4-2:イライちゃん
「お待たせしました~」
「おはようございますベルさん、その子が妹さんですか?」
「そうです。ほら、イライ……挨拶をしなさい」
「はいっ……イライと言います。よろしくお願いします」
ベルの妹であるイライはアリスに向かってペコリと頭を下げて挨拶を行った。
まだ8歳のイライではあるが、ベルの家族はカツカツの生活を余儀なくされている。
見た目は殆ど人間の子供と変わりない。
ただ、ハーフリングは10歳を過ぎた頃から身体の成長が鈍化していく。
ここで人間種とハーフリングの差が発生するのだ。
なので、イライはハーフリングでは成長期に入っている。
そしてベルとしても成長盛りの妹たちを養う上で食費の問題もある。
ベルの収入源であるユニコーンの辻馬車だけでは不安定な生活なのだ。
故に、アリスの下で一番年齢的に働くことができるイライに白羽の矢が立ったのだ。
イライも姉であるベルの苦労を知っている。
故に、ベルから友人が新しく店を開くからそこで働かないか?という誘いに乗ったのである。
そんなイライをアリスは温かく出迎えたのだ。
「イライさんですね、お話はベルさんから聞いております。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします……あの、どういった事をするのでしょうか?」
「そうですね、イライさんにはこの台で遊んだ方に券を配るお仕事をしてもらいます」
「券を配る……」
アリスがイライに任せた仕事は、スマートボールで獲得した点数に応じた引換券である。
引換券の枚数も多いが、アリスは事前に点数に応じた数字をでかでかと券に記載している。
これでイライでも分かるように取り出すようにまずは実践することになった。
「実践して見せた方が早いですね……アムールさん、お客さん役をやってもらってもいいですか?」
「私で良ければいいですよ」
「では……アムールさんはエール酒引換券を引き当てました。数字は「1」です。この1の数字が描かれているカードをアムールさんにお渡しします」
アリスが店員役を、アムールが客役として実践したのである。
アムールがエール酒引換券を受け取る際に、あらかじめ当日までの有効であることを述べる。
「この券の有効期限は今日までです。向かい側のスフレの店員さんにお見せした上で交換なさってください。こちら側の不手際でない限りは返品対応は致しませんので、あらかじめご了承ください」
「分かりました……これは換金はできますか?」
「残念ながら換金対応は致しておりません。ご了承ください」
アリスとアムールの演技を見ていたイライは目を輝かせて見ていた。
「わ、私にもできるかなぁ……」
「大丈夫ですよ、いざとなったら私とアムールさんがサポートしますから」
「困った事があったらいつでも言ってくださいね」
「それと、今から制服に着替えておきましょうか……アムールさん、イライさん。こちらに着替えて下さい」
アムール、そしてイライは制服に着替えた。
元々アリスが通っていたお嬢様学校の制服をベースにした服装となっている。
気品を感じさせるデザインである。
それもそのはず。
元々イタリアの有名なファッションブランドで手掛けられた服なのだ。
これをアリスは仕立屋で同じ色合いの生地を調達してアムールとイライの分も仕立てておいたのだ。
模様までは揃わなかったが、アリスの学生服をベースにした色合いによって、従業員として分かりやすい識別になったのである。
イライも練習を兼ねてアリスやアムールが客役として実践を行う。
最初はどもったり、数字が合わなかったりと緊張してかミスもあった。
それがアリスの優しい指導によってみるみるうちに上達していく。
「い、いらっしゃいませ……ようこそ、アリス・エンターテイメントへ……」
「そうですね、さっきよりもずっといい。その調子ですよ」
「良い感じに言えているから問題ないよ!」
「あ、ありがとうございます!」
みるみるうちにイライも接客が上達していく。
その様子を見ていたベルも安心した様子でイライを見ていた。
「この調子だと大丈夫そうね……良かったわ……」
「イライさんもアムールさんと馴染んでおりますので、問題なく仕事が行えそうですわ」
「本当にありがとうございますアリスさん、服まで支給してくださって助かります」
「良いんですよ。制服も必要ですから……」
「それでは、妹をお願いしますね……」
「ええ、任せてください。午後6時頃にはイライさんを上がらせますから」
「よろしくお願いいたします……それと、アリスさん……」
「ん?どうかしましたか?」
ベルは少しつっかえながらも、この間あった事を話さなければならない。
あれから一人で考え抜いたが、結論としてアリスを騙した状態で高級キャバレーに連れていくのは気が引けるのと、自身の良心が痛んでしまう。
「実は、御耳に挟んでおきたい事があります……」
開店前にこうした重い話をするのはいかがなものかとしながらも、ベルは意を決して事情を話すことにした。




