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「ここは、あれですか、笑うところ、だったのか、な?」
あははと愛想笑いをしながら誤魔化す。
「いえ、本当ですよ」
さっきまでキレていたのにクールに言わないでいただきたい。それにしてもマズい、だって昔から噂されている存在の正体を普通バラすか? 厄介ごとの匂いがプンプンしている。
「実は今回ユーさんが裏近衛メイド部隊の教官だと噂が流れ、この街に入ろうとする邪魔者を多く排除することができました」
「噂をわざと拡散させたりして罠を張っていた、ということはないですよね?」
お、流石伯爵様、ピクリともしない。残念ながら秘書の目が泳いだがな!
「そんなことを話してどういうことでしょうか? 口封じされそうで怖いんですが」
「そちらの秘密を知ってしまったので信頼を得る為に……、ああ、そんな胡散臭そうな目で見ないでください。私の依頼にも関係していることなんです」
依頼にも関係する? 裏近衛メイド部隊絡みの依頼ということか。
「はい、御察しの通りです。依頼内容は調子に乗った次期当主である長男を懲らしめていただきたいのです」
ここでなぜ長男? 詳しく聞くところによると、ツナ伯爵家は裏近衛メイド部隊を輩出、迷宮都市の管理とこの国でも最重要の仕事を任されている。そして王家に近しい女性を多く王家から勧められ妻としてきた為、王家の血も入っている。そのため本来なら伯爵家より上の爵位が与えられるのだが、領軍の保有可能数などの関係から伯爵家にされている。
これは王家の血を入れることによる帰属意識を高め、裏近衛メイド部隊を影で操るツナ伯爵家の反乱を防ぎ、実際に反乱をしたとしても叩き潰せる程度の軍事力に抑えるという政策らしい。
その帰属意識を高める一環としてツナ伯爵家に王子と同年代で同性の子供がいた場合は、お遊び役を務めることになっていた。
そして出てくる話題の長男だが、その王子のお遊び役兼人質として王都に行っていた。そして王子と遊び共に学ぶうちにドンドンと調子に乗っていったようだ。憖、才能があった為に褒められ勘違いしていき、王都から戻ってきた時にはツナ伯爵が頭を抱えるほどの人物になっていたとか。
そんな長男様が今回噂された裏近衛メイド部隊の教官、つまり俺に怒りを覚えていると。ちょうど良いから長男を倒して鼻っ柱を叩き折ってくれ、というのが今回の依頼内容だ。
「それ下手したら次代のツナ伯爵様に恨まれますよね?」
「きっかけを作ってくだされば、私が死ぬまでになんとか矯正してみせますよ」
なんだろう、裏近衛メイド部隊を輩出させてきて自信があるのだろう。なら俺を使わずになんとかしてほしい。
「いえ、私が倒しても父であるから仕方がないとなってしまいますし、弟は兄に負けて最近は必死に修行していますが折れた心はまだ治らないようで……まああんな態度の兄に、しっかり教育を受けた弟が負けたら仕方がないのですが……」
人質として扱われた兄とツナ伯爵自らが教え導いた弟、それなのに帰ってきた兄に弟は負けてしまったということか、それは辛い。兄より優れた弟はいなかったのか……。あ、うちは弟の方が運動神経、成績共に良かったですけどね。
あれ、でもお遊び役として王族と同じ教育を受けたのなら弟が負けるのも仕方がないのでは?
「えっと俺が戦って倒せば良いのですか?」
「あ、いえそうではありません。長男の育てたメイド候補生とユーさんの妹さんたちで裏近衛メイド部隊適性を競い合い、圧倒して欲しいのです」
「適性と言うと?」
「戦闘力と宮廷作法になります。見た所、特にミオ様は高度な宮廷作法スキルを身につけておられます。十分に戦いになるでしょう」
は? この秘書何言ってんの? ミオにそんなスキル付いてなかったし……まさか!?
『ステータス』
名前 ミオ(水緒)
種族 ヒト{隠密スライム(中忍)}♀ Lv28
称号 忠臣 (癒し系 抱き枕 ユーの右腕)
HP 3420
MP 570
攻撃 114
防御 228
速さ 342
知識 114
精神 114
器用 228
運 50
忠誠 100
(種族スキル)
(スライムボディ中)
(ユニークスキル)
{人化(特) 忍術}
スキル
(隠蔽Ⅷ) 気配察知Ⅵ 投擲Ⅳ 短剣Ⅴ 全状態異常耐性Ⅳ (宮廷作法Ⅵ) 格闘Ⅲ
……やはり、隠れているスキル出てこい! って思ったら出てきやがった……。ミオだけでなくみんなのを見ると、リュミスⅣ、クオンⅤ、リオⅢ、リンカⅡ、ライカⅡ、チカⅡも宮廷作法スキルを持っていた。俺にはなかった。
ヨミの奴め! だがこれで奴の目的が少し見えてきた。俺を力ある立場にするか近づけようとしていたな。それから何をするのかはわからないが、悪く考えるとミオを操り王を殺して各国を混乱させる。良く考えると権力者に近づかれたときに困らないように。
……敵か味方かまだまだわからないじゃねぇか! でも良く考える方は隠す必要がないんだよな。まあ下手な考え休むに似たりと言うし、ここらでやめておくか。
今度ミオから宮廷作法スキルを得ておこう。
「それで依頼を受けていただけますかな? 勝った場合の報酬は金貨20枚、負けた場合は金貨5枚、期間は明日1日、ついでに裏近衛メイド部隊でも使っている最上級のメイド服を人数分差し上げます」
様々な魔法を付加した冒険にも使える物ですよ、ふふふと笑いかけてくる。クオンはメイド志望なので期待した目で見てくる。
「それを着させていたら、また勘違いされるし、あわよくばそのまま私たちを取り込もうとしてませんか?」
「ッチ!」
舌打ちするな! まあクオンが乗り気だし、一対一の練習もしたかったから受けておくか。
「ではお受けします。でも明日でいいんですか? ご子息の予定などもあるのでは?」
「あいつはユーさんに敵意むき出しだったのですぐに食い付くでしょう」
そんなにかよ……。やっぱり依頼受けるのやめようかな?
そうして一応書面のやりとりをして伯爵様たちは帰っていった。
「なんというか面倒なことに巻き込まれちゃったな」
「マスターの名誉を傷つけないように頑張ります!」
「マスター任せてよ! 勝って金貨20枚ゲットだよ!」
「あるじサマ、リオもがんばる!」
「メイド服、これで私も立派なメイドですよね、ご主人様!」
「ライカはどうするぅ?」
「……トノの、ためなら……」
「ユーしゃまの御心のままに」
そう言ってくれるみんなの頭を撫でて感謝を伝えた。
「クオンはこれで名実ともにメイドだ!」
「ありがとうございます、ご主人様」
「いや、今回は俺お礼を言われるようなことしてないよ」
「いえ、慰めてくださいましたし、依頼を受けてくださいました。本当にありがとうございます!」
そう言ってくれるクオンを猫可愛がりしてこれからの予定を考える。
あ、忘れていたが鬼だったな。
なんかどっと疲れたから戦うにしても昼からだな。
休日のお父さんよろしくダラけているとリュミス、リオ、リンカに乗られた。しばらくしたら三人はミオとクオンに料理の手伝いに引っ張られていった。
それにしても貴族が関わってきたか。ここでツナ伯爵の庇護を得て生活していくのも悪くない。俺がこの娘たちを育てていると思っているので、裏近衛メイド部隊を育てる人員に入れたいとは考えているのだろう。
しかしみんなの正体が明らかになったときどう扱われるかわからないし、クオンのことはよくないと言っていた。そのクオンを懐に入れるのを良しとするのかもわからない。
やはり力をつけるのが一番か。




