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禁断の果実

作者: 森 go太
掲載日:2026/01/28

 禁断の果実を食べた。甘く、水々しくて、脳が溶けるような感覚が病みつきになって、気付けば瞳孔がかっ開き、無心で10数個ほど口にすると、糖が僕の身体を蝕み、身体の震えが止まらなくなった時には、僕はもう廃人になっていた。その果実は劇薬で、一つ食べるごとに、そのことしか考えられなくなるくらいの幸福が、僕を支配する。ただその幸福は、単純な幸福として享受はされず、ある一定のラインを超えると、本当にこんなに幸せで良いのだろうかと、突如として不安に駆られ、その不安から目を背けるように、僕はまたその果実に手を伸ばす。透明で、水晶のような見た目をしたその果実は、鏡のように僕の姿を映し出すのだが、ひとたび齧ると、映った僕の姿が歪んで、自分がどんどん分からなくなっていく。ただ、果実の耽美で濃厚な甘さに溺れている僕は、そんなことすらどうでも良くなって、口の周りを水のような果汁でいっぱいにしながら、身体の危険信号を無視して、ひたすら貪り続けた。


 好きだ。

 僕はこの果実が、好きだ。

 もっと、味を知りたい。

 もっと、この味の奥深いところを、

 僕に教えて欲しい。


 禁断の果実のなる木は、天国にあると言う。禁断の果実に魅せられていた僕は、その木の下で眠るように日々を過ごしたいと思った。

 天国に行きたい。

 

 僕の手元に残る、禁断の果実は残り一つだった。

 僕は果物ナイフで、それを丁寧に切り分ける。

 皿に盛り付け、部屋でひとり、少しずつ食べた。

 ひとくち。ふたくち。さんくち…


 ゆっくりと味わうように、禁断の果実を口にする。

 優しく、美しい甘さが、僕に寄り添う。


 噛むたび、僕は泣いた。

 しばらく、泣いた。

 禁断の果実との別れを惜しむかのように。


 最後のひとくちを食べ終えた後、僕はそばに置いていた果物ナイフで、自分の喉を切り裂いた。

 鮮血が飛び散って、気持ち良くてーー

 あははははははははは…

 と、心底楽しく笑いながら、

 僕は意識を失った。


 目が覚めると、僕は真っ白な世界にいた。

 眠ってしまっていたらしい。

 ここがどこかは分からないが、何故かそこにいて、不思議と悪い気持ちはしなかった。


 僕はおもむろに立ち上がって、ふらふらと歩き始める。

 まるで何かに導かれるように。


 しばらく歩き続けると、真っ白な世界の中にようやく、色のついたものが見えた。

 それは一本の木ーー


 その木は禁断の果実を、いっぱいに蓄えていた。

 遂に僕は見つけたのだ。禁断の果実のなる木。

 ただーー


 その木は、腐っていた。

 耐え切れなくなった腐りかけの枝から、禁断の果実が、時折ぽつり、ぽつりと落ちていた。

 まるで、涙のように。

 

 予想とは違う姿だった。

 だけど僕はその姿を見た途端、心が軽くなってーー

 気がつくと、僕はその木を抱きしめていた。


 ああ。

 やっと分かった。 

 君も僕と、同じだったんだね。

 

 禁断の果実のなる木。

 僕はゆっくり、抱きしめて、膝をついて、

 そこからはずっと眠った。


 愛してる。

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