141話 今それぞれに出来ること
俺はターニアさんの思いを伝えた。
亡くなった後でもハーディーンを気遣い、善き神でいてほしいと願っている事。
そしてもうこれ以上は罪を重ねないでほしいと願っていることを伝え、戦いをやめるように説得した。
だけど、説得は失敗に終わった。
もうとっくに手遅れなのだと取り返しのつかない事をしたと、逆上したハーディーンがマギア・フロンティアを消滅しうる力を秘めた、ミニユグドラシルを破壊してしまった。
その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
けたたましい轟音と、世界全体を揺るがす程の振動が駆け抜ける。
それだけではなく、魔素が乱れ狂いこの場所に立っているのが困難になる程の暴風が吹き荒れた。
気配察知を最大に高めると、この暗黒大陸からマギア・フロンティア全体へ被害は拡大しようとするのが、伝わってきた。
更にあちこちに次元の裂け目が出来ていく。
この場所にも幾つもの大きな穴や、崩落が進み影響が出始めた。
まずい。
このままだとこの場所は、完全に崩れてしまう。
早く脱出しないと、皆まとめて巻き込まれてしまう。
「せっかく余を倒せるチャンスだったのに残念だったな。もうこの世界は終わりだ。まもなくマギア・フロンティアは崩壊する。これを止める術はない!!」
ハーディーンの言うとおり、どんどんとミニユグドラシルから、恐ろしい程に物凄い魔力が漏れだしている。
この暴走する魔力を抑えないことには、被害が拡大する一方。
どうすれば抑えられるか分からないけど、これに匹敵する魔力で止めれば何とかなるかもしれない。
でもそれでも成功するかは分からない。
そんな危険なことにアルフィン達を付き合わせるわけにはいかない。
「皆! 早くここから脱出するんだ。出来るだけ暗黒大陸から離れた方がいい」
「はい。ここは危険です。タクトさんも、行きましょう」
「…………」
「タクトさん?」
「俺はここに残って、ミニユグドラシルの暴走する魔力を抑え込む」
「いけません! そんな事をしては……タクトさんが巻き込まれてしまいます! 危険過ぎます!」
「でも、ここで塞き止めないとマギア・フロンティア自体が無くなるんだ。それだけは、何がなんでも防がないといけない。今の俺ならそれも出来る筈だ」
「では、ではわたくしも一緒に残ります! 微力ですが、何かのお役にたてるかもしれません」
「いや。抑え込むには、膨大な魔力が必要になる。皆では魔力が足りない。たぶんこれは俺か……ハーディーンじゃないと不可能だ」
後ろにいるハーディーンを見ると、目線を逸らされた。
「ですが……。ですがそんなことをしてはタクトさんが……」
「そうなの! お兄ちゃんが死んじゃうの!」
アルフィンとナエが必死に俺を止めようと、近くへと駆けてきた。
「駄目だ。早くここから出るんだ」
「嫌です! タクトさんを残して行くなどできません」
「そうなの!」
「分かってくれ。俺は皆を世界を守りたいんだ。アルフィンは王女だろう。国民達の安全を世界の安定を図る義務がある。こんな所に居てはいけない。
ナエも、もう立派な魔法使いなんだ。その力で一人でもこの異常事態から守って欲しい。その為に、ここまで修行を頑張ったんだろう」
「タクトさん……」
「お兄ちゃん……」
「今は、それぞれが出来ることをやらないと未来が閉じてしまう。だから、ね?」
二人の頭を撫でると分かってくれたようだ。
目に涙を溜めているが、頷いてくれた。
「ありがとう。俺は必ずやり遂げて帰るから。待っていて欲しい」
「お帰りをお待ちしております。タクトさん……愛しております」
そう言うとアルフィンは俺の唇に自分の唇を重ねてきた。
「俺も愛してるよ。だから……早く行くんだ」
「はい」
「待ってるの」
シズクとアリサ女王は、この状況ではどうするのが一番良いのか分かっているんだろう。
俺達の話を黙って聞いていた。
「シズク、アリサ女王も。俺がいない間、皆を世界の事を頼む」
「はい! タクトさんの分までこの事態を乗り越えるために力を尽くします」
「わたしも女王としての責務を果たすわ。タクト必ず帰って来なさい。待ってるからね」
「ああ。約束だ。行ってくれ!」
皆はもう一度俺の顔を見つめると、入口の方へと駆け出した。
俺達の行動を黙って見つめていたハーディーンが口を開く。
「……本当に何とか出来ると思っておるのか? もうどうにもならんぞ。余でも止められぬ。それをそなたが止められるわけがない」
「言ったろう。どれだけ劣勢になろうとも諦めないと。俺はこんな所で死ぬ気はない。必ず抑えて、アルフィン達と幸せな未来を生きる。俺は彼女達を泣かせたくない。必ず幸せにするって自分に誓ったんだ」
「…………それならば、やってみるがいい。余はそなたが最後に諦める姿を見ていてやろう」
さて。
どうするか……。
まずはこの溢れでている魔力を止めるところからか。
この勢いを止めるには、俺の総魔力を扱わないと厳しいかもしれない。
「すう~はぁ~。よし! やるか! はあぁぁぁぁぁぁ!!」
深呼吸をして体全体に力を込め、黄金の魔力を解き放つ。
俺の大切な宝物達から貰ったこの力。
まだフルパワーで使っていなかった。
それを全て解放し、暴走する魔力に覆い囲む様に拡げた。
黄金色の魔力は、ミニユグドラシルから出でる魔力を包み込み塞き止めた。
「ぐうううあっ……これは、中々にキツイな。これだけの魔力を止めるとなると……当たり前か一つの世界を壊す魔力だもんな……」
確かにキツイが、止める事は出来た。
この状態から、次にどうすればいいんだろうか
核を何とかしない限りは、このまま。
こんな状態もいつまでも持つわけがない。
ここは、一気にミニユグドラシルの中に入るべきか。
幸いまだミニユグドラシルの中へと通じる次元の穴は開いたままだ。
「よし。方針は決まった。……いくぞー! うおおおおー!!」
魔力を前方に一気に展開し、その状態で次元の穴へと近づいていく。
だけど、次から次へと穴からは大量の魔力が溢れてくる。
その量は近づく程に増えるばかりで、体にかかる不可は上がる。
一歩一歩近づく度に、その度合いはキツくなっていく。
「……くうううっ。重……いな。クソッ! 負けて……たまるか! こんな程度……。俺のアルフィン達との未来の為なら。こんなもんに俺の邪魔はさせない!!」
底力で暴走する魔力を押し込みダッシュして次元の穴からミニユグドラシルへ飛び込んだ。
ハーディーンにも出来たんだ俺にも次元を触れる筈。
中から魔力が溢れ出ないように、イメージを高めて次元の穴を塞いだ。
「……はぁ……はぁ。これで、とりあえずは……はぁ……魔力は外へと出ないだろう。後は早くどこかにある核に行かないと……はぁ……あーキツかった……」
脱力感と疲労感から、その場に座り込む。
「……あの魔力の奔流の中、ここまでたどり着くとは……。そなたといいトランスヴァールといい、イレギュラーだな。悉く余の、予想の範疇を超える……。何なのだ。人間とは……何故……」
「何だ。いたのか」
「……そなたが最後に諦める所を見届けると言ったではないか」
「そうかい。俺は諦めないからその場面は訪れないよ」
「…………見届けさせてもらおう」
ハーディーンと二人、この空間を進んでいった。




