奇跡を辿ってそこに行け
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――かくして、魔王城に保管されていた心臓は。
しばらく経った後に、魔王城で、無事、発見されることになる。
「すぐに持ってきてください!」
「え、しかし……」
「作戦のためには必要なんです。お願いします!」
目の色を変えて、そんなことを頼み始める私に、
「それが、既にこの都市に運び込まれていると――」
「…………は?」
伝令の魔族は、まさかの返答を寄こす。
布で包まれた何かを、魔族の伝令兵が恭しく渡してくる。
私は、狐につままれたような顔でそれを受け取るのだった。
人間のそれより、一回りも二回りも大きい。
両手で包み込むように、しっかり抱きしめる。
熱が、伝わってくる。
温かい。一緒に、魔力まで伝わってくる――優しく、励まされるような不思議な感覚。膨大な魔力を撒き散らしながら、とくんとくんと鼓動するそれは、たしかに心臓に違いない。
だけど、だとしたら何で魔王城に……?
そして何故ここに?
「アリシア様に託すべきだと思いました」
呆然とする私に、そんな声がかけられる。
心臓を見つけた後、魔王城では幹部たちは満場一致でそう判断したそうだ。
魔王のことは、私を全面的に信じようという信頼の証。
いや、信頼の証として心臓を捧げられても困る。
困るのだけど……、
「最高のタイミングです!」
天がもたらした奇跡に思えた。
――魔王の心臓。
それは、転移装置を動かすキーアイテムとなった。
***
「アリシア様、どうするつもりなんですか?」
「もちろん! 王宮に乗り込んで、アルベルトを連れ戻します!」
転移魔法の核。
アルベルトを探すために、王宮に転移するのではない。
魔力を強く放ち、引き合う2つの部位を持つ1つの生命体。
王宮に居るはずのアルベルトと、この心臓ならピタリと条件を満たす。
アルベルトのことを、移動先の目印にすれば良いのだ。
そんなこんなで、勇んで飛び出そうとする私に、
「アリシア様、どうか一晩だけ休んで下さい」
「また、無茶ばっかりして……」
「戦いになったらわらわに任せて欲しいのじゃ!」
順に、ユーリ、リリアナ、ライラである。
以前の戦いでは、無茶を押し通してイルミナに不覚を取った。
居ても立っても居られない気持ちではあるけれど。
焦るときほど冷静に。私は彼らに礼を言いつつ、一旦、小休止を取るのだった。
そうして数時間後。
「待っていて下さいね。このまま終わりなんて、絶対に嫌ですからね――」
そう祈るように口にして。
私は、転移装置にゆっくりと魔力を流し込んでいく。
実証実験も殆どできていない。
理論的には動くはずだが、実際には使いながらの手探りが多い。
私は、転移装置の動力炉に、アルベルトの魔力を流しこみ、
「……お願い!」
気がつけば、そう祈るように声を出していた。
転移装置が淡く発光する。
希望を乗せた光が、私たちを包み込んでいく。
「アリシア様! これ、大丈夫なんですか!?」
そんな慌てる時間も長くは続かず。
――次の瞬間、私たちは王都に放り出されていた。





