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【書籍化】異世界でお兄様に殺されないよう、精一杯がんばった結果【コミカライズ】  作者: 倉本縞


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補足編 ヤンデレは続くよどこまでも~結婚式の恐怖ふたたび 後編~

フォールの森は、久しぶりだ。

子どもの頃、森の入り口で花を摘んだ記憶があるくらいで、奥に入ったことはない。

お兄様は森を熟知しているかのような迷いない足取りで進んでゆくが、どこを目指しているのだろう。


特に珍しい薬草があるわけでもなく、たまに魔獣が出没するこの森には、地元民もあまり足を踏み入れない。

ちょうど夏に差しかかったこの季節、フォールの森は鬱蒼と木々が生い茂り、暑い日差しをさえぎってくれている。時おり森を吹き抜ける風に、木々がさやさやと涼しげな音をたてた。


「森は涼しくっていいですねえ」

「そうだな」


生い茂る木々の葉が重なり、地面に陽光が届かないせいか、短い草しか生えておらず歩きやすい。地面はしっとりと湿っていて、踏みしめると土と草の匂いがした。


お兄様、どんどん森の奥へと進んでいくけど……、道順、覚えてるんだろうか。

私はもう、どこをどう歩いたのか、さっぱりだ。

もしここでお兄様に置き去りにされたら、間違いなく迷子である。

お兄様の手をぎゅっと握ると、それに気づいたお兄様が私を見て、優しく微笑んだ。


「疲れたか? あと少しで着くが、ここで休むか?」

「いえ、大丈夫です」

良かった、お兄様はちゃんと位置把握をしているようだ。


お兄様に手を引かれ、私はさらに奥へと進んで行った。

すると、


「……わあ!」

いきなり視界が開けた。

木々に周囲を囲まれた草原が、目の前に広がっていた。

草むらの少し先には小さな泉があり、泉を囲むように小さな白い花が咲き乱れている。


「すごい! 綺麗ですね! この森にこんな場所があったなんて知りませんでした! お兄様、どうやってこんな綺麗な場所見つけたんですか?」

「ああ、砦の制圧に来た時だ。森に逃げた魔術師を追い詰めた際、この場所を見つけた」

「……あ、ああ、そうですか……」

場所に似合わぬ血なまぐさい返事に、若干引いたが、目の前に広がる景色は、夢のように美しかった。


「お兄様、ありがとうございます! すごく素敵な場所ですね!」

経緯はどうあれ、私にきれいな風景を見せてくれようとした、その気持ちが嬉しい。

私がお兄様にお礼を言うと、お兄様はソワソワした様子で私の手を取った。

「うむ。……その、マリア、頼みがあるのだが……」

「なんですか?」


私はお兄様を見上げた。

お兄様は言いづらそうに下を向いていたが、私が再度促すと、意を決したように顔を上げた。


「……ここで、もう一度結婚式を挙げてほしい」

「…………は?」


お兄様の思いも寄らない言葉に、私は思考をフリーズさせた。

もう一度結婚式したいって、なんぞ。


黙ってお兄様を見ていると、

「その……、おまえは以前、言っていただろう。わたしと二人きりで結婚式を挙げたい、と。……その言葉を聞いた時から、思っていたのだ。ここで、おまえと誓いの言葉を交わしたいと」

いや、もう誓いの言葉は述べましたよ、中央神殿で!


「考えてみれば、神殿で他人に囲まれての誓いの儀式は、どうも形式ばっていて、心がこもっていないような気がする。おまえの提案を聞いた時から、わたしなりに考えてみたのだが」

何を考えたんだ。イヤな予感しかしない。


「この誓いの言葉を、互いに交わすのはどうだろうか? わたしが考えた魔術が組み込まれていて、実際の拘束力を持っているのだが」

拘束力!?


私は、お兄様が差し出した紙を黙って見つめた。

そこには、長々と禍々しさ満載の魔術式が書かれている。

「え、あの、これ……。魔術って……、拘束力って」

お兄様が、そっと私の手に紙を握らせ、言った。


「魔力はわたしから引き出すようにしてあるゆえ、気にせず詠唱しろ」

「そ、それ誓いじゃなくて単なる黒魔術……、いえ、あの」


私は、初夏だというのに身も凍るような恐怖に体を震わせた。

手にした術式は、難しすぎて私にはとても解読できない。

できないのだが、ところどころに『永遠』、『死』、『結合』などを示す式があるような……。なんか、深く考えなくても、ストーカーの極み魔術という気がするのですが……。


「わたしが先に詠唱する。それをくり返せば、式を構築せずとも術は成る」

「いやあの、ちょ、ちょっとお待ちください、お兄様!」

私は慌ててお兄様にストップをかけた。


「この黒魔術……いえ、誓いの言葉って、どういう術式なんですか? 実際の拘束力って、いったい……」

「うむ……、実は、結婚指輪にもつけた魔術なのだが」

お兄様の言葉に、私はうっと息をのんだ。


こ、この進化系キワモノ指輪の正体が明らかに!


「ど、どんな魔術なんですか!?」

「婚約指輪で、付けきれなかった魔術を補完した。まず、闇の禁術をすべて遮断すること」

あ、それはありがたいかも。

もう、ネックレスやらブレスレットやら、じゃらじゃら着けなくていいってことだもんね。


「それから、魂の結合だな」

「…………え?」

さらりと言われた言葉に、私は硬直した。


魂? 結合?


「……どういう意味でしょうか?」

「うむ。……婚約指輪により、ひとまずはおまえと一緒に死ねるようになった。が、死んだ後も一緒にいるためには、どうすれば良いのかと考えたのだ」

「……………………」


え、ちょっとお兄様、頭大丈夫?

し、死んだ後も一緒にって……、なにそれホラー?

やめて、季節的にドンピシャの怪談じゃないですか!


お兄様は私の手をとり、切々と訴えた。

「常識的に考えて、今後おまえと一緒に過ごせる時間は、100年にも満たぬ。片時も離れず過ごすとしても、それではあまりに短すぎる。千年でも足りぬ。生まれ変わり、死に変わり、ずっとおまえと共にありたいのだ」

常識的にとか、あなたに言われてもって感じなんですが……。


お兄様の愛の深さは、身をもって知っていたつもりだが、それにしてもこれは何というか、うーん、ひと言で言うなら、もう病気ですね、ハイ。


「……お兄様のお気持ちは嬉しいですが、死んでしまったら、もうその後のことは自分でもどうにもできないっていうか……」

「わかっている」

お兄様は、私の手をぎゅっと握りしめた。


「だからこの術式と指輪を作り出したのだ。これにより、生まれ変わってもわたし達は、ふたたび共にいられる。強制的に出会い、魂が引き合うよう、設定した」

「……………………」


無言でお兄様を見つめる私に、お兄様が尚も言った。

「むろん、これは理論上の話で、実証された訳ではない。死んでみなければ、成功したかどうかわからぬ」

イヤな魔術ですね! と言いたいのだが言えない。恐怖で口が開けない。


「だが、わたしにできる全てを尽くした。……この指輪に、この魔術を上掛けすることで、さらに効果を高められるのだ。……マリア」

お兄様が私の左手をとり、薬指に口づけた。


「もう一度誓ってほしい。わたしと一生……、いや、未来永劫、添い遂げると」

お願い!とキラキラした瞳でお兄様が私を見ている。

う……、えっと、未来永劫ですか……。そ、そこまではあんまり、考えてなかったかなーっと……。


私はお兄様を見た。

一見、冷たそうな美貌に、期待と不安の色が浮かび、私の反応をうかがっている。

うーん……。

まあ、死んだ後の話だしな……。成功するかどうかわかんないって、お兄様本人が言ってる訳だし。そこまで深刻に考えなくても、まあ……、いっかな……。


万が一成功したらどうすんだ、とか、このストーカー具合がこれ以上エスカレートしたら犯罪じゃないか? とか、色々と思うところはあるけれど。


でも、まあ……、お兄様がそう望むなら。

生まれ変わっても一緒にいたい、と本気で願うその気持ちが、可愛いというか、愛しいというか、そういう風に思える時点で、私も大概アレなんだろうし……。


「わかりました」

私はお兄様を見上げ、言った。

「お兄様の詠唱を、そのままくり返せばいいんですね?」

「そうだ、それだけでいい!」

お兄様が、ぱあっと顔を輝かせた。


「ここに立ってくれ。そう……、手はわたしに預けて」

お兄様に両手をとられ、向かい合って立つ。

互いに見つめあったまま、お兄様が静かに詠唱を始めた。


「……闇に沈む我が力、我が命、すべてを懸けてこいねがう」

「や……やみに沈むわが力、わが命、すべてをかけてこいねがう」

しょっぱなからハードだな、おい。

と思ったら、ふぉん、と不思議な音をたてて、黄金の術式が浮かび上がり、帯のようにぐるりと私達の回りを取り巻いた。


すごい。一瞬で術式が現れるとか、どんな構築の仕方をしてるんだろ。

私は構築にまったく関与してないから、お兄様一人で二人分の術式を組み上げてる訳だけど、一人でこれだけ複雑な魔術を編み上げるとか、ほんとにお兄様って天才なんだな。


「我が命尽きるとも、魂を結び、決して離れることなきよう」

「わが命つきるとも、魂をむすび、けして離れることなきよう」

う……、何だろ、魔力はお兄様から引き出されてるはずなのに、体にすごい圧力がかかってる。重い。


「我は誓う」

「われは誓う」

ズン、と体が地中に沈み込みそうなほど、不自然な力を感じ、私は思わずよろめいた。

お兄様に握られた両手をぐっと引かれ、なんとか姿勢を立て直す。

見上げると、お兄様の額にもうっすらと汗が浮かんでいる。


「我らを結びつけるはこの指輪」

「われらを結びつけるはこのゆびわ」

ヤバい、舌がもつれて上手く発音できない。最後までもつだろうか。


「指輪に、魂に刻む。死が二人を分かつとも、永久に共にあらんことを」

「ゆびわに、たましいにきざむ。死……がふたりをわかつとも、とこしえにともにあらんことを!」


なんとか全て言い切ったその瞬間、二人の指輪と、周囲をぐるりと取り巻く黄金の帯から、まばゆい光があふれ出た。

それは火花を散らしながら激しく明滅し、私達二人を包み込んだ。

光は私達に絡みつき、体の中に沈み込んでゆく。その強い力に耐えきれず、私は崩れるようにお兄様に凭れかかった。


「……マリア? マリア!」

お兄様に揺さぶられ、私はふう、と息をついた。

「だ……、大丈夫です、すみません」

「いや、おまえが謝ることはない。わたしのせいだ」


お兄様がぎゅっと私を抱きしめた。

その肩越しに黄金の火花が散り、光の残滓が私達に吸い込まれていくのが見える。


「術は……、成功しましたね」

「……どうだろうか。わからぬ」

「いいえ」

私は首を振り、お兄様を見上げた。

魔力を大量に消費したせいか、少し顔色が悪い。


「わかります。術は成りました。……これで、未来永劫、私達はずっと一緒です」

「マリア」

お兄様の顔がくしゃりと歪み、私をきつく抱きしめた。


「マリア……」

私はお兄様の頭を撫で、優しく言った。

「……少し、ここで休んだら、あの白い花を摘んで帰りましょう」

「ああ、そうしよう。マリア……」

お兄様が私の耳元に顔を寄せ、震える声で言った。

「ありがとう」

私はお兄様の背中をぽんぽんと軽くたたき、息をついた。


……途中、マジで死ぬかと思ったけど、無事終わって良かった。

お兄様にも言ったけど、何故かこの魔術、成功したような気がする。

魔術には特に明るくない私だが、どうしてかわかるのだ。

聖女の力とは考えたくないので、

「愛の力ってことにしとくか……」


私の小さなつぶやきに、お兄様が顔を上げた。

「マリア? なにか言ったか?」

「……いいえ、何も」

涙にうるんだお兄様の瞳に、私の顔が映っている。

それは自分でも恥ずかしくなるくらい、愛にとろけた甘い表情をしていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] どこにもドロドロを感じなかったところ。 一気に読めました。 アメデオとクララが好きです。 [一言] 最後がめちゃくちゃ怖かったです。 これはハッピーエンドというよりメリバエンドなのではと思…
[良い点] やばいヤンデレの手綱をうまく握る聖女様、とても良かったです! なんだか王太子殿下がとってもかわいそうな目にあっているような気がしましたが、彼は彼なりに幸せになってくれるといいと思いました。…
[一言] 愛って…すごいね!(小並感)
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