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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第3章 身近な脅威
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第92話 学校の怪談

 日本の学校には、様々な怪談が残されている。学校の七不思議を筆頭に、全国的に知られている。

 ひとりでに鳴る音楽室のピアノ、動く美術室の胸像。廊下を走る人体模型や、二宮金次郎の像。

 段数の増える階段に、ボールの音がする体育館。開かずの間やトイレの花子さん等が有名だろう。

 その殆どが出まかせだと思われている。だが中には、こんな話も転がっている。舞台は兵庫県の学校だ。

 昭和初期、旧制姫路高校という学校は歴史が浅く、学校の怪談は無かった。だから一部の生徒が、自分達で作ろうとした。


 寮で暮らしている柔道部の生徒達は、トイレの3番目のドアが開かないという怪談話を作り上げた。

 それを聞きつけた剣道部の生徒が、本物の日本刀を持って夜のトイレへ向かう。本当かどうか確かめる為だ。

 彼らは3番目のトイレまで行き、持っていた日本刀でドアを突き刺した。するとドアの隙間から、真っ赤な血が流れて来た。

 驚いた彼らがドアを開けてみると、血まみれの柔道部員が中に居た。それ以降はトイレが封鎖され、使用禁止になったという。

 果たしてどこまで本当かは分からないが、そんな話もまた語られている。学校の怪談は、本当に様々である。


 そして当然学校の怪談もまた、都市伝説と同様に多くの人間達から恐れられ、認識されている。つまりモノによっては、妖異化している。

 例えばトイレの花子さんや、テケテケと言った怪談の定番。人間達の認識、恐怖心が集まり妖異となった。

 大した力は持っておらず、何千年何万年と生きている妖異には敵わない。ただ人間よりは当然強い。

 襲われれば最悪命を落とす事になる。だが学校の怪談は有名なだけに、人気のコンテンツでもある。

 だからどうしても、夜の学校へ肝試しに行く者達が居る。危険だと知らない彼らは、警戒もせずにノコノコと現れる。


「タク、早くしろって!」


 ヤンチャそうな中学生ぐらいの少年が、中学校の裏手から侵入を試みている。脚立を使って、裏門を乗り越えるつもりらしい。


「分かってるよレン! ちょっと待てって」


 同じくヤンチャそうな少年が、脚立を登っている最中だ。彼らは高い位置に設置された、防犯カメラに気付いていない。

 現在では大体6割ほどの学校が、監視カメラを導入している。生徒達の安全への配慮が目的だ。

 設置されている学校は、まだ半数を少し超えたところだ。10割になるにはまだ掛かるだろう。

 そんな大人達の事情を知らない彼らは、無邪気に裏門を乗り越えて行く。


「よっしゃ! ほら、早く来いよ!」


 タクと呼ばれた少年が、裏門を乗り越えて校内へと降り立った。友人のレンという少年を、敷地内から呼んでいる。


「よし、待ってろよ!」


 彼らは先輩から話を聞いて、真実を確かめに来ている。夜の学校に忘れ物を取りに行ったら、音楽室のピアノが鳴っていたというのだ。

 この令和の時代に、そんな事があるわけないと2人は思っている。だがその話をしたのは、屈強な厳つい先輩だ。

 本当に怖かったと言っており、もう2度と夜の学校には行きたくないらしい。ビビらせるつもりだと、2人は受け取った。

 明日にでも嘘だったと証明してやろうと、2人はこうして夜の学校に侵入した。レンも校内に侵入し、2人で校舎へと向かう。


「ちゃんと開けといたんだよな?」


 タクがレンに確認を取る。予定ではレンが下校前に、窓の鍵を開けておく予定だった。見回りの教師を手伝うフリをして。

 使われていない空き教室の一番端の窓に、レンが手を掛ける。するとあっさり窓が開いた。自慢げに彼はタクを見る。


「当然だろ。行こうぜ」


 2人は1年生の校舎へ侵入し、靴を履き替えて音楽室を目指す。夜の学校は中々の不気味さだが、2人は平気な様子だ。

 やはり信じていないが故に、怖がる事も無いのだろう。恐怖耐性が高い人間は、一定数存在している。

 心霊スポットへ行っても、ケロッとしているタイプだ。最近では配信のネタにしている者達が多く居る。

 一発当たれば再生数も稼げるので、配信者として成功を狙うのだ。事実ホラー系配信者は、増加傾向にある。


「全然大した事ねぇじゃん」


「やっぱこれ先輩の嘘だろ」


 2人は廊下を歩いているが、ピアノの音なんて聞こえて来ない。ただ2人の会話と足音だけが響いている。

 スマートフォンのライトで前方を照らしながら、月明かりが差し込む校舎を進んで行く。そして遂に、音楽室へと辿り着く。

 だが何も起きておらず、ピアノもカバーが掛かったままだ。やはり嘘をつかれたのだと、2人は判断した。


「ほら、やっぱり何も無い」


 タクはつまらなさそうに呟く。どうせこんなオチだろうと思っていたと。彼らの予想通りの展開だ。


「なあタク、先輩の上履きを隠してやろうぜ」


 嘘をつかれたお返しにと、悪戯の提案をレンは持ちかける。それは良いとタクが乗っかり、2人は下駄箱へと戻る。

 履き替えた自分達の靴もあるのだから、丁度良いと考えた。来た時と同じように、2人は明るい雰囲気で廊下を歩いて行く。

 何も起きないまま、結局下駄箱へと辿り着いた2人。靴を履き替えて先輩の上履きを隠そうと、2人が動き出した時だった。


「あ? おい、タク、何か聞こえねぇ?」


「はぁ? 何を言って……」


 2人が耳を澄ますと、何かの音が聞こえて来た。それは確かなメロディを奏でる楽器の音。さっきは何も無かった筈の、音楽室にあるピアノの音だ。

 お互いに顔を見合わせた2人は、慌てて音楽室へと向かう。靴を履き替える事も忘れて、2人は廊下を走って行く。

 再び訪れた音楽室では、ピアノのカバーが外され鍵盤は露出していた。誰もそこに居ないのに、トルコ行進曲が流れている。

 音楽の進行に合わせて、鍵盤は確かに動いている。まるで音楽室の幽霊が、ピアノの弾いているかのように。


「お、おい……嘘だよな」


「こ、こんなの……有り得ないだろ……」


 先程までは強気だった2人も、今となっては見る影もない。ただ目の前で起きている現象に、圧倒されてしまっている。

 どう見ても誰も居ない、だけど動く鍵盤と流れ続ける曲。どう説明しようとも、起きている事が全てだ。

 この学校のグランドピアノに、自動演奏機能なんてない。だからこの状況は、絶対に有り得てはいけない事だ。

 何か仕掛けでもあるのかと、タクは調べようとする。ポケットに入っていた、食べかけのガムを取り出す。まだ半分残っており、それなりの重さがある。


「おい、何する気だ!」


「何か仕掛けでもあるんだろ!」


 タクがガムを鍵盤に向けて投げると、綺麗に直撃して不協和音を奏でた。すると演奏は止まった。続きが流れる事もない。

 そしてこれで、仕掛けなんてないと証明されてしまった。同時に2人は視線を感じた。誰もいない筈の音楽室の中から。

 どういう事だと2人は、スマートフォンの明かりを室内の色んな所に向けていく。そして気付く、視線の正体に。


「……お、おいタク、タク!」


「えっ?」


 壁に掛けられたベートーベンやバッハ、ヘンデルにモーツァルトの肖像画。彼らの目が、ハッキリと2人に向けられていた。

 まるで演奏会の邪魔をした、乱入者を咎めているかのように。その事実に気付いた2人は、悲鳴をあげながら駆け出す。


「う、うわあああああああ!」


「ま、待ってくれよレン!」


 必死で逃げ出した彼らは、転んだりぶつかったりしながら、這う這うの体で走っていく。もう逃げ出す事しか考えていない。

 急いで校舎を出てグラウンドへ向かい、裏門から出ようとする。だが門は南京錠が掛かっていて、子供の力では開けられない。

 どうにかして乗り越えて、どちらかが脚立を中に入れるしかない。タクがレンを肩車して、先に裏門を乗り越えさせた。


 続いてレンは脚立を投げ入れて、タクが必死に脚立を使って門を乗り越える。脚立を回収するのも忘れて、2人は必死で家へ帰った。

 それ以来この学校では、2人の少年が不登校になった。親達が理由を聞いても、行きたくないの1点張り。

 担任もお手上げ状態で、どうする事も出来なかった。そのまま月日は過ぎて行く。

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