あたし……バカだからさっ!
焼肉をおいしくいただきながら皇族の皆様のご尊顔を拝する。
ステラ皇女、アルフレード皇子、不死王メテオストライクブースター。
メスブタの名前マジでどうなってやがる。冷静に並べると違和感が爆発する。
「あはははははっ!」
口のまわりを肉汁でべとべとにしながら高笑いするメスブタさん。元気いっぱいだな。
それを見ていたアルフレード皇子が真剣な顔で俺に問いかけてきた。
「なぜ……彼女はなぜ笑っているのだ?」
「さあ?」
「わからないのか」
「ええ。ですが、メスブタの笑顔はかわいい。それだけわかればいいと思っています」
「そ、そうか」
「はい」
「あははははははっ!」
もう、うるさいなメスブタ。せっかくいい話をしてるってのに。
「ボクはこれほどに美味い肉を食したのは初めてだ!」
「某も初めてでござるぅ」
肉に満足して笑うステラ皇女はかわいい。それに相槌をうつノブナも幸せそうな顔をしている。
これこそダンジョン攻略の醍醐味というものだ。
「さて、そろそろ食後のお茶でも」
「あははははははっ!」
メスブタの笑い声をBGMに俺たちはティータイムだ。やはりダンジョンはいい。
ステラ皇女はちゃっかりアルフレード皇子の横に座っている。
マジで結婚するのか。皇族の結婚ってそんな簡単に決められるのか?
俺には関係ないが……しかし考えてみると高貴な人が多いな。
皇族三人はもちろんだし、その護衛もそれなりの地位だろう。
ブレアももともとは貴族だし、アルマも亜神の創造物だし。
ただの村人って俺ぐらいじゃなかろうか。あれ? 俺ってすごく一般人だ。
「ブレア、大変なことに気付いたんだが――」
「いいえ、あなたは変質者よ」
「あ、そっか」
そうかそうか。俺は一般人ではなかったな。
いや、しかし皇族の皆様は不思議だな。
というかメスブタが規格外に不思議だ。頭のネジが外れているとかいうレベルじゃない。
分解しては作り直し、分解しては作り直し、少しずつ部品をなくして最後には頭の形になっていればいいやって感じで
規格外とか言ったけど、規格という言葉に申し訳ないぐらいだ。
考えれば考えるほど不思議だな。名前も自己紹介も不思議だし。
「…………メスブタの自己紹介って変だよな」
「えっ!?」
驚くメスブタ。
自覚していないとは思っていたが……やはりか。
メスブタなんだからもっと卑しさ全開でヨダレたらしながら
『くだしゃい! くだしゃい! ほしいんでしゅぅ!』
な感じの自己紹介をしてほしい。そしたら俺だって色々あげるのに。
というかもらってほしい。いろいろと。こっちの準備は万端だ。
「もっと卑しくしてもいいんじゃないか?」
「えっ! 卑しくっ!?」
「そう、卑しく。卑しさが足りないよな?」
横で聞いていたブレアとアルマに問いかける。
「卑しさはどうでもいいけれど、珍しい自己紹介ではあるわね」
「メテオちゃんらしくて元気でいいと思うのです」
「そうか? まあそうかもな。でももっとよくできる気がするな……なあメスブタ。ちょっとやってみてくれないか?」
「わかったっ! ちょっと待っててくれっ!」
そう言うや否や視界からメスブタが消えた。文字通り消えた。
え? どういうこと? なぜ消えたのか、どうやって消えたのか。何も分からない。
「消えたわね。何がどうなったのかまったく見えなかったわ」
ブレアは無表情で虚空を見つめている。
「何をしようとしているのです? 自己紹介をするのに消える必要があるのです?」
アルマはきょろきょろと周りを見回している。ちょっと期待している表情だ。こういう時のメスブタは突拍子が無いからな。
「もしかして登場シーンからやろうとしているのか?」
そこまでは望んでいなかったが……。
数秒待つ。
「……まだなのです?」
アルマがしびれを切らしたように言う。俺も同じ気持ちだ。まだか。
そこから数分。
「…………来ないな」
さすがにおかしいぞ。どこに行ったんだ。溜めすぎだろう。
しかし、そこからさらに数分待ってもメスブタは現れなかった。
「…………もしかして迷子になってるんじゃないかしら?」
「それだ!」
「それなのです!」
「くそ、ダンジョンの中でやるべきじゃなかった……!」
思いがけないピンチに陥ってしまった。まさか自己紹介がこんな事態を招くなんて。
マナフィールドを広げ、気配を探る――――いた!
「ていうか、ちかっ!」
広大なダンジョンを探索する心づもりでいたのだが、角を曲がったところにすぐにいた。
駆けつけると、そこには目をつぶり、静かに立つメスブタが。
「立ったままお昼寝タイムか?」
「この状態に至る思考回路が謎なのです。自己紹介をお願いしたはずなのです」
「とにかく起こそう」
「任せるのです。メテオちゃん……」
アルマがメスブタを揺さぶる。
――カッ!
そんな擬音語が聞こえてきそうな勢いでメスブタの目が開いた。
そして、叫ぶ。
「あたしは不死王メテオストライクブースター…………この世の生を砕くものだっ!」
「今かよ!」
「驚いたのです……っ! ちょっとおしっこがパンツに染みたのです」
ア、アルマ……! そのパンツがほしい。ほしいよぉ。
「ニト、随分と卑しい目をしているわね」
ブレアが凍てつく視線を俺に向けていた。
「あ、いえ。へへ…………」
適当に笑ってごまかす。俺が卑しくなってどうするんだ。
「どうだっ!? 自己紹介だっ!」
「自己紹介の話の前に、なぜこんなところで待っていたんだ?」
問いかけるとメスブタは首を傾げ、そして唸り、答えた。
「英気を養っていたっ!」
「んん?」
これはゴールが見えないぞ。果てしない道のりになりそうだ。
「ニト、それはもういいんじゃないかしら」
「そうだな。それよりも改善だ……アルマ。何かアイデアあるか?」
「もっと背後で爆発した方がいいのです」
「なるほどっ!」
メスブタに提案するには危なすぎる内容だな。
爆発か……あれ?
「メスブタは?」
「いないのです」
「消えたわね……」
直後。響く轟音、そして土煙の中からメスブタが現れた。
「あたしは不死王メテオストライクブースター…………この世の生を砕くものだっ!」
「やるのかよ!」
いや、しかしダンジョンを破壊しすぎだって。
これだと…………。
「ダンジョンが削られていると思ったら……また貴様らか」
ヘレンちゃんが来ちゃったじゃんよ。
結局また二か月も空いてしまいました。。。すみません。
いつもいつも読んでいただきありがとうございます。感謝しています。
なんとか完結までの道筋をたてましたのでもう少し頑張ります。
主要な謎を数話でさっと終わらせて、目的も何もない後日談を続ける感じで。
あと、以前に必死の宣伝をした作品は迷走の末、改稿しまくって完結まで書いて予約投稿しました。「三姉妹が夜になるとエロくなるファンタジー」
ついでに、GA文庫大賞応募のため削除していた作品が三次選考で落選したので改稿して投稿しました。「美女が暇そうにしてたので声をかけたら元暗殺者だった」




