エッチの旅路
WowWowWowWow…………エッチの旅路、イェーイ!
俺たちはどこへ向かうのか、それは気の向くまま、夢の向くまま
ふふーん、ふふーん、あはーん、ははーん……
イエーイ!
そこにゴールは無いんだぜ
だけど、いや、だからこそ!
どこまでもいけるんだぜぇいえいえいえいえいえいーい!
明日、晴れだったなら、ボクは汗に濡れた君の素肌を見に行こう
明日、雨が降ったなら、ボクは濡れた君のシャツを見に行こう
明日、曇りだったなら、ボクは途方に暮れるだろう
雨よ降れ! 雨よ降れ! 雨よ降れ! ざあざあと! 突然の! 土砂降りで!
ふふーん、ふふーん、あはーん、ははーん……
イエーイ!
「終わりはないんだぜぇ! 透けたシャァツ!」
……おっと、思わず叫んでしまった。
みんな何事かと俺を見ている。
「どうしたのです? 気持ち悪いのです」
青ざめてドン引きのアルマ。
「なんだっ! 必殺技かっ!?」
ワクワクするメスブタ。
「あたまおかしいな!」
真顔のステラ皇女。
「素晴らしいシャウトでござった、ニト殿」
頬を染めたゴリ……もといノブナ。
そして、ブレアはというと。
「厄介よね。喉をつぶしたとしても聞こえてくる唄なんて。脳をグリっとやれば良いのかしら」
グリッとね。そう、それなら俺も頭の中で唄うことは無くなるだろう。
代わりに俺の葬式で誰かが歌ってくれることを期待しよう。
テンションが上がりに上がっているのだ。しょうがない。
結婚の話なんてするもんだからすごくエッチな気持ちになってしまったのだ。
いや、ちょっとした幸福感みたいなものもあったけどそれ以上にエッチな気持ちになった。だって一緒に住むじゃん。同じ部屋で、同じベッドで眠るじゃん。エッチな事象が発生する確率が上がるじゃん。世は大エッチ時代。この世のすべてがそこにある、的な。
なぜかものすごい形相で俺を見つめるゴリラ。嫉妬か? それとも発情しているのか? 必死に気付かないふりをしながら、俺はエッチな気持ちにひたった。
未だ俺を訝し気に見つめる仲間たち。
気にせず、ダンジョンへと向かう通路を進む俺。
そう、考えてみれば俺は驕っていたのだろう。ブレアとの性的経験が二回ある事に。
慣れ親しんだ『童貞』と、異なる道を進むことを選んだ時、俺は大きく成長したと思ったんだ。
それは、ゼロと一に大きな違いがあると思ったから。
一回もしたことない奴と一回でもしたことがある奴は大きく違う。
そう思っていた。でも考えが足りなかった。
一と二の差も果てしなかったのだ。
二と三の差も。
この旅路に終わりはない。
どこまででも行けるのだ。どこまでも行かねばならない。
エッチな時間とは夢幻だ。無限に続くようで儚い。夢から覚めれば現実か幻かも定かではない。
ならばこそ、童貞と非童貞にどれほどの違いがあるというのだろうか。
俺から言わせれば、エッチをしていない時間はすべて童貞であると同義なのだ。
俺はいま童貞だ。聖を求めて旅する少年だ。
いえいえいえいえい…………
「やめてくれないかしら?」
「あ、ごめんなさい」
留まることを知らないテンションが頭の中でメロディを奏で続ける。
自分に吟遊詩人の才能があったとは。いやはやわからないものだ。
「ついたぞっ!」
おっと、もうご到着か。よっし、さっさと終わらせて夢のひと時へと旅立てるようブレアをお誘いしよう。
「ブレア、さっさと終わらせるぞ」
俺は今、これまでの人生で一番優しい顔をしている自信がある。
「私はいまあなたがこの世に存在した記録をすべて、マナごと消滅させてあげたい気持ちよ」
ブレアも優しい顔をしていた。彼女なりのやさしさで言ってくれているかもしれない。優しさとは奥が深いな。好き。
やはりゴリラが凄い目でこっちを見ている。見るな。
「はいるぞ!」
俺たちのやり取りに辟易した様子でステラ皇女が入っていった。
門番からは特にとがめられることは無かった。
俺たちもつられてダンジョンの中に入っていった。
*
「わぁ…………きれいなのです! これだけで結構な金になりそうなのです!」
後半が無ければ良いセリフなのだが。
――水晶の大迷宮クリスタ。
それは旧世界の超文明の遺物の宝庫だ。ただし、その遺物を持ち帰るのは容易なことではない。
魔物よりも多く存在するガーディアンの存在だ。
ガーディアンはゴーレムのようなものらしい。そして、クライトン皇族がいる場合、その周辺には攻撃をしない。
その理由はこの文明の支配者がクライトン皇族だったからだと言われている。
クライトン皇族以外は入れない決まりになっているが、一般探索者が入れたとしても生きて帰ることは容易ではないだろう。
さて、そんな迷宮の中がどうなっているかだが……それは幻想的の一言に尽きる。
四方八方がクリスタル――恐らく以前、悪魔村3で目にした強化クリスタルガラス――に覆われていた。
恐らくダンジョンの殆どが遺物なのだ。ヘレンちゃんもすごいものを掘り当てたな。
「すごいわね。周囲のほとんどが遺物なんじゃないかしら?」
「持ち出して研究でも進めようものなら神々の逆鱗に触れそうだな」
ステラとノブナが不思議そうな顔をしているが説明するのが面倒くさい。今はエッチなこと以外はどうでもいいのだ。
「そうね…………持ち出しちゃいけない理由とかあるのかしら?」
「クライトン皇族家の決まりでな! この遺物はすべてこの帝都のインフラ維持のためだけに使われるものでみだりに持ち出したりしてはいけないと!」
ステラ皇女が答えてくれた。
「ああ、なるほど。じゃあ研究者とかは中に入ったりしないのか?」
「遺物に触れるとクライトン皇族の者がいてもガーディアンが攻撃してくるんだ! 戦闘職だけならまだしも、研究者を守りながら調査するのは困難だな!」
「なるほど……」
いくつか抜け穴がありそうな気もしたが…………もしかしたらかつての皇族か誰かが、神の怒りに触れてクライトン帝国が滅びないように、遺物を使えないようなルールと仕組みを作ったのかもしれない。
奥に行けば魔界村もあるかもしれない。そこで情報収集できることを期待しよう。そしてさっさと帰ろう。
とにかく今回はアレだ。
「さっと奥まで行って、さっと帰ろう」
このスケスケダンジョンとはさっさとお別れしよう。指輪を買いに行かねば。
エッチの旅路はつづく。
いつ言ったらいいのかわからなくて言い忘れてましたが、書籍は3/25発売です。
書籍名にあわせてタイトルも変えました。並び替えたというか。
イラストもみんなかわいく仕上がっていて、特にブレアはヤバいです。
可愛すぎて仕事する暇もないほど眺めています。
皆さんもきっとそうなると思います。(呪い)




