表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/158

覇王


「子孫?」


 継承権173位の皇女様に聞きとがめられてしまった。


「あ、この娘ちょっと頭がおかしい娘なんです」


 言い訳の常套句だが間違っていない。


「そう? ボクの親戚にもおかしな人が多くてね! さて、そのノブナを……少女をこちらに渡してもらいたい!」


 いつの間にか周囲には人だかりができていた。まあ、大通りでこんな大捕り物したら人だかりぐらいできるわな。

 『少女を渡してほしい』と聞いて多くの人がブレア、メスブタ、アルマを見ている。追われていたゴリ……少女を見る者はひとりとしていない。


「ええ、皇女様の仰せのままに」


 普通ならこんなところに皇族がいるなんて信じられない。

 だが、周囲の人々は皇女と聞いて『そんなバカな』とはならずに『なんだ皇女か』と言って少しずつ去っていった。なんだこの国。

 とりあえず引き渡すか。相手が皇女様ならしょうがない。


「では、そちらのレディ。申し訳ないが皇女様のお望みなので」


「ひぎゃあああああおやめくだされえおやめくだされえいえいえいうっほ!」


 うるさいな。


「いい……いい叫び声……!」


 その燃えるような赤髪と同じく頬を紅潮させた皇女様は、蕩けた顔でそう宣った。美少女のこういう顔はいくら見ても飽きることない。対してゴリラの怯える顔は何度見ても見慣れることは無い。

 しかし、ゴリラの悲鳴が好みなのか。特殊だな。


「では、我々はこれで」


 理由を聞こうと思っていたけど相手が皇女である以上、聞く必要はない。逃げていたゴリラ・ゴリラ・ゴリラに非があるのだ。


「まあ、待ちたまえ!」


「ぎいやああああああああああああいあいあいあいあうっほ!」


「何か?」


「びいいえええええええひいいいっらあああああうっほ!」


「ノブナ! 黙れ! バナナにチョコかけるぞ!」


「ひっ……ぐぅ」


 レディは押し黙った。どういうことなのか。

 うるさかったから文句はないが。


「じゃあ、ノブナを捕まえてくれた皆さんに説明しよう! 実は継承権争いにノブナが必要なんだ!」


「へえ、そうなんですか」


 173位で継承権争いとかあるのか。そして争いに必要な要素を見ず知らずの旅人に語り始めるのか。知能指数メスブタ以上一般人未満かな。


「確かにっ! パワーありそうだからなっ!」


 メスブタは何かわかるものがあったらしい。


「そう、そちらのピンクの女子の言う通りだ! ボクにはパワーが足りない! 上位の172位までの皇位継承権を持つ者たちとは違う、パワーがない!」


 172位まではパワーがあるのか。これはもしかして謎かけか何かなのか。173位で急にパワーがなくなるのなーんだ! 的な。

 じゃなくてその前に。


「パワーが必要なんですか? 上位の方と殺しあったりしてランキングを駆け上がったりするのでしょうか?」


「おお…………! 物騒な発想をする男だな君は!」


「ニトッ! 力ですべてを解決することはできないんだぞっ!」


 メスブタに言われるとは…………。


「えーと、ではなぜパワーが必要なのでしょう?」


 あまり足を突っ込むのもなんだが気になる。


「皇帝になるにはこの皇都のインフラを維持する超文明の遺物を維持できねばならないんだ!」


「遺物……」


 旧世界の遺物だろうか。しかしこれって公にしていい事なの? 路上の人も聞いているが……あ、うんうん頷いている。常識なのか。という事はこちらの皇女様は常識を得意気に語っているわけか。


「何をするかと言えば、遺物のエネルギーの充填なのだが、それは我が帝国の宮廷クリスタルパレスの地下、水晶の大迷宮クリスタで行われる! 皇族しか入れない大迷宮だ!」


 大迷宮クリスタはクライトン皇族しか入れない。その理由はこの遺物という都市インフラに関わる問題のためだったのか。

 俺たちはさっと侵入して適当に踏破して帰ろうと思っていたが…………あれ、踏破するとまずいことになるのか? 万が一、ヘレンちゃんによってダンジョンが封鎖されでもしたら都市のエネルギーを確保できなくなるのか。


 というか皇女様、いま『我が』って言ったな。自分のモノにする気か。172人を蹴落とす気なのか。


「というわけで継承権争いは多岐にわたるが最も重要なのは、皇都のインフラ維持にどこまで貢献できるか、だ。それにはパワーが重要なのだ!」


 なるほど。無限牢獄に囚われなかったら数百年前の皇帝に女帝メテオストライクブースターなんてのがいたかもしれなかったのか。恐ろしい。

 さっき力で全てを解決できないって言われたけど解決できそうな気がする。なんだったんだ。


「継承権が上位の皇族の方々は国内の腕利きを集めていたりするのかしら?」


「その通りだ! Sランクを配下に持つ者もいる! 正直、皇帝になるのは相当難しい……だが、欲しい! 皇帝の座がほしい! 全部欲しい! すべてを我が手中に収めるのだ! ほしいから!」


 『星を狩る者』さんが全部欲しいと仰っている。星狩りさん…………あ、欲しがりさんか。なるほどね。


「なるほど、それでこの……強そうなレディを」


「ああ!」


「なぜ逃げていたんです?」


「2人で大迷宮に挑戦するのは怖いと! 上位の継承者からの妨害もあるしな! 大迷宮内はさながらデスゲームだ!」


 やっぱり殺しあったりするんじゃねーか!

 だが、そうだな……大迷宮はどうとでもなるが……ちらりとブレアを見る。彼女はうなずいた。


「よろしければお手伝いしましょうか?」


「え? あーむむむ……そうか、確かにノブナをあっさり捕まえるほどの力量! 悪くないかもしれん!」


「力量はあとで改めて証明してもいいです」


「君らのメリットはなんだ?」


 そんなに馬鹿でもないのか。


「大迷宮に入りたいだけですよ。探索者なんです」


 これは本当だ。だがこの手助けでは奥まで行くことはしない。

 そんなことより、皇女様について行けばゆっくりと宮殿を散策できるかもしれない。

 メスブタの実家だ。懐かしい場所もあるかもしれない。数百年変わっていなければだが。


「……わかった! 城で腕を見させてくれ! あ、後ろの君らの名前は?」


「ブレアです」


「アルマなのです」


「あたしは不死王メテオストライクブースター…………この世の生を砕くものだっ!」


 久しぶりに聞いたなそれ。とんでもないドヤ顔でキメやがった。


「か、かっこいい! すごい! くっそぉ! ボクも自己紹介を改善せねば!」


 血か。


「おい、ノブナも自己紹介だ!」


 皇女に声をかけられたパワーレディは、先ほどとは打って変わっておもむろに立ち上がり、自己紹介を始めた。


「某の名は、ノブナガ・オダ・オンザロード。覇王たるノブナガ・オダの末裔。そして最高のパティシエである。得意なお菓子はマカロン。その味はまるでファンタジー。先日まで宮殿の厨房で腕を振るっておったのだが、菓子作りで鍛えた腕が《ウェポンブレイカー》というスキルを得て、ステラ様にお目をかけていただき近衛に抜擢されたのである。今では最高の近衛とも呼ばれておる。だが、某はそれ以前に女子。下校時の寄り道大好き。おしゃべり大好き。トモダチには自分のコトもっと知ってもらいたい。それが好きな人ならなおさら。でも告白なんてとんでもない。そんな勇気は某にはござらん。まずはさり気なく日常で会話するところから。『お、また会ったな』『偶然だな』『おいおい、ここまで来ると運命じゃね?』そんな言葉を投げかけてほしい。そして急接近する二人。その秘訣はマカロン。『お菓子作りも上手いんだな』『おい、ここ……ついてるぜ?』なんていって某の頬のお菓子のカケラをとるお主。触れ合う指先と頬。ときめく二人。近づく顔と顔。某の前髪がお主の艶やかな前髪に触れる。そして――その時のお主のカッコよさたるやランマル・モリも真っ青。あ、ランマルは我が祖先である覇王の良き人である。いや、コアな話題で甚だ失敬仕る。おや、待てよ。先ほど某、お主をカッコいいとか言ってしまったな。何と大胆。まるで祖先の覇王のごとし。これぞ覇王道。初対面で面と向かって好きな人にかっこいいといいなど大胆不敵な奇策と言えよう。あいや、待て待て。もはやさっきから好き好き言ってしまっておるではないか。ここまできては傾奇者でござろう。まるで祖先の覇王のような――」


 誰が止めるんだろう。俺はてっきり皇女が途中で突っ込みを入れてギャーウッホみたいな流れかと思ったのだが。皇女はちゃんと話を聞いてあげている。偉いな。

 だってツッコむところいっぱいあったよ。まず名前。ノブナガ・オダ・オンザロード。オンザロードってなんだよ。ノブナガ・オダが覇王を指すならば覇道の半ばとでも言いたいのか。皇族の前で不敬な名前だな。

 その名前に反してやっていることがパティシエで、得たスキルが《ウェポンブレイカー》だ。

 そこから先はもう…………疲れたよ。


 ノブナガさん、愛称ノブナさんはそれから10分話し続けた。

 意外にもこちらの女子の面々も話をちゃんと聞き続けたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ