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人類の想像の埒外から顕現するパンツの考察


 機能固定は絶対に解かれない。


 そう変質神からお墨付きを得ていたので安心していたのだが……え、ホントだよね? 怖くなってきた。


 だってあの武装天使ちゃん、本気で俺のこと殺そうとしてる。


「貴様! この私に呪いをかけようとしたな!」


 まじか。そういうこと? 俺の必殺技『ニート』は伝わったのか。スピリチュアルな感じで武装天使ちゃんまで飛んで行ってしまったのか。

 そして抵抗されたわけだ。下手に技をかけたがためにヘイトが限界突破したのだろう。


 ていうか、あれそんな大層な話? ニートってそんな罪じゃないだろ。心のバカンスだ。もっと余裕を持ってよ。呪いとか大げさすぎ。


「そんな、滅相も無い。ただ、ゆっくりお休みになられてはと御身を慮ったのです」


「ふざけるな!」


「私はこの世から争いが無くなればいいと! ただ、その一心で!」


「死ね!」


 なんと。死ねとは穏やかではない。天使の言葉じゃないだろう。いや、ウボウボからして天使の言葉ではないが。

 武装天使ちゃんの怒りはマックスだな。まさに怒髪天をついておられる。俺の言葉は彼女には届かないのか。悲しい。


 武装天使ちゃんは流麗な剣技で俺を責め立てる。間違えた、攻め立てる。


 だが、避ける受けるのいずれも問題ない。マナ総量が全てではないのだ。変質者スキルはそれをひっくり返す。

 武装天使ちゃんの華麗な剣技も俺の肌を傷つける事は叶わない。身体力でも俺の方が大きく上回っているはずだ。


 今の俺の身体力は53万だ。


 何となく無敵な印象を受ける数字なのだ。武装天使ちゃんに伝えれば、そのプライドをへし折られてガタガタ震え泣き出すかもしれない。


 そろそろ反撃するか。この期に及んで変質者スキルを隠す必要はない。どこかのおバカさんが妙な必殺技で武装天使ちゃんを狂戦士にしたからだ。『ここまで私をコケにしたおバカさんは初めてだ』と武装天使ちゃんは考えているかもしれない。

 そして、そのおバカさんの意識は今、ブレアとアルマに向いていた。



──2人を見て悔しさが溢れてくる。



 くそっ、宙に浮くブレアとアルマのパンツを覗く計画だったのに。台無しだ。2人を心配するフリしてそれとなく良い角度を探っていたのだ。


 ブレアなんか5年間も一緒にいるのにパンツ見た事ないんだぞ!


 そりゃあおっぱいは揉んだけど。今でも一日一回、感触を思い出して祈りを捧げているけど。純潔の女神ヘレン様に届けこの思い、と。


 でもやっぱりパンツ見たい。脱獄後のご褒美でパンツ鑑賞が確定しているとしても、それは違うのだ。

 こう、エッチな空気の中で見えるパンツじゃなくて、日常の中に潜む楽園が見たい。例えば飯屋で、例えば工場で、例えば乗合馬車のふとした拍子に、パンツが見たい。


 予期せぬパンツ。人類の想像の埒外から何の前触れもなく顕現するパンツ。それが俺のパンツ論だ。俺はこれで論文が書ける。飯を食って行く自信はないが支持は得られるだろう。支持した奴らは漏れなく変態だ。


 楽園の中で楽園を見るんじゃない。地獄で垣間見る楽園だから価値があるんだ! 絶望しかない世界でもパンツがあるなら、俺はそれを掴んでみせる!



──なんて考えてる場合か。


 武装天使ちゃんの剣が鼻先をかすめる。今のはさっきまでの剣とは違うぞ。なんかのスキルを乗せたな。避けるで正解、危なかった。


 相手の攻撃の本質を見極めるのも変質者の嗜みの一つだ。相手に気持ちよくなってもらうことが俺の変質者としてのポリシーなのだから、本質理解には力を惜しまない。本質を正しく認識できなければ、より良く変える事はできない。


 ふむ、剣に纏わせたマナを感じる。マナは繋がり伝播するのだ。見えずとも、わかる。これは空間系のスキルだな。絶対切断とまではいかないが、マナの収束度が低い通常物質ならば容易に斬ることができるだろう。



 たぶん俺の身体なら大丈夫。でも怖いから獲物が欲しい。


 手近な鉄格子を変質させ、手に握る。ちょうどロングソードぐらいの長さだ。強度を増し鋭くしていく。


 それを見た武装天使ちゃんの動きが止まった。


「…………なるほど、それなりの事は出来るというのだな」


 武装天使ちゃんの顔からは怒りが消え、冷静さを取り戻したようだ。


 それなりって何だ? 何を納得したのか知らないが会話できるなら会話で引き延ばそう。


「ふふふ。ええ、それなりの事なら出来るのです。それなりにね」


「ふっ、それならば私もそれなりに相手をせねばならんだろう」


「それほどの事はありませんよ。どうぞ、それなりの対応でお茶を濁してください」



 何を納得したのかわからないから何にもならなかった。なんだ、今の意味があるようでない会話は。

 いっそ裸にでもなるか。『こんなこともできるんですよ!』なんてね。それならわかりやすい。



 いや、そうか。そうだな。俺にはもっと強力な武器があるじゃないか。


 右手に鉄格子ソードを握り、左手に俺のブリューナクを握ろうとしたところで事態は動いた。


「ウボウボは始末したっ!」


「そうか、助かる」


 あぶね。メスブタがきた。俺のブリューナクの威力は広範囲に及ぶ。すなわち目に見える範囲だ。見てしまえばその虜にならざるを得ない。まだ彼女には俺のブリューナクは早い。青ざめちゃうだろうから。少しずつ慣らしていかないと。


「ふんっ。2人になったところで変わらぬ。早々に片付けてやろう」


「いや、しかし。それなりの対応をいただけるとお約束なさったではありませんか!」


「何を言っているのだ!?」


 それは俺にもわからんが。言えることは言っておこうかと。

 武装天使ちゃんの返事に何故かメスブタが過敏な反応を示した。


「えっ!? 天使なのに嘘吐きなのかっ!?」


「なにっ!? 侮辱するのか!」


「ええっ!? 嘘吐きで恥知らずなのかっ!?」


「な、な、な、なんだとぉ!?」


 おお、メスブタのせいで武装天使ちゃんが覚醒したようだ。


 先ほどとは比べ物にはならない速度で剣を振るう。


 上段から振り下ろし、俺たちは左右に避ける。流れるように剣をメスブタに振るい、同時に俺に向かって雷光が走る。


 メスブタは躊躇いなく剣を掴んだ。そして、当然のように剣は消滅した。


「なっ!?」


 驚愕の声を上げる武装天使ちゃん。まさか自分のスキルを乗せた剣までもウボウボと同じように消されるとは思わなかったのだろう。

 その背後には俺。雷光には何の対処もしなかった。俺にダメージを与える攻撃ではない。

 鉄格子ソードで心臓を一突きにした。


 ごふり、と口から血が溢れる音がする。


「く、そ…………貴様らぁああああああ! 次は殺してやるぞぉおおおおおっ!」


 お怒りが頂点に達した武装天使ちゃんは怒声とともに光の渦に消えていった。


 1人なら隙が見えなかったが、メスブタと2人なら余裕だったな。それにしても……


「こわぁ」


 まるで悪魔のような消え方だった。呪われた気分だ。


「すごい気迫だったなっ!」


 メスブタはまったく意に介していない。まあ1年間も穢れ神様……もとい3億年センパイと闘っていたらアレぐらいどうということはないか。


 だが、これで天使は殲滅できた。そこまでするつもりはなかったが怪我の功名だ。必殺技『ニート』の成果だな。今頃、天使のみなさんも別部屋でゆっくりされていることだろう。

 神陣営も俺たちが脱獄したという確証は得られないはずだ。



 ちょうど2人の方も終わったようだ。ふわりと何かが降りてくる気配を感じ、上を見る。



 奇跡が起きた。



 あ…………アルマのパンツ見えた! やった! ピンクだ! ピンクのパンツだ! メスブタの髪の色と同じピンクだ! アルマのパンツはピンク! もう一度言おう、アルマのパンツはピンク!


 美女を抱えた美女が美しい翼で舞い降りる。そのスカートの中の太ももと太ももの間に燦然と輝くピンクの布。それはパンツ。それはドラマ。それは男達の憧憬。あらゆるロマンがそこに潜んでいる。集え、冒険者よ! お前達のフロンティアはそこにある!


 思わぬ運命の女神からのご褒美に心が沸き立つ。演出がにくい。目頭が熱くなった。ありがとう、アルマ。絶対にお前を爆発させたりはしない。


 しかしブレアはすごいな。俺の行動を熟知しているのか。絶対に警戒している。鋼鉄のガードだ。見える気配がない。


 でも、どんな方向であれそこまで理解されてるって嬉しい。俺とブレアは何だかんだ信頼関係を築けているんだな。そう思うから。


 俺はブレアの冷たい眼差しに気付かないように必死になりながらそう思い込むことにした。

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