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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【七章進行中】  作者: くまだ乙夜
一章 ギュゲースの指輪編

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25 贅沢な味がしました


 会場に戻ると、いっせいに注目がわたしに向いた。


 青い顔をした公爵さまが駆け寄ってくる。


「どこに行っていた?」

「犯人が、ここを出ていくのが見えたので……」

「追っていったのか? 無茶な」

「この人が犯人です。でも、火傷がひどいので、まず治療してあげてください」


 暗殺者メイドさんが医療班らしき人たちに連れられていく。


 それからわっと周りを取り囲まれた。


「公爵さま、もしかして、そのお嬢さんが……?」


 見たこともない男性が質問してくる。


 公爵さまは不機嫌そうにうなずいた。


「彼女が、姉アルテミシアの用意した素材の危険性をいち早く見抜いて、この魔道具を用意した」


 公爵さまが背負っていた消火器をトンと床に下ろす。


「妹のリゼだ」


 わっ! とまた、周りの人たちが湧いた。


「すごい、天才姉妹というわけですね!?」

「違う。この新素材も、元はリゼの発明だ。姉は横取りしたんだ」

「なんですって……!」

「明日の新聞の一面はこの子で決まりね!」


 し、新聞記者?


 うろたえたわたしが手を揉み合わせると、公爵さまがぎょっとした。


「その手はどうした!?」


 あ、手袋ズタボロの血まみれだった。忘れてた。


「いや、ちょっと、犯人ともみ合いまして……」


 公爵さまは有無を言わせぬ強さでがしっとわたしの背中を抱いた。


「彼女は私が診る! 通してくれ!」


 公爵さまは、追いすがる新聞記者たちや、関係者で埋め尽くされてる通路の人たちを蹴散らして、わたしを別の部屋に連れてきてくれた。


 部屋の隅にわたしを座らせると、魔術で丁寧に手の傷を治してくれた。あとすら残らなかった。


 そこはちょっとした野戦病院だった。


 火傷を負った人たちを全員集めたらしく、そこら中に包帯姿の人が寝ている。


「ここは……?」

「臨時の病院だそうだ。限定的にだが、弱い医療用魔術の使用を許可したらしい」


 治療師があちこちで治癒の光を出していた。


「冗談じゃないわ、もっと腕のいい治療師を呼んでちょうだい! 火傷の痕なんか残ったらわたくしはおしまいなのよ!? ねえ、わたくしを誰だと思っていて!? 王妃になる女なのよ!」


 一際大きな声でぎゃんぎゃん喚いているのが、たぶん姉。


 公爵さまはそちらに見向きもしなかった。


「君の魔道具が役立ったよ。犯人はあちこちに火を放ったようだが、ほとんど燃える前に鎮火した。ただまあ……全身に新素材のドレスを身にまとっていた姉君だけが酷い火傷を負ったようなんだが」


 あちゃあ……


 あれが危ない素材だってことにも気づいてなかったのかなぁ……知ってたら、絶対そんなリスクは冒さないよね。


 いつしか姉のヒステリックな声は泣き声に変わっていた。


「醜くなってしまったら……わたくしなんて何の価値もないじゃない……!」


 わたしは聞いていられなくなって、公爵さまを見上げた。


「公爵さま……」

「ディオール」

「……ディオール様。姉のこと、治してあげられませんか?」

「私は魔術師で、治療師ではない」

「でも……ディオール様の魔術は、とても綺麗なので、治療もきっとお上手だと思います」


 痕すら残らなかった手を見ながら言った。


「……火傷の治療は難しいんだ。傷を治すことはできても、一度傷ついた皮膚を綺麗に戻す方法はない。残念だが、姉君は一生あのままだろう」


 姉のすすり泣きは、いつまでもわたしの耳に残った。


***


 翌日、わたしは事件の調査の名目で、ディオール様と一緒に王宮に呼び出された。


 国王に謁見する前に、宮廷の文官らしき人にくどくどと礼儀作法のことを注意されて、一通り挨拶を練習させられた。


 そして通された王様の謁見室。


「こ……国王陛下におかれましてはご機嫌うるさしゅ……っ」


 わたしはすっかりあがってしまって、あいさつの途中で噛んだ。


 真っ赤になってとにかく頭を下げる。


 見なくても分かるくらい、隣のディオール様は笑いをこらえるのに必死でブルブル震えていた。


 地獄のような空気の中で、陛下が言う。


「そなた、アルテミシアの妹であるとか」

「は……はいっ。リゼです」

「ではリゼ、そなたの知る事件の経緯を、なるべく時系列順に教えてくれぬか」


 わたしは招待状が送られてきたときから全部説明した。


「なぜそれがそなたの発明だとすぐに気づいた?」

「……それが……」

「すべて正直に申すがよい。虚偽があったときは、そなたの身に罪がふりかかるぞ」

「……姉は、昔からわたしのノートから研究を盗んでいましたから……」


 王様はときどき質問しつつ、わたしの話を最後まで聞いてくれた。


 王様はうなりつつも、特に感想らしいことは何も言わなかった。


「あの、姉はどうなったのでしょうか……」

「そなたは質問をできる立場にはない。わしの聞かれたことにだけ答えよ」

「は、はい」


 あくまでわたしは事件の参考人ってことなんだね。


「よく分かった。では次にディオール。そなたの知ることを話せ」

「はい」


 ディオール様はわたしが倒れたところから始めて、姉と両親のことを簡潔にまとめて話してくれた。


「……なるほどなるほど。これにて査問は終了とする。大儀であったな、帰りに昼食でも食べていくがいい」


 陛下はそれだけ言うと、解放してくれた。


 ごはん……!?


 宮廷で出る料理……いったいどんな美食が……!?


 わくわくしているわたしに、ディオール様が笑いながら「よかったな」と言ってくれた。


「ごはんが出ると知っていたら、コルセットはやめてもらったんですが……!」

「王の御前でどれだけくつろぐ気なんだ。そうがっつかなくとも、気に入ったものがあればうちのシェフに作らせるといい」

「……神経を研ぎ澄ませて味を記憶しますね!」


 ディオール様はとっても楽しそうだった。


 王宮で出てきたお肉は分厚い牛肉だった。


「この上にかかってるおいしいのはなんですか!?」

「フォアグラとトリュフだろう」

「こってりしてておいしい……!」

「まあ、分かりやすく贅沢だな」


 すごくおいしいのに、コルセットのせいで全然量が食べられず、わたしはかなり残してしまった。


「ああ~……すっごいもったいない……持って帰っちゃだめなんでしょうか」


 ディオール様は笑いながら「頼んでみてはどうか」と言ってくれた。


 ディオール様がいいって言うなら、聞くしかないよね。


 わたしが本当に尋ねてみると、給仕の男性はなんと本当にロウ紙で持ち帰り用に包んでくれた。「内緒ですよ」と人差し指を立てながら。


 喜びを分かち合おうと思って、包み紙を手渡されたわたしが満面の笑みでディオール様を振り返ると、ディオール様はすでに呼吸もできないほど笑い崩れていて、再起不能に陥っていた。


「持って帰らずとも、うちのに作らせればいいと言っただろうに、そんなに気に入ったのか」

「気に入ったし、食べ物を残すのはもったいないです」


 わたしが馬車の中で力説すると、ディオール様はしみじみとつぶやいた。


「……君と婚約してよかった」

「え?」

「何でもない」


 ディオール様はその日ずっと、いつも以上ににこにこしていた。

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― 新着の感想 ―
公爵の婚約者が王宮から食べ残りをテイクアウトするのヤバすぎて本当大好き、そらディオール様も笑うよね
デレてしまった公爵様だ!需要はなさそうですが!
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