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ミカちゃんが早く帰ってきた俺たちに不思議そうな顔をしていたが誤魔化しながら部屋に戻った。
身体中が嫌な汗でべったりしていたのでとりあえず汗を流し、みんなでソファーに座った。
ここまで何も話さないミオに不安になりながらも何か言ってくれるのを待った。が、やはり話しにくいよな。ここは年長者、そして、彼女の主人である俺から話すべきだろう。
なんて思ったがここで話していいのか? 白刃、彼なら神にすら注目されていてもおかしくないので念の為に注意していた可能性もあるが、俺が注目されている可能性もある。自意識過剰かもしれないが彼曰く『資格者』この言葉もわからないが注意した方がいいだろう。日常は注意しても仕方がないが、ヨミや白刃の事はなるべくダンジョンで話すことにしよう。
ということで、はぁ。
「もう一回ダンジョンに行くよ」
そのことにみんな驚いていたが反対はない。色々と俺が考え込んでいたから必要な措置だとわかってくれているのだろう。
正直二度手間だがあのままダンジョンに挑戦してもみんな動揺した状態ではダメだと思って帰った判断は間違っていないと思う、思いたい。
「それでは準備をします」
「リオ革のドレスだよ」
「ありがと〜、りゅーねぇ!」
ワイワイと騒ぎながら準備をしている三人と俯いたままのミオ。
「ミオも行くよ」
そう言ってミオの肩に触るとビクンと反応した。やはり怯え、それも自分が乗っ取られる驚怖よりも俺を傷つけるかもしれないことへの。こんな忠臣ほっとけないよね。まあほっとく気なんて最初から無いけど。
ミオの身体を抱き上げて左手だけで抱っこする。能力値上がっててよかった、軽いし楽勝だな。
「マスターダメです!」
少しヒステリー気味な叫びだが気にしない。
「何がダメなのか、俺にはよくわからないな。前にもしたことがあっただろう?」
そして何か言おうとするミオの口を右手で塞ぐ。
「その話はダンジョンで聞くよ」
となるべく小声で言った。
ミオもここで話してはマズイとわかっているため渋々従った。
「よし、ダンジョン再挑戦だ!」
みんなでもう一度ダンジョンに向かった。
とりあえず先ほどの大部屋まで行くことに決めた。右手にバスタードソード、左手にミオ。ま、まあ、いつか誰かを庇ってこういう感じになるかもしれないじゃん? 経験しとくことは悪いことじゃないと思っておく。
ミオ以外で気配察知を使えるのは俺だけなので俺が先頭になり進む。うーん、ミオは腕の中で動かない。ダンジョンに入れば戦闘状態に一応戻ってくれるのでは、という期待はダメだったか……。
でも俺が危険に晒された場合は間違いなく助けてくれるとわかっている。ここでは危険な目に遭わないとミオが信頼してくれているのかとポジティブに考えておくか。
警戒しながらダンジョン内を俺とミオ、リュミスとクオン、リオという隊形で進む。
「そういえば白刃はリュミスのことを霊獣って呼んでたけど、霊獣って?」
「霊獣はねぇ、魔力の溜まりやすい土地や地脈を守る幻獣種のことだよ」
「え、そうだったんですか?」
「あれ? 人側の認識は違うの?」
「はい、聖地に住むことを許された存在が霊獣と言われています。その為、聖地に入ったものを迎撃するとも」
「うーん、確かに聖地の場合もあるけどだいたいは魔力が溜まりやすい場所だね」
「よくわからないけど、守護者ってこと?」
「まあそういうことだね。魔力が溜まりやすい場所だから多くの魔力を吸収して強いのばかりだよ」
「じゃあ、リュミスの前身はどこかを守ってたってこと?」
「そうじゃないかな? 記憶とかないけど水魔法があるから水に関係する場所を守護していたんだと思うよ」
「ちょっと気になってたけどやっぱり前身の記憶とかはないんだ?」
「うん、ない。ただ、マスターが暗く寂しい所から助けてくれたことだけはわかったよ」
「そうなのか。まあ長い間カードの状態で封印されていたからなのか? わからないけど助けられてよかったよ」
「うん、ありがとねマスター!」
そんな話をしながらも気配察知は欠かさない。でも意識してなきゃならないのは面倒だよな。こう、近づいてきたら知らせるようにできない? 念じる。うん、できる? あ、お願いします。あとオンオフできる設定で。
スキルマジ便利やわ。
あ、敵が近づいてきた! 心眼を使い自らの動きも確認しつつ鴉をバスタードソードで斬りつけた。その瞬間、頭に情報が流れ込んできた。
握りが甘い、姿勢が悪い、身体の余分な力を抜け、脚をもっとスムーズに……等、膨大な量だ。うわぁ、そんなにダメだったのか俺……。凹む……。
とりあえず、これからはここで素振りすることにしよう。たまに来る鴉をちゃんと迎撃できるかとか、良い素振り環境な気がする。
駄目出しされ過ぎて凹んでいたが、そんなことに関係なく敵は来る。とりあえずできることから始めることにして一つ一つ確認しながら鴉を倒していく。一撃当てれば倒せるのでここまでは一人で対応できていたが、大部屋に近づくと敵を七匹発見した。
「大部屋の中に七匹鴉を発見した、どうする?」
小声でみんなに伝える。
「私がご主人様の示した場所に火魔法を放ち、見えた瞬間にみんなで残りの敵に魔法を放つのはどうでしょう?」
まあ強い敵でもないし、それでいいか。
「じゃあそれで。みんな準備よろしく」
ということで大部屋の入り口まで敵に気づかれないようにゆっくりと近づいていく。
「クオン、この向きにお願い」
「はい」
クオンが方向を定めたのを確認して後は魔法を使うタイミングだ。
「みんなも魔法を準備」
みんなが魔力を高め、いつでも放てるのを確認。
「今!」
小声で指示を出した。
クオンがファイヤーボールを放ち、視界が一気に明るくなる。そこにみんなで魔法を放つ。リュミスは水弾を放ち、二匹纏めて撃ち抜き三匹目にも当たったようだ。重なってた訳ではないので水弾を操作したのか?
リオと俺はシャドーボールを放ち、二匹を撃ち倒す。
そして、近づいてきた一匹に右手のバスタードソードを抜き放ち、斬る直前で俺を攻撃しようとしているもう一匹の存在に気がついた。
その敵はリュミスが水弾で攻撃した最後の一匹、殺しきれず水浸しとなった状態で攻撃してきたのだ。これには気配察知が熱を判断基準としていた為に死角となってしまった。水によって体温が奪われ、水で誤魔化された状態、さらにはもう目視できていた為に切ってしまった心眼、これは油断しすぎだろう……。というかこんな一瞬でこれだけ考えられるって凄くね⁉︎ でもさ、これ超怖い‼︎ ゆっくり敵が近づいてくるのがわかっちゃう、剣はもう振り下ろし動作入ってるから防御もできないし。
攻撃場所は……目ですね! ヤベェ! 防御上がったから大丈夫ですよね? そうですよね? というかこの時間で魔法を使えるか考えるべきだったんじゃね? ということに気がついた瞬間、時の流れが元に戻った。
バスタードソードが敵を真っ二つに斬り裂き、せめてもの抵抗で目を閉じた。そして衝撃に備えたが、本当はそんな心配をしていなかった。
目を開けるとミオが短剣で俺を襲っていた鴉を突き刺していた。
「ありがとう、ミオ」
どうやら先ほどの思考が加速したような状態はスキルではないようだ。例の声も聞こえなかったし、これからはあの声を天の声と呼ぼう。そしてスキルではないなら能力値が増えたことによるものだったようだ。今までは元の世界の認識が邪魔して思考の速さを制限していたが、危機的状況に陥りそれが外れたようなのだ。これに気がついたことにより戦闘の幅が広がるだろう。
そんな思考をしていると不安そうな表情のミオと目が合った。目的地に着いたことだし左腕で抱きしめていたミオを降ろした。




