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みかんの貴公子

 みかんの貴公子と呼ばれる少年がいた。

 少年はだれよりも早くみかんを収集し、そして冷凍した。


 その職人的な姿は世の悪魔のお姉さまたちを魅了した。

 悪魔のお姉さまたちは少年を見るたびにみかん汁をその肢体に纏って誘惑したのだ。

 少年はそのすべてに難なく応えた。

 色欲の悪魔王すらドン引きさせる性欲の持ち主であった。


 性豪悪魔少年、みかんの貴公子、冷凍ミカンの天才、催眠みかん術師――彼は多くの二つ名を持つ。


 今回は、そんな少年にスポットを当ててみようと思う。

 以下はインタビューの記録である。



――なぜみかんを冷凍するのですか?


「え? ええええええっと、その、あの、おいしっ! おいしいからです!」


 少年は控えめだ。おいしいから。それは果たしてみかんの事だけを指しているのか。深く考えさせられる言葉だ。やはり一角の人物は違う。


――最近、みかん業界にイノベーションを巻き起こしたと聞きましたが……。


「あ、はい! こ、これですぅ!」


――これは?


 直径1メートルほどの円形の台座に八本の鉤爪がついた魔道具のようだった。


「みみみみかん剥き機です! 悪魔たちのま、魔道具学の英知を結集しました」


――もしかして自動でみかんの皮を? それにしてはサイズが大きいですが……実演してみてもらってもよろしいでしょうか?


「えっと、その、は、はい!」


 少年がみかんを台座に置きスイッチを押すと鉤爪が縦横無尽に動き回り、瞬く間にみかんの皮が剥けていった。これはすごい。これならばみかんの食べ過ぎで爪が黄色くなることも無いだろう。少し大きいのが難点だがまさにイノベーションだ。


――素晴らしいです。どこからこの魔道具の着想を?


「ぼぼ僕の住む魔界村に、えっと、爆乳が、百合が、その、何て言うか、みかんの神像があり、えっと、その」


――ほほぅ。何となく察しました。探索者が置いて行った聖女と聖騎士とみかんの像が関連していると?


「は、はい! そうです。あれを見て感銘を受けました。なんて素晴らしいみかん像――神像なのかと! ぼ、僕は思いました! あの爆乳の手が動いてみかんを剥いてくれたらいいのになぁって……」


――わかる。なんならみかんだけじゃなくて人間もむいちゃえばいいと思う。裸ひん剥き機ですね。


「あはは。それも素敵ですね。ええ…………実装していますよ」


――え。マジで?


「は、はい、その、剥けるモノは剥くスタンスで作りました」


 すごい。子供のころ夢見た未来がやってきた! みんなをどんどん裸にしちゃうぞ!

 しかし、なるほど。そのせいでサイズが1メートルぐらいなのか。これじゃあ『みかん』と『裸』、どっちがメイン機能なんだかわからないぞ。

 背後で色欲の悪魔王が『こらこらボクはそんな機能があるなんて聞いてないよ。だめだめ、けしからん。この魔道具は後少ししか作っちゃだめだ。少しというのが具体的に何台かは難しいところだから、ちょっと考える。それまではこれまで通り業務に励むように』と言っている。うるさいな。素直になれよむっつり。


――ところで話は戻りますが、さっき話した像は今どこに?


「こ、公民館の神棚に飾ってあります」


――マジかよ……。ごほん。ところで……もしかしてレプリカも作成されましたか?


「は、はい! 村一番の職人がレプリカを作成し、穴の女神さまに奉納しました! お祭り騒ぎでしたよ!」


――マジかよ……。いつかのガチャで出てきたレプリカは貴様のせいか。ごほん。さて、この魔道具開発プロジェクトには多くの悪魔が参画されたとか。どのような役割を担ったのでしょうか?


「えとえと、そのぉ……裸にひん剥く機能を担当しました。プロジェクトリーダーがおり、その配下にみかんリーダーと裸リーダ―がいて、僕は裸リーダーでした。えへへ」


――もしかして裸ひん剥きがメイン機能なのですか? それでこのサイズに?


「いえ、これはみかん剥き機です。それはブレません。ただ、僕の発言権が大きかっただけです。それでこのサイズに」


――なるほど……すばらしい。



「いつまでそれやるのです?」


 アルマがうんざりした顔でこっちを見ていた。いいじゃないか久しぶりに再会したのだからちょっとインタビューごっこして遊ぶぐらい。でも確かに時間もないしちょっと遊び過ぎたかな。


「フィルトアーダくん、悪いな。珍しい魔道具だったものだからインタビューしたくなってしまって」


「そそそそんな! 構いませんよ。僕だってまさかこのサキュバスシティでニトさん達にお会いするなんて思ってもいませんでした」


 そう、ここはサキュバスシティ。色欲の悪魔王が納めるサキュバスの街だ。楽園あるいはパラダイスとも言う。ここには本物のハミチチがたくさんあるのだ。まがい物のハミチチはゴミ箱にポイでいいかもしれない。


「それで、このサキュバスシティで何を?」


 大方の予想はつくが……聞かねばなるまい。


「そそそうですね、その、あー、あの、裸ひん剥き機能のテスターを募集してまして」


 やはり! ついていきたい、一緒にやりたい、けれども、だけれど!


「そうなんだ……頑張って。俺はちょっと色々と殺したりしなきゃだから」


 サキュバスをたくさん脱がすよりも、ブレアを優先するのは当たり前だ。

 ただ、ちょっと悲しい気持ちがあるのも事実なのだった。


みかんの貴公子はみかんリーダーではなかった。しかし異を唱えるものはいなかった。

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