表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第3章 身近な脅威
77/102

第77話 いざ異界へ

 良源(りょうげん)への挨拶を済ませた碓氷雅樹(うすいまさき)は、永野梓美(ながのあずみ)を連れて問題の雑居ビルへ向かう。

 駅のコインロッカーから、御守りを忘れずに回収している。これがないと雅樹は異界へ入れない。

 運が良ければ入れる可能性もあるが、そこに賭ける意味なんてない。確実な方法があるのだから、そちらを選べばいい。


「ここです梓美先輩」


「ふーん、何も感じひんなぁ」


 名塚昌平(なつかしょうへい)が消息を絶ったと思われる場所。大津市内にあるごく普通の雑居ビルが、雅樹達の目の前にある。

 雪女である梓美から見ても、特に何も異常は見られ無かった。当然雅樹にも思うところはない。

 どこにでもあるような、ごく普通の10階建てのビルでしかない。入り口を見る限り、幾つかの会社が事務所を構えている。

 問題の10階にも印刷会社が入っているらしく、10階そのものに異常があるわけでは無さそうだ。

 外から見上げると、10階に明かりが点いている。人影までは見えないが、常識的に考えたら社員達がいる筈だ。


「異界って不思議ですよね。入り口だけが繋がるなんて」


 まだ雅樹は直接異界が出来たパターンしか見た事がない。入り口だけが出来るという状態を知らない。

 何となくのイメージで、ワープホールが出来るような事なものかと雅樹は考えている。

 ただそれにしても、何故そうなるのかが分からないが。そのまま異界自体がそこに出来る方が、まだ理解出来るというもの。


「人間が作られてから、まだそない経ってへんからなぁ。ようわからん現象も多いねん。まあウチは若い方やから、作った時の事は知らんねんけど」


「そうなんですか」


 妖異達が最初の人間を生み出してから、まだ700万年程度しか経過していない。まともな文明を築くようになったのは、もっと短い期間だ。

 特に都市伝説や怪談話などを語るようになってから、まだ2000年も経っていない。思わぬトラブルが起き出したのは、妖異達にとって最近の事である。。

 人間達が共通の認識を持ち、信じ込み恐れを抱く。もしくは興味を持って追いかけて、真実を知ろうとする。

 ただ面白がって、流布するだけの者も居る。様々な連鎖反応が起きて、現実世界へ影響を与える。

 それがどのような結果を齎すかは、まだまだサンプルが足りていない。研究している妖異が居るわけでもない。


「なんや妖異対策課の連中は、色々と調べとるみたいやけどな」


「うーん、だったら東坂(とうさか)さんに今度聞いてみようかな」


 雅樹は何となくそう思っただけだった。しかし何が気になるのか、梓美はジトッとした目で雅樹を見ている。


「雅樹君てさ、女性の知り合いばっかやない?」


「えっ!? そ、そんな事は……」


 無いと言いたい雅樹だったが、周囲に居るのは確かに女性ばかりだ。しかもその殆どが大人の女性である。

 今名前を出した妖異対策課の東坂香澄(とうさかかすみ)は、雅樹を心配して親身になってくれている。たまに健康と精神の状態を確認に来る事もある。

 後は大江(おおえ)イブキに、那須草子(なすそうこ)江奈(えな)とメノウ。言い訳のしようがないぐらい、女性に囲まれている。

 今も目の前には、梓美が一緒に居る。半分以上どころか、1人を除いて全員が妖異なのだが。


「何やライバル多いなぁ。早くウチを好きになってや」


「そ、そう言われましても」


 雅樹はこの状況を打開する為、さっさと雑居ビルへ入ってしまう。そもそも依頼者の為に来たのだからと。

 やや強引ながら状況を変化させた雅樹は、異世界へ行く方法を実践していく。記された順番通りにエレベーターのボタンを押して行く。

 作業が進んでいくにつれて、梓美の反応が変化していく。どうやら何かを感じ取ったらしい。


「何や? 複数の妖力を感じるわ。こら結構な規模の異界とちゃうか?」


 もちろん妖異ではない雅樹には、妖力なんて一切感じていない。ただ黙々と作業を続けていく。

 最後に1階を押した時、地上に降りずエレベーターは上昇していく。記事に書かれていた通りの現象だ。


「あっ、何かちょっと違和感が……」


「へぇ、ホンマに雅樹君て感覚が優れてるんやな。イブキ様から聞いてた通りや」


 梓美を妖異だと見抜く事は出来なかったが、草子に似ていると感じる事は出来ていた。それからも雅樹の第六感は、成長を続けている。

 雅樹は嫌な空気を察知し、警戒を強めている。以前にイブキと入った異界よりも違和感が強い。

 幽霊が放つ死の気配と似た何かが、雅樹に不快感を与えている。今から行く場所は、生半可な場所ではないと確信する。

 蛇女アカギ程の危険な香りはしていないが、山姥が巣食っていた廃工場に近いものがあった。

 そして到着した10階は、既に違和感の塊だった。雅樹が昌平だったなら、この時点で引き返している。

 

「これが……問題の異界か……」


「ちょっと調べてみるわ」


 そう言うと梓美は、妖力を周囲に向けて放つ。僅かな量だったが間近で感じた雅樹は、少し背筋がゾクッとした。

 梓美は放った妖力で周囲の状況を調べる。今回は失踪した人物の捜索で、特定の妖異を捕縛する事ではない。

 これまでの調査と違って、このような大胆な行為に出ても問題はない。他の妖異に気付かれても、梓美が居るので問題なし。

 ただ念には念を入れて、雅樹は背負っていた竹刀袋から木刀を取り出す。護符の張られた特別製。

 瞬間的になら、雅樹でも妖異を止められる防御用。妖刀小鴉のように、攻撃する為のものではない。


「やっぱり広いし、色々とおるわここ」


 梓美は広げた妖力で感じ取った情報を、脳内で整理している。梓美の支配圏ではないので、詳細な情報までは分からない。

 あくまでイルカなどが使う、エコーロケーションとそう大差はない。どこに何かがある、という事が少し分かる程度。

 人間が居るとか、妖異が居るとか、そういう大雑把な情報を得られるだけ。詳しい状態や生死までは分からない。


「色々とって、やっぱり妖異ですか?」


「そうやね……ウチは異界におる連中、あんまり好きやないねんなぁ」


 人間の認識が生み出す異界、そして妖異。恐怖や思い込み、信仰心などを元に現世へと現れる存在達。

 偶像の場合は神の末端となるが、人間が生んだ妖異はそうならない。多くは妖異として生きて行くが、全員が妖異の掟に従うとは限らない。

 特に異界の中で生活しているような妖異達は顕著だ。異界の外のルールなんて、知った事ではないというスタンスを取る傾向にある。

 たまにその手の妖異が異界の外へ出て、現実世界の妖異達と揉め事になる事がある。だから梓美は彼らの事が好きになれない。

 ただのトラブルメーカーで、厄介事しか生まないからだ。これまでに梓美も何度か、対処に駆り出された経験がある。


「……結構、厄介なんですね」


「せやで~だからイブキさんは、異界が出来たらすぐ壊すねん」

 

 異界について更に詳しくなった雅樹は、なるほどと頷いている。そこまではまだ教わっていなかったから。

 イブキが気を利かせて、異界に関する話を一度で全てを語らなかった。雅樹が彼なりのペースで、学んでいけるように。

 以前からイブキはその傾向があり、少しずつ知識を雅樹に与えている。まるで学校の授業であるかのよう。

 そんな新しい知識を得たところで、雅樹は異界へと挑む。正面に続く階段を登って行き、屋上に続くドアを開く。


「こ、これは……」


「な? 広いって言うたやろ?」


 雅樹の目の前には、屋上ではなく見た事のない街が広がっている。人の気配がまるでない、違和感だらけの街並みが。

 電気だけはどこかから来ており、信号機や店舗の電気は点いている。以前にも入った異界とそこは変わっていない。

 横断歩道で流れているメロディ以外は、全く音が聞こえて来ない。誰も居ない街が、ただただ広がっている。

 しかし人間は居なくとも、梓美の調べで妖異だけは居ると分かっている。進み方は慎重に選ぼうと、雅樹は改めて決意する。


「行きましょう、梓美先輩」


「雅樹君は絶対に守るから、ウチから離れたらアカンで」


 雅樹は了承し、梓美と共に異界の探索を始めた。1年程前に失踪した、名塚昌平の痕跡を探しながら。

本日のお昼から、『憧れの元ヤンギャルママ(30)が可愛すぎる』という現代ラブコメの投稿も始めます。

年上ヒロインがお好きな方はもしよろしければ、そちらもお楽しみ頂けたらなと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ