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桃色堕天使


「アルマは結界。その後は前衛のサポート。ブレアは触手のスキルがわかれば共有してくれ。ただ無理はしないように。基本は待機。事態が動けば臨機応変に。メスブタは結界外で行動。階段から落ちない程度の範囲で触手を消滅させてくれ。俺はそのサポート。まずは触手の性能を見極める」


「了解よ」


「わかったっ!」


「はいなのです」


 なぜかリーダーっぽくなっているな。今の流れで『メスブタは速やかにパンツを見せろ』って言えば万事解決だったかもしれない……いや、さすがに2人が止めるか。メスブタと2人の時に試してみよう。


 さて、触手を殴るだけで解決するとは思えない。最終的には本体を叩く必要があるのだろうが、その前に触手がどの程度の力を持つのか見極めたい。


 単純にパワーのゴリ押しなら楽なんだが。妙なスキルがあったら厄介だな。例えば服だけ溶かす液とか。

 うん、厄介だ。そんなスキルがあれば倒すのは難しいかもしれない。ちょっと攻撃できないな。そんな貴重な生き物を殺すのは躊躇われる。

 その液を4人で浴びながら本体に特攻をかけて気絶させるのが関の山だろう。みんな裸になるがしょうがない。



「セイクリッドフィールド、なのです」


 結界が展開される。あわせてブレアは結界ギリギリで触手を観察。謎液でぬらりと光る薔薇色の触手を観察。ブレアがまじまじと触手を観察。何度でも言いたくなる。ブレアが肉感的な触手を夢中で見ているんです。こんなこと数分前まで想像もしていませんでした。ブレアが、まるであれのように見える蠢く触手を、真剣に、真剣に、観察してまーす!


「ニト」


「あ、すみません……」


 反省すると同時に触手の第一陣が俺たちがいる階段まで到達した。


「いくぞっ!」


 メスブタが結界を飛び出た。心配だな。階段から落ちても帰ってきそうだが、階段を壊さないか心配だ。一応、注意しておくか。


「メスブタ、階段壊すなよ!」


「えっ!? わかったっ!」


 『えっ!?』ってなんだよ。壊すつもりだったのかよ。危なかった。言ってよかった。


 メスブタが一撃を与える。触手は当然の如く消滅した。


「効いてるっ!」


 効いてるのか? 他の触手は動きが鈍った様子はない。俺も作っておいた手すりソードで斬ってみる。


 斬れるが特に他の触手に影響は無いな。元気いっぱいウネウネしてる。



「本体が視えたわ。2階下の階段にいるわね。マナ総量108万。身体力が20万。スキルは並列思考、マナドレイン、再生の3つね。マナドレインは危なそうね。捕まったら弱体化するかもしれないわ」


「マジか…………」


 服を溶かす液は吐かないのかよ……。使えない触手だな。しかもマナドレインって何だよ。そのままの意味なのか。マナを吸われちゃうのか。やばすぎる。

 そんなのがあるんじゃ触手に絡まれて『あー、やめて、そこはだめー!』な展開も期待できない。危なすぎるから。

 さっさと終わらせよう。何が触手はロマンだよ。いつだって現実は無情だ。


「マナドレインで結界が剥がされる可能性もあるのです。留まると詰む可能性が高いから、叩くなら早めが良いのです」


 結界は場所に展開されているため、移動に合わせることはできない。


「よし、結界は解除して突っ込もう。メスブタは道を拓いてくれ。俺はブレアとアルマを守る。アルマは適宜回復を。ブレアは自分の身を優先してくれ」


 メスブタと俺が先行して一気に叩く案も一瞬だけ考えたが分断はまずい。固まって進むべきだ。


「いくぞっ!」


 メスブタが階段の先の触手を消滅させていく。俺も迫る触手を斬って進む。

 よくよく見るとたしかに触手は少しずつ再生していた。だが脅威になるスピードでは無い。

 ひたすらに迫る触手を斬り刻む。虫の群れと比べれば楽勝だ。あっちは斬るたびに倍になる終わりのない闘いだった。こっちはずっと同じ数の触手だ。


 メスブタも嬉々として殴っている。虫が殴りにくかったのだろう。なぜ触手で目を輝かせたのかは分からないが。


 殴り、斬り。進んで行くと本体らしきものが見えて来た。本体と言ってもただの肉の塊のようにしか見えないが。

 触手の量が一層増えた。心なしか再生速度も上がっている気がする。


 だが問題ない。この調子なら、もうすぐ──


「あ、あああっ!!」


「メスブタっ!」


 メスブタの足に触手が絡みつく。メスブタはその触手を剥がそうとするが謎液で濡れた触手は手を滑らせるばかりで一向に剥がれる様子がない。

 なぜ消滅させない! もしかして自分の足に絡みついているからか? 消滅させるには自分の身体に近すぎるのか?


「くそっ!」


 慌てて駆けつけようとするが目前には大量の触手が立ちはだかる。触手の奥ではメスブタの体をまさぐるように触手が絡み付いて行く。マナドレインか、まずい。


 服は乱れ、美しい桃色の髪も謎液でぐちゃぐちゃになり、体にピタリとフィットしていたズボンもずり落ちていた…………パンツ!


「ピンクっ!」


 こいつもピンクかっ!? 俺はピンクのパンツの美少女を集める宿命を背負った戦士だったのか!?

 シルクっぽい高級素材のパンツだ。さすが皇女。素材を生かした素晴らしい逸品だ。特別な派手さはないが、最高の手触りが約束されたかのような質感が見る者を突き動かす。『触りたい』そう思わせるパンツだ。


 メスブタと出会った時、桃色貧乳撲殺系脳筋スタイルだと思ったが、あの桃色は髪色だけでなくパンツのことでもあったのか。


 と思いながらも手は休めない。とにかく斬り刻み、突き進む。自分にぶつかる触手は片っ端から変質させ動かぬように硬化させていく。あれ、俺こんな事も出来たんだな。


「メスブタっ!」


 彼女に絡みつく触手を力尽くで引きちぎる。ぬらりとした液が手に絡みつくがそれも滑らないよう変質させ千切る。


 メスブタの服は乱れに乱れていた。しかも全身ずぶ濡れだ。彼女は荒い息を吐きながら、地面に手をついて項垂れていた。


 目のやり場に困るような困らないような。困らないか。ガン見しよう。


「大丈夫か?」


「えっ? 何も問題ないぞっ!」


 ん? 何も問題ないのか? 問題あるようにしか見えないけど。


「本体は仕留めて来たわ。大丈夫かしら?」


 ちょうどブレアが来た。触手の動きが鈍っていくと思ったらブレアとアルマが本体を仕留めていたのか。


「ブレア。マナドレインは? メスブタのステータスはどうなってる?」


「……大丈夫よ。変わっていないわ」


「ああ、なんか吸われそうな感覚があったから抵抗したっ!」


 抵抗できるのか。そんなもんなの?


「本体に近付くまでにだいぶ削ったから、相手も弱っていたんだと思うわ。遭遇時点の触手ならマナを吸われたでしょうね」


 そうか、捕まったのがあのタイミングで良かった。俺の変質者スキルが効果絶大だったのも触手のマナが激減していたからか。


「メスブタ、なんであんな不用意に近づいたりしたんだ? 心配したんだぞ!」


 そりゃあパンツは見えたし触手に捕らわれる美少女という稀代の画家にも描けぬ価値ある景色を心のアルバムの1ページ目に飾ることは出来たが。だが心配したのだ。


「えっ!? だって触手がいれば一度は捕らわれるのが礼儀だと父上に教わったのだっ!」


「…………あ、え?」


 そうなの? 知らなかった。変質者として恥ずかしい。そう呆気にとられる俺を他所にブレアはメスブタを一刀両断した。


「メテオ、時代は変わったのよ」


「なっ…………そうなのか……」


 メスブタはしょんぼりしている。いや、ブレアもその対応はどうなんだ。まあ非常識な行動があれば毎回『時代は変わったんだ』で通せるか。


 アルマにしろ、メスブタにしろ、父親運がなさすぎる。だが今は結果オーライ。先見の明のあるお父上だ。さすが皇帝。ここまで見据えていたのだろうか。

 数百年先を見通す目か。そんな男が皇帝だったからこそ、クライトン帝国は現在も大国として君臨しているのかもしれない。俺は今、帝国の真の恐ろしさを知った。



 安心したところで、あらためて先ほどの光景を思い浮かべる。

 見事。至高の一品に違いない。あの映像で俺は10年生きられる。


「メスブタ、色々言いたいことはあるが、ありがとう。お前は最高の仲間だ」


 本当に素晴らしい芸術だった。『美』の一文字で全て完結する。


「なんだっ!? き、きゅうに照れるじゃないかっ! で、でもあたしもニトのこと最高だって思うぞっ! 必死に助けに来てくれたし……」


 ちょっと顔を赤らめたメスブタと握手を交わした。可愛い。


 さっきの触手の映像とともに、この顔もアルバムにおさめておこう。


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