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ぶらぶら


 ドンドコドンドコドンドコドンドコ。


「ホッホォー!」


 ドンドコドンドコドンドコドンドコ。


 地平線まで続く大草原に原始の音楽が鳴り響く。

 パンツ一丁で太鼓をたたく俺。美女たちの反応は三者三様だ。


「な、なんなのです?」


「壊れてるのよ。哀れね」


「やりたいっ!」


 ドラゴンの皮を丁寧に張ったこの太鼓は出すところに出せば相当な値段がつくだろう。頑張って手作りしたのだ。どれ、このホットなライヴに女たちを誘ってみるか。


「アルマ、やってみるかい?」


「え、えーと、なのです」


「まず服を脱いで……」


「お断りなのです」


 ダメか。服ぐらい気前よく脱ごうよ。


「ブレアは「やるわけないじゃない、馬鹿なのかしら?」


「だよね」


 となると残りは。


「やりたいっ!!


「服は……いいか。とりあえすここに立って。はい、叩いてごらん。無理だと思うけどやさしくね」


 どぉーーーーん。


「できたっ!」


「そうだな。一回限りの特別なメロディだったな」


 太鼓は消滅した。メスブタが笑顔ならば太鼓を作った甲斐もあったと言うものだ。ははは。


 

 俺たちは、見渡す限りの草原にいた。



 魔法都市を出て、なんとなく適当に歩いていたら魔境に入ってしまったのだ。だが慌てる事はない。そもそも当てもない旅なのだ。魔境にも美味しい物があるかもしれないと、珍しいものを探すためにぶらぶらしてみた。魔境ぶらり旅だ。


 2週間ほどぶらぶらした。メスブタがうまい魔物を狩ってきて、ご飯を食べたり、木陰で休んだり、快適な原始ライフを送っていた。

 勇者の街マルフィアナの時も思ったが、こうも快適で変化のない生活が続くと一生このままがいいなぁなんて思っちゃう。広大な大自然というお外にヒキコモリだ。


 大自然の中をぶらぶらして、メスブタが持ってくる魔物を食って寝るだけ。やばい。


 たしかに、魔境なだけあって突然火が吹き出したり、凍える吹雪が吹いたり、流砂が渦巻いたり、竜巻がドラゴンを引き裂いたりすることもあったがそれはそれだ。ベースは草原なのだから文句はない。ドラゴンは美味いし。パンがあればもっと良かったのに。


 さて、こんな生活をしていると3人の美女のうち1人ぐらいは原始的な生活に触発されて脱ぐかと思ったが、脱いだのは俺だけだった。


 さすがにブラブラさせたままぶらぶらするのはメスブタが騒ぐし、もしかしたらブラブラしているモノが消滅する危険性もあるのでパンツは履いている。本当ならブラブラさせつつぶらぶらしたいのだが人生はままならない。


 それでも開放感は凄まじいのだ。この大自然の中、俺は自由に命をハジケさせている。スパークだ。ライフスパーク。ライフヌードスパーク。『効果:相手は脱ぐ』しかし3人には効かなかった。解せぬ。

 こんなオリジナルのおまじないじゃなくて、勇者が使っていた相手を脱がせる超必殺技『ふわふわましゅまろバーニングアウト』を教えて貰えば良かった。


 太鼓で原始のハートを目覚めさせる作戦も失敗に終わったしな…………無念なり。


 そんな思考ともなんとも言えないことを考えているとなかなか脱がない女の一人が俺に話しかけてきた。


「ニトは家族はいるのです?」


 かぞ……く……? かぞく、ああ、家族ね。それなら知っているよ。俺の知識を侮るな。


「たしか3匹いたはずだ」


 そういえば、そんなのもいたな。懐かしい。無限牢獄でのブレアの拷問地獄以来、すっかり忘れていた。魂を壊されると同時に家族という存在の記憶もどこかへ行ってしまっていたのだろう。たぶん。


「ふむふむ。それぞれ特徴はあるのです?」


 アルマ先生はなぜかメガネをかけてクイクイし始めた。ニトの生態調査か?


「はい……中年のオスとメス、あとは18歳のメス……妹がいますが?」


「ほー、妹は18なのです?」


 そういえば妹も肉体的には年上になったんだな。俺はまだ16歳の肉体だからな。感慨深い。


「ああ、3歳下だったからな。俺が16の時に無限牢獄に投獄されたんだが、そのときは13歳だった。あれから5年ちょっと経っているから今は18だな」


「ご家族は何をしているのかしらね?」


 話を聞いていたブレアが質問してきた。


 とりあえず質問は置いておいて、ブレアとアルマがなんで脱がないのかについて想いを馳せる。どうやら、ブレアの空間魔法で快適空間を作っているようだった。昨日発覚した。なぜ教えてくれなかったのだろう。言ってくれれば俺だって魔法を受け入れたのに。服は脱いだだろうけど。

 なお、メスブタはスキルで魔物を殴るときに空間を破壊しちゃうので空間魔法の恩恵を受けていない。代わりに超再生してる。


 さて、質問に答えよう。


「両親は今まで通りだろうな。妹は……なんだろうな。話しかけると罵られて蹴飛ばされてたから何が好きかあまり知らないんだよな」


「だとしたら、『あまり知らない』ではなく『まったく知らない』じゃないかしら」


 ブレアさんの的確な指摘が俺をえぐる。


「そうだね…………」


 ちょっとしょげちゃう。しかし妹が可愛かったのも10年前までのこと。そして両親がまともに俺を子供として扱っていたのもその頃までだ。スキルを一つも覚えずヒキニートとして大成してからは家族は俺と距離を取っていた。あまりに立派なヒキニートで話しかけるのが恐れ多かったのかもしれない。


 だが、立派でも孤独だったのは事実。


 それがこんなに見事な美女を3人も侍らせて、純潔の女神を穢す役割を変態の神様から仰せつかるなんて夢にも思わなかっただろう。


「行くのかっ!?」


 突然なんだよ。メスブタはいつも唐突だな。そうそう、唐突だがこいつの服は本当に汚れない。こいつが脱がない一番の理由はそれだな。

 いつかの非常階段の触手みたいに服の中までぬるぬるにしちゃう魔物に襲われてくれないだろうか。丁寧に洗ってあげるのに。


「行くって、どこへ?」


 イクなら大歓迎だが。


「そこへっ!」


「そこって……ああ、故郷ね。別に何もないし、行く理由もないし」


 近いけどな。遠目に見える山は大陸中央部の霊峰フィーラハールだろう。麓にはゲッペルン平原が広がっているはずだ。平原を霊峰に沿うように南に抜けてちょっと行ったら母国トローネ王国があるはずだ。


「でも大迷宮クルリアは見てみたいわね」


「あー……」


 中央大陸最大のダンジョンだからな。確かに見てみたい気持ちはわかる。なお、大きいとか小さいとかを何で判断しているのかは一階層あたりの広さだ。どのダンジョンも最下層は公に確認されたことがないので、本当の意味でどこが最大かは人類にはわからない。


 ただ、セバスチャンが言うには大迷宮クルリアは本当に世界最大のダンジョンらしい。それを裏ルートで不正に踏破してしまったのだから頑張って掘ったヘレンちゃんの落胆ぶりは凄かっただろう。今からでも謝っておくか。ごめんね。ヘレンちゃんごめんね。


「そういえば地元にはクルリアともうひとつ、テロイアというダンジョンがある。セバスチャン情報だと小さいダンジョンだな。地元では親子ダンジョンなんて呼ばれてるけど。クルリアが母でテロイアが娘みたいな扱いだな」


 テロイアは碌な資源もないが比較的、罠も少なく安全だ。こっちで練習した後でクルリアに挑むのがトローネ王国の探索者の基本だ。


「小さいダンジョンね……踏破も視野に入れて挑戦してみる?」


「それもありかな」


 母なるクルリアは裏ルートで踏破済みだしな。娘テロイアは正面から突き破ってもいいかも知れない。


「じゃあ、ダンジョンがあるトローネ王国の王都トロネイアに向かおう」


「王都なのです? ど田舎のニトの地元には行かないのです?」


 間違ってないけどいつ俺がど田舎と言った。


「地元は王都の近くの村なんだけど、行くなら道中寄っても問題ない。だが本当に何もないぞ」


 王都と大迷宮が近いせいで過疎化が止まらないのだ。爺さんと婆さんばかりだ。


「下手な観光地より気になるのです。早く行くのです」


「それは同意ね」


「わかるっ!」


 あまり寄りたくないけど、3人が希望してるなら断る理由もない。どうせ王都に行く途中に通るし、いいか。


「ドラゴンはいるかっ? サンドイッチにしたいっ!」


「そこまでど田舎じゃないが、見つけたらサンドイッチにしよう」


「パンはあるかっ!?」


「パンはある」


「よしっ!」


 こうして俺の故郷である田舎村を経由して王都へと向かうことになった。


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