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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第3章 身近な脅威
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第84話 インターネットの闇

 SNSが当たり前になったこの令和の時代。インターネットがという存在は最早社会から切り離せないインフラだ。

 その始まりはアメリカだと1967年に、日本だと1984年にその起源となるネットワークが生まれた。

 日本では1995年から一般家庭へと普及が始まり、1996年には国産検索エンジンが登場する事となった。

 まだダイヤルアップ接続だった頃は、パソコンに詳しい一部の人間しか使っていなかった。どちらかと言えばアングラ寄りだ。

 しかしそれも2000年代になり、急速に成長を続けて行く。ネット掲示板や、携帯電話の発展で急拡大が起こる。


 インターネット通販サイトも登場し、今では誰もが当たり前に利用している。ネットで買い物が普通の事と認識されている。

 ネット通販が登場した当時などは、ちゃんと荷物が届くのかと疑われた。詐欺が横行するのではないかとも。

 買い物はやっぱり店に行ってこそだと、世間は認めていなかった。しかしその認識は、ジワジワと逆転して行った。

 こうして人間の社会生活に溶け込んだインターネットだが、大きな闇を抱える事になってしまう。

 デマや陰謀論の横行もそうだが、一番大きな問題はそこではない。人の悪意が、大量に集まってしまった事だ。


 誹謗中傷、殺害予告、陰湿な嫌がらせに口汚い論争。言霊に力がある事を知らない人間達の、愚かな行為の繰り返し。

 自分の放った『死ね』という暴言が、誰かを殺してしまう可能性を知らない。積み重なった功罪が、自身に纏わりついていると知らない。

 妖異が見れば一目で分かる程、黒く濁った魂を持っている自覚が彼らにはない。タールのように粘着いた、黒い靄が掛かっている。

 そうなってしまった人間が、どうなるかを彼らは知らない。人として真っ当に生きられなくなると、気付いていないのだ。

 妖異の中には、そんな汚れた魂を好む妖異が存在している。しかもそれは、日本だけの話ではない。


「ファック! とんだクソ野郎だ! 死んじまえレイシストめ!」


 スマートフォンでSNSをしている白人の男性が、自分と意見が違う相手に暴言をぶつけている。

 汚い言葉を大量に書き連ね、罵倒の限りを尽くしている。ただ怒りを発散させる為だけに、容赦ない書き込みを続ける。

 相手の落ち度を探して、過去の発言を晒上げる。容姿や経歴を扱き下ろし、激しく糾弾を続けていく。


 そんな事をしている彼は、無職の引きこもりだ。親の仕送りで生活をしているだけの、ニートでしかない。

 40歳を過ぎて結婚もせず、SNSで誰かに怒りをぶつける毎日。就職活動をするでもなく、ネットの世界に生きている。

 自分を正しく評価しない社会がおかしい、世の中が間違っていると匿名で世界を批判する。


「バカな奴ばっかりだ。終わりだよこの国は」


 悪意を撒き散らす彼は、汚泥にまみれたかのように汚い魂を持っている。だが彼は、そんな魂を求めている者がいると知らない。

 今まさに、危険が迫っていると気付いていない。発露した分だけ、悪意がスマートフォンを通じて、インターネットへ流れて行く。

 その行為は撒き餌を撒いた海中と同じく、良からぬナニカを引き寄せてしまう。悪意を好んで喰らう怪物を。


「はぁ!? おい、どうなってんだ!? 故障か!?」


 彼のスマートフォンは、急にノイズまみれに変わる。正常に画面が表示されず、滅茶苦茶な映像が映っている。

 どんな操作も受け付けず、何の変化も見られない。仕方ないので彼は、一度再起動を試みた。スマートフォンの画面がブラックアウトする。

 再び起動された時、いつも表示されるメーカーのロゴが表示されない。見た事もない真っ黒な円形が映っている。


「何だ? これ?」


 男性が画面を見ていると、画面が黒一色に染まってしまう。そして次の瞬間に、スマートフォンから異形のナニカが飛び出した。

 彼は悲鳴を上げる暇もなく、頭部をまるごと食い千切られていた。首から血が噴き出して、壁に貼られたポスターを汚す。

 画面から出て来たのは、真っ黒いウナギに似た生物。人間の胴体を丸呑みに出来る程の大きな体は、どうやってスマートフォンから出て来たのか。

 そんな事はこの化物には関係のない話。スマートフォンやパソコン、あらゆるインターネットに関わる機器から出現出来る。

 残った胴体を丸呑みにしたウナギみたいな生物は、再びスマートフォンの中に戻って、インターネットという大海へと消えた。


 インターネットに関わる妖異は他にも居る。悪意を煽り増幅させ、人間を操る悪魔達。

 彼らは人間の認識を操って、悪意を生ませて収穫していく。そうやって人間の感情を喰らっているのだ。

 人の悪意を集めるのに、今の時代はあまりにも悪魔に有利だった。少し怒りを刺激するだけで、人間はインターネットで暴れる。

 平気で誹謗中傷を行い、無自覚に他人を傷付ける。自身を正義と信じて疑わず、滅茶苦茶な暴言を書き込む。

 自分達こそ攻撃している側だと自覚出来ず、被害者だと思い込んで行動する。自らの矛盾に気付く事もなく。


「は? こいつ不倫してたのかよ! 最悪なんだけど!」


 日本のとあるマンションの一室で、1人の女性がSNSを見て怒りを顕わにしている。彼女は度々こうして怒っている。

 こういう人間こそが、悪魔に利用されやすい。彼女に憑りついた悪魔が、密かに行動を開始する。

 彼女の感情を刺激し、悪意を増幅させて暴れさせる。激しい悪感情が溢れ返り、悪魔はほくそ笑んでいる。

 どんどんヒートアップする彼女は、踏み越えてはいけないラインを越えて行く。不確定な情報を元に、決めつけて暴言を大量に投稿する。

 際限なく増幅されて行く悪意が、彼女の魂を黒く染め上げて行く。ドロドロとした底なし沼へ落ちて行く。


「ほら、反論できないじゃん。やっぱコイツが悪いんだ」


 執拗に不倫をしたとされている芸能人へ、悪意に塗れた投稿を繰り返していく。情報源を調べようともせずに。

 悪魔に利用された彼女は、留まる事を知らない。所属事務所へのクレームを投稿、それも1通だけではない。

 何通も送り着けてなお、収まらない怒りを爆発させていく。クールダウンは行われず、ただ言動だけが激しくなる。


 養護するファンにも暴言を浴びせ、人格攻撃を繰り返し行う。傷付いたファンが、鍵垢になったら勝ったと勝ち誇る。

 真夜中まで彼女は、そんな行動を取り続けた。大量の悪意を得た悪魔は、収穫だけすると彼女から離れていく。

 それから1ヶ月ほど経った頃、朝から彼女の家に来客が訪れた。出勤しようとしたら、インターホンが鳴っている。


「はい」


 彼女が応答したら、相手は警察官だった。彼女は全く身に覚えのない話だが、事情を聞きたいと言っている。

 無視するわけにも行かず、マンションの1階へ降りて警察官と話す。以前に行った爆破予告について、事情が聴きたいという。

 突然の事に女性は青ざめるが、誰も助けてはくれない。そのまま警察署まで行き、事情聴取が始まった。


「このメール、送ったのは貴女ですよね?」


「…………はい」


 以前にちょっと腹の立つ事があったので、抗議文を芸能事務所へ送った。つい勢いに任せて、少々強い言葉を使った気もする。

 ただ警察に事情聴取を受けねばならない程、滅茶苦茶な事を書いたつもりは無かった。正当な主張をしたつもりだった。

 しかし今改めて見てみれば、確かに爆破予告と受け取れる文言が並んでいる。こんな内容を書いた記憶もあった。


「どうしてこんなメールを?」


「その……抗議のつもりで……」


 彼女の事情聴取はそのまま進み、威力業務妨害で逮捕される事となった。更に誹謗中傷を理由として、暫くしてから開示請求も届いた。

 正しい事をしたつもりだった彼女は、散々な目に遭う事となってしまった。インターネットには、恐ろしい闇が広がっている。

今回のオカルトはオリジナルです。こうだったら怖いなぁと。

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