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触手とはロマンなのでしょうか。自分にはわかりません。


 方針を立てねばならない。目的を達成できる確率がより高まる方針だ。方針を定め、高い精度で実現可能な手段を検討するのだ。



 メスブタとブレアのパンツの話だ。



 最終的なゴール、つまり目的は2人のパンツを脳裏に焼き付け、いつでも記憶という引き出しから取り出して心の目で鑑賞できる状態に持っていくことだ。


 欲を言えばシチュエーションとしては予期せず見えてしまった状態が望ましい。これはただの好みだ。覗いて見えるのなんか普通じゃん。そんなの興味ないよ。……ウソだ。興味はあるし見たいけど、たまたま見えちゃうのが好きなだけだ。


 その上で、方針とは目指すべき指針である。目標と言い換えてもいいかもしれない。目的という的に向かっていくための標なのだ。


 『不意にパンツを見てしまいました。いや、見ようと思ってなかったんだけどさ』というアルマの時のような奇跡的な事象を再現したいのだ。どうすれば良いのか。


 矛盾するが、方針を立てて手段を検討しようとしている時点で『偶然』なんて無くなっているだろう。だが、それでも、なのだ。作られたニセモノの偶然の中でも俺は出会いたい。


 パンツに。


 だから俺は考える。どうすべきなのかを。そうだな、パンツを履いているか否か。ここから入ってみるか。お尻を注視することが大事だ。そうなると、俺が先頭にいるのは好ましくない。何か理由をつけて後方支援に回り、背後から観察するべきだ。何事もまずは観察。手段はその後だ。よしっ。



「ブレア、考え──」


「却下よ」



 くそっ。だと思ったよ。絶対にバレているんだ。何という鉄壁の守り。ここまで守るということはもしかしてブレアは履いてないんじゃないか? あのタイトなローブでパンティラインを確認できたこともないし。メスブタも同様だな。


 え? だとすると、このパーティでパンツ履いてるの俺とアルマだけ? パンツ着用率50%なの? 俺もたまに脱いで被ってるからもっと下がるかもしれない。異例の着用率の低さだ。



「ブレア……」


「答えないわよ」



 どっちかわからん。


 やはり、限界まで眼にマナを集中させ、最後尾からお尻を凝視して履いているかどうかを確認すべきかもしれない。


 色はその後の話だ。メスブタはずり下ろさないとダメだな。ブレアはローブがめくれるシーンはないだろうか。少なくともこれまでの戦闘では2人にそんな気配はなかった。


 魔王が束になってかかってもどうにもならない強さの武装天使ちゃんとの戦闘ですらパンツが見えなかったのだ。一体どうしろと。


 トイレの個室への侵入は釘を刺されてしまったし。いや、する気は無かったけどね。


 どうしたものか。人間界の宿でのハプニング狙いか。


 ああ、うっかり見せちゃったアルマが愛おしい。



「そう言えば、人間界の国々って今はどうなってるのかしら?」


 ブレアが唐突に話を振ってきた。パンツのことを考える余地をなくさせるつもりか。


「いや、そうだな。大国と言えるのは4国かな。聖王国アロンドネア、クライトン帝国、ガルガッシュ王国、シルンド共和国。あとはでかい街とか観光地とかはあるけど」


「戦争はどう?」


「5年前は無かった。今はわからない。一触触発、てな感じの国もいくつかはあったし」


「そう。戦争となるとダンジョン攻略にも影響はありそうかしら?」


「どうだろうな。ダンジョンは有用な資源だから、探索者が入って採掘することは推奨されるはずだ。だが、入る資格や採掘資源の販売には制限がかかっているかもしれない」


「なるほどね。けど、それぐらいなら私たちには関係なさそうね」


「だな。最悪は無理やり押し通ればいい」


 仮に魔王が2人で門番をしていても問題なく入れるだろう。


「ニトはどこの国にいたのです?」


「俺? 俺は今あがらなかったトローネ王国ってとこだよ。中央大陸の真ん中らへん。大迷宮『クルリア』だけが売りのしけた国だよ」


「へえー、なのです」


「そういえばメスブタはどの辺にいたんだ? 国はもう無いかもしれんが名前でも覚えててくれたら場所くらいわかるかもしれないぞ」


「場所はわからんっ! だが名前はさっき出たやつだっ! クライトンだっ!」


「え、マジで?」


 『クライトンなの?』と『よく覚えてたな』を足した『マジで?』だ。


「メテオ。城で暮らしてたって言ってたけど、どんな城かしら?」


「城といえばインペリアルキャッスルしかないっ! そこの水晶宮で育ったっ!」


「皇宮ね」


「えっと、誰かの護衛とか侍女の娘で、とかそんな事情が?」


 嫌な予感がひしひしとするが。逃げ道が欲しい。


「違うっ! ただ住んでたっ! 父上が皇帝でなっ!」


「あら、高貴な生まれだったのね」


 逃げ場なし。皇族でした。そうか、変態の父上は皇帝だったか。

 娘をメスブタと呼んで髪を掴んで引きずりまわすとは、なかなか歪んだ性格だったのだろう。皇帝とかストレス溜まりそうだもんな。娘に対して攻撃的になりがちだったのかもしれない。

 だが、一国の姫が超再生スキルを得るとはただ事ではない。壮絶な体験をしたのだろうか。その辺の影響で頭がどうにかなったのかな? 可哀想に。


「メスブタ、姫だったんだな」


「ん? ああっ! 第10……15……20? えー、あー、皇女だっ!」


「そっか」


「話をしてたら着いたわね」


 50階の扉だ。ブレアは難なく鍵を開けた。

 ここまでは虫も少なかったな。


 あ! すっかりパンツのこと忘れてた。しまった。


 扉を開けると中の作りはほぼ同じだった。しかし、大きな違いが一つ。


「水だっ!」


 部屋の中には水甕があった。


「飲めるかしら?」


「世界最古に近いだろう水だからな」


「ピュアウォーターで何とでもなるのです」


「助かる。便利だな」


「えへへ、なのです」


 アルマが神聖魔法を唱えるとうっすらと水が輝いた。浄化されたということか。


「試しに飲むのです」


 俺が毒味か。


「ああ、いただきます」


 5年ぶりのトイレに続き5年ぶりの水だ。


 …………上手い。何だこれすごくうまい。元々の水の味か? それとも高レベルの神聖魔法の使い手アルマのピュアウォーターのせいか? 単純に5年ぶりだからか?

 ともかく、めっちゃうまかった。がぶがぶ飲んじゃいそう……と思いながら横を見るとがぶがふ飲んでいるメスブタがいた。


「……そんなに飲むとすぐにトイレに行きたくなるぞ」


「あっ! そうだったなっ! この辺にしておこうっ!」


 そう言いながらもう一杯飲み、少し考えるそぶりを見せた後にメスブタはもう一杯飲んだ。


 ダメだこいつ。


 ダメ人間は放っておいて俺は本格的にパンツのことを考えねば。


 あ、そうだ。この水をメスブタとブレアの服に溢せば透けてパンツが…………いや、ダメだ。すごく見たいけど俺の手が介入しすぎてるし、2人が風邪を引いてしまうかもしれない。


 方針は定まらないまま、50階の部屋を後にした。


 相変わらずいかがわしい灯の妙にエッチな空間なのだが、これまでとは様子が少し違っていた。


「虫がいないな」


「そうね。虫以外がいるんじゃないかしら」


「どういうことなのです?」


「虫が何を食ってるかは知らんが、虫だけで生態系が成り立つ閉鎖空間はないんじゃないかな」


「なるほどなのです。ということは……」


「あ、アイツだな」


「触手だっ!」


 なぜかメスブタの目が嬉しそうにキラキラと輝く。なんだ、どういう精神構造なんだ? 大好きな父上に触手をけしかけられた経験でもあるのか。


「たくさんウネウネしてるな。きも」


「これは元は一つね。マナ総量100万といったところかしら」


 ブレアのマナ視は便利だな。数もわかるのか。しかし100万か。武装天使ちゃんには及ばないが……


「魔王超えだな……あ、来た」


 魔王を超越した触手がウネウネと伸びてくる。コイツがみんなの服を脱がしてくれないだろうか。


「父様が言っていたのです! 触手はロマンだと!」


 なるほど。たしかに服を脱がしてくれるならその意見には同意だ。だが、アルマのことだ。同意しすぎても、突き放しすぎても蔑まれる気がする。慎重にいこう。


「そうか、セバスチャン氏の言うことは俺には分からないが、そういう意見があることは理解できる」


「そうなのです? アルマは理解もしたくないのですが?」


 なんか罠にかかった気分だ。


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