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ひとりで部屋にいるとついつい抱き枕を揉んでしまう


 宿に戻り、ベッドでゴロゴロしながら考え事をしていた。

 どうやって聖女を誘拐するかだ。


 まず、マナというものの性質を考えた時、変質者スキルにはいったい何ができるのか。


 答えは『なんでもできる』だ。ただし、極めればという条件がつくが。

 変質神に言わせれば、これは究極的な魔法に至るスキル──最も原始的なコミュニケーション手段(?)なのだと。なんだか、すごく……エッチです。


 変質神が書いたスキルの説明にはこうある。


【変質者】

 概要:質を変える者。

 対象:自身、物体、他者、世界。自分を除けばマナの収束量が低いほど容易に、高いほど困難になる。

 効果:質の変化が可能。性質、質感、質量、品質、体質、気質、素質、資質、本質など。

 備考:自分の性質は変えられない。ご愁傷様。こんなスキルを獲得しちゃうそのままの自分でがんばって。



 何回見ても腹が立つな、この備考欄。いつかあの邪神の口にレーヴァテインを突っ込んで黙らせてやる…………いや、悦びそうだな。そしてお礼だと言わんばかりに俺のケツにドジョウがINしそうだ。違う手を考えよう。


 さて、『効果』にある質を変えるとは、その存在そのものの在りようを変えてしまうという事だ。俺が手すりを剣に変えるなんてのは序の口だ。物質を加速あるいは減速して温度を変えることもできる。

 もっと力をつければ変質神のように木の棒をドジョウに変えるなんてこともできる。

 もっとも、あれは変質神のマナフィールドから出れば動かなくなる魂が空っぽのドジョウではあったが。



 そして、『対象』だ。変質者スキルの効果は、その対象のマナ総量によって変わる。


 Sランクオーバーの爆乳様を貧乳にするのは難しいが、マナフィールドを持たない抱き枕を爆乳様の形にするのは容易い。


 抱き枕を肉感的に変質していく。スキルの力を借りながらこねくり回すこと数十分、形を整え、肌の柔らかさ、重さを調節して行く。


 出来たっ! 爆乳様に激似のラブドール…………じゃない、お人形だ!


 まあこんなこともできるというわけで。なお、大事なところはちゃんと見たことがないのでツルンとしている。無念。



 変質の容易さは次の順になる。


 ①マナフィールドの影響下に無い物質

 ②自分の肉体

 ※長期間にわたり自分のマナフィールドの影響下にある物質

 ③自分のマナ(マナフィールド)

 ④分散しているマナ

 ⑤他者のマナフィールドの影響下にある物質

 ⑥他者のマナ

 ⑦多数のマナフィールドの収束空間


 マナフィールドの影響下にあるのは基本的に肉体で、そこから数センチの範囲だ。例外的に何らかのスキル──例えば変質者のようなスキルでマナフィールドが広範囲に及ぶ場合は、武具や建物まで影響下におくこともある。


 お人形は①だ。言ってしまえば材料の加工が容易なだけで工程は普通の物作りと大差ない。


 しかし、②以降は自分のマナ総量、⑤からは対象のマナ総量に効果を左右される。


 今の俺はギリギリ⑤ができるかどうかというレベルだ。相手が一般人程度ならばなんとかなる。


 変質神は、⑧以上もあると言っていた。ただ、出会うことはないはずとも言っていた。あれか、アルマ先生が言ってたLDM粒子とやらか?

 アルマ先生の講義は『なのです』が多すぎてちょっと理解できなかった。体感で講義の8割は『なのです』だった。



 爆乳様人形を抱きしめながら寝転がり、布団を変質させていく。次のお人形の原型ができてきた。ベッドに腰掛け本腰を入れて作業を始める。

 爆乳様人形は横に座らせた。俺の肩に頭を乗せしなだれかかっている状態だ。

 数十分たち新たな人形が完成した。性騎士人形だ。爆乳様を見つめるようにベッドの横に立たせた。その出来栄えに満足して再びごろごろする。

 爆乳様人形? ああ、俺の横で寝てるぜ?



 そもそもマナフィールドとは自らの意思が及ぶ範囲である。変質者スキルを使うときは俺自身のマナフィールドを介して対象の質を読み取り、俺の意思を反映することで変質させている。


 これはマナおよび物質の現状を変えるのであって、過去の情報にまで干渉するわけではない。かつて覚えそうになったマナ記憶改竄は中々強力なスキルだったのだろう。効果範囲も適用条件もハードルが高そうだが。


 変質者スキルも俺という本体から離れるほどに影響下にあるマナは薄まるので、効果が小さくなる。

 数キロに及ぶまでマナフィールドを広げてもできる事はたかが知れている。何が起きているのかを朧げに把握できるぐらいだ。こちらから何かを変質させるなどできない。



 実は、魔法とはこれを簡略化かつ効率化したものだ。


 魔法とは一種のマナフィールドの変質である。魔法語というマナに刻まれた世界の共通言語を用いて、マナに意思を伝えることでマナを介して意思を伝播し、事象を再現する。


 マナは意思を媒介するのだ。その媒介する範囲を擬似的かつ限定的に延長し意思を反映するのが魔法である。


 魔法が遠距離で爆発を引き起こせても、俺には同じことができない。爆発の仕組みがわからないからだ。

 マナに『俺のために爆発してよ』ってお願いしても、マナは『爆発はいいんだけどさぁ……具体的にどうしたらいいのぉ〜?』となる。逆に魔法の場合は詠唱にしっかりと爆発の手順が示されており、かつマナも何度もやったことがあるので『あいよぉ! いつものやつねぇ!』ってなる。

 魔法を作った人物は爆発の仕組みを理解し、魔法語で詠唱を作ったわけだ。そのため、魔法使いは爆発の手順を知らなくてもいい。しかし、マナは意思を媒介する性質があるため爆発の手順を知っている方が効果が高まる。


 魔法とは人間が積み上げてきた理論の集大成なのだ。事象が発生する手順を整理し、マナに対してどのように意思を反映すれば効果的なのかを突き詰めた成果なのだ。


 これを一人で体系化して収束魔法を作り上げたブレアの頭脳ヤバイ。



 まとめると、マナフィールドの変質とは無詠唱の自由な魔法である。魔法が魔法語の詠唱でマナに意思を反映しているのに対して俺は俺語でダイレクトに意思を反映している。


 変質者スキルはやはりチートだ。


 これは俺の意思を都合よく世界に反映するオリジナルの魔法なのだ。必要なマナも鍛え方も尋常じゃないレベルを要求するが、極めればまさに『なんでもできる』。

 あの地獄の日々がなければ使いこなすことは出来なかっただろう。


 考えてみれば暗殺や誘拐など、とても悪いことをしやすいスキルなのである。さすが変質者。



 ベッドに横になり、先ほど作った爆乳様人形の胸を優しく大事に撫でながらどのような誘拐がカッコいいかを考える。


 カッコつけるのは大事だ。聖女誘拐なんて人生に何度もないだろう、せっかく爆乳美女をさらうのだからカッコよくやりたい。


 爆乳様人形を俺の上に跨がらせる。


 うん。おっぱいの出来が非常に良いな。これは本物かと思う。俺の変質者スキルはここまで来ていたのか。恐ろしい。スキルを極めれば本当の意味──性的な意味──でなんでも出来そうだ。


 ちらりと横を見ると、ベッド脇に立たせた性騎士人形がこちらを凝視していた。びびった。ごめん、ごめんって。


 なんとなく2人をベッドに並べて、抱き合わせて立ち上がる。



「よし、決めた」



 俺は誘拐方法を固め、部屋の荷物をまとめた。


 騒ぎにならないように爆乳様人形を元の抱き枕に戻す。念のため、戻す前に乳を一揉みした。

 また、性騎士の人形も、念のために乳を一揉みして元の布団に戻した。


 念のためだ。



 昼頃になるとブレアたちも戻って来た。事件はなかったようで何よりだ。


 遅くとも昼過ぎにはチェックアウトすることにしていた。流石に夕方以降のチェックアウトは怪しすぎるからだ。暗くなって街を出るなど後ろ暗い事がある者だけだ。この時間でも微妙だが夕方よりはマシだろう。


「女将さん、チェックアウトで」


「かしこまりました。…………お客様、結局一度もなさりませんでしたね」


 にこり。見ため10歳の女将はゲスい顔で笑った。


 やっぱりこの女将さん、美女を3人も連れている俺がエロいことするのか気にしていたんだな。夜な夜な耳をそばだてていたのか。何という変態。そして中々エロいことをしない俺を嗤っていたのか。卑猥な草原の民め。


「そういうプレイなんですよ。離れているからこそ求めるのでは?」


 強がってそう言ったのだが、女将さんはどこか納得した顔で頷いていた。


「まだまだお人形さんで練習の段階なんですかね……」


 戦慄した。


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