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笑って許して


「お、お、お、お〜〜〜なのですぅ! 人人人見渡す限りの人なのです! 建物がたくさん、あ、お城! 城なのです! やっばぁー。城やー…………なのです」


「俺も城を見るのは初めてだなぁ。でっかいなー」


「地元より小さいけど統一感あるなっ!」


「たしかに統一感があるわね。白を基調とした街並みはなんとなく神聖さを感じるわね。たまに青が入ってるのも素敵ね」


 それぞれの感想を抱きながら街のメインストリートを進む。街並みは統一感があるが、道行く人や露店、その品々は多種多様だ。周辺国の商品がここに集まってくるのだろう。


 そうなると集まる人も多様になる。ヒューマンの女の子だけじゃない。エルフの女の子、ドワーフの女の子、獣人の女の子など、人間に分類されるほとんどの種族の女の子を見つけられる。女の子の聖地だ。


 パンを加えて走るドジっ子と角でぶつかったり、人混みで痴漢されて震えるおとなしい女の子との出会いもあるのだろう。助けないと。


「あったのです! 聖鳥のとまり木亭なのです!」


 この聖都にあって屋号に聖鳥を用いるとは、なかなか大それた店だが、由緒正しい歴史がある老舗だそうだ。中の上ぐらいのオススメの宿を門番に聞いたらここだと即答された。

 他の建物と同じく白を基調とした大きな建物で、ところどころに使われた重厚感のある樫の木の枠組みが上品さを演出している。


「入るぞっ!」


 メスブタが樫の木の扉を開けると10人程度が待てる広さのホールと受付があった。なかなか立派だ。横を見ると食堂に繋がっていた。こちらも広く、30人は入れそうな食堂だ。


「はーい、いらっしゃいませ〜」


 出迎えてくれたのは小さな女の子だった。


「お店の手伝いかい?」


「いいえ、よく言われるのですが……女将です」


 にこりと笑って返された。見た目は子供だが、この落ち着きは大人の女のそれだ。


「ああ、草原の民ですか。失礼しました」


 草原の民はいわゆる小人に近い。人間でいうところの10歳ぐらいで成長をとめ、その姿のまま120歳ぐらいまで生きる。100歳ぐらいから老化が始まるそうだ。

 草原で暮らすために外敵に見つからないよう草原の草を超える身長を持たず、代わりに聴覚や嗅覚、木登りと視覚などの索敵能力が高い。手先も器用なので、探索者では斥候職をやるものが多い。


 余計な情報が多かったが、つまるところ彼女は合法なのだ。何がとは言わないが合法だ。

 なるほど……『せいちょうのとまり』木亭か。狙ったのか?


「部屋はいくつ用意いたしますか?」


「1人部屋が一つ、3人部屋を一つで」


「…………かしこまりました。夕食を取られる際は食堂にこちらの食事券をお持ちください。お時間は何時でも構いません」


 営業スマイルを絶やさなかったが何となく『美女3人連れておいてお前1人かい笑』という空気を感じた気がする。気のせいでありますように。草原の民は卑猥な話が大好きと聞くが……。


「あ、じゃあ俺は道中で狩った魔獣の素材を売ってくる。3人は観光するなりのんびりするなり好きにしててくれ。晩飯の時にでも今後の予定を相談しよう」


「何時がいいかしら?」


「今が3時だから……7時ぐらいかな?」


「わかったわ。ありがとう」


 素直に『どういたしまして』と思えるナチュラルさ。つくづく思う。尽くしたくなる美女だな。


「頼むっ!」


 こいつはいつも簡潔でわかりやすいな。貸し借りの概念が希薄なんだろうがさっぱりしてて気持ちがいい。


「よろしくなのです」


 ぺこりとお辞儀をするアルマ。こういう時は礼儀正しいんだがな。こちらが何かしようとすると途端に牙をむくのだ。……普通か。


「おー」


 適当に返事しながらでかい袋を担ぎ、俺は宿を出た。こんな大量の魔獣の死体を持って部屋に入るわけにはいかん。


 血抜きはしてあるし、アルマの神聖魔法で保存がかけられているので腐ることはない。臭いも抑えられている。アルマ大活躍だ。

 ただし、袋は相当でかいし、近づけば臭い。死体は全部を持っているわけじゃなく、ある程度、金になりそうな部分を選定して雑に解体してある。大事な部分を素人の手でダメにするわけにもいかないし、死体をまるごと持ち歩くわけにもいないからだ。


 この魔獣の金額を頼りに今回の宿を選んだので高い方が助かるのだが、さて如何なものか。


 素材屋はメインストリートを門の方に4区画ほど戻ったところにあった。宿に行く途中で目に入ったので覚えておいた。


「買取お願いしまーす」


 素材屋は魔獣や植物などの素材を買取、加工したのち販売まで行っている。加工した素材は衣類、家具、薬品や武器防具など様々な物品に活用される。


 店内には販売物を見ている客が数人いたが、買取待ちの客はいないようだった。


 店の奥から白髪混じりのおっさんがのそのそと出てくる。


「はいはい。いらっしゃい。新顔だね、よろしく。モノはどれかな?」


「これです」


 カウンターの陰に隠れていたでかい袋を持ち上げる。


「ああ……ちょっとこっちのスペースに置いてくれるかな? ああ、ありがとう。えぇーっと。グレーウルフが三匹、ブラックハウンドが五匹、トロールが一匹、グリフォンが一匹…………まじかよ」



 グリフォンって聞こえた気がしたが…………まじかよ。


 グリフォンがあるはずはないのだ。俺たちは狩をする時に二つのことを決めた。


・狩る前に必ず、対象が生きている状態でブレアがマナ総量をチェックする。

・マナ総量が8万以下つまりCランク以下なら狩る、それ以上なら無視する。


 俺たちがめっちゃ強いってバレちゃうと余計な騒ぎに巻き込まれ、アルマ爆発期限付きの旅路の妨げになるからだ。


 グリフォンは絶対に10万以上だ。『まじかよ』の対象となる。


「ちょっと失礼」


 カウンターからおっさんの肩越しにグリフォンの死体を確認する。ふむ。グリフォンの腹は消滅したように消え去っている。


 メスブタだな。あいつの『頼むっ』てこういうことか。うまく売ってくれってことなのか。いやいや、勝手に袋に入れるなよ。出す前にちゃんと見ておくんだった。臭いし触りたくないしとか、気取った女子みたいなこと言わないでちゃんと見ておけばよかった……。


「あんたが仕留めたのか?」


 あ、そっか。俺が仕留めたわけじゃない。ならば簡単だ。


「いや、違う。死んでたんだ。そこのトロールと一緒にな。そいつ以外にもトロールらしき死体があったが潰れてたりして素材になるか微妙だったから置いてきた。持ちきれなかったしな」


「ははぁ、なるほどなぁ。トロールの群れと潰しあったか。運が良かったな。グリフォンなんざ早々出回る素材じゃない。保存状態も最高だな」


 保存魔法がちゃんとかかっているのか。アルマもグルか。


「ああ、仲間の神聖魔法でな」


「そりゃ相当な使い手だな。ちなみに発見場所は?」


 しまったな。保存状態で魔法の力量もわかるのか。保存魔法を日常的に見てるおっさんならではの観点か。全部同じようなもんだとばかり思ってた。気をつけないと。


 発見場所は本当なら売れる情報だろうが……嘘だし、いいか。ここはアルマの神聖魔法の力量をボヤかす狙いも込めて俺が間抜けを演じよう。


「ここから街道を西へ一週間ほど行ったあたりの北の山だ。街道から外れた後は徒歩一日程度だな」


 店の客の何人かがバタバタと出て行く。なるほど、おこぼれ狙いか。すまん、そこには何も無いんだ。


「そんな街道の近くでグリフォンが出たってんなら大事件だが……まあ、死んでたわけだな。一応、この事はこっちから衛兵に連絡するがあんたの名前と連絡先を教えてもらえるかい?」


 ぐぅ、しまった。まあ、いいか。


「ニトだ。『聖鳥のとまり木亭』にいる」


「どこかのギルドカードとかないのか?」


「ああ、ただの旅人だよ」


「……そうか、わかった。で、肝心の買取額は……こんなとこだな。どうだ?」


 どうだと言われても適正価格がわからん。


「どうだろうな……うーん。グリフォン、か……」


「ふむふむ。気にするのも尤もだな。こんなもんか?」


 お、なんか上がったぞ。


「なるほど。これは助かる。ここではこの値段を出せるんだな。これなら評判になるだろう」


 こんな良い立地で真っ当に仕事してる店だからな。値段の噂が広まって困る価格なのか否か、だが。どうなる?


「はっはっは。そんな事言われちゃ頑張っちまうしかねーな。よし、これだ。これで限界だ」


 微妙に上がった。ま、いっか。この店すごく臭いし早く出たい。


「おお、ありがとう。これでしばらく暮らしていけるぜ」


「バカ言え。しばらく暮らしていけるなんてレベルの額かよ」


 おっさんは無造作に麻袋を取り出し、カウンターに置く。中には金貨が入っていた。

 こんな額を店に置いてるとかすげえな。頭おかしいんじゃねーの? とマナフィールドを伸ばして気配を探ると店の奥にはそこそこ強そうな気配があった。

 用心棒か。メインストリートの正門近くに店を構えているだけあってこういう買取だろうが強盗だろうが何でも対応できる良店ってわけだ。

 宿に行く途中に目に入ったからここにしたわけだが。ここ以外ならグリフォンの買取はできなかったかもな。

 とりあえず麻袋の金貨を数える。


「たしかに。また来るよ!」


「おう、今度はオルトロスでも持ってこい」


 笑いながら店を出た──瞬間に左右から斬りかかられたので、躱して相手を殴り倒す。覆面を被っていたので脱がして顔を確認する。さっき出て行った客のうちの2人だな。こいつらはグリフォンのおこぼれ狙いじゃなくて、俺の稼ぎ狙いの強盗か。メインストリートでよくやるわ。周りからは悲鳴が聞こえてくる。


 くそ、メスブタとアルマが余計なものを入れたせいで余計なことが次々と…………。


 とりあえず衛兵が来たら面倒だし、何事も無かったかのように普通に帰ろう。呼び止められたり宿に来たら対応する。面倒な事は先延ばしだ! 俺は宿題は怒られてからやるタイプなのだ。


 だが……これであのそこそこいい宿に4ヶ月は泊まれる。宿代が飯付きで1人金貨2枚、今回の稼ぎが金貨1033枚──白金貨10枚と大金貨3枚、金貨3枚だ。都市部の平均月収が金貨10枚、農村部なら金貨1枚だから結構な稼ぎだな。


 メスブタとアルマの悪ふざけで大金を得てしまった。


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