緩衝地帯にて
翌日。
私たち第1・2・12混成部隊は、ブリリアントの要塞都市を目指して移動を開始した。ブヒオの率いる第4部隊は、ダイモーンの里からディートリンデに拠点を移し、残る部隊はブリリアント要塞都市を攻略する。
ブリリアント要塞都市は、ヴァイス領にある王国の拠点の1つだ。
魔族領攻略の足がかりになっている重要な拠点である。緩衝地帯を挟んで長年睨み合っており、防衛はディートリンデのそれとは比べ物にならないほど強固であることが予想された。
「戦い前から疲弊することは避けたいね」
「姿を隠しながら移動するなら――いっそ少人数のチームに分かれましょうか」
流石に、この人数で移動していては目立ちすぎる。
王国騎士団の生き残りが、いつ奇襲をかけてくるとも分からないのだ。このまま移動しようものなら、格好の標的である。
そこで私たちは、少人数に分かれて移動することになった。緩衝地帯の終わりで、合流するのだ。戦地を渡り歩く旅人を装い、出来る限り戦闘を避けるのだ。
私は、アルベルト・リリアナ・ユーリの4人に、監視対象のフローラを加えて移動することになった。
「ひどい……」
「こんなことが――」
歩みを進める中で、私はあんまりな光景に思わず声を出してしまう。ユーリもショックを受けた様子で、声を漏らしていた。
「何をショック受けてるの? 人間の本性なんて――こんなものでしょう?」
「……黙りなさい」
飄々とした顔で歩くフローラが憎たらしい。
建前上、ここ非戦闘地帯では、戦闘行為や略奪行為は禁止されている。
しかし現実、そのような約束は守られるはずもない。至るところに激しい戦闘の跡が露わとなっていた。酷いのはおおよそ、王国騎士団による暴力の跡だろうか――激しい爆発の跡、滅んだ集落、更には魔族はもちろん、守るべき国民であろう人間の死体まで転がっていた。
巻き込まれたのは、この地に住まう一般人だ。
私は思わず、顔をそらしたくなる。シュテイン王子の命令で戦争に踏み切った王国は、随分と暴走していると見える。
――その時だった。
「おやおやあ? 随分と可愛い旅人さんたちじゃないか」
「ひっひっひ、随分な上玉じゃねえか。久々の新顔だ、隊長も喜ぶぞ?」
耳障りな声。
現れたのは、王国軍の鎧に身を包んだ男たちだった。誰もが下卑な笑みを浮かべており、信じたくも無かったが、れっきとした王国騎士団に所属する人間のようだった。
「なんですか、あなたたちは!」
王国の敗残兵。
彼らに騎士としての誇りなどなく、旅人を襲う盗賊と慣れ果てていたのだ。
「あなた達には、騎士としての誇りはないんですか!」
私の問いかけにも、
「へっへっへ、強気な女な好きだぜ?」
「俺たちで味見しても大丈夫だよな」
男たちは、薄ら笑いを浮かべるのみ。
「男の方は殺して構わねえ」
「最近ストレスが溜まってたんだ。命が惜しければ――ふべしっ!」
じわじわと距離を詰めてきた男たちを、私は殴りつける。
男は何が起きたのか分からないといった表情で、そのまま吹き飛ばされていった。
「な、何しやがる! 良いか、俺たちの背後には――」
「関係ありません。ここは戦場――殺そうというとなら、殺される覚悟も出来ているでしょう?」
私は、鎌を取り出し、男に向ける。
自分たちが狩られる立場だと気が付き、今になって顔を青ざめた男は、私を睨みつけながら、
「漆黒のドレスに巨大な鎌――貴様は、まさか……魔女・アリシア!」
「私も随分と有名になったものですね」
尻もちをついたまま後ずさる男を、私は静かに見下ろした。
「ヒィィ、どうしてこんなところに、こんなバケモノが……! 悪気は無かったんだ。どうか、許してくれ!」
「あはっ、ほんとうに皆さん同じようなことをおっしゃるのですね」
どうして決まって同じ反応を返すのだろう。
今更になって死ぬことに怯えるのなら、最初からしなければ良いのに……、私は呆れて小首を傾げる。
「――さようなら」
バサリと鎌を振り下ろし……、名も知らぬ王国兵は地に伏し、動かなくなった。
「アルベルト、殺したのはまずかったですか?」
「いいや、正体を知られた以上は、殺した方が良い」
アルベルトはそう言いながら、残る王国兵に手をかざす。
恐怖で動けない王国兵たちであったが、
「アルベルト、少しだけ待って頂けますか?」
「まさか情けをかけるの?」
「いえ――ただ、この人たちが気になることを言っていたので」
こいつらは、隊長のもとに連れて行くと言っていた。
非武装地帯の悲惨な状況は、これまで見てきた通りだ。
王国軍の手に落ちた村が、どのような目に遭わされているのか――知ってしまった以上、放置しておくのも後味が悪かった。
「あなたたち、連れていきなさい」
「くそっ、絶対に後悔することに――」
「無駄口叩かず早く歩きなさい」
私は鎌を突きつけ、道案内させるのだった。





