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いつだって、それが一歩目だから


 修行は1年に及んだ。


 ブレアと二人の時とは違って凄く真っ当に修行した気がする。今回の内容は変質的だったけど。

 ブレアの時の修行は『思い出せない』だったけど、今回は『思い出したくない』だからだいぶマシだ。


 俺のレーヴァテインが燃えるような輝きを失って干からびたり、上腕二頭筋だけがはち切れんばかりに発達したり、精神力が激減して宙を舞う埃に羨望の眼差しを向けたり、まあそんな感じだった。


 変質神アルファはひたすら俺を変質させた。自分の身体と精神が変質させられることで、どんな変質が可能なのかを叩き込まれたのだ。


 ある程度、変質に慣れてきたところで次の段階に進んだ。模擬戦闘だ。アルファは手に木の棒を持ち、俺に襲いかかってきた。恐ろしいことに木の棒はいつも何かに変質していた。


 ある時は魂を斬る刃、ある時は電撃棒、ある時はウナギ、ある時はドジョウ、ある時は女を喜ばせる棒、ある時はヌルッとした何か。


 棒はヌルッとしている事が多かった。何でヌルッとしているのか、その理由はわかっても素材は一目ではわからなかった。


 その本質をスピーディに見極め、元の木の棒に変質させる。そんな訓練だった。


 ドジョウが俺のケツに向けられた時は本当に必死になった。何とか貞操を守り抜けたのがせめてもの救いだ。


 一番のトラウマは俺自身のレーヴァテインと酷似した棒を口に突っ込まれた事だ。しばらく立ち直れなかった。普段目にしている棒だからわかる。間違いなくアレのモデルは俺のレーヴァテインだ。どうやったのかは分からないが、アルファが俺のレーヴァテインの形状を調べて複製したのだ。


 あの事件で俺は変質神アルファを正式に邪神として認定した。封印する機会でもあればチャレンジしてみてもいい。

 ついでに、可愛いアルファに責め立てられ、ちょっと良かったと思っている自分もいたので、それも含めて封印したい。



 ブレアは真面目に落ち着いた修行をしていたようだ。変質神オメガと普通に会話して魔法を試したり、たまにアルマが混ざってキャッキャと声が上がっていたり。女子会か。


 メスブタは武人だった。秘密の花園の一部を何度も荒野に変えるほどの激戦が繰り広げられていた。

 ブーメランパンツに亀甲縛りでハムのように肉をはみ出させた小太りのおっさんとのバトルは技術的には見もので倫理的にはモザイクが必要だった。



 それぞれが見違えるほどに力をつけた。さすがは神の訓練だ。


 俺は変質者スキルをレベル3に上げるとともに如何に使いこなすかを貞操の危機の中で理解した。

 ブレアは魔法陣の知識はもちろんのこと魔法全般の能力を向上させた。

 メスブタは純粋にパワーアップしていた。こうなる前にもっと攻めるべきだったかもしれない。



 また、変質神の変質スキルは俺の想像を超えていた。不要なスキルまで変質神の力で余剰マナに戻すことができたのだ。


 スキルの統合、分配を繰り返し、最終的に俺たちはこんなステータスになった。



──ニト──

【総合能力】

マナ総量:683,000

【基本能力】

身体力:200,000

精神力:200,000

【スキル】

変質者:レベル3

【称号】

神に連なる変質者

神話級性犯罪者

視線の奏者

ブレア様の犬

常識崩壊

──────


──ブレア──

【総合能力】

マナ総量:1,260,000

【基本能力】

身体力:30,000

精神力:360,000

【スキル】

マナ視:レベル10

→絶対時間把握:レベル10

→マナ配分読解:レベル10

神界流魔法陣:レベル6

闇魔法:レベル8

空間魔法:レベル7

収束魔法:レベル8

体術:レベル4

毒舌:レベル10

→トラウマ創造:レベル10

→→精神崩壊魔法:レベル9

【称号】

黒球の魔法使い

──────


──メテオストライクブースター──

【総合能力】

マナ総量:883,000

【基本能力】

身体力:330,000

精神力:60,000

【スキル】

破壊と再生:レベル10

【称号】

アホの子

不死王

破壊王

砕きし者

──────


──アルマ──

【総合能力】

マナ総量:1,313,000

【基本能力】

身体力:190,000

精神力:413,000

【スキル】

家事全般:レベル10

夜伽:レベル1

添い寝:レベル10

耳かき:レベル10

なでる:レベル10

診察:レベル10

手当て:レベル10

神聖魔法:レベル10

変形:レベル10

鞭術:レベル10

棒術:レベル10

【称号】

最高級品

ド禁忌

変質神が呪い申し上げます(爆)

──────


 アルマ強かった。何というか、ビビった。だが亜神に創られて以来、この秘密の花園で過ごしてきたのだ。これぐらいあっても不思議じゃない。


 アルマが回復要員として立ち回れるのは思わぬ幸運だった。

 スキル構成を眺めると、そこはかとなくセバスチャンの趣味が見える気がした。多様なプレイに対応するためのラインナップに見える。夜伽レベル1なのはわざとだろう。これは使用しながらレベルを上げて行きたかったのだと思われる。

 変形はすごかった…………。



 アルマの人質としての価値も高まった。彼女は甲斐甲斐しくみんなの世話をしてくれた。


 たまに口が悪かったりした。

『ブレアちゃんやメテオちゃんと話すのは楽しいのです。でもニトはいつもうわの空で会話にならないのです。つまらない男なのです』

 それはアルマを性的に見ているが故だったが、俺は傷ついた。自業自得なのは知っている。


 慌てん坊だったりした。

『あーー! ニトごめんなのです! ズボンにお茶が────』

 機能固定ですぐに乾いた。なんて酷い空間だ。女の子に股間を拭いてもらう貴重な機会をつぶすとは。残酷すぎる。


 すぐに照れたりした。

『えっ! そんな、アルマはブレアちゃんやメテオちゃんほど可愛くないのです。でも…………可愛いって言ってもらえて嬉しいのです。えへへ。ニトじゃなかったらなぁ』

 はにかんだ笑顔を見せて彼女はそう言っていた。そうね。俺じゃなかったらねぇ…………。


 接していると、とても普通の娘だと感じられた。ブレアやメスブタが尖りすぎているからかもしれないが。その身近さは俺の性的欲求を強く刺激した。やるなセバスチャン。


 かくしてアルマは立派な人質となった。爆発させるわけにはいかない。



 ブレアの純潔、メスブタの調教、アルマを爆発させない。これらの決意を胸に俺は立ち上がった。


「では、そろそろ行きます。本当にお世話になりました」


 あの屈辱的な日々を俺は忘れない。そして、官能的な日々でもあった。変質神にあんなことをされてしまってはもう……だめだ、意識を強く持て。セバスチャンのようにはなりたくない。


「死ぬ気でやって」

「変質者さんの変質者ぶりは大したもの」

「自信を持つといい」

「帰ってきたらペットにしてあげてもいい」


 じゃあ、いつかは帰ってきてもいいかな…………違う違う。セバスチャンのようにはなりたくないんだ!


「変質とは本質すら変える」

「変質者さんが壊れているほど世界を壊せる」

「限界を決めるのは変質者さんの思考じゃない」

「魂が決めること、それを忘れないで」


「わかりました。わかりましたが、あまり日常生活に支障をきたしても困るので程々を心がけます」


「まあ……」

「いいけど」


 邪神どもは不服そうに頬を膨らませた。その気持ちは君らのペットに向けてくれ。


「皆さま、お気をつけて。この亜空間を出たら変質神様も私も直接的には関与できません。もちろん、間接的には出来うる限り手を打たせていただきます」


 何やるつもりなんだ。まあ、聞くまい。必要な事は話してくれた。自主的に話してくれないなら必要ない事なのだろう。


「ありがとうございます。まずは天使たちですね」


「ええ。ですが今の皆様なら乗り切れるでしょう。アルマ、無理をしないで」


「父上、アルマは無理をします。全力で自分の人生を楽しんでくるのです。誰にも邪魔はさせないのです。相手が天使でも、神でも」


 神々しいまでの美しさを彼女の横顔に感じた。邪神とその手下の亜神よりはよほど神々しかった。神とは一体何なのか。少なくとも高潔な精神が神に至る道ではない事を、俺はここで学んだ。


 そしてもう一人の俺の女神ブレアも別れの言葉を述べた。


「オメガ様、アルファ様、セバスチャン様。ありがとうございました。200年以上、魔法の研鑽を積んで参りましたが、この1年はその200年が消し飛ぶほどの価値がありました」


 そこまでか。女子会は魔法を鍛えるのに最適なんだな。すごい。


 メスブタもお世話になった亀甲縛りの人に挨拶する。


「ビチグソ変態野郎っ! また闘おうっ! 次は消滅させてやるっ!」


 セバスチャンのことそんな風に呼んでたのか。怖いもの知らずだなと思うと同時に、納得した。完全に同意。セバスチャンは喜んでるかもしれない。



 ついにここをでる。


「では、皆さん御機嫌よう」


「ダンジョンよろしく」

「今から楽しみ」

「なるべく早く」

「時間は有限」


 セバスチャンが宙に魔法陣を描く。指先が動くと輝く軌跡が残り魔法陣が描かれた。ここに来た時と同じ陣を描いている。


 そして、これまた同じように光が奔流となった。



 光で眩んだ目が慣れると、一面のネズミ色だった。

 久しぶりの無限牢獄だ。無機質な石造りの牢獄が続く。

 戻ってきた。


「あ……」


 アルマが胸を押さえる。ブレアはそのアルマの肩を抱いた。


「爆発までのカウントダウンが始まったのね。大丈夫よ、一緒に行きましょう?」


 アルマはブレアをみて答える。


「はい、なのです」


 ブレアの役、俺がやりたかったな。俺も何か言おう。皆が惚れちゃいそうなやつ。



「みんな、聞いてくれ。俺たちはパーティだ。この無限牢獄から史上初めて脱獄する四人のパーティだ。それぞれ目的はあるだろう……」


 ブレアは復讐。

 メスブタは戦い。

 アルマは観光。

 俺はエロス。


「バラバラな目的でも、そのために至る道は同じだ。ダンジョン踏破。俺たちはその仲間だ。パーティ名は俺たちが揃った場所からもらおう。秘密の花園の別名『インフィニティガーデン』だ!」


「え? あ、ええ」


 ブレアは珍しくキョトンとした顔を見せてくれた。


「…………?」


 アルマは首を傾げている。


「うんっ! ニト、がんばろうなっ! でもとりあえず脱獄しようっ!」


 メスブタが元気に答えてくれた。


 そうか。カッコつけたくて言ってみたけどパーティ名とか誰も気にしてなかったよね。しかも今言うことじゃないか。メスブタでもわかっていたのに。

 良いこと言おうとすると人って必ず失敗する。会話の原則は無理しないことだ。さっきのセリフは無かったことにしよう。下手に弁解したりして傷口を広げるべきではない。

 俺はまだ何も言っていない。次が俺の一言目だ。



「よし、じゃあ早速始めるか」


 

 人間界までの道のりは頭に入れてある。恐らく今から一日もかからず人間界に出るだろう。


 まずは無限牢獄から出る。神界ホテル65階層からは階段を使って〇階層まで駆け降りる。階段へのドアと10階層ごとにドアロックがかかっているから、これはオメガ仕込みの魔法陣でブレアが対処する。

 俺とメスブタはつゆ払い。アルマは応援団だ。


 そう、上手くいけば24時間以内にブレアは純潔を散らす予定だ。今のうちに純潔のブレアを目に焼き付けておこう。



「アルマ、お願いね」


「はいなのです」


 ブレアの願いに応えてアルマは変形スキルで背に大きな羽を生やす。そのままブレアを抱きかかえ大きく羽ばたき、巨大牢獄の天井近くまで上がっていく。

 予め相談していた脱獄手順の項番1だ。



 そして、同時に天使が続々と現れてきた。変態共から聞いていた通りだな。


「武装している天使もいるな」


 ウッボウッボ言うだろうか。

 メスブタは自身の手のひらに拳を打ち付け、気合いを入れた。


「よぉーしっ! 片っ端から消滅させてやるっ!」


 物騒なセリフだが今回は同意だ。


 さあ、本格的な脱獄の始まりだ。


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