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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【七章進行中】  作者: くまだ乙夜
七章 復讐の天秤編

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232 一方その頃の王子様(1/2)



 第一王子アルベルトは、人名のリストが連なる書類を、机の上に、半ばうち捨てるようにして投げ出した。彼にしては珍しい行動だった。感情を表に出すのはみっともないばかりか、敵につけいる隙を与える要因にもなるとして、王族としての教育を受ける過程で抑制する癖を身につけてきたが、今回ばかりは事情が違った。もとより周囲に人はいない。厳重に追い払ってある。


 しかし、アルベルトが苛立っているところを、万が一敵が見とがめたとて、彼らになす術などないだろう。


 敵の無力化はとうに終わっている。


「これでサントラールも終わりだ――」


 武器屋を襲撃した犯人の証拠は揃えた。


 向こうは魔術師協会を抱き込んで小細工を弄してきたが、証拠隠滅した証拠を逆に暴き返してやった。


 魔術師協会も機能停止に追い込んだ。


 仕上げとばかりに、真の実行犯のほとんどを捕らえて、自白証言まで引き出した。


 これ以上はすることがない。


 捜査は完璧に終了させた。


「――と、私も思っていたんだけどね」


 あとは実行犯の裁判を待って、処刑するだけ、という段階になった矢先のことだった。


 国王が裁判に待ったをかけたのだ。


 アルベルトにとっては、これほど馬鹿げた話はなかった。


 裁判を取りやめにした場合のダメージは計り知れない。被害状況が公表できぬまま一方的に戦力縮小を余儀なくされているのでは、王家の武威が侮られる。


 王家はすべての暴力を統制せねばならぬ立場にある。


 騎士団、魔獣、犯罪者、その他、あらゆる国家構成員の破壊行動を制御できない王家に、何の価値があるものか。


 ――処刑は断行すべきだ。


 アルベルトはそう強く訴えたが、国王は聞く耳を持たなかった。


 父王は、『騎士団を壊滅させればいいと考えているのならそれは間違いだ』という。


「陛下は何とおっしゃっていたのですか?」


 ここではロスピタリエ公爵がただひとりの聴衆だった。


 捕り物劇の成功の大部分は彼の協力で成り立っている。


「ここで騎士団を機能停止に追い込んでは、却って統制が取れなくなる、と。人員が減れば魔獣が抑えきれなくなり、街が荒れるというんだよ」

「……そこまで大量の戦力を抑えた、とは思えませんが」


 実行犯として捕らえたのは、実際のところ、五十余名だった。


 精鋭ではあるものの、消えたからといって一万人を超す大所帯の騎士団が揺らぐはずはない。


 機能が停止するとすれば、裁判によって事件の全貌が明らかになったときだろう。


「裁判の結果次第だね。今回は大馬鹿としか言えないほど証拠がきっちり揃っているから、大法官も騎士団長たちに謀反の意図があったと判定せざるを得ないはずだ」


 すると幹部の責任が問われ、多くは斬首刑に処される。


 騎士団は解体に追い込まれるだろう。


 アルベルトが用意した筋書きでは、そのまま騎士団の経営を乗っ取り、王家に統合して終わる、はずだった。


「しかし、彼らは追い詰めすぎてもよくない、というのが父の意見なんだよ。騎士団の持つ性格というのかな。サントラール独自の騎士道精神が、損得の勘定を超えて、無私の奉公心を騎士団長に捧げる性質のものに育ってしまっているから、処刑すると暴走しかねない、というんだ」


 ――そもそもが、武器屋の襲撃から、こちらの想定をはるかに超えておった。あれほどの馬鹿どもにつける薬はない。


 処刑が妥当の重犯罪を強行したのは、計算ができない馬鹿どもであるからだと父は言うのだ。


 単に、舐められたから殴り返しに来た。


 その結果首を切られようが構わない。


 矜恃の方が大切だ――


 そう考える馬鹿どもである。


「経営権を奪い取る下準備として、こちら側にもある程度反発を抑え込める戦力を揃えた、つもりだった。でも、それも武器屋で潰されてしまった……本当にあれは誤算だった」


 どうせ聴衆は公爵しかいない。


 アルベルトは抑えきれない苛立ちをぶつけるように、少し声を荒らげた。


「普通はあんな真似に出るだなんて思わない。そうだろう? 正義を標榜する騎士団が無辜の市民を焼き殺そうとしたんだ。人道的にも許されることじゃない。だけど、彼らは隠蔽できると思っていたようだね」


 一緒に捕縛して回った若い魔術師は、眉をひそめた。


「あれだけ証拠を残しておいて、ですか」

「そうなんだよ。常識が通用するやつらじゃないんだ……やってられないよ、もう」


 はあ、と、ため息をつき、呼吸を整える。


「……とにかく、父上の最終的なお望みは、怪物どもを統制すること。コントロール下に置くことであって、解体はまだ時期ではないと言うんだ」


 国王は静観を最も好む。


 弱腰だと批判しきれないのは、三年前の戦争で敵を退けたのは父の功績によるところが大きいからだ。連携が取れない五大騎士団の人心を操ってまとめきったのは父王である。


「サントラールにはまだ余力がたっぷりある。魔術師の精鋭が消えたことで、むしろ、ボロを出しやすくなったはずなんだ。欠けた戦力を一時補うのに、隠し武器はうってつけだ。不法に流通している魔獣素材の出所を抑えるチャンスだったのに……」


 王国には少し前から未管理の魔獣素材が流通するようになっていた。


 もともとゼロにすることはできない性質のもので、すべてを管理するのは不可能だ。僻地では魔獣をいつどこで狩ったのか申告しない人間など珍しくないし、王都への持ち込みも、冒険者や騎士の移動が頻繁であれば必ずどこかで検問漏れが発生する。厳しくしすぎても入市に時間がかかりすぎて流通が滞り、魔獣の被害が逆に増えかねない。


 しかし最近の流通数は、治安が悪くなったと目に見えて分かるほどだ。


 サントラール騎士団は昔から管理が甘く、汚職や腐敗で大規模なばらまきが発生しがちであるため、王家も目を光らせているのだが、末端をどれだけ捕まえて取り締まりを強化しても、一向になくなる気配がない。


 困っていたところ、急に彼らが『魔道具の禁止法案』などというものを成立させようと動き出した。


 一般人が強力すぎる魔道具を手にするのは危険だ、というのだ。


 彼らが自分で管理するなどと言い出したことで、一気に王家との関係は緊張を孕むものになった。


 魔獣素材の採掘権、所有権は伝統的に王家のものである。これは現在においても重要な権利で、騎士団の専横化を防ぎ、手綱を握るためには必須のものなのだ。この法があるために騎士団はすべての武器防具、魔獣素材の流通を王家に監視されている。


 間接的に武力をコントロールする手段にもなり得ているのだ。


 それらの王権を一部弱体化させるような法律は、言ってしまえば騎士団が王家の制御下に置かれている状況を変えようとするものに他ならない。


 王権への挑戦、と受け取られるのも当然の状況だった。


 しかもどうやらそのお膳立てに民衆の支持を取り付けるべく、魔獣素材をバラ撒いていたような節もあった。危険な魔道具の流通が増えれば事件・事故が増え、増えれば禁止法案も妥当性を帯びてくる。


 テウメッサの狐が暴れたせいで法案成立に不利な文官が大量に消え、一時は危ないところまで行ったが、なんとか成立は回避した。


 その後も注意して取り締まりを強化しているが、未管理物の流出事件は増えこそすれ、いまだにまったく衰えることを知らないのである。


 おそらくどこかに巨大な隠し倉庫の類いがあるはずだとアルベルトは睨んでおり、国王もその説を支持している。


「でも、父上は、先に武具を抑えたい、と言っている。現段階でもうサントラールの『副王』崇拝に手を出すのは困難だから、とね」


 そうは言っても、彼らは市民にまで手を出している。


 武器屋に手をかける意味も理由もまったくなかったはずだ。


 今ある材料だけでも十分に『副王』の名誉を貶め、解散させられる、とアルベルトは考えていたが、父王はそう考えなかった。却って王家が策を弄したと思われかねない、と。


「『副王』を吊るし上げる材料を集めるのに、君にもずいぶん苦労してもらったのに……ここに来て待ったがかかって、本当に申し訳ないと思っているよ。君の協力がなければ、実行犯の捕縛は成し遂げられなかった」

「見ていただけでしたが……」

「君相手に暴れても仕方がないと思わせられたんだよ」


 捕縛時には抵抗したものもいたが、彼によって速やかに無力化されている。犯人に使い手の多かった火の魔術は発動も許されなかったようで、彼ら自身が驚き、異常事態に怯えていたほどだ。


「サントラールの騎士団長個人に怨恨はありません。しかし――」


 彼が積極的に協力してくれた理由は明白だった。


「彼らの本当の狙いはリゼルイーズ嬢だったようだね。魔法書の製作者を狙ったと言っていた」


 やはりその事実を苦々しく思っているのだろう。


 公爵としては、懲罰が過剰だと言われようと、牽制的に敵はすべて排除しておきたかったはずなのだ。


「私もあれは、あってはならないことだったと思っている。彼女を狙った実行犯は最低でも見せしめにしたい。しなければ舐められっぱなしだ。公爵も、リゼルイーズ嬢に手を出したらどうなるのか、彼らによく教えてあげないと」


 ――第二、第三の事件が起こりかねない。


 そう囁きかければ、公爵からの協力を取り付けられると知っていたので、アルベルトは迷わず危機感を煽っていった。


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