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30.お礼と相談と

 ツボーネの依頼を達成してから数日。

 ザハラは今までと変わらずラシードの屋敷に通い、ギルドの依頼をこなす日々を送っていた。ただ、ラシード本人とは顔を合わせていない。なんでも重要な商談があったそうで、しばらく留守にしていたのだ。

 この日はやっと商談が一段落し、少し時間がとれるとのこと。「昼前あたりに一緒にお茶がしたい」と誘われていた。

 マダム達の依頼は大抵午後から。ザハラとしてもラシードときちんと話したいことがあったため即頷いたのだった。


「ラシードに時間ができて良かった。話したいことが結構あったから」


「ザハラの話ならいつでも受け付ける……と言いたいが、まだ俺もちょっと慌ただしくてな。時間が合って良かったよ。どうした?」


 二人の前には派手さはないが、質の良い茶器が並んでいる。ラシードが好きそうだと思ってザハラが選んだものだ。彼も気に入ってくれたようでひと安心である。


「えっと……まずは、ありがとう。ルビーアさんのところにわざわざ行ってくれたんでしょう?」


「そのお礼はもう聞いたぞ。商売のついでだったから気にしなくてもいいとも言った」


「それでもよ。お陰で私もナプも助かったから。改めて、本当にありがとう」


「ンー!」


 深々と頭を下げるザハラ。それを真似っこして、ナプもペコリと頭を下げた。双葉がひょんひょんと揺れている。 


「できることをしただけだからいいんだよ。で、それが本題ってわけじゃないだろう?」


「これも本題よ、すごく助かったんだから」


 ラシードのお陰、というか、影響で少し強くなれた気がするのだ。やりたいことであればやる。他人は関係ないと言い切る強さを得た、とでも言えばいいのか。


(この辺りはまだうまく言葉にできないからグダグダになっちゃいそうなのよね。いつかこういう部分もお礼を言って、恩返しできたらいいんだけどな)


 そんなことを考えつつ、目下の課題を口に出す。


「あ、あのね。そろそろ私が頼んだ内装とか、全部届く頃合いだと思うの。だから、そろそろ契約終了かなって思うんだけど……」


「内装はそうだな。でもまだ庭をやってもらってないしな。こっちは継続だぞ?」


「え? そうだったっけ?」


「……ザハラ、ツボーネさんの時も思ったが依頼書はきちんと書いて、きちんと読まなきゃダメだぞ」


「う、はい。そこはすごく反省しています」


 そこからはちょっとしたダメ出し会だった。ついでに、ラシードと交わした依頼書の解説もしてくれた。

 ザハラはてっきり内装が完成すれば終わりと考えていたが、依頼書では「ザハラが考案した庭園の完成」がゴールとされていた。それまでの間、報酬として護衛の貸与と食事の提供が契約の条件になっている。


「あ、じゃあこれからも通わせてもらう感じかな?」


「マダム達の依頼を受けて訪問する際にはうちに来ることになるんだから、そういうことになるだろうな。ついでにうちの庭でナプの研究もしてしまえば一石二鳥だろ?」


「……それ、いいの?」


「いいも悪いも、もう依頼書は魔物使いギルドに提出してるじゃないか」


「そうでした」


 なんということでしょう。どう考えてもザハラに有利な、言い方を変えればラシードに甘やかされた契約がもう成立していたのだった。それもこれも、ザハラの契約書や依頼書に対する認識の甘さが原因である。


「まぁ、ツボーネさんのことも含めて、契約書ってのは色々あるわけだから今後気を付けろよ」


 ラシードはいたずらが成功した子供のような笑みを浮かべている。そして言われていることはド正論であるがために、抗議する気も起きない。


「ううう……」


「なんだか不安だな。サームの他に、契約書作る時は一人貸し出すか?」


「借りばかり増えちゃうじゃない……。返すアテのない借金は怖いわ。でも……」


 言いながら、ザハラはとある手紙をテーブルに置いた。


「これは?」


「……ツボーネさんからのお手紙なの。ルビーアさん経由ではあるんだけど」


「ルビーアさん経由、か。内容はルビーアさんが保証してるってことだろうから、呪詛の手紙とかじゃなさそうだけど」


「そんなの出すわけないでしょう。ただ意見が合わなかっただけだもの。……でも、だからこそ、中身がよくわからなくて困ってるんだけど。実は、ツボーネさんの旦那様って土地も売っている方らしいの。その、紹介状なのよね」


 ルビーア経由で渡ってきた手紙は、実に事務的な内容だった。中身もこの前の一件には全く触れず、ただ土地の値段や条件を添えた紹介状だ。


「ふぅん……。ザハラはどうしたい?」


「どうしたいって聞かれると……ちょっと待って。整理したい」


「うん、悩め悩め」


 改めて自分の意思を問われて、まだきちんと考えが固まっていないことに気付いた。色んな思いが頭を巡る。


「えっとね……まず、怖い、かな。私の甘さが原因でナプに大変な思いをさせてしまったし、その原因になった人だからどうしても警戒しちゃう。でもそれを見越して、ルビーアさん経由なんだと思うの。だから、この上で騙してくるとかは、なさそうかな……」


「うんうん。感情を抜きにすると?」


「……チャンス、なのかな。もう何件か依頼を頑張れば届くような土地も紹介されているの。私がしたい研究なら砂だらけとか荒れ地とか、相場より安いのはわかっていたけど……あ、そう。これは相場なのかなって不安はあるわ」


 砂漠を緑化する。これがザハラの最終目標だ。ナプが進化してくれた今、その目標は頑張れば手が届くと思えるくらいには近づいている。

 もし、自分だけの研究用の土地が手に入れば、目標により近づけることは明白だ。


「事実だけを見ればチャンス。邪魔しているのは、不安って感情ってことだな。でも、不安は知ることで解消できるよな?」


「相場は調べに行けばわかるし、実際どんな土地なのかも見に行けばわかるわね。ということは、私が今するべきことは調査だわ」


「ついでに土地購入を本当にするとしたら何が必要かは調べた方がいいかもな。俺もこの家買う時結構面倒だった。何せ俺も花がいない身だからなぁ。親父に法律的なこと教えてもらってゴリ押したけど」


「ラシードでも大変だったのね……」


 成功したラシードであっても苦労したとなれば、女性であるザハラはどのくらいの困難が待ち受けているのか。予想もつかなくて、ちょっとクラリとしてしまう。


「何かあれば俺でも、ナージャさんでも、信頼できる人に頼ればいいさ。研究だって一本道でいけるわけじゃないだろ?」


「ラシードの場合は、本当に借りばっかり増えちゃう気がするんだけど……」


「ははは。そうだなぁ。そのうち、俺の家にフラワーアーチでも作ってもらえばチャラになるんじゃないか?」


 フラワーアーチとは、この砂漠の国では憧れの代名詞のようなものだ。人間が潜れるようなトンネルを花で作り、庭やエントランスを飾るのである。

 ただし、昼夜の過酷な寒暖差に加え、乾燥が続くこの土地でそれを保つのは至難の技というか、ほぼ不可能と言われている。大抵は資産家が祝い事やパーティーのために財力に任せて花をかき集め、その場限りのアーチの形に飾り立てるのが精々だ。それでも十分に評判になるし、集めた花は帰り際に配られるので招待客にもすこぶる受けが良い。


「常設のフラワーアーチを作るってこと? うーん……ナプの植物魔法が解明できたら一ヶ月くらいなら不可能じゃなさそうな気はするけど……今はまだなんとも言えないな」


「一ヶ月であっても、ものすごい価値だぞ。まぁ、借りが増えてるって思うならそういう方面も考えてくれると嬉しい。のんびりでいいさ」


 のんびりでいい、と言われるけれど、それはそれでプレッシャーだなぁと暢気に考えるザハラ。

 そんなザハラの現状は『ほぼ毎日ラシードの家に通っている』状態である。それが周囲にどう見えているか。それを知らぬはザハラとナプくらいなものである。


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