表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/44

3-2:lemon

街を歩いていると、自然と目に付くものがある。


それは亜人種が人間にこき使われている様子であった。


建物を作っている建設現場では、亜人種たちがせっせと建物を作っている横で、人間種の現場監督が怒鳴り声を挙げながら指示を出していた。


「おいっ、ぼさっとするんじゃない!早く裏口に行って柱を取りに行って来いッ!」

「へいっ、すぐに行きます!」

「それと、そこのタイルを貼るのも午前中までに済ませておけ!終わらないなら今日の給料は無しだ!」

「はいっ、すぐに!!!」

「全く……亜人種は指示を出さないと何もできねぇな……」


建設現場での怒号が鳴りやまず、それを聞いていたアリスは眉をひそめる。


亜人種への差別的な発言もさることながら、アリスは威圧的で部下に対するハラスメント行為をしている現場監督への行いを心の中で批判した。


(あまり大声で罵声を浴びせるのは良くないですわね……モチベーションが下がってしまいますわ)


この建設現場だけではない。


街中でも亜人種への差別は平気で行われている。


ある店の前では『人間種優先』と書かれた看板が掲げられていた。


人間種の客を最優先で対応するため、亜人種が並んでいる代わりに人間種はスムーズに買い物が出来ていた。


店員は人間種には愛想よく振りまく一方で、亜人種には一転して無愛想に伝える。


「次、亜人種は5人まで入店できるよ……っと、コボルトは1名までだ」

「えっ、どうしてですか?」

「コボルトの臭いがキツイと客から苦情が来るんだよ。店に入るまえにそこの臭い消しを使って入りな」

「わ、わかりました……」


コボルトは言われた通りに渋々臭い消しを使って入店していく。


こうした亜人種への扱いが悪いのも、ダンパが統治するようになってから酷くなってきたという。


そして、そこから三店舗ほど向かい側にある青果店では大きなトラブルが起こっていた。


亜人種が経営する青果店に、数名の人間が何癖を付けて店主のドワーフに金品を寄越すように凄んだ。


見た目も厳つくて、堅気の人間ではない。


まるでヤクザのような風貌をした男たちであった。


「このトマト、一部がしなびていて喰えたもんじゃねぇなぁ!」

「人間相手への嫌がらせか?!あぁ!この人間差別主義者が!」

「これをダンパ様の所に報告しにいけば……お前はどうなるか分かっているな?」

「やめてください!それだけは!それだけはご勘弁を!」

「なら、金貨2枚……すぐに出せ」

「そうすれば見逃してやるよ」

「き、金貨2枚……そんな、今月の家賃を払うのに精一杯なんですよ」

「払わないなら、俺たちはここに居座って経営できねぇように指導するかなくなるなぁ……」

「……わ、分かりました……」


ドワーフの店主は、泣く泣く金貨を男たちに渡す。


こうすることでしか、解決方法がないのだ。


もし、金品を払わなければ命の保証すらない。


「ちゃんと来月もしっかり払えよ」

「もし払わなかったらガキと嫁を金持ちの道楽道具にしてやるからな」

「は……はい……」


男たちは店主を脅して得られた金貨を握って店を後にした。


ここでは人間種のギャングが幅を利かせて、亜人種への恫喝行為が許されているのだ。


あまり見ていて気分の良くなるものではなかった。


公民権運動の激しかった1960年代のアメリカで平然と行われていた有色人種への差別行為に匹敵する行いを目の当たりにしたアリス。


(亜人種の方々にも不満を持っている方がいらっしゃるはずですわ……今は良くても10年後、20年後に大規模な暴動や反乱が起こるリスクだってあり得ますわね……)


アリスの脳裏に浮かんだのは、このスプリタの街が種族差別を端に発した暴動が起こる様子であった。


ダンパ就任時には抗議運動が起こっていたとされている。


先ほどのような差別を繰り返していれば、いずれ深刻な人権侵害へと繋がっていく。


こうした差別から生まれる鬱憤は長い年月を掛けて蓄積していくものだ。


(いずれにしても、私が今できることをしたほうがいいですわね)


そして、アリスなりに打ちひしがれている店主のためにも、この青果店で買い物をしてささやかではあるが買い物をすることにしたのである。


「すみません、今よろしいでしょうか?」

「は、はい……な、何か御用で?」

「レモンを買いたいのですが……取り扱っておりますか?」

「レモン……?あ、ああ……柑橘系でしたらこちらに……」


ドワーフの店主はアリスにレモンなどをまとめた柑橘系のコーナーに案内する


みずみずしい果実が並んでおり、先ほどの男たちが何癖を付けてきたような物は売っていない。


「一つ、手に取ってもよろしくて?」

「ええ、ど、どうぞ……」


その中でレモンを手に取ると、アリスはレモンを触る。


表面はツヤがあり、触り心地も滑らかだ。


重みも十分にある。


(これは……いいレモンを使っておりますわね……)


アリスは触った感触で確信する。


イタリアのシチリア産のレモンのような光沢と、触り心地。


そして、アリスは店主に一つ注文を付けくわえた。


「まず一つ買いますわ。おいくらですか?」

「は、はい。銀貨1枚です」

「成程……では、一つお願いがあります」

「何でしょうか……?」

「買ったレモンを輪切りにして小皿に盛り付けてもらえますか?」

「こ、小皿にですか?」

「はい、味を確かめたいのです」


アリスの要望を聞き入れた店主はレモンを輪切りにして、小皿に盛り付ける。


アリスはそれを一口食べる。


酸味が強すぎず、そして甘味が口の中に広がっていくのだ。


味わいとしては日本有数のレモン産地である広島産のレモンに近い。


(これは……美味しいですわ!酸っぱすぎず、それでいて甘いッ!!!)


アリスの中で、このレモンの評価がうなぎ登りだ。


「とても美味しいですわね……あとどのくらいありますか?」

「そ、それがそのレモンは入荷未定でして……今ある在庫分しかございません」

「というと、ここに展示されている在庫で最後ですか?」

「はい、そこにあるレモンで最後になります」

「成程……では、全部ください」

「全部ですか?!」

「ええ、ちょっとこれから用事がありますので、そこで使わせていただきます」

「あ、ありがとうございます!」


アリスは即決した。


このレモンは土産にピッタリであると。


スマートボールを作っているラーマは甘味が好物と聞いている。


彼女のためにも、アリス特製のレモンティーを振る舞おうと考えたのだ。


茶葉はすでにラーマが持っている為、アリス自身の紅茶作法によって旨味を引き出そうと考えたのだ。


レモンの在庫は8個。


全て売り切れであった。


店主は何度も頭を下げてアリスに礼を言った。


「本当にありがとうございました!」

「いえいえ、お仕事……大変だとは思いますが頑張ってください」

「はいっ、あのっ、私はジュークといいます。失礼ながら、貴女のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「アリス、金益アリスと申します。ジュークさん、またの機会に伺いますね」

「はいっ、アリスさん!お待ちしております!」


アリスはジュークに労いの言葉を掛けてからラーマ木工店に向かう。


アリスの後ろには、先ほどジュークを恫喝していた男たちが距離を開けてから歩きだしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ