表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/158

たくさん死んだ、たくさん


「さっきのアバドンちゃん、すごいマナ総量でしたね」


 緊張のせいかレイシャは汗だくだ。近くで匂いを嗅ぎたい。俺たちは神とか見慣れているからアレぐらいならなんてことないが。マナが見える分、彼女の緊張はユリーネの比ではなかっただろう。


「ブレア、具体的にマナ総量はどれくらいだった?」


「200万よ。かなり弱ってるわね」


 ブレアの弱ってる発言にレイシャは目を見開いている。あの強さで弱ってるとかビビるわな。


「元が300万だから確かに相当減ってるな。200万てことは無限牢獄の武装天使ちゃんぐらいか。一人だと手間取るが、二人で挑めば楽に勝てるな」


 そう、アルマのピンクのパンツの奇跡の前に戦った武装天使ちゃんだ。200万は縁起がいい数字だな。


「ニトだったら確かに一人で勝てるのです。でも、アルマ達なら一人だと負けるのです」


「変質者スキルの効果はでかいな」


 普通、スキルは覚えているだけでマナを占有する。

 変質者スキルは何故かそのスキル維持にマナを消費しないのでマナ総量をフルに活用して身体力と精神力に割り振れる。何ならどっちかに極振りしても良い。

 例えば、平均的な戦士ならマナ総量の3割が身体力に振られている。残りはほとんどがスキル。そして余りが精神力だ。対して、俺は10割を身体力に使える。戦闘中に精神力に振り替えたりも出来る。単純に同じマナ総量でも数倍強い。

 さらに、変質者スキルによるマナフィールド拡大で相手の狙いや技の本質がわかったりするし、大体の事には対処できる。


 だがアバドンちゃんの場合、問題は勝てるかどうかの先にある。


「勝てるとしても、どうやって倒すのかしら?」


「ブレアの言う通りだ。肉体を滅ぼしただけじゃ、結局転生して現れるわけだし」


 アバドンちゃんの倒し方はちゃんと考えておかないと後々マズいことになりそうだ。他にもあのレベルのボスがいるかも知れないし、そうなると倒しても倒しても転生しましたって再登場することになる。死んだと思ったボスが何度も現れるとかクソ展開すぎる。



「転生させたく無いなら、魂を分散させるのです」


 アルマはドヤ顔で言い放った。こいつは顔芸の才に溢れているな。これも変形スキルの一種か?


「なるほど、そういうことか。魂を滅ぼすと。肉体の死だけでは倒せないわけだしな」


「パンチでいけるかっ?」


 あぶなっ。メスブタの素振りが俺の顔をかすめる。殺す気か。


「いけないだろうな。アルマは魂を分散させる方法を知っているのか?」


「知らないのです。そもそも元がマナ総量300万なので、アレはもはや亜神に足を一歩踏み入れているのです。滅ぼすのは困難なのです」


 ドヤ顔の割にそこまで役に立たなかったな。まあ聞けば大体返ってくることは評価しよう。さすがアルマ先生。高頻度のドヤ顔と唾吐きと『なのです』が控えめになれば講義に人気も出るだろうに。遠いな。


「亜神もだけど、神とそれ以外ってなにが違うんだ?」


「肉体を失った後の魂の分散率なのです」


「分散率か……よく分からんが、無理やり魂を分散させれば消滅する?」


「それはそうなのです。けど、マナの性質上、分散に関するスキルは得にくいものなのです」


「そうなんだ?」


「分散して収束するときに増える、というのがマナの原理原則なのです。そのエントロピーの増減の中で最終的に減少に向かうのがマナの特性なのです。通常の現象とは逆の性質を持つのです。エントロピーの増大つまり分散とは、収束に比べてマナには相性が悪い動きなのです。あくまでも比較的なのです。とは言え、そもそもブレアちゃんの収束魔法も常識を崩壊させるレベルの、神界でも類を見ない異常なスキルなのです」


 ペラペラと得意げにまくしたてられた。


「アルマ先生ありがとう。よくわかんなかった」


「あたしもっ!」


 メスブタがニコニコだ。かわいい。逆にアルマは半泣きだ。かわいい。


「ブ、ブレアちゃんは? ブレアちゃんには伝わったのです?」


「ええ、大丈夫よ。途中から聞き流したわ」


 さらりと返された小さな毒は青い髪の少女の心を確かに蝕み、絶句させた。


「…………っ!」


「なーんちゃって。嘘よ」


 珍しくブレア様のお戯れだ。真顔だが。ブレアったらお茶目。


「もうっ! なのです!」


 頬を膨らませるアルマもかわいい。しかし、俺が同じことをしたら唾を吐かれていただろうな。やれば良かった。


「あ、あの私も聞いていました。一応」


「あ、レイシャちゃんも聞いてくれていたのですね。ありがとなのです」


 ちなみにユリーネはアルマと目を合わせようとしない。こいつもアルマ先生の講義を聞いてなかったな。


 ほんわかした空気が心地よい。可愛い子5人集めて悪ふざけして、俺一生ここで暮らせるわ。て、ダメだ。一人爆発するやつがいた。進まないと。



「というわけで、『滅ぼす者』アバドンちゃんの滅ぼし方に戻ろう」


「ニトがよくそれを言えたものなのです……」


「ごほん。えーと、魂を分散させるのは難しいと。では逆に魂を何かに収束させるのはどうだろう? 例えば、なんらかの物質に無理やり魂を収束させたり。封印するイメージだ」


「アバドンちゃんを封印するだけならそれでもいいと思うわ。だけど、オリハルコンとかミスリルとか、あるいは得体の知れない金属──アバドニウムとか出来ちゃいそうだからダメね。大地母神に連行されるわ」


「アバドニウム! 最強の武器が作れそう。ちょっと欲しい。が、しかし大地母神か。奴さえいなければな……忌々しい」


 あっ邪神みたいなセリフを言ってしまった。


「蹴りならどうだっ?」


 あぶなっ。メスブタのおみ足が俺の顔をかすめる。殺す気か。


「蹴りで封印は不可能かな。魔法金属にしないように収束できないかな?」


「そうね……仮に、魔法金属にならずに上手く物質に魂を留める事が出来たとしても、いずれはマナ記憶から引き出された情報で肉体が形成されるんじゃないかしら。さっきの説明からの想像だけど、あまり意味がなさそうな気がするわ」


「あー、そうなるのかもな。種族が違ってもいつかはあのイナゴゴリラ……イナゴリラの風貌になるって話だったし」


「言い直す必要あったかしら?」


 分かってないなブレア。


「語呂が良いのは大事なことだよ。さて、どうしたもんかな。倒すたびに復活されたんじゃ本当に困る。転生出来ないマナ総量になるまで殺し続けるしかないか?」


「今のところはそれしかなさそうね。変質者スキルでマナを対象に出来れば早いのだけれど」


「あー確かにな。殺した後、マナフィールドで魂を捕獲してアバドンちゃんを変質させるのか……そうだな、アバドンちゃんの魂をアバズレちゃんとかに変質できれば転生後にワンチャンあるかもな」


 我ながらナイスアイデアすぎて驚いた。早々に変質者スキルのレベルを上げねば。


「そうすれば立派なペドフィリアね。死ぬの?」


「死ぬのです?」


「死ぬのかっ? 手刀で首落とすかっ?」


 メスブタが急に具体的で怖い。頷いたら即座にやりかねないところも怖い。やらないと信じてはいるが……やりかねない。


「何でもないです。何でもないですから。みなさん落ち着いて下さい」


 そして思わず丁寧語になるのだった。


 とりあえず進もう。これ以上は話しても良いことがなさそうだ。


「この話はとりあえず保留にしよう。とりあえず、次にアバドンちゃんにあったら素直に殺そう」


 全員が頷き、満場一致で物騒な結末に落ち着いた。こうなるとアバドンちゃんにはイナゴリラの見た目になっていて欲しい。女の子を手にかけるのは心苦しい。


 というか、女の子の見た目のままだとダンジョンの現地妻候補として検討していたくなる。あ、けどそれはそれで、いつかイナゴリラになった時にどう別れるかも難しいぞ。参ったな。

 アバドンちゃんは本当に深遠であり奈落だ。難しい。



 41階層からも魔物の強さはそう変わらなかった。だいたいB〜Cランクぐらいの魔物たちだ。

 ダンジョンも中ほどを過ぎれば、そこから先はボスの強さや罠の量で難易度が高まっていくわけだ。


 神界の非常階段のような、Aランクがうじゃうじゃいるような危険地帯が人間界にあっても困る。

 ちなみに体感ではウボウボ天使はSランクぐらいだ。無限牢獄が一番危険地帯だったな。いや、死なないから安全地帯か? あそこのことを考えると頭が痛くなる。


 魔物が強くならないとしても、潜るだけでも辛さは増していく。単純に、進むほどに出口が遠くなるからだ。常に半分以上の余裕を残して進まねばならない。


 そんな普通のダンジョン探索者の苦労などつゆ知らず、レイシャは初めての冒険が佳境に入り心を躍らせている。


「前人未到なんですよね! 大発見があるかもと思えばワクワクしますね」


 レイシャの笑顔が眩しい。今にも爆乳が爆発しそうだ。そしてそんな彼女を見つめるユリーネの目が優しい。


 『レイシャ以上のお宝なんてないよ。もっと笑顔が見たい』と言っているのがよくわかる。


 ああ、二人まとめて食事に連れて行きたい。少しのお酒も入れつつ『お互いに相手のどこが好きなの?』とヒアリングしたい。そして、それを穏やかに眺めていたい。

 そして後日、その時の事を話しながらそれぞれを可愛がりたい。

 ユリーネに対しては『レイシャはユリーネのその耳が可愛いって言ってたね』とか言いながら、耳を撫でてあげたい。

 レイシャに対しては『ユリーネはレイシャの良いところは爆乳じゃなくて銀髪をかきあげた時に見えるうなじなんだって言ってたね』とか言いながら、うなじを撫でてあげたい。


「死ねば?」


 ブレアのいつものツッコミはいつもより辛辣だった。


「すみません。ちょっと長かったですね。申し訳ないです」


 なんだか今日はたくさん死ぬな。もう残機ないんじゃないかな。危ない、気をつけないと。残機……思わず考えたけど残機ってなんだ。まあいいや。



 相変わらずのアストラルリンクでユリーネがメスブタに依存しバシバシと魔物を退治していく。ちょー楽チン。頑張れユリーネ。


 50階層で離脱が確定しているのだから、ここで働くのだ! 馬車馬のように働け! ムチが、ムチが欲しい。叩きたい!



 そんな願望は叶わず、俺は罠の発見と解除に勤しんだ。魔物は他力本願で進むこと数時間。


 ついに50階層に到達した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ