105話 女神と邪神
よろしくお願いします!
「ここは……」
俺は確か……ハーディーンと戦って、アルフィン達の頭上の魔法を打ち消して、それから……それから……どうしたんだっけ。
ズキズキと痛む頭で、その後の事を思い出そうと記憶を辿っていくと、うっすらとその時の景色が見えてきた。
……そうだ。
意識を失う直前、誰かの声が聞こえて……ユグドラシルが点滅してるのを見たのが最後の記憶。
その後、何かに引っ張られる様な感覚がして、目が覚めると見覚えのあるここに俺はいた。
俺はこの不思議な場所を良く知っている。
そして、この場所にいるという意味も。
「俺は……また死んだのか?」
背後からする気配に質問を、投げ掛けた。
もし。
ここが俺の良く知る場所なら、俺の後ろにいるのはあの人の筈。
「こんにちは」
想像していた通りの声が返ってきて、その声の持ち主を確認した。
「やっぱりか……」
「お久しぶりですね」
俺がマギア・フロンティアに転生する際に出会った女神が、微笑みと、後ろめたさがごちゃ混ぜになったような複雑な表情を浮かべ、そこに立っていた。
「とは、言っても。まだ二か月も経ってないけど。
……それよりも、またここに来たということは俺は皆を護れずに死んだのか?」
再度。
俺が今、一番聞きたい事を質問する。
「……いえ。貴方はまだ死んでいません。今の状態は、仮死状態といえます。
そして、今、貴方の代わりに、ユーリ・ライゼ・トランスヴァールが戦っています」
ユーリが……。
そうか、最後に聞こえた声……ユーリのだったのか。
それなら、大丈夫だ。
ユーリなら、アルフィン達を守ってくれる。
「貴方がハーディーンと戦い、傷つき、『貴方という存在』が消滅してしまいそうだったので、ここに喚ばせて頂きました。それと……どうしても伝えたい事もありましたので」
「俺も。聞きたいことがある」
ここまで旅をしてきて、女神に直接聞きたい事がたくさんあった。
それらを聞ける機会が訪れたということか。
「貴方が聞きたいことは、分かっています。貴方が私に対して、疑心を抱えていることも。
ですがその前に、申し訳ありませんが、私の話を聞いて頂けますか? 貴方が知りたい、私とハーディーンの事も話させて頂きます」
俺が転生する時にした、やり取りを思い出した。
前もこんな感じだったな。
「あんた達の事は、俺の聞きたいことの一つでもある。話してくれるなら俺も助かる」
「ありがとうございます。それでは、少し長くなるかも知れませんが話させて頂きます」
前置きを一つしてから、女神は語りだした。
「まず。私と、ハーディーンの存在ですが、私達はここで、マギア・フロンティアを含む全ての平行世界を、維持し、発展させ……そして、時には消滅させる役割を担って来ました。ユグドラシルは、他の平行世界を繋ぐゲートになっていて、ここを介して移動出来るようになっています。そうした役割を、それがいつからなのかと、もう覚えていない程に長い期間を二人で行ってきました」
ハーディーンに直接会って、そうなんじゃないかと思っていたけど正解だったのか。
アイツも、この女神と同じ様な雰囲気を持っていたから。
「私の名前は、アフロイーリス。愛と美を司り、世界の調和を保つ存在。
ハーディーンは、アレースローン。戦と太陽と光明を司り、また調和を保つ存在。
私達は、共に力を合わせ世界の平和と、安寧、繁栄の為に尽力してきました。アレースローンも善き神として、生きとし生ける者を温かく照らし、成長を促して来ました。正しい心を持つ、清らかな心を持つ者が報われるべきだと、人間達を守り、悪を蹴散らし人々に愛される存在として、敬われてきました」
俺が戦った、ハーディーンからは想像も出来ないな。
アフロイーリス……今までずっとそう呼んできたから女神でいいか。が説明してくれた姿とは、百八十度違う。
俺がその事を考えていると、女神が続きを話し始める。
「ですが。長い期間、本当に長い刻を人間達の為に尽力してきたことで、人間が持つ善の部分を見るのと同じ様に、負の部分を見るのが増えていきました。人間は、その歴史が長くなることに、増長し、他者への思い遣りも薄れていく様になったのです。
もちろん、全ての人間達がそうでは無いことは分かっています。貴方の様な思い遣りに溢れる心を持つ人間がいることも、分かっています」
どこの世界も、人間は同じなのかもしれないな。
時には過ちを犯す。
「ただ。あの人は、あまりに優しくて思いやりが深すぎました。
いつまでも変わらない、人間の本質の一部。その負の部分に多く触れる内に……人間の汚さと醜さに嫌気が差し始めアレースローンは、少しずつおかしくなっていったのです。
必死に自分でも、人間は悪だけではないと、葛藤していた様ですが、ある世界での一件が引き金となり、……アレースローンは、人間は滅ぼすしかないとの結論を出してしまいました」
「……俺の前世でも、悪人はいっぱいいた。
毎日の様に、殺人や強盗や詐欺のニュースが流れ、世界に目を向ければ戦争、人身売買など、一日として犯罪の無い日はなかったし、確かに人間の嫌な部分は当たり前にありふれていた。
だけど、その中でも、正しい行いをしている良い人達もいっぱいいた」
俺にだって、人に裏切られ傷つけられた経験もある。
人助けした挙げ句、利用された事だって。
「だけど。俺は、たかが35年しか生きてなくて、ましてや社会に出てからは、たった15年しか経っていないから、まだ人の善を信じられたけど。
ハーディーンの立場を考えたら、本当に辛かったんだと思う。
それだけ優しくて、正義に溢れていたなら尚更だ。
人間の悪い行いが許せなくて、可能性だって信じられなくなったのも……分かるけど。
それでも……例えそうでも俺は、人の善を信じたいと思う」
「……フフ。やっぱり貴方は……他の人とは、違うのですね。だからこそ……。
すいません話が少し脱線しました。それから、アレースローンは、人間は憎む対象として見るようになり、引き金となった一つの世界を存在ごと消し去ってしまいました」
その時の事を思い出したのか、辛そうな顔で続きを話し始める。
「……如何に神とはいえ、必要な事以外で力を振るう事は禁止されていて、誓約もあるのです。
もし、それを破り力を行使した場合は、力をここに置いていき、ここから出ていかなければならない。
それが私達の誓約です。
そして、その誓約を彼は破り、私の制止も聞かずに、この場所から出ていきました。
その後マギア・フロンティアに赴き邪神ハーディーンとして、世界征服とユグドラシルの破壊。
そして、他の平行世界、この場所も全てを無に還そうとして宣戦布告をしました」
この場所に居たんなら、他の世界の壊し方も知ってて当然か。
あの全てを知ってる様な話し方も、この場所に居たのなら納得だな。
「それに対し、当然抵抗する者達もいましたが、皆、彼の前で無に還されました。
アレースローンは戦いを司る神……力の大半を奪われようとも、あの人に敵う力を持つ者は、他の世界を見渡してもいませんでした。
私も、神の片割れですが元々の役割が違う為に、直接アレースローンに対抗する力を持ちません。
だからこそ、誰かに対抗出来るだけの力を託すことにしたのです」
「ユーリは? ユーリもハーディーンに対抗出来ていたけど」
「彼は、イレギュラーです。私もノーマークで観察対象ではありませんでした。本当の天才とは、彼の事を言うのでしょう。
もし、ユーリ陛下にアレースローンの不死身の力を打ち消す素質があれば、世界を救えた程の」
ユーリ。女神にめっちゃ誉められてるよ。
「ハーディーンとして世界に宣戦布告してからは、ユーリ陛下と戦い、その魂を封印されました。
そして……また復活する際には、ハーディーンを完全に倒せる力を持つ者を送って欲しいと、ユーリ陛下にお願いされ、それから、全世界を見守り力を持つ者を探して来ましたが、現れる事もなく時間は過ぎていきました。ですが、ハーディーンが復活して一年後に……」
女神が俺の顔を、見る。
その表情は、目線が揺れ、俺に対して何か罪悪感を含んでいる様なものだった。
「ハーディーンの力を打ち消す素質を持つ、貴方を見つけました。
更に、貴方は他の人達とは違い、人の善を強く信じられる人だった。先程貴方が、言われた例え人に裏切られようともまた、人助けに奔放する姿を見て、この人ならば、アレースローンに打ち勝ち、そして……もう一度人間の善を信じられる心を取り戻させてくれるかもしれないと、希望を賭けてみることにしたのです。
それで……貴方を事故に合わせて死なせたのです。ここにその魂を喚ぶために」
お読み頂きありがとうございました
(*- -)(*_ _)ペコリ




