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4-1:開店日

☆ ☆ ☆


新暦859年4月14日


アリスにとって記念すべき日となった。


今日がスフレの店内に間借りする形でスマートボール専門店をオープンする日だ。


時刻は午前7時。


多少開店は早いが、この日ばかりはアリスもアムールを起こして開店準備に合わせてスマートボールの搬入作業を手伝っていたのだ。


「どうも!ラーマ木工店さんより届けられた代物です!」

「お待ちしておりました!こちらですわ!」


運送業の若いコボルドたちがスフレにやってくる。


コボルトで構成された輸送会社であり、彼らは重そうなスマートボールの台を荷台から降ろして慎重に運んでいく。


まだ朝の7時ということもあってか、宿屋から出てくる者はいない。


大抵は飲み過ぎて二日酔いになっているか、女性と仲良く夜遊びをしていた者のどっちかだ。


故に、朝から作業をして開店できるように調整を整える必要があったのだ。


運送業者から運び込まれたスマートボール台を移動し、下には絨毯を敷いて床を傷めないようにする。


そして、パトリシアと相談しながら位置などを調整する。


「アムールさん、この位置でお願いします」

「はいよっ、任せてください!」


アムールはコボルドが3人掛かりで持ち上げたスマートボール台を軽々と持ち上げてしまう。


そればかりか、景品交換所として使う重さ60kg近くある台なども難なく持ち上げて、位置調整まで行って慎重に降ろした。


「ほんと、ティーガーって力持ちよね……」

「す、すげぇ……」

「やっぱティーガーは俺たちよりも力があるなぁ……」


運送業のコボルドたちも、驚いた様子で眺めていた。


アムールにとって、これは朝飯前だ。


力持ちであることもさることながら、


そんなコボルドたちを労うかのように、アリスは運んできてくれたコボルドたちにお茶を差し出す。


淹れたての紅茶の香りが周囲に漂ってくる。


コボルドが飲みやすいようにストローまで差してある状態であった。


「宜しければ飲んでください」

「えっ、いいんですか?!」

「朝早くから作業をして下さったんですから……ささっ、どうぞ」

「有り難い、いただきます!」

「「「「いただきます!」」」」


種族関係なく、仕事をしてくれた相手には報酬であったり労いを尽くす。


これがアリスが令嬢として学んだ事でもある。


コボルトたちは美味しそうにお茶を飲んでから、荷物の受け渡し票にアリスがサインをする。


コボルトの一人がアリスに尋ねた。


「アリスさん、スフレでお店を開くんですか?」

「そうです。間借りという形にはなりますが、どうかいらしてください」

「ええ!必ず伺います!」

「今日の午後8時までやっておりますので、またいらした際には一回サービスしておきますよ」

「本当ですか?!いやはや……ありがとうございます!」

「皆さんにもエール酒無料券をあらかじめ配っておきます。本日限りですので、お仕事が終わったら寄ってください」

「ありがとうございます!!!おーい皆!エール酒無料券を貰ったぞ!」

「「「おおおおお!!!」」」


コボルトたちは歓喜の声を上げる。


タダ酒ほど嬉しいものはないからだ。


「ありがとうございました!!!」

「ありがとうございます。またいらしてください」


コボルトたちはアリスに頭を下げて次の現場へと向かっていった。


その光景を見ていたパトリシアがアリスに不思議そうな顔をして言った。


「無料券を差し上げてよかったのですか?」

「ああ、あれは宣伝費ですよ」

「宣伝費……」

「無料券に釣られて料理を食べたり、スマートボールで遊べば十分に無料券の配布分は直ぐに回収できますから……それに……」

「それに?」

「コボルト運輸の会社の人にも広めれば、新規顧客の開拓ができます。こちらとしても一石二鳥ですわ」


アリスは全て計算をして無料券を配ったのだ。


ただ単に配布するのではなく、相手に好印象を見せて行うのが効果的なやり方であることを熟知していたからだ。


そして、スマートボールの台であったり、景品交換所の設置なども行っていく。


「パトリシアさんも、こっちの位置で大丈夫ですか?」

「ええ、そっちは空いているからそこに台を置いて貰って構いませんよ」

「試作台と二番台……こうして並べると良い感じになりましたわね……」


すでに試作台と二番台は完成しており、魔術師ティオースによって不正防止魔術も施した。


それぞれ試作台は赤を基調とした色合いであり、対して二番台は白色と青色をベースに作り上げた。


これは、色を別々にすることで中身が違っているように()()()()()事が出来るようになるということだ。


試作台も二番台も釘の位置などは同じだ。


しかし、色が違えばそれだけで同じ台であるという事を見抜くは難しい。


よく観察しなければ分からないのだ。


「しかし、色を変えるなんて随分と考えましたね……」

「色が違えば、同じ台でも印象がガラリと変わります。視覚のトリックですよ」

「視覚……?トリック……?」

「……つまり、それぞれが違う台に見えるようにしたという事です」

「なるほど……流石ですね」


効果的な宣伝と、効果的な配置。


いずれも見よう見まねではあるが、対抗馬となる遊技台が無いこの世界では、斬新なやり方でもあったのだ。


スマートボールの台を調整し終えた際に、ベルが妹を連れてスフレに入ってきたのであった。

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