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焼肉パーティ@ダンジョンテロイア


 2階層をマナが濃い方を目指して進む。本当に濃いな。なんでこんなことになっているんだ。これなら浅い階層でも結構な魔物が出てきそうだ。探索初心者が大量に死んでるかもな。女の子が無事ならいいんだけど。


 女の子か……そう言えば何でブレアと繋がっちゃったんだろな。何がどうなって繋がっているかはわからないけれど。ああ、もしかして物理的に繋がったからこそだろうか。


 えーと、原因はともかく、事象を確認しよう。アストラルリンクに類似してるんだよな。あれは互いに補い合うようにマナが共鳴して、マナフィールドの境目が曖昧になる……だったか? スキルの共有ができて、メスブタはユリーネのスキルで切れ味鋭い手刀を放ったし、ユリーネもなんかメスブタみたいに強かった。あとは経験も共有していた。ユリーネがめっちゃ成長した。


 今のはそこまでじゃないな。効果は似ているが弱い。俺はブレアの魔法を使えるわけでもないし、ブレアも変質者スキルを使えるわけじゃない。しかし、アストラル体を通り越して魂まで繋がっているのがわかる。よくわからん状態だな。マナフィールドの境目が曖昧とかじゃなくて、一本の線で繋がっているようなイメージだ。


 これ、どうしたらいいんだろうな。別にブレアに心を読まれても興奮こそすれ、恥じることなどない。無限牢獄で5年間も痴態をさらし続けた俺に死角はない。

 メリットは……お互いの経験の共有か。俺とブレアはこれによって成長が加速するだろう。後は、考えていることがわかるのも凄い。戦闘中は特にな。これはアストラルリンクには無い効果だ。


 ならメスブタやアルマとも繋がりたいところだが……仮にメスブタやアルマと繋がったとしてどうなるんだろうか。


 ブレアが俺の考えていることを読んでいるのはマナを読み取る能力に長けているからだろう。ということは、おそらく2人は俺の考えは読めない。いや、もしかしたら俺を介してブレアとメスブタ、ブレアとアルマが繋がることも可能なのか。それはそれで相当に便利だな。


 さらにスキルの共有が出来れば強力な武器になるんだが。みんな変質者だ。マナの操作に一日の長があるブレアが変質者スキルを扱えば俺の比じゃないほど使いこなすだろう。


 どうしよう。繋がっても損することは無いし、繋がるように試してみるのも一つの手かな。

 よし、まずはメスブタ……いや、アルマか。アルマとベッドで────


「ニト、違うと思うわよ」


「んへっ?」


 びっくりした。ブレアに読まれているのは知っていてもなんかびっくりした。トイレ中にドアを突然開けられたみたいな気分だ。


「驚かせえて悪いわね。でも死んだ方がいいと思ったから、つい」


「んへっ?」


 そんなことをお考えになられていたのですか。俺もブレアの考えを読めるように精進せねば。


「頑張ってね。それで、たぶん繋がったのは私がニトを頼ったからよ。200年あの牢獄にいて、初めて見えた希望、それが貴方よ。そして脱獄までの5年間ずっと頼っていたわ。もちろん今も」


 振り向かないから顔は見えない。みんな聞いているのにちょっと恥ずかしい。もう、ブレアったら……。


「俺もブレアには頼っていたよ、ずっと。俺がスキルを得たのもブレアのおかげだし、脱獄のために行動することもブレアがいないと出来なかった。何より魔方陣が無ければ、そもそもあの無限牢獄から出ることなどできなかった」


 メスブタとアルマがうんうん頷いている気配を感じる。2人もブレアには感謝しているのだろう。

 だが……そうか。お互いに頼りあっていたからこそか。アルマとベッドでおねんねしても気持ちよくなるだけか。そうかそうか。いいじゃん。問題ないじゃん。よし、さっそく────


「ニト、それはいいけど本人が了承するかしら?」


「あ」


 くそ、アルマに耳を見せつければいいのだろうか。でもこの前のおっぱいの恩があるからな……耳で釣るのもどうだろうか。良くない気もするが、良いような気もする。うーん、卑怯かな。いや、やはり良いような気もするが。まあ、いいか。流れに身を任せよう。いずれ向こうから『ください』って言ってくるだろう。


「死んでください、かしら?」


 ブレア様、ごめんなさい……と、マナフィールドに何か引っかかったぞ。


 しばし移動し、正体を目視で確認する。


「あ、焼肉の魔物だ」


 お腹はすいていないが、ずっと食べたいと思っていた奴だ。


「本当なのです! 2階層で出てくるとは驚きなのです」


 確か前に見た時は30階層ぐらいだったか。


「うわ、お兄ちゃん何あれ。背中がすごいバキバキなんだけど」


「気持ち悪いだろう? 背中だけじゃないぞ。見てろ、おーい」


 大きな声を上げると魔物は振り向いた。


「うわぁ、顎がどぅるんとしてる」


 妹が後ずさる。


「正直、これ以上見たくはないわね」


 ニノの気持ちもわかるがアレは美味いのだ。


「目が絶望感を煽るね」


 ハミチチいたのか。


「美味いぞっ!」


「うそでしょ……食べるの? あれを?」


 ニノが顔をこわばらせる。


「見た目に反しておいしいのです」


「アルマうきうきだな。じゃあ、捕まえるぞ。投げまーす」


 と言いながら石を放つ。魔物の頭がはじけ飛んだ。頭は食べるところがないからな。


「その技、慣れないわね……」


「何言っているんだニノ。なれる必要はないだろ」


「『投げまーす』が間抜けなのよ。それにも関わらず魔物が爆散するから戸惑うのよ」


「そういうもんか? とにかく食おうぜ。腹は減っていないけど」


 まだ朝だし腹が減っているわけもない。


「そうね。美味しいものはいつ食べてもいいと思うわ」


 ブレアのセリフには皆一様に頷き、調理が始まった。


 バキバキのドゥルンドゥルンで絶望した目の魔物の死体。その足はひどい臭いだ。それに耐えながら颯爽と捌く。捌いてしまえば肉は普通だ。あとは焼くだけ。コンロの魔道具を出して焼く。肉が焼けるいい匂いがダンジョンを満たす。マナが濃いとかもはや感じない。ここは焼肉の王国だ。


 お好みで調味料を振ったりしておいしくいただいた。誰もが無言で肉を貪った。


「おいしかったわ……悔しい」


「初めは躊躇ったけどこんなにおいしいなんて。普通じゃないよ」


「お兄ちゃんすごい!」


 俺が味付けをしたわけでもないので、すごいことなど一つもない。だが訂正はしない。気分がいいからだ。


「ふふっ」


 折角だから意味深に笑っておこう。


「お兄しゃま、すんごぉい……」


 うわぁ……。ヨダレべちゃべちゃ。

 俺は気を取り直して他の皆様に語り掛けた。


「や、やっぱりこんなに美味しい魔物が浅い階層にいるのはおかしいよな!」


「おかしいっ! 次っ!」


 おかしいことなどどうでも良いと言わんばかりの勢いだな。まだ食べ足りないのかメスブタ。


「他の種類も食べたいのです」


 アルマもだった。


「そうね、期待しましょう」


 え、ブレアも?


「よし、行こう!」


 じゃあ、俺も。


 ダンジョンのヤバい空気などどこ吹く風。もはや気持ちは焼肉パーティ。俺たちは次の階層へと進むのだった。


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