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28.認められなくても

このお話、作者お気に入りのお話なんです。よければブクマと評価をしていただけませんか?

このお話をもっとたくさんの人に読んでもらいたいです!ランキング入りへの協力よろしくお願いいたします!

 真後ろに護衛のサーム。横にはツボーネとそのお付き達。どちらからも困惑の雰囲気が伝わってくる。

 それもそのはず。

 視線の先には、砂の中にスッポリ埋まって首だけ出しているナプがいるのだ。


「えーと……ナプ?」


 ザハラも困惑しているが、なんとか声をかける。


「ン、ン、ンー! ン、ン、ンー!」


 首を左右に動かしてリズムをとるナプは大層ご機嫌だ。頭の上で揺れる双葉がとっても可愛らしい。


(もしかして、これは何かの儀式みたいなものなのかしら?)


 流石にこの状況でメモをとるわけにはいかず、ザハラはじっとナプの様子を見守る。


「ン、ン、ンー! ンンー!」


 楽しそうにリズムをとるナプの周りに、魔法特有のキラキラが浮かぶ。暫くして、キラキラが消えていくとそこには……。


「これは、なんだろう? 砂ではないけど、土というにはちょっと……」


 ナプが漬かっていた(?)砂が不思議な物質へと変化していた。

 色は茶色っぽくなっており、摘まむと少しだけまとまってすぐに崩れる。確かに砂ではないが、土と言うには保水力がなく、様々な栄養素も不足しているようだ。

 それでも、今この場で花達が命を繋ぐには十分な変化だろう。足りない水分や栄養は、あとから補うことができる。


「これ、ナプのお陰よね……って、ナプ!?」


「ン~~~……」


 ナプが魔法で作り出した砂以上土未満の物質に気をとられすぎた。頑張ったナプがヘロヘロになっているではないか。慌てて助け出そうとすると、すぐにサームが掘り起こしてくれた。


「す、すみません! お水を!」


 依頼受諾の手紙に、条件として桶一杯分の水を用意してほしいとお願いしてある。急いでそれを求めると、ツボーネはどこか焦ったような様子を見せた。


「え、えぇ。勿論用意してある、わ……」


 チラリ、とツボーネが後ろに視線を送る。お付きの人達はすぐに動いたが、表情が妙に強張っていた。


「え、これ……」


 差し出された桶の中にはきちんと水が張ってあった。しかし、その水がとても濁っている。掃除か何かに使用したあとの汚水に見えた。

 ザハラの脳内に、ラシードの言葉が反芻される。警戒しろ、備えをしろ。そう彼は忠告してくれたというのに。


「ン~~~……」


 へにょへにょになっているナプが、かぼそく鳴く。いつもの元気な声とは全く違い、泣きたくなった。だが、ここで泣いても解決はしない。

 目にグッと力をいれて、最大限虚勢を張る。


「水の状態まで指定しなかったこちらの落ち度です。この水ではナプが苦しむだけですので、本日はここで失礼させていただきます」


「あ、ち、違うのよ。これは——」


「すみません、一刻を争いますので」


 ツボーネが何かを言いかけていたが、それを遮る。ここで時間を使うわけにはいかない。へにょへにょのナプを抱き上げて、駈け出そうとした。

 その矢先。


「おやおや、遊びにきて正解だったねぇ」


 張り詰めた空気の中に、ゆったりとした声が響く。


「ル、ルビーアさん!?」


 顔を上げると、そこにはルビーアが艶然と立っていた。


「突然の非礼はあとで幾重にも詫びさせてもらうよ。けど、まずはこっちをどうにかしないとねぇ」


 ルビーアの言葉と同時に、後ろに控えていたお付きの人が動き始める。

 一人の手には見たことのない蛇腹状の物体。もう一人が持っているのは、よくある水の魔道具だった。


「この子の幼馴染が、面白いモンを売りに来てね。携帯できる桶なんだとさ」


 ルビーアの説明の間に蛇腹の物体が引き延ばされ、ちょっと波打った桶が現れた。そこに魔道具から水が注がれる。


「ほら、ザハラ。ナプを入れてやんな。遠慮なんかいらないよ」


「あ、ありがとうございます!」


 大急ぎで腕の中のナプをその桶に入れる。


「ン~~!!」


 しおしおだったナプの声に張りが出始めたのを聞いて、ホッとすると同時に堪えてきた涙が溢れそうになった。泣くのだけはどうにか耐えようと奥歯を噛み締める。


「さて、間に合って良かったよ。ザハラはあとで幼馴染に礼を言ってやんな。色々と勉強代替わりに情報を寄越してきたからねぇ」


「ラシードが……」


 またも彼に助けられてしまったらしい。このままではいつまで経っても、対等に隣に立つことは難しい。借りばかりが増えていく気がする。


「さて、ツボーネさんや。これはちょっとばかしやりすぎじゃないかい?」


「そ、それは……だって……」


 ルビーアがどこまで察しているかはわからない。しかし、文字通り息を吹き返したナプと、向こうに所在なさげに置かれている汚れた水が入った桶を見れば予想はつくのだろう。

 ルビーアは強い視線を向けて、ツボーネの言葉を待つ。

 言葉がまとまらなかったのか、ツボーネは苛立ちを隠しもせずにヤケになったように叫んだ。


「だって、なんでこの小娘だけが、自由を許されるというの? 私達は花になる以外、道がなかったじゃない! ナージャは母親だから仕方なく許しただけよ。私は認めない! 認めるもんですか!」


 ツボーネからすれば、ザハラの存在は耐えがたいほど不公平に映っているのだろう。自分が持ちたくても持てなかったものを、全て手にしているように見えているのかもしれない。

 ルビーアが何か言おうとする気配がした。

 その前に、ザハラの体が動いた。一歩、進み出て。そして、真っ直ぐにツボーネを見つめる。


「認められなくても構わないです。でも、私は私で頑張りますから」


 ラシードも言っていた。すべての人が肯定してくれるわけではない、と。

 皆が認めてくれて、「素敵だね」って言ってくれたら、それはとても優しい世界だろう。だけど、現実はそうもいかない。

 ラシードは、それでも進んできたのだ。その強さを改めて感じた時、ザハラの胸に今までとは違う思いが宿った。


(大事な何人かが認めてくれたら、それでいいんじゃないかな)


 確かに、面と向かって「認めない」と言われたのは悲しい。でも、不思議と、以前のように深く傷つくことはなかった。

 それは、ラシードや母、そしてルビーア達の存在があるからだろう。

 ザハラは背筋を伸ばし、胸を張って言葉を続ける。


「今日は、ナプが頑張って、この花達を元気にしてくれました。でも、この効果がいつまで続くかは研究途中ですので保証できかねます。それはお手紙でも申し上げた通りです。もし、今後のお手入れをご希望される場合は、また魔物使いギルドを通して依頼を出していただければ、都合が合う限り、お引き受けいたします」


 しっかりと言い切ってから一礼。ザハラを真似するように、桶の中のナプもまた大きな頭をペコリと下げた。

 その場が一瞬の静寂に包まれる。

 それを破ったのは、ルビーアの豪快な笑い声だった。


「あっはっは。一本取られたね、ツボーネ! ザハラも一皮むけたんじゃないかい?」


 心の底から愉快そうに笑うルビーアと、すっかり小さくなったように見えるツボーネ。


「いやいや、いいものを見せてもらったよ。それでこそ、アタシが認めた女だ。後のことはアタシに任せときな。アンタは帰って今日のナプの様子でもまとめるといいさ」


 彼女がそう言うのであれば、この場は任せた方がいいのだろう。そう判断して見上げると、サームもしっかり頷いてきた。

 サームの先導でツボーネの屋敷を出る。しっかり握ったナプの手がいつも通りのしっとりした感触で、心の底から安心するザハラだった。


【お願い】


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