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ゾンビとハミチチの予定


 パンツのシミ。


 それは偶然のアート。意図せず形作られるそれは大自然の雄大な景色に匹敵する。

 そんなアートにインスパイアされてやってしまいました。

 今パーティ全員の女子のパンツには俺のアートが刻まれている。


 何だろうな。あとで怒られるのかな、俺は。


 でも乾かしたじゃん? やさしさあふれてるじゃん? それでも怒られるのかな?


 怒られるよなあ。だってパンツのシミだし。


 いや、みんなそれが俺の仕業かどうかは判断つかないだろう。

 自らの肉体が放出した何かのアレでできたものかと思うかもしれないし。

 いや、でも洗っても全然取れないから何かがおかしいと気付くかもしれない。

 待てよ。


 ……。


 見てる。ブレアが俺を凍えるような視線で見ている。

 何も言わないでくれ。反省はする。反省はしますから、ここで袋叩きは勘弁してください。

 どうかご慈悲を。


 あ、氷の女神が笑った――


「ニト、あなたのその独特な感性によって何が創造されたのかは理解したわ。素敵な趣味を持っているのね。いつか誰かにほめてもらえるといいわね。一応、言っておくけど、それはたぶん私じゃないわ――エンドレスリグレット」


「ぐあああああ」


 ブレアの精神崩壊魔法だ。レベルは何だ? なんか抵抗できなかった。というか受け入れてしまった。癖か。癖なのか。

 押し寄せる後悔の波。自らの行いのすべてを省みてその一つ一つすべてが間違いだったと思える。

 特にさっきのやつ。パンツのやつ。

 あー、死にたい。自分が恥ずかしい。バレないかもとか思っていたことすら恥ずかしい。

 申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳――


「申し訳ございません! 皆様のパンツにシミを作ってしまいました! 無意識で……いやいや半ば意図的に!」


 自己申告してしまった。


「はい?」


「どうしたのお兄ちゃん?」


「何なのです?」


「どうしたっ?」


「ニトは後悔しているのよ。やらなければいいのに余計なことをするから」


 辛辣ぅ。あ、ちょっとずつ回復してきた。


「えーと、ごめんなさい。皆様のパンツは水染みが出来ています。まるでおしっこ漏らしたみたいな。後で戻しますので皆さん一人一人脱いで俺に――」


「メルトブレイン」


「う、おお……」


 なんかがっくりきた。だめだ。元気でない。余計なことを言ってしまった。

 一人一人パンツを脱いで渡してくれたらと思ったけどちょっとそういう訳にはいかないよね。

 悪かったよ。


「反省できたかしら?」


「ちゃんとできたと思います」


「良かったわ」


 疲れた。やらなければ良かった。


 ふと横を見るとハミチチが騒いでいた。またお前のよくわからんジェスチャーか。

 声は聞こえなくても、ジェスチャーがすごくうるさい。顔もうるさい。

 音なんか不要だ。こいつは視界に入るとうるさいのだ。


 あまり友人にこういうことを考えたくはないけども。

 特に今はすごく疲れているのだ。自業自得なんだけどね。


「なんかハミチチがすごくうるさい……」


「同意なのです。ずっと思っていたのです。たとえ一瞬でも、こいつが何を訴えたいのか悩んでしまうのが煩わしいのです。アルマの大事な時間を返せと思うのです」


 そこまで……。


「さすがアルマお義姉様! アタシもです!」


「そうね、実はわたしも」


「つぶしたくなるっ!」


「いいわね。すっきりしそうだわ」


「ええ……満場一致じゃん」


 さすがに不憫だわ。


「どうせ出してても閉まっててもこいつの生死には大差ないのです。死ぬときは死ぬしかないから出すのです」


「そうしましょう――リリース」


 ハミチチの周りの空間の壁が消える。

 その瞬間、ハミチチは倒れ込む。どうした、五体投地か。

 大きく息を吸い、そして呟いた。


「……死ぬところだったよ」


「どうしたんだ? 遠隔攻撃か?」


 それとも寂しかったのか?


「どんどんどんどん息苦しくなって……」


「ああ」


「確かに」


 みんな口々に頷く。


「そうか、死ぬ前に出してよかった。お前の必死のアピールが効いたんだ。さすがだな」


「馬鹿にしてる?」


 さすがにわかるか。


「まさか」


 白々しく笑顔で答えた。


「あのな、こっちは本当に死ぬかと――」


「まて、敵だ」


 通路の奥の方から気配がする。こいつは……アンデッドだな。たぶん腐り気味の奴だ。


「ゾンビかグールが来る」


「やるっ!」


「そうか? つまらんと思うがよろしく」


 俺が石を投げてもいいがメスブタがやるというのなら構わない。


「もう来るかっ?」


「あと数秒であそこの角から出てくると思う……来るぞ」


 影が見えた瞬間。メスブタは現れたゾンビに拳を突き出していた。

 寸止めだ。殺していない? なぜだ。


「メスブタ?」


「これ、殺ってもいいのかっ?」


「何を……あ!」


 ゾンビはハミチチに似てた。


「アレお前に似てるけど?」


 俺たちが相談を始めると、メスブタは適当な動きでゾンビを翻弄して時間を稼ぎはじめてくれた。助かる。

 父親に似ているアンデッドもいたし、こいつの家系はどうなっているんだ。


「え……? ほんとだ! なんか有名人になった気分だな!」


 どっちかって言ったら色違いのモブキャラみたいな印象だけど、価値観は人それぞれだな。

 と思っていたら奥から更にアンデッドがたくさん来る気配がしてきた。


「いっぱい来るが強さはそこまでではない。どうする?」


「少し様子を見たいわ」


「了解。メスブタ! そのまま待機で適当にあしらってくれ!」


「わかったっ!」


 ゾンビをおちょくるメスブタを眺めること数秒。そいつらは現れた。


「おお、なんかいっぱい出てきたな」


「倒していいのかっ!」


「気持ち悪いのです」


 そう、気持ち悪かった。年齢はそれぞれだし、腐っているが何となくハミチチ系の顔立ちをしているのだ。それがたくさん。

 ハミチチ・スクランブルだ。


「ブレア、何かわかるか?」


「最初に殺した庭師に似ているしハミチチ君にも似ているけど……私の知人は上の階層で会った最初の奴だけね」


「サランかな?」


「ここまで似ている顔が並ぶとさすがにね」


 サランが死霊術で作った奴らだろう。


「なるほど……ま、二百年あれば色々作るか。それにしても似すぎているな。量産タイプか」


「ゾンビって量産できるのです?」


 アルマが鼻をつまみながら質問してきた。確かに結構匂うな。ハミチチが臭いわけじゃないが、ハミチチの印象が悪くなっている気がする。


「そうだな。量産できるのかな。なんでハミチチに似てるんだ」


「俺って量産タイプなのか? それって普通ってこと?」


 ちょっと嬉しそうにしている狂人がいる。怖いわ。


「今さらそこに戻ることはできないぞ」


 普通というポジションは既に失われたのだ。取り戻すことなどできない。

 というか量産タイプの人間とかどう考えても普通ではない。


「とりあえず殺して良いかしら?」


 どっちを……ってそりゃゾンビか。一瞬ドキッとしたわ。


「まて、ハミチチなら意思疎通ができるとか、そういう小ネタは無いかな?」


 せっかく似ているのがたくさん出てきたんだからなんか小ネタが仕込まれていないだろうか。

 コミュニケーションでもいいし、もしくは、こっちも似ている奴を出せば相殺して全部消えるみたいな。


「小ネタ……?」


 訝しむハミチチ。伝わらないかなー本人には。みんなはちょっとわかってくれたみたいだ。


「なんかさ、そういうワクワク系の小ネタないかな!」


 俺の期待に共感したのかアルマもハミチチをプッシュする。


「ちょっと行ってみてほしいのです。皆さんどうされたんですかって聞いてみるのです!」


「死ぬだろう」


 当たり前のことを言うやつだな。今さら普通の事を言いやがって。

 当然一人で行ったら死ぬだろうな。


「お前の心配はわかった。アルマの神聖術でフォローしよう」


 アルマもワクワク顔で嬉々としてうなずく。


「よくわかんないけど……とりあえず聞いてみるわ。えっと何を聞けば?」


「え、そうだな。えーと、アレだ。この後の予定とか」


「予定だな、わかった」


 俺なら絶対にわからないことをわかってくれたようで、ハミチチはアルマとともにゾンビの集団へと近づいて行った。

 そして大きな声でヘイトを集めた。普通なら絶対集中攻撃される。すごい勇気だ。


「すみませーん、皆さんこの後のご予定はー?」


「なんか二次会の幹事みたいだな」


「あ、アンデッドがざわついているわ」


 二次会に行く相談だろうか。


「あうあう言っているっ!」


「会話しているのかしら?」


 ゾンビたちはそれぞれ向かい合わせに身振り手振りジェスチャーを交えながらあうあうと声を出し合っている。

 どう見ても会話だ。


「やっぱりサランの兵隊なんだよな? ゾンビの意思疎通を可能にしたのか?」


「腐った脳みそでものを考えられるとも思えないからアストラル体のアンデッドに近付けたのかしらね」


「これは結構な技術革新では?」


「技術革新……そうね。魔物の進化ではなく改造? 技術革新ね」


「これはこれで何かしらの禁忌に触れそうなものだが」


 何神かはわからないが禁忌に触れそうだ。というかアンデッドだし死神か?


「……バックに死神がついてるって話だったよな?」


「ええ」


 会話するゾンビを眺めながらブレアと考え込む。

 メスブタはうずうずしていた。


「死神と戦えるかっ?」


「だよな。戦いたいよな。だが……まだ時期尚早じゃないかな。負けるぞ」


「負けるかー……」


 メスブタにしては珍しく語尾が弱い。


「もっと色々殴らないとなっ!」


 そして一瞬で復活した。


「ああ、そうだな」


「あの辺の奴ら殴ってくるっ!」


 ゾンビはいつの間にやら会議を終えたようだ。

 こちらを襲うことにしたようで威嚇してるっぽいポーズをとっている。

 見た目がほとんどハミチチだから恐ろしさはゼロだが。

 向こうが戦う気なら倒してしまってもいいだろう。


「ハミチチ―! 戻って来い!」


「え? 予定は?」


 まだ気にしていたのか。


「聞けてないけどたぶんお前の死が一つ目の予定のはずだから」


「マジかよ! ヤバいじゃん! ヤバいじゃん!」


 突然、必死の形相になるハミチチ。


「じゃあ行くっ!」


 そんなこと関係なしにメスブタは出撃した。


 数秒後。


 メスブタは肉片の中で高笑いしていた。


 アルマは臭いが付きそうだったので早々にハミチチを結界の中に捨ててこちらまで離脱していた。


 そんなハミチチは安全な結界のなかで泡を吹いて倒れていた。


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