はい、それで構いません」
「じゃあ、悪魔を探しますか。そうだ俺たちもここで休んで行くか? 結構、時間が経ったしそろそろ眠いだろ?」
もう昼過ぎだ。深夜から一気にダンジョンを抜けてきた。昨日の夕方頃に仮眠はとっていたが疲労は蓄積しているだろう。
「……そうね、そうしましょうか」
「賛成なのです」
「悪魔は強いかなっ?」
メスブタいいとこに気付くな。
「悪魔ってマナ総量はどれくらいでしたか?」
「悪魔は……恐ろしいほどのマナを持っていましたが……皆さんやアバドンちゃんを見た今では大したことないですね。私よりは多いですがニトさんよりは少ないです」
「そうですか」
レイシャと話しながらユリーネに目で合図する。写生だ。やるならここしかない。
ユリーネは目で返事をする。伝わった! 変態に俺の思いが伝わったぞ。この遺跡での宿泊がチャンスだ。ドキドキする。
遺跡の入り口まで進むと、立て看板があった。
「……読めないな」
見慣れない文字だった。
「はいなのです。アルマが読めるのです」
「私も読めるわね。神界言語よ」
ああ、秘密の花園で座学経験がある組だ。助かる。
「なんて書いてあるんだ?」
「魔界村へようこそ、と」「なのです」
「へー…………」
どことなく終わりのない不安を抱かせるネーミングだが大丈夫だろうか。しかし、村か。どう見ても街だが。まあ、それはいい。問題はそこじゃない。
「悪魔は一体だけじゃないのですか?」
「私が会ったのは一体ですが……そう言えば遺跡に住む悪魔の数には特に言及していませんでした」
マナフィールドを広げていく。横着せずに最初からこうすればまた良かった。一体、二体、三体…………あれれー?
「いるな。いるわ。叩き売りできるぐらい、うじゃうじゃと悪魔がいるわ」
「グリフォンより高く売れるのです?」
「高く売れるわよ。でも売るなら奴隷商人かしらね?」
「え、本気?」
本気を感じる。アルマの発想もブレアの返しも悪魔みたいだ。えげつない。悪魔を捕まえて奴隷売買する相談なんてこの2人が史上初ではなかろうか。
「あ、あああ、あの物騒ですね、みなさま……」
そこにいたのは少しオドオドした少年だった。女の子に間違えられてもおかしくは無いだろう顔立ちだが、俺の自慢の女の子センサーに反応しないから男だ。
そして、少年の一番の特徴はその顔だった。
「なんかユリーネそっくりなんだけど」
「ユリーネに似てる人に悪い人はいません」
断言するレイシャ。根拠皆無の理論を自信満々に言い切られてしまった。
というか、だから『自分のこと好きだと思う』とか言っちゃったのか? 爆乳様もユリーネが絡むとポンコツだからな。
まあいいや。悪魔君とお話ししよう。
「はじめまして。俺はニトです。好きなのは女の子。男の娘は守備範囲外です」
「え? あの、え?」
おどおどしすぎ。男の子には異例のサービスだが、ブランコでも作ってあげたいな。きっと喜ぶだろう。
レイシャが共感したって話だけどどんな話をしたんだか。
というか、元は天使な訳だよな。どの神の何にマジギレしたんだろうな……。
「その姿でダンジョンに出入りできるのです?」
アルマの言うことはもっともだ。見た目は普通の子供だ。まあ世の中には色んな種族がいるから気にする必要が無いといえば無い。例えばオール変態の草原族とかな。
基本的には探索者ギルドも無条件で登録しているが、むざむざと死人を出す必要もないから、怪しい場合はちょっと確認したりしてる。
話せば大体は年齢がわかるしな。その点こいつは話しても怪しいから、何かしらのチェックが入っただろう。例えばマナ視スキルホルダーがマナ総量のチェックをしたとか。そうなるとマナ総量も莫大だから問題なかっ…………たわけないじゃん。問題ありまくりじゃん。
「え、本当にどうやって出入りしてんの? ギルドカードは?」
「あ、あの持ってないです。けど、スキルで、えっと、その、催眠です。えへへ……」
はにかみながら上目遣いに答えてくれた。なんて夢のあるスキルを持ってるんだ。とんでもないショタだな。催眠ショタだ。道行くお姉さんを催眠で連れ去る悪魔ショタなのかもしれない。
「あの、えっと、ボボボボクは、フィルトアーダって言います。よろしくおねがいします!」
ショタボーイはやっと名乗り、恥ずかしそうに頭を下げた。
こちらの面々も挨拶する。そしてレイシャが話し始めた。
「お久しぶりです、フィルトアーダ様。その節はお世話になりました。おっしゃっていた通り、聖女が肌に合わずこうしてお伺いした次第です。よろしければ匿っていただけないでしょうか」
「ももももちろんです、おっぱ…………レイシャさん! 好きなだけいて下さい。折を見て安全そうな場所に案内しますよ」
「失礼、なぜレイシャさんにそこまで親切に?」
悪魔坊やがそこまで親切にする理由が思いつかない。
「わ、わ、わ我々は一部の神に反旗を翻しましたが、神界の全てが憎い訳ではありませんんんん。せせせ聖者や聖女が、その、なんというか、あまり本意でない、あっ、つまり不本意な人生を送るならば、そそそれをフォローするのもまた、POWER? あ! 力を許した神界の責任です。ボクたち、ここの悪魔はそのサポーターですよ」
「なんか分かりにくかったが、まあ分かった。ありがとう」
「いえ……えへ。あっ、こんなところですみません。公民館にご案内しますね!」
「公民館か…………」
そして、俺たちは坊やに連れられ遺跡の街へと足を踏み入れた。
遺跡は異国情緒漂う不思議なデザインの街だった。なんだろう、おどろおどろしいというか、神々しいというか。
「影からウボウボが出てきそうだなっ!」
「ああ、それだ」
そんな感じだ。だが…………大きくは変わらないな。生活様式だ。数万年は経っているが生活のレベルが現代とそれほど変わらないように見える。
悪魔達が手を入れている部分もあるかもしれないが、たしか遺跡研究者達の間では遺跡の時代の生活レベルはかなり高かったとみられていたはずだ。数万年前にしては、だが。
思うに、同じ程度だったのではなかろうか。神界の非常階段の施設からしておかしかった。メスブタやブレア、世代の違う2人との生活レベルも同じ。
数万年、あるいはそれ以上……創世から。世界は進化も退化もしていないのではなかろうか。
歩きながらそんなことを考える。ふと、目に入った建物の脇には何やら大きなガラス張りの箱が置かれていた。
なんだこれ? セバスチャン情報にはなかったな。悪魔の持ち物か?
「あれは何ですか?」
「あれ? ……あ、穴ガチャですよ」
「アナガチャ?」
ケツをガチャガチャにするのか?
「えっと、穴の女神お手製のガチャですよ。略して穴ガチャ」
「えっとガチャとは?」
ケツをガチャガチャにするイメージで固まりつつある。
「ガチャをご存じないですか!? おおお驚きました。に、人間界は健全なんですね。神界──特に地獄では射幸心を煽りまくってじゃぶじゃぶ課金するようなガチャが流行りまくってますよ」
「なんか凄く地獄な雰囲気を感じましたが、つまり?」
「あわわわ、すみません。えーと、ダンジョンコイン──Dコイン1枚を箱に入れて回転レバーを回すと、穴の女神ヘレン様が用意したグッズが出てくるんです」
「え! やりたい!」
そんな面白そうなものがあったとは。セバスチャンめ、その時の楽しみだと黙っていたのか?
「やりますか? Dコインは持ってるですか?」
「無いよ! どこにあるんだ?」
「そそそうですね、大体のダンジョンでは真ん中を過ぎたあたりの階層から落ちています。グルガンならこの階層より下からです。持ってないなら皆様の人数分を金貨と交換しましょうか?」
「レートはどうでもいい! くれっ!」
早くガチャしたい。これはダンジョンに潜るたびに大変なことになりそうだ。じゃぶじゃぶ金を落としてしまうぞ。穴の女神は何が狙いだ? 遊び心か?
悪魔のレートでDコイン1枚と白金貨1枚を交換した。高いとは思わん。アルマが多少騒いだが良いものが出たら白金貨1枚どころでは無いはずだと説得した。こうして人はギャンブルに溺れていくのだろう。
「よし、引くぞ!」
Dコインを入れ、回転レバーを回すと取り出し口から光が漏れた。転移でもしてんのか? とりあえず終わったようで、景品を取り出してみた。
なんだこれ。
「お、それは『ヘレンちゃんスコップ・シルバー』ですね。レア度は3ですが実用的ですよ」
「実用的?」
「穴を掘りやすいです」
「あ、そう……みんなもやりなよ」
なんか嬉しいが悔しくもある。たしかにスコップと一緒にあった紙には星が3つあった。どうしよ、もう一枚Dコイン交換してもらおうかな。
みんなの結果は以下の通りだった。カッコ内はレア度だ。1から10らしい。
ブレア:茶色のペンキ(2)
メスブタ:地獄のローラー(5)
アルマ:土(1)
レイシャ:熊手(2)
ユリーネ:ヘレンちゃんフィギュア・穴熊スタイル(8)
「あの、あのそろそろ行きますか?」
「ちょっと待って! フィルトアーダくん。今いいとこだから! みんなで見せっこしようぜ!」
悪魔くん待ちぼうけだが、ガチャの結果を共有するのに忙しいのだ。
「メスブタのローラーはでかいな。邪魔だな!」
「だが重くて筋トレになるぞっ!」
「ユリーネが凄いのです! レアっぽいのです」
「確かにすごいなユリーネ! レア度8ってめちゃくちゃすごいんじゃないか!?」
「ありがとうございます! 良かったらもう一回やりませんか?」
「そうだな! フィルトアーダくん、白金貨一枚でDコイン1枚お願いします!」
「え、ええ、構いませんよ、どうぞ」
「よっしゃ、頑張れユリーネ!」
ユリーネが回転レバーを回すと取り出し口から虹色の光が漏れた。これはっ! 期待できるぞ!
ユリーネが取り出し口から景品を取り出す。
これは…………きたーーー!
「へ、へ、へ、ヘレンちゃんフィギュア・刃物バージョンです! レア度9です!」
ユリーネは大興奮だが俺たちも大興奮だ。
「すっげーーー」
「再現度パないのです!」
「こわいっ!」
「怖いわね。ここまで表現するとはすごいわ」
「思わず悲鳴がでますね!」
悪魔そっちのけでガチャに夢中になってしまった。ガチャって悪魔より悪魔的だな。




