魔王の居場所
そんなこんなで潜入初日。
私――アリシアは、潜入していたフローラから報告を受け取っていた。
距離は限られるが、フローラには自由自在にやり取りできる魔道具を渡してある。
それを通じて連絡するよう命じておいたのだ。
「疑われてないでしょうね?」
「殿下は、女なんて自分の装飾品程度にしか思ってないわ。抱きついたとき、あの男は、満更でもない顔してたわよ――さっさと切り捨てる判断をしていた癖にね」
フローラは、予想以上の戦果を持ち帰った。
「イルミナが囚われていた!?」
「ええ。和平を申し出て、シュテイン王子に裏切られたのね」
「なるほど……、そうなればイルミナを助け出せばアルベルトにかけられた忌まわしい魔法もどうにかできるわね」
私は、そう考え込む。
それからフローラの行動の続きを聞いて……、
「ええ……。あなた、またそんなことしてたの――」
「仕方ないじゃない。それが一番、信頼を得られそうだったんだから」
「こう、他にもあるでしょう。ほら、こう、手っ取り早くあの男を悩殺しちゃうとか」
私の言葉を聞いて、フローラがちょっぴり面白がるように、
「へえ、たとえば?」
「え? その……、一緒に手をつないで宮殿の中をお散歩するとか?」
「小さな子供か!」
む、なんだか馬鹿にされたのは伝わった。
「なら、あなたならどうすると?」
あくまで興味本位だ。
別に、アルベルトを相手にしたときに、参考にしたいなんて考えて――
「う~ん、風呂場で襲う?」
「!?!?」
「夜這いをかけるか、かけられるか――難しいところね……」
「ごめん、あんたに聞いた私が馬鹿だった」
この女は、貞操観念という概念をどこかに投げ捨てていたようだ。
それにしても、思いのほか真面目に情報を集めていて驚いた。
裏切りはしないだろうけど、そう簡単に情報が手に入るとも思っていなかったというのが正直なところだ。……シュテイン王子が、思っていたよりアホだったのだろうか。
「アルベルトの居場所、頼んだわよ」
「……頼んだ、か。――ええ、頼まれたわ」
その日は、それで通信を切り。
――その情報は、想像の数倍早くもたらされることになる。
***
数日後。
「アリシア……様、魔王の居場所。分かったと思う」
「本当に!?」
フローラの言葉に、私は飛びかからんばかりの勢いで反応してしまった。
「アリシア様! 少し落ちついて下さい」
「ご、ごめんなさい……」
私たちは、スラム街にある小さな宿屋に潜伏している。
大声を出して目立ってしまうのは得策ではない。小声で咎めてくるリリアナに目線で謝りつつ、私は続きを促す。
「魔王が今居るのは、第四騎士団の駐屯地。そのまま1週間後には、ここ王都に送られてくるはずです」
「でかした、フローラ!」
「最後まで聞きなさいって。わざわざ敵国の長を王都に呼び寄せた目的は――」
――公開処刑
その言葉を聞いて、私は頭が真っ白になった。
いや、大丈夫。
間に合ったのだ。
絶対に止めに入る。
その処刑を止めることは、国の面目を丸つぶれにするに等しい。
シュテイン王子は、その場で斬り捨ててやろう――心地よい夢を抱いたまま死んでいくが良い。本当に、良い気味だ。
「それにしても、よくそんな重要機密を聞き出せたわね?」
「裏切られるなんて、夢にも思ってなかったんじゃない? お酒を飲ませて、適当におだててやったら、ぺらぺらと喋ってたわよ」
ちょっぴり得意げなフローラの声。
たしかに憎い相手ではあるけれど。
成果を上げた者を正しく評価するのが魔族流であるというのなら――
「ありがとね、フローラ」
「……は?」
「今回の件だけは感謝してる。私じゃ、その情報は手に入れられなかったから」
ぶっきらぼうに言い捨てた私に、
「どういう風の吹き回し?」
心底、不思議そうな声。
「私のことを、お礼も言えない人間だと思っていたの。それなら少し心外ね」
「だとしても、私は別でしょう」
そう、かもしれない。
一生かけてこいつをこき使って、それで溜飲を下げようと思っていたのだから。
「別に特別扱いもしないわ。……そうね、どうでも良いし――その方が、今のあなたは惨めに感じるんじゃない?」
「ふん、あんたも大概良い性格してるじゃない」
シュテイン王子を殺す。
アルベルトを助ける。
そんな目標に比べれば、この女の扱いなど些細なこと。
「アリシア……、様。後は、あなたが、きちんと仕上げてちょうだいね」
そんな言葉を最後に、フローラと繋がった通信機は切れ。
通話を見守るリリアナたちと視線があった。
思えば軽く頼むだけで、一も二もなく危険な作戦に力を貸してくれ。私は、幸せ者だなあと事実を噛みしめる。
「一週間後……、公開処刑の場に、アルベルトとシュテイン王子は姿を表します。その日に作戦決行――どうか力を貸してください」
頭を下げると同時、
「今更、何を言ってるんですか! 当たり前です!」
「僕も! アリシア様と魔王様のためなら、どんなことでもできる気がするんです!」
「わらわの剣術、思う存分頼ってくれて良いんじゃぞ?」
返ってくるのは、そんな忠義の証。
どこまでも心強い言葉に、私は柄にもなく再び頭を下げるのだった。
――アルベルト
こんな終わり方は認めません。
ぶん殴ってでも、魔王城に連れて帰ります。
それは、きっと、みんな同じ気持ちですから。
だから……、どうか無事で居てください。
そんな願いを捧げながら。
私たちは、作戦決行に向けた準備に取り掛かるのだった。





