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神々のド禁忌


 ツッコまないことにした。面倒くさいし、いいや。神界の手紙の作法なんて知らないからな。これが神々の雅な文書なのかもしれない。人間が口を出しては無粋だろう。


 そんな事より注意事項の確認だ。


 まずは俺だ。これ一般常識だよね。子供でもそれぐらい知ってる。性犯罪とかあり得ないだろ。『そっか、性犯罪ってダメなんだ! 気をつけよう!』ってなるほど落ちぶれちゃいない。はず。


 ブレアはわからなくもない。そもそも大地母神が禁忌としていなくても、人工魔法金属はオーバーテクノロジー過ぎて揉め事の種だ。世界経済崩壊の引き金になりかねない。

 路銀のためにこっそり使う程度の想定はしていたが、それが出来ないとしても魔獣退治などで収入を得ることはできる。問題なし。

 しかし、改めてブレアのすごさを思い知らされる。大地母神の禁忌に触れるほどの魔法なわけだ。収束魔法の理論を独自に構築し、それだけでなく実現までしたのが200年前で17歳の時なんだから恐ろしい天才だ。


 メスブタはなんというか、さすがだわ。『死なないでね』じゃなくて『復活しちゃうから死ぬほどの怪我はしないでね』だ。常軌を逸している。どういう理屈で再生してるんだよ。頭が飛んでも大事なのだろうか。とにかく怪我させないように気をつけよう。


 アルマのは俺たちに伝えることじゃないだろ。ましてや書面に残すことではない。頑張って良い人質になれってこんな風に伝えることなのか。


 と、ひとしきり確認して気づく。この注意事項を守らなければ神が来るのだろうか。だとすると神と会うのって意外に簡単なのか?


「ふと思ったのですが、この注意事項をやぶれば人間界に神を呼ぶことができるのでしょうか?」


「ええ、呼べます。禁忌を犯す力があるのなら神が人間界に降臨します」


 なるほど。ならば一般的には不可能に近いのか。魔法金属を作る人とか、致命傷から自動で再生する人とか聞いたことないし。


「注意事項が禁忌ということですよね。禁忌を犯せば神はすぐに現れるのでしょうか?」


「ええ、その通りでございます。神々はそれぞれの権能でマナとホットラインが構築されております。神のルールがマナ記憶に強く刻まれているのです。そんな中で禁忌を犯せばすぐさまマナが検知し、光速を超える伝達速度で神に通知されます」


 マナとのホットラインか。最近マナともご無沙汰だな。


『ニトお兄ちゃんが呼んでくれないからだよ! マナいっつも待ってるのになー』


 おっとごめんよ。そんなにふくれるなよ。今度マナのための時間を作るよ。

 なんて妄想は置いておいて、整理しよう。


「ダンジョン踏破は穴の女神にとって禁忌。マナを大地に収束させることが大地母神の禁忌。神の定めた方法以外で死を逃れることが死神の禁忌。ということでしょうか?」


 問いには変質神が答えてくれた。


「穴の女神は違う」

「踏破は禁忌ではない」

「乳を揉んだのがアウト」

「ただし、踏破すると穴の女神は意識を当該ダンジョンに向ける」

「そして変質者さんに気付く」

「女神は鬼へ」

「性の悲劇を許さない」


 なるほど、俺という存在が純潔の女神の禁忌なのか。いや、脱獄しても即座に追われるわけではないから準禁忌という感じか? 聞いたことないな、準禁忌。禁忌が途端にライトになった。


「あれ、でも踏破すると純潔性が弱まるんですよね。穴の女神はそれを許容しているのですか?」


「それはそれ」

「裏ルートの踏破は合意の下とは言えない犯罪だけど」

「試練を正当に乗り越えてきたのならば合意の下といえる」

「合意ならば致し方なし」

「しかしその相手がかつての犯罪者ならば」

「女神は鬼となる」

「合意かと思ったら毎回相手が変質者さんという非常事態」

「それも楽しみの一つ」



 なるほど。俺が言えたことではないが純潔の女神様が不憫だわ。やるけどね。神との約束だから。あくまでも神との約束だから。



「他にも様々な神が様々な禁忌を設定している」

「でも変質者さん達がやらかしそうなのはその辺り」

「やらかしたら無限牢獄に舞い戻ることに」


 そうだな。他にも神がいて禁忌とされる事はたくさんあるわけだ。なるべく人外レベルの行為は慎むべきだな。

 メスブタが魔王とか龍王とか余計な物を分子分解しないように警戒しておこう。よく考えたら拳が当たっただけで一巻の終わりなんだよな…………こわ。


 そんなメスブタは先ほどから考え込むような仕草を見せている。考えているようで考えていないのがメスブタだ。脳という筋肉を動かしているだけなのだ。脳筋トレだ。


 見つめていると、メスブタがハッとした顔をした。人類を惑わす難問──エニグマ──の時間が始まる。


「あたしが爆散したら死神がくるのかっ!」


 んん。あってる……あってるよ。エニグマじゃなかった。だが爆散に限定する必要はない。惜しい。しかし誰にも聞かずにここまで考えたのか。いつのまに進化したんだ。


「メスブタ、やるじゃないか。見直したぞ」


「えっ!? 何がだっ!」


 何がだ、とか言いつつも満更ではないご様子のメスブタさん。可愛らしいがその拳は神の禁忌を犯しかねない。


「変質者さんの言いたいことはわかる」

「しかし、先ほどから正解は何度も出てた」

「これでわからなければ日常生活もおぼつかない」

「お風呂とトイレも間違えちゃうかも」

「変質者さん、『それはそれで良い』とか考えないで」

「気持ちはわかるけどまず話を聞いて」

「言いたいのは、メテオちゃんの再戦は当分は禁止するということ」

「任務の妨げとなるのでタイミングは私たちが判断する」


 お風呂でおしっこしちゃうメスブタか…………うん。うんうん!

 トイレで裸になって便器に入ろうとするメスブタ……うーん? でもまあ、うん!


「変質者さーん」

「カムバック」


「ああ、すみません。メスブタ、わかったか? 勝手に挑んじゃダメだぞ?」


「わかったっ!」


 わかったのだろうか。気付いたら隣で自分の腹に腕を突き刺して血まみれになってそうで怖い。そしてさらに隣には死神がいるとなると、か弱い乙女のように悲鳴をあげる自信がある。

 行動原理が謎すぎて何するかわかんないんだよな…………まあいいや。


 我関せずとばかりに紅茶を楽しんでいたブレアが口を開いた。


「変質神様。アルマさんは禁忌に触れないのかしら?」


 確かに。ホムンクルスとかやばそうだ。


「ド禁忌だよ」

「うん、ド違法のド禁忌」

「ホムンクルスの存在が人々に認知されれば創造神が現れる」

「ある意味アルマちゃんが一番の爆弾」

「文字通り爆弾でもある」

「うまい」


 うまい、じゃねーよ。そんなものを預けるな。


「さて、脱獄に向けた具体的な話に入りましょう。皆様には修行をしていただきます」


 唐突だなセバスチャン。修行か。この4年間ずっと鍛え続けてきたから正直もうお腹いっぱい。


「何を鍛えるのでしょうか?」


「はい。皆様が快適に脱獄するために足りないものは知識と力です。単純な話でございますね」


「知識は納得できます。力は天使に勝てる程度では足りないと?」


「あれは天使になりたての赤ん坊みたいなものです。しかも部屋着でリラックスタイム。倒しているようで倒せておりません」


「本来の天使はもっと強いということですか」


「ええ、その通りでございます。武装した天使を圧倒できなければ、あるいはその眼を誤魔化す術が無ければ脱獄は夢のまた夢でしょう」


「何をすればよろしいのですか?」


「やはり脱獄の肝になるのはブレア様の魔法陣技術。変質神オメガ様に師事なさってください。次に単純な力としてメテオストライクブースター様。私との格闘訓練です。そして、ニト様は変質神アルファ様と変質者スキルを使いこなせるよう修行していただきます」


「俺やブレアはともかく身体力に特化したメスブタには意味がないのでは? 秘密の花園は機能固定の範囲内ですよね?」


「私が教えるのは技術です。ある程度マナ総量が増えて余剰マナができたなら変質神様のお力で身体力に割り振ることも可能です」


 なるほど。他者のマナも弄れるのか。そこまでできるとかなり強いな。減らすことも出来るのだろうし。

 ステータスが常に変動していたという神々に対して効果があるかは疑問だが人間界の存在ならば誰を相手にしても圧倒できそうだ。


 だがしかし……変質者スキルの修行か。やぶさかではないが語感が嫌だな。変質者の修行をする者など有史以来俺だけではなかろうか。



 話を聞きながらそわそわしていたアルマがおずおずと手を挙げた。


「父上、アルマは何をするのです?」


「皆と仲良くしなさい」


 この期間で人質として成り立たせていくわけですね。わかります。


 ド禁忌とお友達になることを神にやんわりと強制される事になるとは。人生は奥が深い。


 神界の無限牢獄の秘密の花園で変態の神々を前に考えるには今更すぎる事かもしれないが。



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