140話 説得
アレースローンがハーディーンになった原因。
ずっと知りたかった答えを、鮮明な追体験をする事で知る事が出来た。
正直な気持ちとして、俺はハーディーンに同情した。
ターニアさんには幸せになって欲しかったし、殺した犯人達にも、怒りを覚えた。
もし、アルフィン達が同じめにあったら俺は正気でいられるのかとも考えてしまう。
だけど、やっぱりこんな事は間違っているんだ。
ハーディーンの視点で、過去を見たからだろうか。
俺もターニアさん同様に、ハーディーンにはこれ以上罪を重ねて欲しくないと思う気持ちが強くなった。
出来ることなら、良心を取り戻してやり直してもらいたい。
今まで確かに邪神として取り返しのつかない事もしたし、そのせいで不幸になった人達も大勢いるのは分かっている。
でも、それでもと俺は思ってしまう。
それが、俺がハーディーンの過去を知って思った事だった。
再び視点が俺に戻ると、さっきまで戦っていた空間に二人は立っていた。
ハーディーンの自爆の影響は、魔力のヴェールのお陰で何とかなったようでダメージも受けていない。
体の具合を確かめていると。
パッキャアアアアアアアアアアアアアアン!!
ガラスが割れるような音が響き、空間が「パキパキッ」と崩壊していく。
「バカな……! この空間が壊れる等……ありえない!」
自爆の影響で、体の半分程を消失したハーディーンが驚きの声をあげる。
そのまま、壊れた空間からアルフィン達の魔力反応がする所へと戻ってきた。
あまり時間は経過していない筈なのに、妙に懐かしい気分だ。
無事に戻ってこられた事に安堵していると、後ろからビックリしたような声で名前を呼ばれた。
「タクトさん!! ああ……良かったぁ。女神様感謝を」
「お帰りなさいタクトさん。ご無事で良かったです。……何だか纏う魔力の質が変わられていますね」
「お兄ちゃんお帰りなさいなの。本当なの金色ピカピカだよ」
「タクト! 遅いわよもう。女を待たせるものじゃないわよ? あら、私の髪と同じ金色ね」
名前を呼んだのは、俺に力を与えてくれた四人だった。
その声と、顔を見て俺の胸はじんわりと暖かくなる。
「ただいま。皆が助けてくれたお陰で戻ってこれたよ。ありがとう」
また皆の顔を見られて本当に嬉しく思う。
もしかしたらもう会えないとも、覚悟していたから。
「…………まさか。決着をつける前にここに戻ってくるとは……予想外だ。どこまでも、この世界は余の思い通りにいかない。何故だ何故……」
体の損傷した箇所を治したハーディーンが前へと進み出てきた。
「あれは! ハーディーン!」
姿を現したハーディーンに対して一瞬で臨戦態勢を取る四人。
「ちょっと待って皆」
それを手で制した。
「タクトさん……ですが」
「大丈夫だから」
皆の目を見て一言いうと、いつでも対処出来る様に構えだけ取ってその場で留まってくれた。
「ありがとう」
俺はハーディーンの近くまで歩いていく。
ターニアさんが本当は伝えかった事。
きちんと教えてあげないとな。
ハーディーンは構えを取り、怪訝な顔で俺の様子を伺っている。
仕掛けてこないのは、もう俺に勝てないことを理解しているんだろう。
俺は側に近寄ると、話しかけた。
「もうやめよう」
「何を……」
「さっきも言ったけどさ。もうこれ以上は、意味のない戦いだ」
「何を言うかと思えば……さっきそなたに話したであろうが。余は、もう二度と人間を信じることはないと。人間を滅ぼすまで、もう止めれぬと」
今なら分かる。
こうしてハーディーンは、人間を滅ぼすと何度も言っているけど。
冷酷な顔の裏にはこんな寂しそうな、辛そうな顔を滲ませて言っていたんだな。
悩んで苦しみながら出した結論。
それでも。
「ターニアさんは、本当にそれを望んでいると思ってるのか?」
俺の口から決して出る筈のない名前が出て、目を大きく見開いた。
でも、それは一瞬で。
直ぐに触れられたのが許せないと、恐ろしい眼光で睨みつけてきた。
「そなた!! 何故ターニアを知っている!!」
ゴウッと魔力の突風が吹き荒れた。
「さっきおまえが自爆した時に。何でか分からないけどお前の記憶が俺の頭に流れ込んだんだ。ターニアさんと出会って……命を落とすまでのが……」
俺の後ろから息を飲む気配が伝わる。
アルフィン達には、まだハーディーンに何があったか説明していない。
だから話の内容は分からないだろうけど、察しのいい皆だからハーディーンにとって大切な人がターニアさんで、その人が邪神となるのに何らかの形で関わっていると分かったのだろう。
「いつの間に余の記憶を……。
それで、どうするのだ? 余が邪神になった原因を知ってどうするつもりだ?
その圧倒的な力で余を殺すか? そなたの力ならば余の不死身も無効化出来るのだろう?
ほれ。どうした? やるならやれ。今殺しておかなければ、力を取り戻した時に、そなたの大切な存在を消すことになるぞ?
それともトランスヴァールの様に余を封印するか?」
俺は首を横に振った。
「では、黙って余に殺されると申すか?」
また首を横に振る。
「では! どうするというのだ!」
「今まで皆に迷惑かけた分を、邪神としてではなくアレースローンとして責任を取れ。もう二度と、こんな事はしないと誓って、その神としての力で殺してきた数よりも、不幸にしてきた数よりも人々を世界を守り、幸せな人達を増やせ。
俺達もお前と女神を失望させないように生きていくから。人間には、可能性があるんだって事を示していくから。それが、ターニアさんが願っていた事だと思う」
「何を……そなたにターニアの何が分かるというのだ!
あの娘の存在は……余にとってどれだけの救いとなっていたか。それも知らぬくせに! 分かった風なことを言うな!」
「あの時。お前がターニアさん達をあの丘に埋めて立ち去る時。お前は気づかなかったみたいだけど、ターニアさんの霊魂が現れて、お前の背中を寂しそうな顔をして見ていた。あの場で存在している筈のない、俺に頭を下げていた。
そして、俺にお願いしてきた。暴走するお前を止めて欲しいと。もうこれ以上お前に罪を重ねて欲しくないと。助けてあげてほしいと」
「でらたらめを言うなー!!」
魔力を一気に解放して、超スピードで接近してきた。
俺の顔面を殴ろうとしているのが分かった。避けられるけど、戦う意志はないことを、俺の言葉が本当なんだということを分かって欲しくて敢えて魔力を込めた右拳で顔面を殴られた。
「「「タクトさん! お兄ちゃん! タクト!」」」
皆が心配して声をあげる。
手で大丈夫だと示した。
「……はぁ……はぁ……はぁ。何故避けなかった……」
「……言っただろう。俺はもうお前とは戦うつもりはないと。それに、嘘を言っていない事を信じて欲しかったからだ」
「……ターニアは……とても優しく純真だった。争いを嫌う娘だった。どこまでも他人を思いやれる娘だった。仮に、仮に例えそうなのだとしても。余は……手を汚し過ぎた。この手を紅に染めすぎた。もう……もう何もかも遅いのだー!!」
ハーディーンが右手に高密度の魔力を纏うと。
何もない空間に突き刺した。
そこから何かを取り出す。
それは、五メートル程の樹木。
俺はこの物体を良く知っている。
「これは……まさか」
「そうだ。オリジナルに劣るがこれはユグドラシルの機能を持つ。規模こそ小さいが、このマギア・フロンティアを破壊するだけならば、これで事足りる。万が一の保険の為に長い歳月と途方もない労力をかけ造り上げたが……だが、もういい。本来の計画とはずれてしまうが……こんな世界など……!」
「やめろ! ハーディーン!」
「うるさい! もう! 何もかも壊れてしまえ! この世界ごとーー!!」
ハーディーンは、ミニユグドラシルを破壊した。




