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プロポーズみたいな


「すごく良い出来の銅像だな」


 等身大と思われるサイズの銅像で、顔にはしわまで刻まれている。見事な出来だ。


「懐かしいなー、うんっ!」


「父上はどんな人だったんだ?」


 変態だったのはわかっているが。どんな変態かな。


「そうだなっ! よく殴られたっ! 訓練だっ!」


「そ、そうか。姫君にも厳しい皇帝だったんだな」


 本当に訓練だったのか……聞くことはできない。


「なあ、長生き様! 皇帝と直に接するぐらいだから当時から継承権は上位だったのか!?」


「前も継承権一位だったっ! ずっとだっ!」


 ステラ皇女がメスブタに質問すると、メスブタは得意気に答えた。

 ずっと一位だったのか。継承権の判定基準に知能指数が入っていないのが問題だな。


 ふと思い立ち、近くにいたメイドさんに尋ねる。


「そういえば、これはどれくらい前の銅像なんですか?」


「はい、そちらの銅像は700年前に作られたと言われております」


「マジか」


 メスブタの生誕が数百年前ということはわかっていたが、改めて700年といわれるとビビる。メスブタって約700歳だったんだな。約700歳の年頃の娘だ。


「700年とは結構な年代物の銅像なのです。いくらぐらいの値がつくのです?」


 とんでもない事聞くやつだな。仲間が作った思い出の品だぞ。


「国宝ですので値はつけられません」


 メスブタが国宝級の像を作っていたとは驚きだ。


「なるほど、値が付かないのです? ならばゴミなのです」


 おおぅ、もう、この娘は……。


「同意だっ! 父上本人ならともかくこんなのはゴミだっ! 捨てたはずなのになっ!」


「そうなんだ? ここまでの完成度の皇帝の銅像が捨てられてたら見つけた人もびっくりするよな」


 もしかしたら何かの間違いで罰せられたりすることを恐れるかもしれない。

 そんで綺麗に磨き上げてしまうかもしれない。

 さらには飾ったりしてしまうかも。

 そして伝説へ――


「あ、メスブタ。この銅像はどうやって作ったんだ?」


「鍛錬だっ!」


「えっと?」


 まったく意味が分からない。鍛錬で作った? 器用さを鍛えていたのか?


「7歳の頃だっ! 父上と鍛錬を続けるうちに、父上の形を拳が覚えたっ!」


「え、怖い」


 ぞっとする。そんなことある? 拳が父上の形を覚えるってことは余すことなく父上を触ったってこと? 怖くない?

 だとしたら、父上がメスブタを殴るのと同様にメスブタも父上を相当数殴っていたのだろう。父上、頑丈だな。まあ、7歳のメスブタならまだ殺傷力もそれほどではなかったのかもしれないが。


「それで父上を殴る感じで銅を殴ったらできたっ!」


 飛躍がすごい。皇帝像制作の工程を整理しよう。

 1.父上を殴りまくる ※同時に殴られる

 2.拳が父上の形を覚える

 3.銅の塊を殴る

 4.かんせい!


「うーん、やばない?」


「「「「「やばい」」」」」


 俺がみんなに問いかけるとみんなはそろってヤバいと回答してくれた。

 満場一致でやばい。この一体感、大事にしよう。俺たちはチームだ。

 幼い頃にこの完成度の高い銅像を作ったのだ。何という器用さ。そして拳で相手の形を覚えるという恐ろしさ。


「そうだっ! 墓参りに行きたいなっ!」


 唐突にメスブタが大声をあげる。いつものことながらびっくりするんだよ。

 しかし、墓参りか。行ってもいいな。立派な不死王になりましたよってお披露目しないと。でも、卑しいメスブタにはまだなれていないです、って。


「墓はどこにあるんだ?」


 俺の疑問にはステラ皇女が答えた。


「ダンジョン内にあるぞ! 代々の皇帝はダンジョンの奥に埋葬されるのだ! そういう意味もあって皇帝になるものはダンジョンへ潜る能力が求められる!」


 なるほど、墓参りもできないやつは皇帝になれないということか。


「へー、じゃあさっそくダンジョンに行くか?」


「まて、まだ準備ができていない!」


 ステラ皇女は慌てて答えた。だがダンジョン攻略に準備をするのはまだ素人だ。上級者は家に帰るようにダンジョンに入る。


「大丈夫だ。すべて現地調達可能だ」


 唖然とするステラ皇女。


「ダンジョンだっ! 迷宮クリスタはこっちだっ!」


 あ、メスブタは知っているのか。メスブタが俺たちを先導しているのに違和感を覚える。

 ステラ皇女とノブナは不安そうについてきている。


「えーと、メスブタ頼む。ステラ皇女も、道を間違えてたら教えてくれ」


「あ、ああ!」


 部屋を出て右へ進む。どうやら間違っていないようだ。覚えていたのか、野生の勘か。


「行こうっ! 父上、元気かなーっ!?」


「死んでると思うが。墓参りに行くんだよな?」


「そうだったっ! 元気で死んでるといいなっ!」


 それはどんなステータスなんだろう。

 死んで元気でいられるタイプの存在だったのだろうか。


「某は700年前の皇帝がどのような覇道を歩んだのか聞いてみたいでござる」


 ノブナちゃんは覇王マニアだもんな。気になるよな。


「そうだなっ! 良い縁が自らを良き方向に導くと言っていたっ! 特に結婚は国を治めるうえで重要だとっ!」


 意外に真っ当なことを。


「なるほどでござる。それには某も納得…………」


 こっちを見るんじゃねぇ!

 ノブナから目を背けるとブレアと目があった。思わずつぶやく。


「結婚か……」


 するならもはやブレア以外は考えられないな。


「…………」


 あ、ブレアの耳が赤い。かわいい。黙っていると思ったら照れていたのか。


「何言っているの? 照れていないわよ。花嫁姿を想像してしまってちょっと気恥ずかしくなっただけよ。心の底がじんわりとあたたまるような幸福感に包まれているだけで照れてはいないわ」


 ブレアさんは無表情でそう言いなさった。


「それは照れているというのでは?」


「違うわ。幸せを感じたのよ」


「あ、そう」


 あれ、もしかしてこれってプロポーズだった?

 言うつもりは無かったけど読まれてしまったのだからしょうがない。


「今度やり直しを要求するわ」


「あ、はい。それはもちろん」


 とはいえ、返事が『はい』なのは目に見えているのだけれど。


「侮らないでくれるかしら?」


「侮る、とは?」


 俺ごときに『はい』は出さないということか?

 でもさっきめっちゃ照れてたし。


「条件によっては調整が必要となる可能性もあるという事よ」


「なるほど…………条件ね。例えば何を決めるのだろうか?」


「そうね。私を気持ちよく感じさせてくれること、が必須条件かしら?」


 え、何それ! 喜んで!


「墓参りは明日にしよう。宿に行こう!」


「死神を殴り殺してくれたらすごく気持ちいいわ」


 あーそっちかー。


「ちょっとそれはいつになるか分からないからもうちょっとハードルを下げてほしい」


「じゃあ…………」


 ブレアが続きを言おうとしたその時。


「ちょぉっと待ったぁ! なのです」


「どうしたアルマ」


 今大事な話をしているのだから金の話はあとにしてほしい。


「二人だけの世界に入っちゃってずるいのです!」


 あーそっちかー。


「アルマも何か役割が欲しいのです」


「第二婦人とか?」


 二号だ。小ハーレムだ。


「そういうんじゃないのです。わかってないのです」


 はー、とため息をつきながら真剣な顔でアルマは続けた。


「彼女、なのです」


 止まる空気。何言ってんのこいつ。


「え、彼女? 妻がいるのに彼女はちょっと…………待てよ、ハーレムはどうしたらいいんだ? 許されるの?」


 俺、ハーレム作りたくて頑張ってたじゃん。


「作ればいいんじゃないかしら? その辺も条件次第よ」


「何それめちゃくちゃ難しい」


 ブレアが俺を殺さないようなちょうど良い条件を考えないといけないのか。


「じゃあ、彼女も問題ないのです。聞くところによると、彼女が一番お金をもらえる存在らしいのです。妻より彼女なのです」


「金かよ。まあ想定の範囲内だ。でも、彼女ってことは――」


「体の関係はノーサンキューなのです。でもプレゼントはいつでも受け付けるのです」


 言い終わる前に断られた。ブレアみたいに心を読まれていなくても考えは読まれるんだなぁ。

 けど、その関係って俺のメリットは何だよ。


「あたしはなんだっ!」


 メスブタか…………。


「ペットかな」


「ペットか……えへへ」


 首輪を撫でながら照れるメスブタ。こいつは体の関係はあるのだろうか。ペットと体の関係とか退廃的だけど、興奮する。あ、魔法王は元気かな。


 首輪か。そういえばプレゼントしたな。

 アルマにも耳かきをプレゼントした。

 ブレアには…………ありゃ。


「いいのよ?」


 ブレアの顔からはどことなく冷たさを感じる。


「ゆ、指輪を! 始めてのプレゼントは最高のシチュエーションで指輪を!」


 俺がそう言うとブレアはこれまでに見せたことが無い、柔らかな笑みで答えた。


「楽しみにしてるわ」


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