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変態様と爆乳様の夜


「へ、変態!」


 闇夜に紛れ、銀髪爆乳聖女のお部屋に侵入したところ、大きな声を出されてしまった。事前に来るって言っていたのにな。気配がなさすぎて驚かせてしまったか。しかし変態とは?


「お静かに。変態ではありません。俺です、ニトです」


 爆乳様は俺を確認すると少し怯えた表情を見せた。解せぬ。


 俺は真っ黒な服を着ていた。これがカッコ良いと思ったのだ。古今東西、どこかに潜入する時の衣装は黒一色だ。

 ちょっと独特なのは俺の変質者スキルで作った素材のせいだろう。ピタッと体に張り付く全身タイツを着用している。

 無駄が一切ない洗練されたフォルム。闇に紛れるにはこれが良いだろうと判断したのだ。



「いや、やはり変態様…………ニト様でしたか。納得です」


「変態様?」


「あ、いえ。なんでもありません」


 変態様とは俺のことだろうか。敬われているのか。いや、そんなことを考えている場合ではない。


「さ、爆乳様も早く着替えてください」


 懐から爆乳様用の黒タイツを取り出す。サイズはおそらくピッタリだろう。視姦する者──視線の奏者の称号は伊達ではない。

 万が一、サイズが合わなかったとしても変質者スキルでこの場で調整すれば良い。


「えっと…………え?」


「戸惑っている場合ではありません。見つからないためにはこれが最善なのです」


「あの、確かに闇夜に紛れるに最適な衣服だというのは理解できます。しかし、近くで騒ぎを起こしたり、死を偽装したり、逃走経路を誤認させるような術はないのでしょうか」


「あります、仰ったことは全て可能です。しかし、朝までにダンジョンに行けばいいのでしょう? 余計な騒ぎを起こすよりはさっと逃げた方が良いです」


「なるほど……わかりました」


 わかってくれてよかった。童貞には刺激が強すぎるショッキングなスタイルの聖女を全身タイツで際立たせるために準備したのだ。

 いやはや、元童貞で本当に良かった。かつての俺なら今頃は顔を赤らめて慌てて部屋から出て警備に見つかり騒ぎになっていただろう。


「ささっ早く」


 時間がないから。早く。


「あの……向こうを向いてくれませんか?」


「あ! これは失礼しました。サイズが合うかばかり気にしていまして……」


 そんなことを言いながら反対を向く。切ない。気にせずさらっと着替えてくれても良いじゃないか。なぜ気づくのだ。


 しゅるりと衣服が擦れる音が聞こえる。ぱさり……地面にスカートが落ちたか?

 あ……これはこれでいいかも。音だけというのも何かそそられるな。



「お待たせしました……なぜそんな満足げな顔を?」


 素晴らしいの一言だった。この女はエロの道を行く男にとって避けては通れぬ大きな壁だ。どんな性癖の男もこの魅力の前には土下座で施しを乞うしかない。エッロエロのミラクルワンダーボディですわ。何が聖女だ。ケツ引っ叩くぞ。

 この変態撃沈スタイルの黒タイツ姿の性女を担いで聖都のメインストリートを練り歩きたい。『えっろい! えっろい!』の掛け声とともに。


「あなたに出会えて本当に良かったと。そう思っておりました」


「えっ、そんな……突然……わわ私にはユリーネが……」


 やはり性騎士とは性なる関係を築いているのか。なんて国だ。


「ははっ。そのままの意味ですよ。深い意味はありません」


「あっ、そうでしたか。大変失礼しました」


 頭を下げると同時に、爆乳様ご自慢の巨大なダブルのボールが地面に向かってぶるんと振られた。黒タイツは柔軟性に優れている。これは何という破壊力。オリハルコンも砕くかもしれん。


 二度と忘れない。今の景色を、この瞬間を俺は生きている。たしかに生きているんだ。



「……さて、次は書き置きを」


「書き置き?」


「はい。毎朝、メイドが聖女様の部屋を訪れ朝食の用意をされるとのことでしたね。当然、爆乳様が部屋にいないとバレるのはこの時です。しかし、書き置きでもあれば少しでも時間が稼げるかもしれません」


 そんなこと少しも思っていないがまあやるだけやっておこう。


「そうですか。なんて書きましょう? 『書庫にいます』とかですか?」


「いやいや、そんなことで普通は書き置きしないでしょう? もっと、のっぴきならない事情というものを読む者に感じさせないといけません」


「というと?」


「そうですね、例えば『ひどい痔です。探さないでください』とか『頻尿です。聖水が止まりません』とか『お腹のお祭りの時期ですね。神輿トイレは私に任せてください』とかですかね」


「トイレの話題ばかりではないですか」


 本当だ。意図せずそうなってしまった。どうしよう、言い訳する力が試されている。


「人が最も探しづらい場所がトイレなのです。いるとわかっていても踏み込めないでしょう?」


「そ、それは否定できません」


 ちょろいぞこの爆乳。


「さあ、早く。何となくメイドが捜索に乗り出しにくいトイレにまつわる書き置きを残すのです」


「…………わかりました」


 ふむふむ。少しの躊躇いと戸惑いはあるようだ。しかし俺に協力してもらっている以上、普段より少し頭のネジを緩めて対応しているのかもしれない。ありがたい。存分に遊ばせてもらおう。



「……できたようですね」


「こちらでいかがしょうか?」


『ユリーネが腐っている感じの何かを拾い食いして、ひどい下痢と痔なので治療します。彼女の名誉のために探さないであげてください』


「やりますね。才能がおありだ」


 特に人のせいにしているところがいい。腐っているとかも高ポイントだ。後でユリーネにも教えてあげよう。喜ぶだろうか。


「すみません、やはり疑問なのですが、これは意味があるのでしょうか?」


「いや……無いでしょうね。まあでも、あるかもしれません。やれることはやりましょうよ」


 俺のお返事に絶句の爆乳様。



「えっと……ああ、そう言えば、本当にここまで来れたのですね。疑っていたわけではありませんが、どうやってここまで着たのですか? 出るのも同じ方法でしょうか?」


「簡単な話なんですが……じゃあそろそろ行きますか」


 ちょっと遊びすぎたかもしれない。まあ遊び心は大事だ。今回は一番遊べるプランJを選択したが、もっと確実なプランA〜Iもあるし、見つかった時のためのプランK〜Pもある。



 さて、逃げ方だ。


 俺は教会内外の構造は把握していない。聖女でも全て把握しているか怪しい。秘密の部屋とか多そうだからな。


 何を言っているかというと、穴あけや壁移動は危険だということだ。意図せずゴールデンオークの群れに遭遇する可能性があるのだ。


 そうなったら退治しなくてはならなくなるし、犯人や逃走経路などの偽装も面倒臭くなる。


 では見つからないようにコソコソするのかといえばNOだ。それではかっこよくない。仮面をつけるのも検討したが、せっかく美女が一緒なのに仮面をつけてもらうのも忍びない。美への冒涜だ。


 というわけで。


「さあ俺に抱きついてください。ぎゅっと」


「あの、私が言うのも何ですがお姫様抱っこではダメですか?」


「ダメです」


 それではおっぱいが俺の体に触れない。


 あと、おまけの理由だがお姫様抱っこは両手が塞がる。抱きついてもらえれば、片手は腰にまわして支えるが、もう一方の手は空くので色々できることが増える。


「そうですか……いえ、悪いわけでは無いのですが、その……写生の話を聞いてから、なんというか、意識してしまって」


 ユリーネはちゃんと説明したのか。さすがだな。どうやって納得させたんだろう。百合で腐っているのか。え、実はモデルがもう一人いて絡めとかそういう指示が出たりしないよな。


 後で確認しよう。まずは逃走して合流だ。


 そうだな。全身タイツで体のラインもはっきりくっきり出ているし、裸で抱きつくのとそう変わらないほどだ。しかし、逃げるためには必要なこと。可哀想に。優しくしてあげるのが紳士のあるべき姿だ。


「ご安心ください。女性を傷つけるのは俺の主義に反します。俺は何もしませんよ。するのは貴女ですから」


 にこりと笑いかけると、爆乳様は引きつった笑顔でこたえてくれた。


 あれ、間違えたか?


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