表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/158

ウボウボ、ウッボウッボ


「メテオストライクブースターさん」


 ブレアが前に出た。いきなり殴られることは無いと判断したのだろう。メスブタはキレると同時に殺っちゃうタイプではないと思うが、まともな心を持っているとは思えないので油断はできない。と言っても死ぬことがない環境なので過度な警戒は不要だと思うが。


「ブレア、だったかっ!? なんだっ!」


「ええ。これまで会った他の囚人とは協力したりしなかったのかしら?」


「あるっ! 数十年か数百年ぐらい一緒に行動したことがあるっ!」


 メスブタと数十~数百年か。楽しく過ごせそうだな。いや、耐性がない人にはキツいかもしれない。イライラするだろうし、限界に達して『黙れやメスブタ』とか言って殴ったとしても笑顔で正座してそうだ。なんかかわいそうだな。


「ニト、人をかわいそうだなんて簡単に考えちゃだめよ。私は2人ともそのままで良いと思うけど。さて、メテオストライクブースターさん。協力は不可能ではないのね。他の囚人も目的は脱獄だったのかしら?」


 思考をいとも簡単に読まれたことに愕然とするも、そんな俺を無視して会話は進んでいた。いったい何が起きたんだ。200年も閉じ込められていたのに対人スキル高すぎだろ。


「その通りだっ!」


「なるほど。言いにくければ答えなくても良いのだけれど、どういう理由で別れるのかしら?」


 牢獄に来る理由じゃなくて別れる理由か…………ああ、そうか。協力関係について知りたいからか。目的が同じでも協力できなくなるパターンが知りたいと。性格の不一致とかな気もするがな。

 もしかしたらそれなりに連携して脱獄をはかる組織だった集団もいるかもしれない。


「えーとえーと…………一番行動が長かった人は、マナと同化した」


 一転してメスブタは神妙な面持ちでブレアを見つめ答えた。名前のせいで締まらんな。神妙な面持ちのメスブタってなんだよ。


「…………そう」


「最後に『生きる理由が強くないとダメなんだ』って言われた」


 しょうがないか。数百年、普通なら死んでいる時間だ。家族も知人も生きてないだろう。故郷も無ければ、国も、何もかもが違う世界になっている可能性もある。生きる理由なんてものは『今生きているから』以上のものが無いのかもしれない。


『生きる理由が強くないとダメなんだ』


 この言葉は重い。収監4年の俺は若造もいいとこだな。せいぜい妹が肉体的に年上になった程度だ。肉体的に年上の妹か。不思議だな。


「他には方向性の違いとか飽きたとか笑いのツボが違うとか色々あった」


 重いところから入って他の理由が全部軽かった。だが、そうでなきゃやっていけないのかもしれなき。何も変わらないこの世界で、死にもせず狂いもせず、生きもせず。


「軽いのね」


「まぁなっ!」


 なんで照れてんだこいつ。まだ会ったばかりだが、数百年だかの年月をこんなとこで過ごすと感情は歪なものになるのかもしれない。

 もっとも俺はブレア製の人工破壊魂で成り立っているのでもっとおかしなことになりそうだ。前にも増して変質的になっている気がする。


「じゃあ、今度は私たちと一緒はどうかしら?」


「ブレア?」


「ニトはダメなの?」


「…………いや、ダメというか……」


 ダメじゃない。可愛いもん。連れて歩きたい。ブレアとメテオを連れて地元を練り歩きたい。羨望の眼差しを受けたい。ゴブリンのハーレムじゃなく、ちゃんと美少女を連れて凱旋したい。

 いつかこの美少女のピンク髪を掴んで引きずり回したい。できるなら鞭で尻を叩いたりしたい。あちこちペロペロ舐め回して『臭えんだよメスブタがぁっ!』て罵倒したい。


「ダメじゃなさそうね」


 ブレアの視線は凍えるほど冷たく、俺の股間に向けられていた。

 気付けば、意図せず俺のデュランダルが抜剣状態だった。ちがうんだ! 攻撃の意思はない。身体が勝手に反応したのだ。達人によくあるアレだ。

 メスブタにバレぬように体の角度を変える。


「私たちは貴女が一緒だと助かるのよ。長くこの牢獄を探索している先駆者がいると心強いわ」


「いいぞっ!」


「わあ。嬉しいわ」


 ブレアの『わあ』は無感動すぎる。棒読みだ。

 そしてメスブタも簡単だなおい。


「ニトはいいかっ?」


「いいわよね?」


「ああ、もちろん構わないさ」


 美女が二人になるのに断る理由があるものか。一国を容易に壊滅させることができる人外が増えることには心理的抵抗はあるが…………精神的に壊れ気味なところもどうかと思うが…………それ以上に美女だからオーケー!



 その後、それぞれの情報を共有した。


 まだ完全に信用していないからスキルは最低限だ。ブレアは魔法使い。俺は身体能力が高い一般人。

 メスブタも喋ってくれた。簡単だしな。殴る、あたし、強い。これだけだ。


 さて、得た情報を整理しよう。メスブタは分子分解スキルを得る過程でたくさんの頭のネジを分解してしまったようだ。不可解な感情表現に唐突なオーバーアクションは不気味な迷宮に迷い込んだかのようだった。思考回路そのものが大迷宮クルリアに匹敵するだろうと、俺は冷や汗を流した。その言葉の解読には時間がかかった。わかったことだけまとめる。



 ここは無限牢獄。俺たちと認識は同じ。

 神々がなんらかの理由で人間界においておけないと判断した者を閉じ込めている。他の囚人も神に連れてこられ罪を告げられている。

 殺さないで閉じ込める理由、閉じ込めて死ぬことを許さない理由は他の囚人も含めてわかっていない。

 無限というだけあり果てを見たという話しは聞かない。

 物質機能固定はどこに行っても有効。そのため、メスブタの超再生は正直言ってここでは死にスキル。機能固定の劣化版でしかない。意味なし。さすがメスブタ。絶妙なマヌケさが良い。

 天使は物質機能固定が無効。理由は不明。

 脱獄成功の話しは知らない。消えた者は同化したか、容易には会えないほど遠くに行ったのではないかと思われる。

 出口は……



「出口はどうだ? 噂とか詳しく聞きたい」


「一番巨大な牢獄の天井だとか、ピリオドの向こうだとかっ! いろいろだっ!」


 ピリオドはどこにあるんだろうな。


「うーん、なら天使はどこからくるんだ?」


「わからんっ! 気付いたらいるっ! さっきそうだったっ! よな?」


「現れたところまでは見てなかったな。てことは天使は何処からも出入りできている?」


「そうなのかも? わからんっ! 天使を捉えようとしてる奴もいたっ!」


「方法を吐かせるためか? そもそも天使とは話せるのか?」


 あの見た目で人の言葉を話す気はしない。うめき声とかしか出てきそうにない顔だ。あれ、たまに聞こえていたうめき声はあいつか?


「話せないっ! ウボウボ言うだけだっ! 捕まえると簡単に自殺するっ!」


 ウボウボ言うのか。聞いたことない鳴き声だ。天使って珍しい鳴き声なんだな。

 しかし天使が自殺か。問題はそこだよな。


「そうだな…………天使は死ぬために機能固定が無効化されている?」


「どういうことだっ!? なんでそうなるっ? 死なない方が良いよなっ?」


 メスブタとまれ。と、念じながらブレアを見る。


「かもしれないわね。天使が死ぬ瞬間、あるいは行き来する瞬間に何かしらのヒントがあるかもしれないわ」


「つまり、天使は機能固定の停止権限を有しているのかもな。それ自体が鍵なのかもしれない」


「かと言って私たちが死ねるように変質して自殺するのも怖いわね。正規の手順がわからなければ。そもそも天使は何をしに来ているのかしら?」


 話が自分のわかる領域に帰って来たのが嬉しいのかメスブタは嬉々として会話に参加した。


「うんうん! 気になるよなっ! あたしもわからんっ!」


「そう、わからないのね」


「そうか」


 ブレアの顔から感情は読み取れない。『殺そうかしら?』でもおかしくないし『しょうがないわね、殺そうかしら?』でもおかしくない。いや、『あらあら、殺そうかしら?』かもしれない。

 俺はいつかこいつをアレしてコレしてやろうと決意した下卑た笑みを浮かべている。


「そうだっ! わかんないって言えばわかんないんだが、まず奴らは襲いかかってくるっ! 負けると初めの牢獄に連れて行かれるっ! 聞いた話では鉄格子の内側だと襲われないとかなんとかっ! ……ねっ!」


 けっこうわかってんじゃねーか!


 だが、自分で鉄格子を抜けられる者なら良いが、ブレアのように他者の力で抜けた者には面倒くさいな。これがどこかの牢獄にランダムで連れて行かれるとかなら絶望的な気持ちになるが、幸いどこに収監されるかはわかっているのだ。何の意味があるんだ?


「そう。鉄格子から出た態度の悪い囚人を戻しているのかしら。鉄格子の内側ってどういうこと? ここも鉄格子の内側でしょう?」


 そういってブレアは遠くに見える巨大な鉄格子を指差した。


「最初に入れられた牢獄の鉄格子の内側、だったかなっ! たぶんっ!」


「なるほどね。メテオストライクブースターさんはさっき天使に勝利したけど、その場合はどうなるのかしら? ええっとつまり、何か不都合なこと…………天使に悪さをされたりするのかしら?」


 ブレアもメスブタが会話の迷い人にならないように慎重に質問している。がんばれっ! 伝われっ!


「ええっと。不都合? 悪さ? ない、かな。どうもないっ! 別に後からたくさんウボウボと来るわけでもないし、より強い天使がウッボウッボと来るわけでもないよっ!」


 このメスブタめ。だんだん可愛く思えてきたぞ。何がウッボウッボだ。弱いとウボウボ、強いとウッボウッボなのか。


「何というか、緩いな。天使もそんなにこだわりは無いのか? 部屋で片付けしようとしたら積んでた本が崩れてどうでも良くなったって感じなのか」


「ああ、ありそうね。何となくここの世界観が見えてきた気がするわ。もう少し情報を集めたいけど。まずは初めの牢獄の再確認、出来れば天使の討伐かしら?」


「よくわかんないけど、初めの牢獄の方に行くのかっ? もう行くっ?」


 メスブタは可愛いな。この『よくわかんないけどついてくよっ』て感じが良い。ペットにしたい。というか嗜虐心を掻き立てられる。城(?)の皆さま……お察しします。


「あ、ひとつだけ確認だ。天使はどこにでも現れるってことでいいかな? 初めの牢獄の方だけエンカウント率が低いってことは?」


「ないっ! どこにでもいるっ!」


 どこにでも、か。マナみたいな奴らだな。

『ええ~~。マナあんな変な部屋着なんて着てないもん! マナのは可愛いウサギさんの部屋着なんだからっ!』

 ハハッ、ごめんごめん…………って俺やばいな。ちょっと死にたくなった。こんな時はブレアのご尊顔だ。


 …………美しい。心が洗われるようだ。


 よし、では初めの牢獄への帰還、そして部屋着の天使狩りだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ