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冒険と観光の狭間で


 中央大陸の国家を整理しておこう。

 まずは我らが残念王国トローネ。ど真ん中に位置するにも関わらず自然の要塞に守られ田舎という奇跡の王国だ。ラッキースケベ馬鹿や死神もどきが生息している。

 続いて北西が魔境だ。魔法王ペットを放し飼いにしている。今頃、小便を漏らしてアヘアヘしているだろう。

 西が聖王国アロンドネア、爆乳聖女を穴の中に放置してある。爆乳聖女自身の穴はどうなっているのだろうな。百合ーねさんがどうにかしたのだろうか。

 南方がシルンド共和国。商業が盛んだから商売が得意なお姉様が多いだろう。


 他にも大陸はある。


 南大陸にはガルガッシュ王国がある。煉獄の大迷宮ドレストラがある。ホットな国なので女性の露出は多いだろう。

 西大陸は群雄割拠な感じの土地だ。女騎士とかいっぱいいると思う。えっちだ……。

 北大陸は未開の地だ。冒険者が好んで乗り込む土地だ。原住民はさぞかし迷惑しているだろう。裸の部族とかもいるかもしれない。お邪魔したいところだ。


 そんな中で今回、目的地に選んだのは中央大陸の東方の覇者、クライトン帝国だ。


 理由は二つある。


 一つ目。水晶の大迷宮クリスタの攻略だ。大迷宮というのは各階層がとんでもない広さのダンジョンを指す。グルガンやクルリアも大迷宮だ。大迷宮の方がメスブタが楽しめる可能性が高いし、変質神からもなるべくでかいところを攻略してヘレンちゃんをガツンと穢すように仰せつかっているのでクリスタを選択した。

 なお、クリスタは皇族の継承権争いに使われるため、皇族しか入ることが出来ないという特殊なダンジョンだ。とりあえず無視して突入しようと思っている。邪魔する奴は排除だ。


 二つ目。観光だ。トローネが田舎すぎてアルマが観光できなかったので大都市を希望した。近場の大都市がクライトン帝国の帝都であったために『ちょうどいいじゃん』『そこでいいんじゃないかしら』『たのしみなのです』『実家は久しぶりだなっ!』みたいな感じで決まった。


 一つの目の理由よりも二つ目の理由の方がでかい。


 だが、近場と言っても馬車で一か月半の旅路だ。結構遠い。

 そこで、俺たちは歩いていくことにした。歩いたほうが早いから。

 たぶん半月もあれば着くだろう。

 とりあえず街道を適当に進み、野営したり宿場町に泊まったり、それはそれで観光を楽しみつつゆっくり向かうことにした。それでも馬車より早いと思うけど。

 野営もお手の物だ。魔境で半月ぶらぶらと暮らした経験はでかい。なんせここでは、日常的にドラゴンが現れたり、突然大穴が空いて中から蟻の王が這いずり出てきたり、火炎旋風が巻き起こって炎の魔人がすべてを焼き尽くさんと暴れだしたりしないのだから。


「快適なのです!」


「そうだな、さわやかな風、空で唄う鳥たち、踊る草花、微笑む少女……快適だ!」


「そういう事じゃないのです!」


「え、違った?」


「もっと単純に魔物の気配がないのです。メテオちゃんが忙しなく殴っては戻り殴っては戻り殴っては戻り…………なんてしているのは見ているだけで疲れるのです」


「同意するわ。魔物を倒してくれるメテオには悪いのだけれど、ちょっと疲れちゃうのよね」


「ああ、そっちね」


 それなら納得。毎回、得体のしれない凶悪な魔物を血まみれで引きずってくるメスブタは怖いし、なんか見ていると疲れる。


「そうだったのかっ! すまんっ! こう、遠距離でドカーンとできるようになるべきだなっ!」


「メスブタ…………すごいな。よくそんなまともな発想に」


「へへっ!」


 照れくさそうに鼻をかくメスブタ。こいつは誇っていい。問題と解決策をちゃんと考えることが出来ている。偉い。


「それってすぐできるのかしら?」


「わからんッ! やってみるっ!」


 そう言うとメスブタは拳を構えて力をためるように動きを止めた。

 そして――――


「――せやっ!」


 繰り出された拳は『気』のような何かの塊を飛ばした。

 街道とは別方向の大地に、一本の線が穿たれた。

 どうかこの先に誰も人がいませんように。善良な旅人が死んでいないことを願う。


「すごいけどやる前に一言相談しような?」


「わかったっ!」


「そして、できたわね。遠距離攻撃」


「よく考えたらメテオちゃんって言えば大体の事が出来るのです」


「えっ! 天才なのかっ!?」


「え? まあ、確かに天災と言えばそうなのです」


「そうかそうか……へへっ!」


「ともかくこれで汚れずに敵が倒せるな。もうちょっと威力を絞る練習をしていこう」


「おうっ!」


 なんて話をしながら街道をのんびり歩いていると、宿場町が見えてきた。


「お、あれは……ターネスかな。たしか普通の町だな」


「観光なのです! 名産品を確認するのです! するのです!」


 騒がしいアルマをあしらいながら町の入り口の門をくぐる。

 門番は一人だった。


「ようこそ、ターネスへ。四人か?」


「ああ」


 答えながら入町税を払う。


「ギルドカードや国民証は無いのか?」


「ないな」


 あれば入町税も多少安くなるが、別に金には困っていないので多めに払う。


「ゆっくりしていってくれ」


「あ、そうだ。この街の名産品とかないか? 観光をしたいんだ。景色がいい場所でもいいし、美味い料理屋でもいい」


 門番はしばし思案し、手を打って答えた。


「ああ、ここら辺じゃ綺麗な青い鳥が見れるんだ。町の北に高台があるからそこで空を眺めるといい。運が良ければ青い鳥の群れがみれるはずさ」


「そうか……ありがとう」


 それって天使の群れよりもきれいなんだろうか。

 いや、天使の群れとは闘いがちなので比較対象としては微妙か。


「あと、東の山にドラゴンの目撃情報がある。まあ、どうせワイバーンだと思うが……気を付けるに越したことは無いからな。なるべく近付かないように」


「サンドイッチっ!」


 そうなると思ったよメスブタ。


「東の山ってのは近いのか?」


「…………あんたら行く気か?」


「いや、その予定はないが。聞いてみただけだ」


 行く気はあるが。


「そうか……間違ってもこの街に被害を及ぼすようなことはしないでくれよ? 山は徒歩で半日程度だ。ドラゴンの事なら西区の床屋エリーゼの息子が詳しいからそいつに聞いてくれ」


「わかった」


 そう答えてメインストリートを歩く。アルマが露店に興味津々になり、メスブタがサンドイッチを思ってよだれを垂らし、そしてブレアが言った。


「なんで床屋の息子がドラゴンに詳しいのかしら?」


「……確かに!」


「ドラゴンとかどうでもいいと思っていたけど床屋の息子が気になってきたのです」


「ドラゴンは気になるぞっ! サンドイッチっ!」


「とりあえずドラゴン肉は確保しよう。あとで俺とメスブタで取りに行く。ワイバーンだったら素材だけ売却しておしまいだな。で、問題は床屋の息子だ。暇だし会いに行くか」


「賛成なのです! 暇だからなのです」


「私も賛成よ。暇だし」


「どっちでもいいっ!」


「じゃあ、とりあえず床屋に行くか」


 そして道行く人に聞き込みをしながら床屋エリーゼへと向かった。


「ここか…………普通の床屋だな」


「ドラゴンのドの字もないのです」


「エリーゼだからなっ!」


 メスブタの突っ込みが的外れだ。


「ともかく中に入ろう…………すみませーん。ドラゴンに詳しい息子さんはいらっしゃいませんかー?」


 我ながら床屋に入る第一声としてはどうかしていると思う。

 店の奥に腰かけていた白髪の老人が面倒くさそうにこっちを向き、答えた。


「息子なら今いないぜ。武器屋ディレドにいるはずだ」


「武器屋……ディレドですか」


「ああ、調査だとよ…………」


 ドラゴンを倒すのか? 聞きたいが……楽しみは取っておこう。


「ありがとうございました。武器屋ディレドを訪ねてみます」


 白髪の老人はまた面倒くさそうにそっぽを向いた。

 店を出ると、メスブタがそっと俺にささやいた。


「今度はドラゴンのドが入っている店だったなっ。期待できるぞっ」


 …………ああ、ディレドのドの事かな。

 そして武器屋についた。先ほどと同じように尋ねる。


「床屋の息子さんは――――」


「さっきまでいたんだけどな。空の様子を見るって言ってどっか行っちまったよ」


 空の様子か。北の高台か?

 四人でうなずきあい、そして俺たちは高台に向かった。


   *


 高台はきれいに整備された観光名所のようだった。

 カップルが数組いる。空を見上げれば早速青い鳥が目に入った。確かにきれいだ。だがすぐに見つけすぎて感慨もくそもない。


「青い鳥なのです。この町での観光クリアなのです」


「あっけなかったわね」


「あ、あそこに一人で佇むいかにも怪しいこわもてのおっさんがいるぞ」


 スキンヘッドにひげもじゃ、武装したおっさんがいた。

 カップルだらけの観光名所で寂しくならないのだろうか。

 とりあえず声をかけよう。


「あの、すみませんが床屋エリーゼの息子さんでしょうか?」


「……ああ、いかにも僕が床屋の息子だよ。君らは?」


 見た目に反して物腰柔らかだな。


「旅人です。今日この町にやってきました。門番の方から床屋エリーゼの息子さんがドラゴンに詳しいと聞き、完全なる興味本位であなたを探していました」


「そ、そうか……完全なる興味本位か」


 床屋息子殿は戸惑いの渦中におられるようだ。

 用事は無いけど探してたみたいな感じだしな。そりゃ戸惑うわ。どんだけ暇人なんだよって。


「他意はありません。ただ、なぜドラゴンに詳しいのか教えていただきたく」


 気になるだけだが……アルマが興味津々だ。身を乗り出している。


「俺はな……床屋なんだ」


「あ、冒険者とかではないんですね」


「冒険者なら冒険者と呼ばれるだろう。あくまでも俺は床屋の息子だよ」


「なるほど」


「それで、爬虫類博士なんだ」


「爬虫類博士」


 なんだそれ。


「ドラゴンって爬虫類だろ?」


「そう……なのか?」


「そうなんだよ。俺の中では」


「爬虫類って毛が無いだろ? 散髪できないんだよ」


「ああ」


「だから調べたんだ」


 ん?


「散髪できないから……どうするんです?」


「いや、特にどうもしないが」


 どうもしないのか。動機が分からないし、この人が何をしたいのかもわからない。


「詳しい、と聞きましたが、ドラゴンの何を知っているんですか?」


「本に書かれていること程度だな。戦ったことがあるわけじゃないし」


「そうですか……」


「そうだなぁ……」


 なんだろう。話が終わった。もういいかな、コレ。


「じゃあ、その、頑張ってください。俺たちはこれで」


「ああ、さようなら」


 そして俺たちはその場を離れた。


「俺たちには関係ないしな。良かったよな?」


「床屋の息子が気になっただけなのです! スッキリしたのです!」


 ええ……モヤっとしたけど。


「たらい回しも期待外れの結果も観光の醍醐味なのです。みんなありがとうなのです!」


 言われてみるとそうかもしれないな。

 そしてその日はそのまま宿をとり、さっとドラゴンを狩ってきて、なんてことない話をして眠るのだった。


 しばらくサンドイッチだな。


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