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「でも考えてみれば確かに似ていたな」


 何言ってんだ馬鹿かコイツって思ったけど確かに似ていた。


「うん、おじさんに似ていた」


 妹も同意している。


「あれ、ハミチチの父のお名前は何だったか?」


 思い出す必要はないが気になってしまった。


「ジャスティス・ジャッジ・スクランブルよ」


「ああ……ありがとうニノ」


 すごくややこしい名前だな。そしてハミチチとの差よ。


「いやー、似てたなー。笑った笑った」


 ハミチチは破顔している。どこが笑いどころだったのだろう。心の闇を感じる。少し距離を置きたい。


「あ、そろそろつくよ!」


 妹が示した方向には横穴が見えていた。


「これか?」


「うん!」


 のぞき込む前にマナフィールドを広げ中を探知する。確かにAランク相当ぐらいのアンデッドが一体と……Sランクオーバーもいるな。Sランクもいる。


「中にはAランク、Sランク、Sランクオーバーの三体のアンデッドがいる」


「S!?」


 ニノたちがざわつく。そりゃそうだよな。


「妹、よく生きてたな」


「そんな……何度か来たけどたぶんいたのはAランクの奴だけだったよ! というかこんなにおかしな空気なのも初めてだし」


 なるほど、妹が知っている状況とは違うと。まあ、見てみるか。

 横穴から中を見る。広場があり、そこの中心にリッチがいた。こいつがAランクだな。


「あのアンデッドは?」


 ブレアに問いかける。知り合いかどうか、という意味だ。


「あらあら……婚約者よ」


「マジかよ」


 200年ぶりに見つけた婚約者に対するリアクションが『あらあら』とは。さすがだ。じゃなくて婚約者いたのか。なんかショック。


「言っておくけど家が決めただけよ。家も滅んだし、200年も経てば無効よ。もともと愛なんてなかったのだから」


「よかった」


 ほっと安堵の息を漏らす。


「うーん、よし! 愛がないなら許す!」


 妹が勝手に許したことに疑問はあるが騒がなくて何よりだ。


「痴情のもつれで奪い合い……とか見たかったけど、ブレアちゃんで見たくはないのです。良かったのです」


 アルマもおかしなことを言うな。


「じゃあ、一発殴るかっ?」


「まだ早い。リッチっぽいけど。会話できそうだからな」


「億劫ね……」


「よろしくブレア」


 そして俺たちは全員で部屋の中に入っていく。もちろんマナフィールドでSランク達の場所と動きは探る。俺たちとAランクの婚約者を挟んでちょうど向こうの壁際にいるな。姿は見えないが。幻覚魔法か何かで隠れているのだろう。どうしたものか。とりあえずは様子見か。

 リッチがこちらを視認し驚愕に顔を歪める。


「ブレア……ブレア・フィーア・シュトロノムズか!」


 ブレアのファミリーネームとミドルネーム初めて知ったな。長めだし貴族っぽいな。


「こんなところで何をしているの? サランにアンデッドにされてしまったのかしら?」


 戸惑うような身振りをしながらリッチは答える。


「あ、ああ。俺はそうだ。多くの実験に付き合わされていてな……これ以上は誓約のため言えんが。君は……生身か?」


「そうよ」


「どうやったんだ。そんなことが可能なのか。もしや、私たちをアンデッド状態から解放することが出来るのではないか?」


 解放? ……ああ、なるほど。ブレアもサランによってアンデッドにされた前提で考えたのだろう。アンデッドになり、そこから生身に戻ったのではないかと。

 確かにアンデッドから生身に戻せる可能性はあるとリーフレイヌさんの時に考えた。だが、おそらく彼らは無理だ。リーフレイヌさんは大丈夫でコイツがダメな理由、それは単純だ。


「無理ね。200年なんて身体を使いすぎよ」


 アンデッドとはいえ生きている。そして何らかの技で彼らを人間に戻したとしても、その身体は既に人間として生きるには無理があるだろう。


「そうか……そうか……アンデッドのままか……ならば勤めを果たさねばな!」


 おっと攻撃的な意思を感じるぞ。ブレアを見ると彼女はため息をつき、一歩前に出た。自分で片づけるのだろう。


 リッチが詠唱を始めるが、後から詠唱したブレアの魔法が圧倒的に早かった。


「キューブ」


 空間が四角く切り取られたのがわかる。リッチを閉じ込める形で。リッチが中で何か騒いでいるが何も聞こえない。


「――リダクション」


 四角い箱が一気に縮小される。箱が元々あった空間はねじ曲がり、景色はぐにゃぐにゃになっていた。


「――エクステンション」


 そして何事も無かったかのように元に戻った。そこに元婚約者の姿は無かった。


「……容赦ないなブレア」


「会話の余地も無かったからよ」


 無かったようなあったような。まいっか。さらば元婚約者。

 まだSランクとSランクオーバーに動きは無いな。ただこちらを注視しているようだ。作戦検討中か? うーむ。


「さて、あいつはここで何をしていたのかな?」


 ちょっと牽制だ。


「ここは他よりマナが濃いわね」


「ああ、マナが濃いから資源が多いのか」


 マナが濃いなら強い魔物も発生しやすいか。何なら魔法金属も生まれるかもしれないしな。


「何その判別方法。初めて聞いたんだけど!」


 妹だけでなくニノも驚いている。そうか、一般的じゃなかったっけ?


「マナ視を持つ探索者は少ないからな。しょうがないさ」


「お兄ちゃんの位置情報なら見れる気がするんだけど。マナはちょっと」


 うん、素直に怖い。


「ところで、ニノ。この階層から下の階層へ行く階段はこの部屋に無いよな?」


「ええ、11階層への階段は別の部屋にあるわ」


「じゃあ、下から漏れてきているわけじゃないのか? 此処のこのマナ濃度はなんだ?」


 改めてマナフィールドを広げる。そして、俺はやっと『それ』に気づいた。Sランクオーバーに気を取られていた。奴らの背後にあるのは――

 と同時にブレアが喋る。


「もういいんじゃないかしら。あそこの壁、幻覚ね。二人とも出てきなさい」


「バレていたか」


 壁際にいたのはエルダーリッチだった。ボロボロのローブに身を纏い、顔は干からび骨と皮だけのようになっている。Sランクオーバー、つまり勇者や魔王と同等の力を持っているということだ。雑魚であることに変わりはないが。


「サラン……っ!」


 どうやらエルダーリッチがサランのようだ。ついにお目見えか。干からびていて元の顔がわからないのが残念だ。ブレアはよくわかったな……あ、ステータスを見たのか。

 もう一人はゴーストだ。足が無い。メイド服をきたゴーストだが美人系だ。お胸も立派だ。なんか悔しい。ずるいぞ!


「君たちは妙な組み合わせだね。ブレアと……ほお、ホムンクルスか。大変なものを連れているね」


「な、なぜ?」


 アルマから『なのです』が消えた。マジでヤバい状態ってことだな。


「なぜわかったかって? 年の功だよ」


「アンデッドが笑わせないでくれるかしら?」


「悪いね。さて、後は牧場の者たちか……」


「牧場?」


「おっと口が滑ったね。そうだ、ブレア。何か聞きたいことは無いかな? 200年ぶりだ。なんでも答えるよ」


 唐突に質問タイムが始まった。何なんだこいつ。そもそもブレアの姿に疑問を抱いていないのがおかしい。神界や無限牢獄の事を把握しているのか?


「牧場……はとりあえずいいわ。何を考えてあんなことを? 200年前の事よ」


 ま、そっちだよな。感情を必死に抑えているのが伝わってくる。何かのきっかけがあれば崩壊しそうなほどに強い感情だ。


「ふむ……何を考えて、か。そうだね……どこかの哲学者が『人生は魂の世話』だと言ったらしいが笑わせる。魂は磨けば磨くほどくすむのだ。世の中を見ろ。楽しんでいる貴族の豚どもはどうだ。奴らはそんなこと微塵も考えちゃいない。真に生きる価値のある人生とは、なんだ。答えなどなく、考えるほど磨耗していく。強くなる。弾力を失う。若さが、輝きが失われる」


「何を言っているの?」


 ブレアは憤りを強く顔に表している。


「質問に答えたまでさ。僕が考えていたことだよ。さて、どうだい? ユララ、これは分が悪いかな」


 ゴーストおっぱいメイドはユララちゃんか。


「はい、サラン様。マナ総量で見てもこちらを大きく上回っております。これは逃げの一手かと」


「わかったよ。あまり使いたくないルートだけどね」


「逃げられるつもりかしら?」


「もちろん」


 言った瞬間、サランは背後の壁に飛んだ。そして、吸い込まれるように消えた。


「消えた!?」


 ブレアが焦る。珍しい。


「違う」


 俺がマナフィールドを介して壁にもかけられていた幻覚魔法を消滅させる。

 そう、そこには俺がさっき気付いたもの――闇が存在していた。


「テロイアの、裏ルートか……」


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