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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第3章 身近な脅威
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第93話 またしても届く依頼

 大江(おおえ)イブキが不在の大江探偵事務所では、碓氷雅樹(うすいまさき)永野梓美(ながのあずみ)が一時的な共同生活を続けている。

 雅樹を狙う梓美は、ちょくちょくアピールを行う。ただあまりにも露骨な、過激すぎるセックスアピールは減っていた。雅樹の願いを聞き入れたからだ。

 しかしだからと言って、引き下がったわけではない。あくまでも雅樹と、性的な関係を結ぶつもりで今も居る。

 雪女は狙った男を落とすのが好きな妖異だ。簡単に諦める事は無い。それに守る対価を求める権利だってあるのだから。


「ん~~まだ好きになってくれてないやん」


 雅樹から唇を離した梓美は、喰らった雅樹の感情を読み取る。彼が梓美に感じているのは、恋愛感情ではない。

 魅力的だとは思っているが、恋愛までは発展していない。微妙なラインで踏みとどまっており、梓美としては非常にもどかしい結果だ。

 梓美だって雪女としてのプライドがあり、雅樹を落とせなかったなんて結果は、到底受け入れたくないのだ。

 もちろん自分が日本一美しいとまでは思っていない。ただ雪女としては、トップだという自負がある。なのに雅樹はまだ恋をしない。


「そ、そう言われても……」


 恋心を抱くかどうかは、選んで出来る事ではない。梓美を好きになろうとしたからと言って、必ず成立するものではない。

 大体雅樹には、那須草子(なすそうこ)という初恋のお姉さんがいる。今もまだ淡い憧れは残っているし、イブキの事も気になっている。

 恋愛対象として見る事の出来る相手が3名も居れば、迷ってしまうのも当然だ。しかも3名ともが、それぞれ魅力的なのだから。

 今日もダメかと梓美は少し拗ねながら、雅樹の側を離れる。冷蔵庫から買っておいた、紙パックのレモンティーを取り出し飲み始める。

 そのまま応接用のソファで寛ごうとした時、探偵事務所のドアがノックされた。来客かと雅樹が入り口へと向かう。


「はい、何でしょうか?」


 雅樹が開けたドアの先に居たのは、60代ぐらいの女性だった。少し高そうなスーツを着ている。


「あのぉ、ここに霊能探偵さんが居ると聞いたのですが……」


 女性は少し訝しみながら、出迎えた雅樹へと尋ねた。ただでさえ怪しい肩書に、高校生ぐらいの少年が出て来た探偵事務所だ。

 本当に大丈夫かと思ってしまうのは、仕方がない反応だろう。彼女はこれで3度目の依頼だとは、知らないのだから。

 雅樹は今日までに戦闘を含む、2つの事件を解決まで導いている。霊能探偵の助手として、十分な結果を出している。


 だがそれを知っている人間はそう多くない。テレビや新聞で報道される事もない。普通の人間には知る由もない話だ。

 ただ妖異対策課の間では、結構な話題となっているのだが。巨大な異界を探索して、ちゃんと帰った高校生として。

 その少年は一体何者なんだとか、今の内から内定を出しておくべきだとか。色々と裏で起きているが、この女性は無関係である。


「探偵本人は居ませんが、依頼の相談なら聞きますよ」


「そ、そうです……か」


 女性はとても悩んでいる。入り口には高校生ぐらいの男子、中にはギャル風の女子が見えているだけ。大人の姿が見当たらない。

 事務所の中に居るギャル風の女子は、万年単位で生きて来た雪女なのだが。それもまた依頼に来た女性には分からない事。

 暫く悩んだ様子を見せた女性だったが、意を決して相談する事に決めた。どうせ他にはもう、頼れる相手は居ないのだからと。

 室内へ通された女性は、雅樹の案内で応接用のソファに座る。紅茶かコーヒーの、どちらが良いか雅樹は確認する。


 コーヒーという返答を受けた雅樹は、キッチンへ移動してコーヒーを用意する。備え付けの結構なお高い豆を使う。

 国から送られた一品であり、皇室で使われている品だ。そんなに良い物と雅樹は知らないし、受け取ったイブキは興味が無かった。

 基本的にイブキは、人間から献上された品々に殆ど興味を示さない。ただ人間達から貰った物と見ているだけだ。

 今回はその認知の薄さが効果的に働いた。ある程度稼いでいる女性だったからか、出されたコーヒーとカップの高級さに気付いたのだ。


「それで依頼の内容を教えて頂けますか?」


 半信半疑だった女性は、使われている調度品なども高級品だと気付いた。少なくとも、それらが買える事務所なのだと認識を改めた。


「実は私、こういう者で」


「ありがとうございます」


 女性は名刺を差し雅樹へと渡す。そこには中学校の名前と、荻野春子(おぎのはるこ)という名前、そして校長という肩書が書かれていた。

 大阪の学校だったが、春子は標準語を話している。恐らく出身は関西ではないのだろう。関西人らしい言動はない。

 雅樹も自己紹介を行い、依頼の内容について聞き取りを進めていく。どうやら彼女の学校で、怪談騒ぎが起きたという。

 音楽室で何かがあって、2人の生徒が不登校になったという事だ。原因が怪談だという噂が広まり、対処に困っているそう。

 噂はグループチャット内で広まったらしく、誰がどこまで知っているのかが分からない状況となっている。


「不登校になりそうな子達ではなかったので、一体どうしたらいいのかと。他の生徒への影響もありますから……」


「うーん、という事は調査依頼という事ですね?」


 何が起きているのか、怪談話の内容がどこまで真実であるのか。そして不登校になった生徒達の本音について。

 学校としては不登校の生徒が出た以上、対処しないわけにはいかない。文部科学省から、指示が出ている案件だからだ。

 不登校の生徒が出た場合、理由の確認やケアが必要となっている。イジメがあるのであれば、イジメ案件として更なる調査が必要だ。


 今では小中学校における不登校の生徒が、35万人を超え過去最多記録を伸ばし続けている。学校としては頭が痛い状況だ。

 教育委員会や国への報告書に、怪談のせいですとは書けない。バカにしているのかと思われてしまう。そう考えるのが普通だ。

 実際には国が妖異の存在を把握しており、頼ってすら居る現状なのだが。そんな真実を話すわけにも行かない。


「学校の怪談やろ? それぐらいやったら、この子でも対応出来るで」


「……え?」


 突然会話に乱入したのは梓美だ。雅樹でも対応出来る内容だと、確かな確信を持って話している。

 そんな事を言われても、春子としてはピンと来ない。自分達大人が束になっても、解決出来ない問題だというのに。

 目の前に居る少年が、どうにか出来るとは思えない。だが何故か、口を挟んだ少女からは妙な説得力を感じた。

 見た目は自分の半分も生きていない少女だ。でも何故か春子は、年長者から言われたような気がしている。

 まるでおばあちゃんの知恵袋でも、聞かされている気分だ。もう大丈夫だとも、言われたかのように春子は思った。


「ウチもおるしな。任しときぃや」


「え、えっと……」


 混乱している春子は、どう答えて良いのか分からない。ただ少女が、只者ではないと感じている。

 40年近く教師という職業に就いて来た春子の勘が、目の前の少女が見た目通りには見えない。

 黙っていれば女子高校生に見える。だがこうして口を開くと、普通とは思えない雰囲気があるのだ。


「契約や調査の日時をきめましょう。梓美先輩がこう言うなら、きっと俺でも大丈夫なのでしょう」


「え、ええ……」


 狐につままれたように感じながらも、春子は自分の直感を信じる事にした。それで間違えた事は、今までに無かったから。

 彼女は雅樹から説明を受け、正式に依頼を申し込んだ。最近少しずつ助手として、仕事が出来るようになった来たと、雅樹は自信を持ち始めている。

 春子が帰った後に、雅樹はイブキへと電話で事後報告を入れる。梓美と同じように、大丈夫だろうと太鼓判を押された。

 次は学校の怪談と対峙するのかと、雅樹は少しだけワクワクしていた。昔地元の友人達と、盛り上がった事があったから。

 果たして依頼者の学校で何が起きているのか。雅樹はどう対処していくのか。それには先ず、現地に行かねばならない。

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