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花園の娘


 やることが明確になった。力が湧いてくる。世界は愛に満ちていたのだ。涙をぽろぽろと零す幼女たちも今は穏やかに慰めることができる。


「さあ、お二人とも。もう泣くのはおやめください。愛ですよ、愛。笑って」


「ここまで壊すとは見事」

「ブレアちゃんあってのことね」


 何をしみじみとしているのか。壊れているのは元より承知しているが、今のはそこまで壊れていないと思う。世界中にハーレムなんて男だったら誰でも夢見るじゃん。普通だよ。


 ブレアは自分の名が出た事が不服なご様子だ。そんなに壊したつもりは無いのだろう。なんて人だ。

 もし、いつか誰かに『ニトさんが壊れた原因は?』なんて尋ねられれば筆頭破壊者としてブレアを紹介せざるを得ないのだから自覚は持って欲しい。


「ニト、何を考えているのかは聞かないしわからないけれど、たぶん貴方はいま自分自身の魅力というものを省みた方がいいわ。いえ、魅力というより人間性ね」


 盲点だった。


 そうか。それで変質神は泣いていたのか。哀れ人の子、悔い改めよと。ニト君は魅力ゼロだから女を助けても『キュン』されたり『ドキッ』されたりとかないんだよって。なるほどね、納得。辛い。


 ああ、そうだ。いつかのようにパンツでもかぶるか。顔隠せばいいんだ。ははは。


 メスブタは何の話? と一人キョトンとした顔をしている。可愛い。このまま黙ってればいいのに。いや、喋るから黙らせる楽しみが生まれるのか。苦悩があるから喜びがある、と。深い。


 これは俺の問題にもつながるな。魅力がないのに惚れられる。ここに喜びを見出すべきか。

 しかし、現実どうすれば。やはりPOWERか。純然たるPOWERなのか。そこなら人の頂に至れる気がする。変質者スキルで。



「さっ。話もまとまったようですし、この辺りで私の娘を紹介させてください」


 セバスチャンの名を持つ全ての人に謝罪すべき男が微笑んだ。こいつ、いま何を……娘だと?

 突然何を言い出したんだ。話の流れをぶった切りすぎだろ。お前の娘を紹介する必然性もなければ娘がいる事それ自体が信じられない。


「ご結婚されていたのですか?」


「いいえ、そんな畏れ多い」


 じゃあ何だ。無性生殖か。妊娠させて結婚しないのが神界の常識という可能性もあるが、個人的には無性生殖説を支持しよう。このおっさんのことだから精神衛生的にNGな方向に倒れる気がする。


「では養女を?」


 念のため可能性を一つ一つ潰していこう。初対面の質問としては踏み込みすぎだが、そもそもおっさんは既に俺の心の安息部分に汚い格好で土足のまま踏み込んで来ている。遠慮の必要はないだろう。


「正真正銘、私の娘ですよ。いや、ちょっと語弊があるかな? ああ、ちょうど来たようです」


 その語弊の部分が気がかりなんだよ。


「お待たせしたのです。自分はアルマなのです。末永くよろしくお願いいたしますです」


 そこにはセミロングの青い髪の少女がいた。15歳ぐらいか。スタイルは良い。良すぎもせず悪くもなくちょうど良い。特徴がないといえばないが、万人ウケするとも言える。顔も同じだ。平均値をとった美少女という印象を受ける。美を追求したブレア、可愛いを極めたメスブタともまた違う。まるで作られたかのようだ。待て。嫌な予感がする。


「……はじめましてニトです」


「ブレアです」


「あたしは不死王メテオストライクブースター! この世の──」


「アルマさんはこの秘密の花園で育ったのですか?」


 メスブタは愕然とした顔を見せ、そのまま項垂れた。自己紹介を潰したらどうなるんだろう、ぐらいの気持ちだったのだが。俺の好奇心がすまんな。だが、この自己紹介をちゃんと聞くのは年に一回くらいでいいかなとも思う。遮っていきたい。ふむ。そうなると、ちゃんと自己紹介できてしまった時の顔も見ものだな。言い切ってしまった事に慌てふためきそうだ。


「はいなのです。アルマはこの秘密の花園で父上に育てられたのです」


 可哀想に。俺なら父親が幼女にムチで叩かれて喜んでいる姿を見るなど耐えられない。しかもボンテージ姿だ。


 アルマは普通の村娘のようなゆったりとしたロングのワンピースを着ている。なんというか、普通に可愛い子の頂点だな。


「はは。ニト様方は戸惑っておいでのご様子。ご説明しましょう。アルマには母親はおりません」


 無性生殖か。


「実はアルマはホムンクルスなのです」


 衝撃の事実──って程でもないわな。作ったっぽい感じがむんむんした。ここまで誰も嫌いじゃない女が存在するわけない。どこの国にいってもマイノリティな性的嗜好を持つ人以外はだいたい好きだろう。


 だがホムンクルス。人造人間。賢者の石と比肩する錬金術師の夢だ。それが目の前にある。さすがは亜神だな。ここまでの完成度でこの可愛さ。


 ホムンクルスをたくさん作ればハーレムも簡単だな……。動くラブドールか。超高級品だな。どうやって作るんだろ。


「ニト」


「失礼」


 ブレアさん、さすがです。


「ええーと、それで何故このタイミングで紹介を?」


「ああ、これは失礼。肝心なことをお伝えしておりませんでした。娘は生まれて以来、この狭い世界で過ごしてきたわけですが……」


 まあ、無限の広さではあるが。文化的には狭いよな。変態しかいないわけだし。


「皆様の脱獄に連れて行って欲しいのです。どうにか、広く多様な人間界を見てきてほしい。世界の広さを知ってほしい。ただ、親として、父としてアルマには自分の可能性を広げて欲しいのです」


「父上……」


 アルマは涙を流していた。心が痛む。ホムンクルスも生きてるんだな。ラブドールなんて思って申し訳なかった。彼女は一人の自我を持つ女性なのだ。


「アルマは私の性処理用に作りましたが未使用です。旅の途中に催したら使ってください」


 ラブドールじゃねーか! 感動して損したわ。やはり精神衛生的にNGの方向に倒してきやがった。


「えっと、いいんですか?」


「それもまた、いいのではないかと」


 おっさんも特殊な性癖をお持ちだ。


「アルマさん的には?」


「お断りなのですが?」


 アルマの冷めた顔は俺のハートを粉砕した。

 ダメじゃん。ラブドールなのに。ラブドールなのに。ああ、いや一人の自我を持つ女性だった。反省だ。



「変質者さん、注意事項」

「アルマの取説」


 幼女様方からご高説いただけるようだ。何用でしょう。


「ダンジョンを一年踏破しないとアルマは自爆するよ」

「仲間が爆発するのは寝覚めが悪いね」

「だらだらしてたら時はすぐにすぎる」

「ちゃんと仕事するための保険」


「アルマは死にたくないのです」


 なんと下衆な。こいつら邪神か。


「一緒に行くしかないんでしょう? わかりました。ダンジョン踏破の方はかなり気合を入れないといけませんが……その辺りも情報をください」


「もちろん」

「私たちが見たいのは変質者さんの苦悩じゃない」

「ヘレンが堕ちていく様を見たい」

「楽しみ」


 やはり邪神か。まあ何でもいいが。



 つまりこういう事だ。


 ニト:変質者(最高峰)20歳。童貞。壊れた魂と狂ったスキル!

 ブレア:魔法使い(最高峰)200歳ぐらい。処女。トラウマ作りが得意!

 メスブタ:格闘家(最高峰)数百歳。処女。頭が悪い!

 アルマ:ラブドール(最高級)15歳? 未使用。ラブドール。爆発する!


 これが俺たち脱獄&ダンジョン踏破パーティだ。物語では勇者、戦士、魔法使い、僧侶が王道と聞くが、変質者、魔法使い、格闘家、ラブドールと中々にバランスのとれたパーティだ。


 一人一人がその道を極めたエキスパートなのだ!



 そう勢いで考えてみたものの、冷静になるまでもなくバランスなんて皆無だったとすぐに思い直すのだった。


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[一言] パーティのメンバー酷すぎて草
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