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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
17章 にくきかたきを打ち倒せ
95/107

奇跡を辿ってそこに行け

毎週金曜に更新予定です

 ――かくして、魔王城に保管されていた心臓は。

 しばらく経った後に、魔王城で、無事、発見されることになる。



「すぐに持ってきてください!」

「え、しかし……」

「作戦のためには必要なんです。お願いします!」


 目の色を変えて、そんなことを頼み始める私に、



「それが、既にこの都市に運び込まれていると――」

「…………は?」


 伝令の魔族は、まさかの返答を寄こす。

 布で包まれた何かを、魔族の伝令兵が恭しく渡してくる。

 私は、狐につままれたような顔でそれを受け取るのだった。



 人間のそれより、一回りも二回りも大きい。

 両手で包み込むように、しっかり抱きしめる。


 熱が、伝わってくる。

 温かい。一緒に、魔力まで伝わってくる――優しく、励まされるような不思議な感覚。膨大な魔力を撒き散らしながら、とくんとくんと鼓動するそれは、たしかに心臓に違いない。

 だけど、だとしたら何で魔王城に……?

 そして何故ここに?



「アリシア様に託すべきだと思いました」

 

 呆然とする私に、そんな声がかけられる。


 心臓を見つけた後、魔王城では幹部たちは満場一致でそう判断したそうだ。

 魔王のことは、私を全面的に信じようという信頼の証。



 いや、信頼の証として心臓を捧げられても困る。

 困るのだけど……、


「最高のタイミングです!」


 天がもたらした奇跡に思えた。



 ――魔王の心臓。

 それは、転移装置を動かすキーアイテムとなった。


***


「アリシア様、どうするつもりなんですか?」

「もちろん! 王宮に乗り込んで、アルベルトを連れ戻します!」


 転移魔法の核。

 アルベルトを探すために、王宮に転移するのではない。


 魔力を強く放ち、引き合う2つの部位を持つ1つの生命体。

 王宮に居るはずのアルベルトと、この心臓ならピタリと条件を満たす。

 アルベルトのことを、移動先の目印にすれば良いのだ。



 そんなこんなで、勇んで飛び出そうとする私に、


「アリシア様、どうか一晩だけ休んで下さい」

「また、無茶ばっかりして……」

「戦いになったらわらわに任せて欲しいのじゃ!」


 順に、ユーリ、リリアナ、ライラである。

 以前の戦いでは、無茶を押し通してイルミナに不覚を取った。 


 居ても立っても居られない気持ちではあるけれど。

 焦るときほど冷静に。私は彼らに礼を言いつつ、一旦、小休止を取るのだった。




 そうして数時間後。


「待っていて下さいね。このまま終わりなんて、絶対に嫌ですからね――」


 そう祈るように口にして。

 私は、転移装置にゆっくりと魔力を流し込んでいく。



 実証実験も殆どできていない。

 理論的には動くはずだが、実際には使いながらの手探りが多い。


 私は、転移装置の動力炉に、アルベルトの魔力を流しこみ、


「……お願い!」


 気がつけば、そう祈るように声を出していた。



 転移装置が淡く発光する。

 希望を乗せた光が、私たちを包み込んでいく。


「アリシア様! これ、大丈夫なんですか!?」 


 そんな慌てる時間も長くは続かず。

 ――次の瞬間、私たちは王都に放り出されていた。


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