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働くけど働きたくない、なんてね


 セバスチャンに聞いた話だが。


 天使は死んでいるようで死んでいない。死んだら転移魔法陣が起動し、別部屋で復活しているだけだ。

 無限牢獄内で殺され復活させると、囚人の罠で永遠にハマる可能性があるからそうしているそうだ。


 ウボウボ天使は最下級天使だ。神界のあちこちの部屋でお仕事をするメイドさんみたいなものだ。部屋着なのは武装を持っていないためだ。


 天使たちにとって無限牢獄は死なない人間を無力化するための良い訓練場らしい。俺たちの想像通り、牢獄を勝手に出てうろうろしている囚人を見つけ、元の部屋に戻すのが目的だ。


 なお、失敗したからといって別に何があるわけでもない。次にまた頑張るだけだ。とても優しい世界だ。天使はホワイト企業勤めなのだ。ノルマなし、失敗オーケー、ステキな部屋着も支給される。


 こちらの価値観で考えると無限牢獄内は割と危険な環境なので、部屋着で躊躇いなく入ってくることに違和感を覚える。

 しかし、それは彼らにとってこの無限牢獄が戦場ではないというだけの話だ。ちょっと噛みつく犬をたくさん飼っているぐらいの認識らしい。


 わからんでもない。だが『君ら、飼い犬に殺されてるから』と声を大にして言いたい。喉元ガブリとやられて死んでるから。犬を舐めるな。犬は怖いんだぞ。


 もっとちゃんと訓練して事にあたるべきではないかと思う。多分、何万年、何億年と長生きすると知的生命体って馬鹿になるのだろう。


 花園の方々を見ていてそう思った。あれは痴的生命体だ。


 そんな最下級天使の中心に、武装した天使が一体見える。おそらく、脱獄危険度が高まったのでマジになったのだ。

 一定以上のマナ総量を持つ囚人が集まり、出口につながる可能性のある場所にいる。


 ちょっと噛みつく犬が初めて狼だと認識されたわけだ。いや、犬でも十分脅威だと言うことを忘れないで欲しいのだけれど。もう一度言おう、犬は怖い。



 武装天使はカッコよかった。人類が理想とする天使だ。神々しい白銀の鎧を身に纏い、二対の純白に輝く翼が背にあり、光輪は金色に輝いている。顔の上部は兜の面で見えないが、口は見えている。その顎と口の造形は美しい。


 前に部屋着をひんむいたウボウボ天使のおっぱいがこの人のものだったら良いな………って、あれは最下級天使だからこんなリッチな仕事着を身に付けているはずがないか。

 こんな装備が支給されるのはまだまだ先だろう。頑張れ、いつかのおっぱい天使。



「あれ、そう言えばメスブタはなんであれが部屋着だって知ってたんだ?」


「聞いたっ!」


「誰から?」


「…………誰だっ?」


 知らんがな。


「まあ、相当な昔だったのかもな」


「たぶん、天使狩りか、魔法研究会の人か同化コミュニティの人かだと思うっ!」


 そういう情報が今でるのか。もっと早めに聞いてたらそっちに行ってたかもな。危なかった。



 さて、余計な情報が多かったが、大事なことはこの場で天使を殺す事が出来ないという点だ。退けることはできても殺せない。

 どうやっても俺たちの顔や行為は相手に筒抜けになる。


 ブレアが戦えれば転移魔法陣を無効化して、確実に此処で魂をマナに還すこともできるだろう。


 しかし、ブレアにそんな暇はない。


 牢獄の中心点に近づくことが今のブレアとアルマの仕事だ。


 何故か。それは、そもそもこの無限牢獄自体が果てなき積層型の魔法陣だったから、である。


 始まりの牢獄を中心に、牢獄がらせん構造になっているのだ。始まりの牢獄を中心とした積層型巨大魔法陣がこの無限牢獄の正体だ。

 空から眺めて全体を俯瞰できるわけではない。捻じ曲がった4次元空間をマナ視スキルで正しく見通し、魔法陣的な正しい記述と矛盾を処理しながらその構造を読み解くのである。


 変質神とセバスチャンは脱出用の転移魔法陣を教えてくれなかった。これぐらいできなければこの先は無理だと。


 今、目に見える牢獄の構造から矛盾のない魔法陣を構築する。


 頑張ってくれ、ブレア。そんな面倒くさそう……大変なことブレア以外にはできない。



 ブレアとアルマは空中で停止だ。ブレアの空間魔法、アルマの神聖魔法で二重に結界を張っている。


 俺とメスブタは、結界の負荷軽減担当だ。ブレアの仕事が終わるまで結界にぶつかるハエのようなウボウボを駆除する。

 大抵は結界にぶつかって落ちてきてくれるが、たまに頑張る奴がいるのでそういう時はJUMPしてばこーんだ。



 武装天使が口を開いた。


「囚人よ。贖罪は未だ終わらぬ。獄中に戻るが良い」


 ウッボウッボじゃないぞ! しゃべるじゃん。めっちゃ流暢にしゃべる。しかも女の声だ。


「此処だって獄中ですよ? 周囲をご覧になられては?」


 軽く煽っておこう。ガバガバの巨大牢獄内だがな。


「戯言を」


「戯言ではありません。ちゃんと見てください。おっきなおっきな牢獄の中でしょ?」


 わざとニヤニヤして言う。メスブタは隣でうんうんと頷いている。たぶん他意はなく素直にそうだと思っているのだろう。


 ピシリ。空間にヒビが入ったような感覚を覚える。これは大層お怒りのご様子。


 マナを揺らすほどの圧を感じる。俺たちとは格が違う存在だ。しかし、変質神やそのペットの方が比べるべくもなく上だ。悲しいことに。

 この程度は慣れたもの。この武装天使もマナ総量ではおそらく200万は下らないだろうが。


 何より、環境は圧倒的にこちらに味方している。何があっても機能固定が解かれることはない。



 時間を稼ぐ。


 それが出来ればいい。それでも可能ならば武装天使は排除しておき、ブレアの魔法陣を見せないのが理想だ。脱獄したと確証を持たせたくはない。


 武装天使は無言で剣を抜き、俺たちに向けて振るった。


 戦いの火蓋が切られた。


 まずは剣先から放たれた飛ぶ斬撃を避けつつ、ウボウボを叩いていく。数が多い。百はいそうだ。

 百のおっぱい…………いやいや、中身を見ないとわからない。中身は老若男女問わないかもしれない。何も考えず倒すが吉だ。



 メスブタは凄まじかった。共に戦っていてよくわかる。その速度は以前の比ではない。


 今も一瞬でウボウボの背後に移動した。ウボウボ天使には見えていなかったのだろう。たやすく背後を取り拳で胴を薙いだ。


 そこには初めから何もなかったかのように、天使の胴体は消えた。分子分解の先のスキルなのだろう。統合したから詳細はわからないが破壊と再生スキルだ。次々と天使を仕留めていく。

 彼女の拳で優しく撫でられたように見えるウボウボ天使たちは、まるで本当に泥人形であるかのように崩れ去り、消えていった。


 そして、俺は愚直に殴っていた。変質者スキルはあまり見せたくない。だって恥ずかしいし……というわけじゃなくて、出来ることを知られたくないのだ。何せこいつら、別の部屋で復活しているのだから。ぎりぎりまで温存だ。

 そうでなければ、奴らは復活後に『ねえ、見た? あいつ変質者だったわよー!』『ええー、最悪ぅ、さっきあいつに触られたぁ』『あ、ほら前にあいつに倒された娘いたじゃない? 部屋着をむかれておっぱい触られたらしいわよ!』『きゃー』『いやー』となるだろう。おっぱいは触っていないのだが。

 そして『本格的に討伐しましょう』とか『変質者スキル持ちなら脱獄後にあんなことやこんなことしちゃうんじゃ』なんてなるのが怖い。脱獄の妨げになる。



 宙に浮くブレアとアルマを横目で見る。


 ブレアは目線を牢獄全体に向け指先をせわしなく動かす。特徴的なサイズの牢獄を指でなぞり、魔法陣として組み立てていく。


 アルマがブレアを応援しているようだ。よく見るとアルマの口がパクパク動いているのが見える。

 うるさいんじゃなかろうか。ブレアが怒りださないか心配だ。アルマが落ち込んでしまう。


 ウボウボ達は結界に愚直にぶつかり落ちてくる。マジで虫みたいだなこいつら。それを一つ一つ潰していくお仕事だ。鬱になりそう。



 ふとメスブタを見ると、彼女は武装天使に迫ろうとしていた。


「おいっ! メスブタ! 先行しすぎだ!」


 今は殲滅よりも防衛だ。わかってんのか。


「すまんっ! もどったっ!」


「はやっ!」


 え、だっていま向こうに、え? はやっ!


「メテオブースト使ったんだっ!」


 なんだその技。名前ダサすぎない? 自分の名前に酷似しているし、人並みに羞恥心があれば普通は使えないぞ。というか戻るためだけにそんな技使わなくて良いのに。


 だが、俺なら……そうだな。ニト……ニト……短すぎて何も出ないわ。『ニート』ぐらいだな。


 くらえ『ニート』お前は働きたくなくなる。


 戯れに武装天使に向けてかっこいいポーズをキメてみる。効果もなかなかいいんじゃないかな? 平和的だ。


 俺がそんな妄想の技をはなったところで、武装天使が動き出した。


「馬鹿な……働き出した、だと?」


 必殺技は一朝一夕ではならないということか。


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